2014ITTFパラ世界選手権の動画がITTFに上がっていたので観てみた。
私は身近にそういう人がいなかったせいで、障害者のことをよく知らない。だから「できないことが多くて気の毒だな」とは思うけれど、それ以上の思い入れはない。障害者を見下すような文章は論外だが、かといって障害者を過度に祭り上げるような態度も理解できない。

このように私は障害者や障害者スポーツについて語る資格がないので、彼女たちの卓球のプレーだけについて感じたことを書いてみたい。


Kelly Van Zon VS Wang Rui (Class 7 FINAL)

クラス7の決勝ということだが、クラス7というのはどのぐらいの障害なのだろうか。
少しネットで調べてみたのだが、よく分からない。wikipediaで「車いすクラス」「立てるクラス」「知的障害クラス」のように障害の種類によっておおまかに分かれていることを知った。しかし、具体的には分からない。詳細は英文のクラス分けの説明にあたるしかないようだ。ITTFのページのclassification codeを見てみたのだが、よく分からない。クラス1~5が「車いすクラス」のようだ。クラス6~10までが「立てるクラス」で、クラス7は、その中では障害が深刻なほうのようだ。

class 7:
Very severe impairments of legs (poor static and dynamic balance) 非常に深刻な足の障害(静的・動的なバランスが悪い)
どのぐらいが深刻なのか。具体的には以下のようになる。

・severe polio of both legs 深刻な足の麻痺
・single AK plus single BK (below knee amputation) ひざ下の切断?
・incomplete spinal cord injury of comparable profile 脊椎の部分損傷
・a player with hip disarticulation or above knee amputation without any support who plays on one leg 補助なしで立てる人で股関節の障害のある人?
・single AK with short non-functional stump (20%) with or without a prosthesis 足が切断された義足の人?

他にも以下の状態の人が同じクラスになるらしい。

Severe to moderate impairments of playing arm ラケットハンドに障害のある人?
Combination of arms and legs impairments less severe than in class 6 クラス6ほど腕と足の連繋の障害ひどくない人


オランダのゾン選手は、股関節に障害があるようだ。
KellyVanZon_WK14

杖などの補助なしでギリギリ歩けるぐらいの障害に見える。しかし、驚いたことに彼女はそんな障害も気にせず、積極的に動きまわるのだ。見ていて「あんなに激しく歩いたら転んでしまわないか」とヒヤヒヤするほどだ。対する王選手は下半身がかなり安定しているが、直立していてほとんど動かない。

健常者の卓球なら、動く人と動かない人のどちらが有利かは自明のことである。しかし、下半身が安定していない障害者の場合、積極的に動くのと、消極的に動くのと、どちらが有利だろうか?積極的に動いた結果、バランスを崩して転んでしまったり、戻りが遅くなったりするより、あまり動かないほうが有利かもしれない。

結果はゾン選手の勝利だった。安定しない下半身ながらも、積極的に足を使うことによって、試合をかなり有利に運べたように見える。

ここから2つの仮説が導き出せる。
一つは、移動スピードが遅くても、移動したほうが安定して強いボールが打てるということである。言い換えれば、振り遅れるよりも、打ちにくい姿勢でボールを打つほうが致命的だということである。私は無理に動きまわるよりは、動かず苦しい姿勢で打ったほうがボールに早く対応でき、有利だと思っていたが、たとえ振り遅れて打球点が遅れたとしても、無理な姿勢で打つよりはマシなのかもしれない。
もう一つは、高齢者でも足を使う卓球ができるのではないかということである。ゾン選手のような下半身に障害のある人でも、あれだけ動けるなら、80代になっても、足を使った卓球ができるのではないかということである。動けるかどうかというのは、年齢や筋肉よりも動こうとする意志によるところが大きいのかもしれない。

障害者卓球を観て、健常者とは違った視点で卓球を観ることができ、いろいろ発見があった。おそらく障害のクラスによっていろいろな工夫があり、それは健常者が意識していないレベルの工夫なのだろう。たとえば、車いすを素早く動かす工夫とか、できるだけミドルにボールを返球させる工夫とか。下半身が不自由なのにあれだけラリーが続く理由は何か、といったことを意識して観戦すれば、多くの発見があり、場合によっては健常者の卓球にも活かせるものがあるかもしれない(おそらく予測を最大限に働かせているのだろう)。卓球は本当におもしろい!