サーブが上手という人はよく聞くが、ツッツキが上手という人はあまり聞かない。いや、私の周りではそういう声を聞かないというだけで、実際にはツッツキが上手とか下手とか、そういうことに注目している人もたくさんいるのだと思う。しかし、レベルの低い層ではツッツキが上手かどうかというのはあまり気にならないのである。

しかし、改めて気にしてみると案外私の周りにもツッツキが上手な人がいるように思う。歯切れの悪い言い方だが、上手なツッツキというのは指摘されないと気づかないような分かりにくい技術なのである。

上手なツッツキというと、イメージするのは低くて、切れていて、深いツッツキである。たしかにそのようなツッツキが来たらドライブ強打しにくく、ゆっくりしたループドライブで返球せざるを得ない。だが、たとえば「バック側に来る」と予測できれば、速くて低くて切れたツッツキも強打できるかもしれない。

反対に遅くてあまり切れていないツッツキは、軽く強打できるので上手なツッツキではないだろう。いや、果たしてそうだろうか?こちらが回り込んでフォアドライブを打とうと動き始めたときに、こちらのフォアサイドにふわ~っとした切れていないツッツキを送られたらどうだろう?こちらは逆を突かれてノータッチで抜かれてしまうかもしれない、遅くて高くて切れていないツッツキに!

こちらの遅い下系ショートサーブを面を立ててバック深くに押し込んでくる人がいる。ペンの表面ショートでそれをやる人が多いが、切らずに押しているので返球されるボールは下回転というよりナックルで直線的に飛んでくる。これがツッツキと言えるかどうか分からないが、英語ではツッツキをpushというので、ツッツキの一種と言えるかもしれない。通常の切るツッツキに比べて押し込んでくるツッツキはとにかく球足が速い。アッと気づいたときにはもうこちらは詰まっていて、まともに返球できない。いわば台上ナックルスマッシュである。

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張一博選手のストップをプッシュで押し込む吉田(小西)海偉選手。
https://youtu.be/Rjij6K0MPis?t=183

コースも回転もスピードも平凡で、なんてことのないツッツキだが、ギリギリ台から出るぐらいの微妙な長さのツッツキというのもこちらを悩ませる。相手が打った瞬間に「ドライブ強打できる!」と思ったら、ギリギリ台に収まりそうなので、急遽ツッツキで返したところ、相手はそれを待っていて強打されるなんてことが私の経験では何度もある。明らかに意図的にツッツキの深さを調整していたわけである。

他にもバウンド直後を捉えてストップに見せかけて深いツッツキを送ってきたり、反対に打点を落としてタイミングをずらしてみたり、全然切れていなかったり、横回転をかけてきたりと、いろいろな変化を混ぜられると、こちらは思うように攻撃できなくなってしまう。

ツッツキが上手な人というのは、スピードが速いとか、回転量が多いとか、球質の高いツッツキが出せるというより、むしろ状況に応じて相手に的を絞らせないツッツキを送れる人なのではないか。もちろん速くて深いツッツキが安定して送れる人もツッツキの上手な人だと思うが、それだけでなく相手の動き出しをよく観察し、その逆を突いたり、相手の思惑の上を行き、意表を突けるようなツッツキが出せる人もツッツキが上手い人なのだと思う。

台上は平凡なツッツキだけで、チキータやらフリックやら特別なことをしてこないのに、なぜか攻撃させてもらえない。いつも相手に先手を取られてしまうというときは、その人のツッツキを疑ったほうがいいかもしれない。

参考:以前に書いたツッツキ関係の記事「ツッツキは大切ですか」「安定したツッツキ」。今回の記事と重なりが多い気がする。