部活をやっていた頃は、毎日うんざりするほど卓球ができたけれど、不思議と楽しかった記憶がない。中1の頃と中3の頃を比べると、あまり進歩がなかったのだ。週6日、毎日2時間ほどの練習を繰り返したにもかかわらず、私の卓球は中1の頃から進歩がなかった。「下手な考え休むに似たり」という諺があるが、「下手な練習、休むに似たり」だったというわけだ。

どんな練習をしていたかというと、

フォア打ち10~20分
バック対バック10~20分
フォアドライブ対ブロック10~20分
ツッツキ5分
オール形式の練習60分~

という練習を、どんぐりの背比べ的な練習相手と、到達目標などもなく、何も考えずにやっていた。これでは何年経っても進歩しないのも無理はない。

私はこの中学時代の部活と同じ轍を踏みたくないと思っている。練習時間が限られている社会人なので中学時代と同じような意識・内容で練習していたら、進歩がないどころか、逆に下手になるかもしれない。質の高い練習をして時間を有意義に使いたいのだ。

そこで卓球のDVDを買ってみることにした。卓球の指導DVDを観れば、自分の課題を発見できたり、効率のいい練習メニューが紹介されていたりするのではないかと思ったのだ。

卓球のDVDは1時間ほどで3000~5000円ぐらいのものが一般的だろうか。こういうものを毎月1枚買うぐらいなら、私の小遣いでも可能かもしれない。しかしプラスチックの円盤に5千円も払うぐらいなら、ラバーを1枚買ったり、中古のラケットを買ったりしたほうがお得な気がしないでもない。用具は手元に残る、使えるし、眺めたり触ったりできる。それに対してDVDは観たら終わりである。今はインターネットで無料で指導動画なども観られるし、そのDVDの内容が5000円に値するかどうかも分からない。友人がDVDを買って、タダで私に貸してくれるかもしれない…そんな打算があって卓球DVDを買うのを躊躇していた。

しかし、ラバーやラケットをいろいろ買うのは果たして私にとってお得なのだろうか?私にはいろいろな用具を買って試してみるほどの練習時間はない。そうすると練習で2~3回ほど試して気に入らず、お蔵入りしてしまう用具がどんどん増えていく。用具にかかる費用は月あたり5000円では済まないかもしれない。用具はカタログを見ながらあれこれ考えている時が一番楽しくて、実際に手にしてみたら、案外すぐに飽きてしまう。そしてまた新しい用具に目が向いてしまう。なんだか卓球メーカーやショップに搾取されているような気がする。

そこで用具は替えない、DVDや講習会などに金をつかう、こちらのほうが経済的であり、今の私にとって卓球を楽しむ最も賢い選択だと思われる。といっても用具が好きで好きでたまらない人を否定するつもりはない。あくまでも私にとっての最善の選択であるにすぎない(前記事「ラケットの品質」コメント欄参照)。

卓球王国、WRM、バタフライ、ジャスポなどから卓球の指導DVDがいろいろ出ているが、今回はWRMのDVD「礼武研究所」というシリーズを購入してみた。同社のDVDには「はらたか」シリーズや、「WRM卓球塾」シリーズなどがあるが、どういう棲み分けなのかよく分からない。なお、「WRM卓球塾」に関しては、以前4巻「戦術編」を観たことがある(前記事「「戦術」の意味」)。

「礼武研究所 フォアハンド編」は個人レッスンを1回受けたような感じのビデオである。決して内容が豊富なわけではない。いくつかのポイントに絞って簡単に解説し、残りの半分は悪い癖のついた中級者に実際にフォア打ちをさせてそれを治していくという形式である。

主なポイントは以下のとおり

・打球ポイント
・スイングの軌道および面の開き方
・上半身と腰の動かし方
・スタンスおよび身体の向き
・膝の使い方および重心移動

登場する中級者のモデルは、失礼ながらあまり上手ではない。たぶん私とさほど変わらない実力だと思う。フォームをみると、みるからに安定性が低そうである。打点が遅く、脇を過度に締めて、ラケットヘッドを下に向けて、小さく縮こまったフォームである。講師の原田隆雅氏はまず、面を開き、三角形スイングを止めるよう指導する。次に身体の向き、スタンスを修正する。さらに重心移動、膝の使い方と続く。
これらの指導項目は目新しいものは少なかった。大半は下の動画等で知っていることばかりだった(前記事「重心移動を回転運動に」)。



しかし、知っていることと理解していることは違う。私は知ってはいたが、理解してはいなかったということを思い知らされた。非合理的な打ち方とは実際にはどんなものなのか。指導を受けてもどうしても抜けない悪い癖というのはどういうものなのか。そういうことがこのビデオを観てよくわかった。前半の解説の部分よりも、後半の「悪い例」こそがこのビデオの醍醐味だと思われる(しかし、ここが冗長だと感じる人もいるだろう)。「役に立つ」知識とか、「正解」とかを求めてこのビデオを購入しても満足度は低いだろう。「新情報」はそれほど多くないからだ。そうではなく、理想的なスイングを習得する上でどんな難点があるか、スイング矯正のネックになるのはどこか、などを知りたい人――指導者が示してくれる「正解」を実際に活かしたい人に有益なビデオだと思われる。これが3000円だったら高いと思うが、2000円だったので、私は満足した。

大学の授業は大きく分けると講義科目と演習科目がある(他にも外国語や体育、購読といった形式の授業もあるが)。講義科目というのはたくさんの知識を授ける、教員から学生への一方通行的な――高校までに慣れ親しんできた形式の授業である。そして演習科目というのはゼミとも呼ばれているが、実際に学生が自分で考察したことを発表し、それに対して教員が批判やアドバイスなどをする形式の授業である。人が考えた借り物の知識をたくさん持っていて、テストで高得点がとれるよりも、拙いながら、実際に自分で考えたり演じたりしてみるほうが私はおもしろいと感じる。

海の彼方にはもう探さない 輝くものはいつもここに
わたしの中に見つけられたから



映画のほうはそれほどおもしろいとは感じないが、この歌を聞くと日本語が分かることに感謝したくなる。

この「礼武研究所」は単に知るためではなく、自ら理解するため――すでに与えられた「正解」を実際に自分に適用してみるときの注意点にフォーカスを当てた演習形式のビデオだと感じた。