しろのたつみ



卓球について考えたこと、
気づいたこと(レベル低いです)
を中心に中級者の視点から綴っていきます。




好ゲーム

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やられっぱなしじゃないぜ――水谷卓球の豹変

ワールドカップ2014が終わった。結果だけを見れば、水谷選手は2011年参戦のときと同様4位。準決勝の馬龍戦は0-4で敗退。前回と何も代わり映えがしない結果にみえるが、確実に水谷選手は進化していた。少なくとも私には3年前とは全く違って見えた。【※追記参照】



その違いは何かというと、

・クロスに打たない
・入れに行かない
・チャンスを待たない
・下がらない
・甘いボールは見逃さない

というナイナイづくしだった。
一言で言えば従来の安定性重視の戦術からリスキーに攻める戦術への転換ということに集約される。そのためだろうか、試合中はオーバーミスを連発していたように感じた。

以下、レベルの低い私の目から見た感想などを綴ってみたい。細かいテクニックやフットワーク、得意なパターンに持っていくための試合の駆け引きなどは私にはわからないので、結果として目に見える限りの範囲にとどまる。

安定して入れるために距離の長いクロスではなく、ストレートへ打ってポイントするボールがかなりあった。
相手が打ってきたら、基本的にカウンターである。ブロックはほとんどしない。

counter1
台上でフォアドライブを打たれても

counter2
ブロックしないでカウンターバックハンド

counter3
強烈な馬龍選手のフォアドライブ

counter4
それを全力でドライブし返す水谷選手

馬龍選手に完全な姿勢で強烈なフォアハンドを打たれてしまったら、従来ならばブロックで止めるだけ、あるいは合わせるだけといった対応だったが、あの強烈なフォアハンドをカウンターで迎撃しているのである。打点が早い!これには馬龍選手も刮目させられたようだ。

「こんなのオレの知っている水谷じゃない…」

馬龍選手にしてみれば、親の言うことを何でもよく聞くおりこうさんに育った息子に、思春期になって初めてキレられたときのような衝撃だっただろう。

douyou
動揺のあまりサービス時に何度もボールを落とす馬龍選手

回り込んでからのボールもサイドを切る厳しいコースが多かった。
side
倒れ込みながらもサイドを狙う水谷選手

side2
エース!

それだけに今までの水谷選手らしからぬミスが多かった気がする。馬龍選手も早い段階で全開で攻めてくるが、水谷選手も負けずに早い段階から全開で攻めていった。水谷選手があんなにチキータを多用するのは珍しい。少しでも先手を取りたいということなのだろう。

foremae
フォア前チキータを狙う水谷選手

苦しいコースに打たれても、フォアで打てるまでガマンして、つなぐといったプレーがない。フォアでもバックでも、早い段階でとにかくバシバシ厳しいコースに打っていく。
ボールのスピードも中国選手に対して遜色ない。用具が変わったのか(グリップは旧版の水谷隼だったが)、あるいは自らのリミッターを解除したのか、とにかく伸びのあるすばらしいスピードのドライブだった。
今までだったら、中国の一軍と10回対戦したら、せいぜい10回に1回ぐらいしか勝機がないと感じさせられたが、今回の水谷選手なら5回に1回ぐらいは勝機があったのではないか。結果は0-4での敗退だったが、いつ番狂わせが起こってもおかしくない感じだった。

3位決定戦の対ティモ・ボル選手の場合も水谷選手は果敢に攻めた。息をもつかせぬ対戦だった。今年の世界選手権団体戦で0-3で完敗したウップンを晴らすかのような爽快なプレーだった。

今年の水谷選手は一味違う。今年こそ中国の一軍を倒してくれ!

【付記】
優勝した張継科選手がまたやってくれた。優勝を決めた後、フェンスを蹴って破壊したのだ(「ギロチンキック炸裂」)。その後ユニフォームを脱いでタトゥーを披露するのもお約束。いくら卓球が強くても、あんなパフォーマンスをしていたら、敵を増やすばかりだということに早く気づいてほしいものである(「忘れられる権利」)。


【追記】141027
対馬龍戦をダイジェスト版を改めて観てみると、水谷選手のプレーがあまりインプレッシブではなかった。
よく下がるし、ブロックも多用している。 昨日観た時は、もっと攻撃的だった気がしたのだが…。
改めて完全版も観てみたいと思う。 

二人の若き才能―松平健太選手と丹羽孝希選手の試合を観て その2

34年ぶりの日本人によるシングルスのメダル獲得がかかる準々決勝。
松平健太選手 対 許昕xu xin選手。
今日も健太選手の試合に酔いしれてしまった。
なんという技術の高さ。いつのまに健太選手はこんな怪物になっていたのか。



対 馬琳選手のときもそうだったが、健太選手は許選手の得意な展開に持ち込ませない。豪快なフォアドライブを打たせない。

フォア側でフリックさせ、3球目をバック側に深く押しこむ。ギリギリまで深い。時には白線の上にボールが落ちることさえある。あんなに深く返球したら、ほんの4~5センチでオーバーしてしまう。高い橋の欄干の上を歩いているようなものだ。危険極まりない。コースの決まったバックロングの練習ではない。微妙な回転もかかっている。舞台は世界選手権、準々決勝。相手は世界ランキング1位。満場の観衆が固唾を飲んで自分を見つめている。背中には日本の威信が重くのしかかっている。そんな状況で、正確にコートギリギリの深さで返球できるとしたら、それはマグレではないだろうか。しかしマグレでは説明がつかない。ほとんどミスがないのだから。80%以上の成功率だったのだから。どうなっているんだ?しかも、あのブロック。右に左に広角に相手を振り回すは、逆モーションは使うは、マツケン!君はおかしいぞ!
カウンターというのは非常に得点率の高い技術だ。だから誰もが使いたい。しかしそうそう使えない。あまりにも成功率が低いからだ。しかも相手である許選手のドライブはとんでもないスピードとスピンで迫ってくる。コースが決まっているわけではない。どこに来るか分からない試合中のボールだ。誰がそんなボールをカウンターしようだなんて思うだろうか?自殺行為としか考えられない。それが成功したとしたら、それはマグレに違いない。しかし…半分以上決まってるぞ!カウンターが。使いまくりじゃないか!なんなんだそれは?相手のカウンターまでカウンターで返すなんて、しかもそんなテクニックを試合で何度も使うなんて無謀すぎる!でもそれが決まっているのだから、無謀なバクチではなく、健太選手の技術だと言える。何かが憑いているんじゃないか?
相手のボールがネットインしたら、ミスするか、フワッと浮かせてしまったりするでしょ?ふつう。相手のドライブが、軽くネットに触れてほとんどスピードを落とさず入ってきたら、とれないよ…ってとってるよ!しかも普通に打ち返してるし、さらに決めにいってるよ!!

こんな化け物じみたマツケン、私の知っているマツケンではない。中国トップ選手に遜色ないテクニックを持っているじゃないか。

今回も解説は宮崎義仁氏。氏の解説はすばらしかった。解説が細かく、詳しい。1ポイントごとに今の選手の狙い、何を嫌がっているか、どういう展開に持ち込もうとしているかを分かりやすく説明してくれる。技術的な説明や選手の特徴まで説明してくれる。おかげで私は選手の考えや気持ちを想像しながら観戦することができた。そしてなんといっても宮崎氏には情熱がある。「よ~し!!!」「ナイスボール!!!」「うまい!!!」など、健太選手のプレーにいっしょになって酔いしれて絶叫している。観戦を楽しんでいる。解説者という仕事をこなしながらも、試合に感情移入しきっている。これはすばらしい解説だった。
宮崎氏の戦術に関する解説は細かい。

「今、フォアに短く寄せてバックを狙っていこうとしていますよ。あれが効いています」
「相手は健太のフリックを嫌がっているんですね。それでフォアに打ったんですが、それをカウンターされたので、相手は今どこに出せばいいのか悩んでいますよ」

この見立てが当たっているかどうかは選手本人に確認しないと分からないが、監督というのはこれほど試合の流れを分析するものなのかと感心した。
戦術について以前も書いたことがあるが(前記事「「戦術」の意味―WRM卓球塾講習会4戦術編を見て―」)、戦術というのは試合中に何度も変化していく。自分も戦術を転換するし、相手も転換する。自分が戦術を転換すれば、相手もそれに対応して転換する。さらにそれに対してこちらも戦術を変えていく。いたちごっこだ。相手の転換に対応できず、戦術のネタが尽きてしまったとき、不利な条件で戦い続けなければならない。今回の世界選手権の福原愛選手の試合ははじめから終わりまでほとんど戦術の変更がなかったように見えた(前記事「牛肉の部位「かた」と「うで」―試合の切れ目」)。相手にリードされているにもかかわらず、戦術を変えずに戦い続ければジリ貧を免れない。健太選手は4ゲームまでは光るプレーを随所に見せ、許選手にプレッシャーを与えつつ、有利にゲームを進めていたが、5・6ゲームは許選手を脅かすようなプレーは影を潜めてしまったように見えた。一度はリードしたものの、結局2-4で負けてしまった。これはもしかしたら、戦術が尽きてしまったのかもしれない。

テクニックでは健太選手はまったく相手に引けを取っていない。では明暗を分けたのは何だったのか。

一つは安定性、一つは精神力だったように思う。

5・6ゲームでは健太選手のミスが目立った。そもそもかなりリスキーなプレイをしていたので、ミスが出るのは仕方がないが、5・6ゲームでは凡ミスが目立った。フリックをオーバーさせたり、なんてことのないボールをネットにかけてしまったり。そして一番の原因は精神力だったように思う。世界トップクラスの試合というのはおそろしく神経を使うということが宮崎氏の解説からうかがえた。相手の長所を抑えて、自分の有利な展開に持っていくためにどうすればいいのか?以前、将棋の羽生名人のビデオについて「確信が得られないまま、何かを選択しなければならない」という言葉を引用した(前記事「「プロフェッショナル 仕事の流儀 棋士 羽生善治の仕事」を見て」)が、戦術を考えるということはおそろしく精神力を消耗するものだと思う。おそらく1試合終わったら、次の日は何も考えず一日中ゴロゴロしていたいと思わせるほどの消耗なのではないだろうか。健太選手は前日にサムソノフ選手と戦って、精神力を消耗しきっている。対して許選手は前日の試合を伸び伸びとプレーし、ストレートで順当に下した。



この差が今日の試合に影響してはいないか。今日の試合の5・6ゲームは観ているこちらも頭が痛くなってきた。

「相手は次はどこを狙ってくるのか」
「相手の裏をかくにはどうすればいいのか」
「次はこういう展開で攻めたい、そのためにはどうすればいいか」

といったことをポイント間の短い時間で延々と考え、答えの見つからないままサービスに入る。これは苦しい。するとこんなことを考えてしまう。

「もしかして、こんなに苦労して勝利するよりも、ここで負けてしまったほうがいいのかもしれない。自分はがんばった。ここまでやれば、十分合格点だろう。」

それで拷問のような戦術を練る作業から解放されたいという誘惑に負けてしまう。マラソンでゴール近くで相手に引き離され、「これ以上苦しむよりは、負けてしまったほうがマシだ」と思うような心理に似ている。
健太選手がそのようなことを考えたかどうかはもちろん分からない。ただ、私ならそう考えて気持ちが折れてしまうかもしれないと思う。そして勝利への執着を諦めてしまうと、ミスが増え、戦術を転換するのをやめてしまう。

今日の試合は本当に紙一重だった。技術では負けていなかった。ちょっとした偶然でどちらに転んでもおかしくない試合だった。健太選手は十分勝つ可能性があった。しかし結果は負けだった。これは健太選手のかけひきや安定性のまずさを責めるべきではなく、途中1ゲームのビハインドにもかかわらず崩れなかった許選手の精神力の強さを讃えるべきだろう。

また、こんなに長々と妄想を交えた持論を展開してしまった。丹羽孝希選手の試合についての感想を書く紙幅も尽きた。

つづく

【追記】5/20
許選手は対 健太選手戦で相当消耗したことだろう。それなのに早くも準決勝が行われ、張継科選手と戦っている。そして0-4のストレート負けだそうだ。だんだん『あしたのジョー』じみてきた…「許昕は準々決勝でケンタ・マツダイラに破壊されていたんだ~!」

 

【追記2】5/26
丹羽選手の対馬龍戦についても語りたいことがあったのだが、仕事が忙しくてバタバタしているうちにその熱が覚めてしまった。「その3」が書けなくなってしまった。
書きたかったことは、丹羽孝希選手の活躍は結果は地味ながらすばらしいものだった、日本を代表する選手として恥ずかしくない試合内容だった、ということだ。
世界レベルの選手というのは私の想像を超えたかけひきをしていることが上の宮崎義仁氏の発言からうかがえた。何気ないブロックやフリックでも回転をかけたり、かけなかったり、同じようなサービスでも変化と種類に富んでいたり、丹羽選手の技術の多彩さには驚かされる。 

二人の若き才能―松平健太選手と丹羽孝希選手の試合を観て その1

先日の馬琳戦は残念ながら、見る前に結果を知ってしまった。
それで昨日のサムソノフ戦は絶対に見逃すまいと思い、万全の態勢で観戦した。
すばらしい試合だった。卓球をやっていてよかった。卓球をやっていなかったら、この健太選手のプレーの素晴らしさがあまりよく理解できなかっただろうから。

おめでとう!松平健太選手。そしてすばらしい試合をありがとう。



松平健太選手の戦績等
松平健太選手は2006年(わずか15歳?)に世界ジュニアで優勝するという 早熟ぶりを発揮し、2009年の世界選手権横浜大会では1年前の北京オリンピック金メダリストの馬琳をセットオール9-11まで追い詰め、世間の注目を浴びた。



しかしその後はケガや不調で目立った戦績を残せず、ようやく今年のジャパントップ12(日本代表+それに準ずる選手出場)で優勝を成し遂げるという明るいニュースで復調をアピールし、ワールドチームカップ2013では丹羽選手とのダブルスで中国選手を破るという快挙を成し遂げた(前記事「緊張感と臨場感」)。

そして先日の世界選手権では馬琳にリベンジした。相手の卓球をまったくさせない一方的な試合だった。



打点の早いブロックで相手を振り回し、完封と呼ぶにふさわしい勝利だった。衰えたとはいえ、馬琳にここまで完璧に勝利したということは、中国のトップ選手(馬龍・張継科・許シン)にも勝てるかもしれない。さらに「優勝も狙える」と言われていたサムソノフ選手(中国選手にも安定して戦える)もすばらしい内容で下した。押しつ押されつの見応えのある試合だった。次の相手は許昕xu xin選手だが、健太選手のブロックが許選手の攻撃にうまくハマれば、十分勝機がある。

健太選手の特徴
整った顔立ちと、マナーの良さは注目に値する。妹の志穂選手も非常にマナーが良く感じのいい選手だが(前記事「卓球のマナーとエチケット」)、健太選手も挨拶やマナーが非常にいい。みんなに好感を与える。日本卓球界の新しい顔になるかもしれない。

技術的には多彩なブロックが持ち味だと言われているが、それだけでなく、両ハンドの安定性がすごい。よく、両ハンドをブンブン振って攻撃するタイプと呼ばれる選手がいるが、そういう選手でも両ハンドが打てるのは前陣だけで、中・後陣からバックハンドを「ブンブン振れる」選手はそれほど多くない。後ろに下げられた場合、バックハンドは安定性をとってゆるいボールでしのぐ選手がほとんどである。しかし健太選手は中・後陣からでもバックハンドで攻撃できる、しかも安定している。これは健太選手の個性ではなかろうか。飛びついて中陣からのバックドライブなんてそうそう入るものではない。しかし健太選手は中陣からのバックドライブを苦もなく打ち込める。フォアからでも攻撃され、バックからでも攻撃されると、相手は息つく暇もない。これぞ本当の両ハンド攻撃だと思った。そしてフォアもバックも非常に安定している。

なんだか訳もわからないまま、筆の赴くままに記事を書いてしまった。健太選手の昨日の勝利に興奮して何かを書かずにはいられなかったのだ。また落ち着いてから続きを書きたいと思う。

つづく。

【追記】5/19
サムソノフ選手のユニフォームに日本語で「人生卓球」という刺繍がしてあった。ちょっとかっこよかった。

緊張感と臨場感―World Team Classic 2013 を観て

World Team Classic 2013 男子準決勝 日本 対 中国 の試合をテレビ東京のライブ配信で観た。
女子の日本 対 韓国・シンガポール、男子の日本 対 ブラジル も観たので、30日の土曜日はこの大会をほぼ一日中観戦していた。女子はオリンピックに続いてシンガポールを破り、決勝進出。男子はところどころヒヤッとしたものの、ブラジルを順当に下し準決勝進出。男子が中国に勝てる見込みは薄いが、一矢報いてほしいと期待しながら観戦していた。

結果は1-3で敗北したが、それでも一矢報いることができた。松平健太選手と丹羽孝希選手のダブルスが張継科選手と王皓選手のダブルスを大接戦の末、破ったのだ。


第三試合:
松平健太/丹羽孝希 対 張継科/王

上のITTFのハイライトのyoutubeにおけるコメントを見ると、「中国ペアのミスが多すぎた」といった意見が多かった。あたかも「中国の調子が悪かったから、たまたま日本ペアは勝てた」とでも言わんばかりだ。この5分程度の「超ダイジェスト版」を観たら、そう感じるかもしれないが、全てをリアルタイムで観ていた私には首肯しがたい意見だ。

この勝利は偶然や幸運だけによってもたらされたものではない。第1戦から見れば、「さもありなん」という結果なのだ。

第一試合の丹羽孝希選手と
張継科選手の試合はスコアだけを見れば0-3で丹羽選手の完敗だが、内容は少し違う。
丹羽選手を第一試合に持ってきたオーダーは英断だったと思う。
丹羽選手の最近のブンデスリーガの試合を見ると、ひどい内容だった。やる気のなさそうな試合態度で、全体的に投げやりなプレーが目立つ。慎重にやれば勝てたかもしれない試合でも最後までテキトーにプレーして勝利を捨てていたように見える。チームの勝利のことなど、眼中にはなさそうだ。天才との呼び声高い丹羽選手との対戦を期待していた相手はさぞ興をそがれたことだろう。丹羽選手の態度は最悪だっだと思う。youtubeのコメントにも「コーキは終わった」とか「やる気がないなら帰れ」といったコメントが散見される。


ブンデスリーガ2013:丹羽孝希 対 アポローニャ

そんな「勝てる試合でも適当にプレーして、捨ててしまう」「何をしでかすか分からない」不気味さを丹羽選手は醸していた。その上、丹羽選手は今年の全日本で水谷選手を破って優勝していることから、張継科選手のライバルの馬龍選手を倒したのは運だけでなかったということが証明されている。馬龍選手は丹羽選手に相当苦手意識を持っているのだろう。今回の日本戦ではオーダーから外されていた。「丹羽はどう出てくるのか。もしかしたら、俺まで負けるのではないか」と張継科選手に思わせる不気味さが丹羽選手にはあった。この試合でも丹羽選手はところどころでやる気のなさそうな、不敵な態度を見せた。試合には負けはしたものの、心理戦では負けていなかった。ところどころ光るプレーも見せたし、卓球になっていた。「こいつを調子に乗らせたら、もしかしたら…」というプレッシャーを中国選手に与えることができたと思う。


第一試合:丹羽孝希 対 張継科

もしこの第一試合で2011年の世界選手権、水谷隼選手 対 王皓選手 のような一方的な試合になっていたらどうなっていただろうか。当時、水谷選手は世界ランキングをどんどん上げており、「もしかしたら、中国に勝てるのでは?」という期待を持って試合を観たのだが、蓋を開けてみたら、「王皓選手のサービスが分からない」「皓選手のフォアドライブが止められない」で、水谷選手は防戦一方。相手に全く脅威を与えられなかった。


世界選手権 2011 
水谷隼 対 王

続く第二試合は水谷隼選手と
許昕選手の試合だった。水谷選手は対ブラジル戦で格下のマツモト・カズオ選手にストレート負けしており、調子が心配された。逆に許昕選手は今、上り調子で世界ランキングも2位である。私はこの試合で先の世界選手権のような一方的な試合になるのではないかと心配していたが、杞憂だった。1ゲーム目から水谷選手が優位に立ち、2ゲーム目は落としたものの、3ゲーム目もとり、優位に立った。対する許昕選手はおそらくボールが合わない(一般的な中国選手よりも遅い?)せいか、水谷選手を得意のフォアドライブでしとめることができない。しかもフォアの打ち合いではしばしば水谷選手に打ち負けてしまう。中国選手にとっては第一試合からのイヤな雰囲気がこの試合にも尾を引いているように感じられたことだろう。許昕選手はリードされた4ゲーム目で相当緊張していたように見える。観客席からは「シューシン、ジャーヨー」と脳天気な声援が繰り返される。許昕選手の焦りは如何ばかりか。その後、許昕選手は慎重に戦い、水谷選手のミスにも助けられて、なんとか3-2で勝利した。もし水谷選手の調子が良かったら、この結果はひっくり返っていたかもしれない。

この試合で中国チームに「日本チーム侮りがたし」という脅威を抱かせ、次の第三試合に入ったのである。


第二試合:水谷隼 対 許昕

松平健太選手と丹羽孝希選手の左右ペアのダブルスは実績を残している。最近では、全日本を去年、今年と連覇し、去年のワールドツアー、ポーランド・オープンでは中国ペア(王皓/周雨)を破って優勝している。
健太選手は第三試合で初めて中国選手と対戦するが、緊張しているようには見えない。第一試合で負けた丹羽選手も、全く臆している風には見えない。日本ペアは精神的に負けていない。しかし、日本チームはこの時点で0-2。崖っぷちだ。緊張やプレッシャーがないはずがない。対する中国ペアは2-0で王手をかけているものの、これまでの流れから、「もしかしたら」というイヤな雰囲気がある。ここで崩れたら、中国チームに動揺が走るので、大事に至らないうちに、なんとかここでイヤな流れを断ち切りたい、食い止めたいという気持ちがあったことだろう。
日本ペアは中国ペアの凄まじい攻撃をみごとに受けきり、技術的にも負けていない。両者ともに相当なプレッシャーの中でのプレーなので、ミスが出るのは当たり前だ。というか、両者ともに、よくあのプレッシャーの中でこれだけ普通にプレーができると感心させられた。初めは中国ペアが先行するが、日本ペアは引き離されず、ジワジワと差を縮めてくる。そういう展開が目立った。2-2で並んだ5ゲーム目。中国ペアがリードを広げ、10-5で王手をかけた。「地力の差がでたか。もはやここまで」と思ったが、ここから日本ペアはプレッシャーに負けることなく、怒涛の7点連取で逆転して勝利!「イヤな予感が現実になった…」中国チームはそう感じたことだろう。

続く第四試合は健太選手と許昕選手の試合。
先の敗北からの動揺からか、
許昕選手は積極的な攻撃が影を潜めている。相当緊張しているのがうかがえる。対する健太選手は持ち味を発揮し、前半は互角の勝負をするが、後半の3、4ゲーム目は許昕選手に余裕を与えてしまい、1-3で敗北。しかし1ゲームをとるという意地を見せた。


第四試合:松平健太 対 許昕

ふだん、私たちはインターネットのダイジェスト版で試合を観る。ポイントとポイントの間やつまらないミスなどを取り除き、わずか数分にまとめられた試合を観て、試合を理解したつもりになっている。しかしダイジェスト版は多くの情報を取りこぼしてしまっている。緊張感や会場の雰囲気、その日の試合の流れというのもその一つだ。今回、インターネットのライブ配信と、そのダイジェスト版を比較してそれを痛感させられた。上のITTFのダイジェスト版は試合の間やリプレイ、凡ミスなどを完全に取り除いた「超ダイジェスト版」だったので、その違いが際立った。「超ダイジェスト版」からは試合のドラマが伝わってこない。
よく「写真と実物は全然違う」と言われる。いくら生中継だからといって、映像で見るのと、その会場で観戦するのとは、また全く違うものだろう。卓球観戦のおもしろさを十分に味わうためにはやっぱり生での観戦が理想だが、現実には難しいので、映像になる。映像なら完全版の方がいい。といっても、そんなにしょっちゅう省略なしの完全バージョンを観るほど時間の余裕はない。だから、同じダイジェスト版でも、「超ダイジェスト版」ではなく、ある程度試合の雰囲気を伝えるダイジェスト版を観たいと思う。「超ダイジェスト版」というのは次の動画のようなものである。


北京オリンピック:水谷隼 対 エロワ(超ダイジェスト版)

上の動画を見ると、エロワ選手はちょっと独特のフォームで、ミスの少ない、なかなか上手な選手といった印象だが、下のダイジェスト版は、ほんの少し選手の感情が垣間みえる。6:12と7:38のエロワ選手がおもしろい。
フランス人によると、「フランス人とは、いつも何かしら文句を言っている国民で、特にパリ市民はそれが著しい」ということらしい。フランスでは古い制度や習慣を政府が変えようとすると、いつもデモが起こるという。その改革の中身はどうでもよくて、とにかく反対し、議論するのが好きらしい。エロワ選手が失点すると、なにか喚いており、フランス人の面目躍如という感じがする。ダイジェスト版を作ってくれる人には感謝だが、できればもう少し余裕のあるバージョン―試合後の選手の表情などをもう少し映してくれると、試合の雰囲気や選手の人柄が少しは分かってありがたい。一見無駄に思える情報の中にも、実は理解に欠かせないものが含まれているもなのだから。


北京オリンピック:水谷隼 対 エロワ(少し余裕のあるダイジェスト版)


卓球の見せ方

カタールオープン2013の 森園政崇選手 対 李虎選手 の試合をITTVで見た。
森園選手は絵に描いたような熱血漢の高校生で、世界ランキング248位。日本国内では有名だが、世界では無名の選手だ。一方李虎選手は中国から帰化した経験豊富なシンガポールの選手で48位。世界ジュニアでも優勝経験がある。格的には李選手のほうがはるかに上だ。

試合は前半、森園くんの素晴らしい連続ドライブがいいコースに決まるも、李選手のほうが一枚上手で、ことごとく返されてしまう。攻めあぐねて甘い球を打つと、すさまじい速さのドライブが返ってくる。どうにも勝ち目がない。3ゲーム目、森園選手のプレーが冴えており、あと一歩のところまで李選手を追い詰めた。「せめて1ゲームだけでも」という祈りも虚しく、3ゲーム目もギリギリで落としてしまう。「次こそは一矢報いてほしい」と思って4ゲーム目を見ていたが、森園選手はあきらめずに果敢に攻め、なんとかこのゲームをとった!そこからがすごい。森園選手は小さな体にあふれる闘志で、あれよあれよという間になんと7ゲーム目までもつれ込む。 5・6ゲーム目は森園選手のほうが押していた。熱い!熱すぎる!もしかしたら、もしかするかもしれない。1ポイント1ポイント、手に汗を握るポイントの連続だ。これは期待してしまう。が、最終ゲームは惜しくも及ばず、敗れてしまった。

この試合を見て、卓球の見せ方というものを考えさせられた。
私たちはレベルの高い選手同士の試合を見すぎて、感覚が麻痺してしまっている。どういうことかというと、世界ランキング一桁の選手同士の試合をみても、大して興奮しなくなっている。中国選手同士のハイレベルなラリーを見ても、「ふ~ん。うまいね。」ってなもんだ。
それと比べて、森園選手と李虎選手の戦いはどうだ?久しぶりにドキドキワクワクさせられた。世界ランキング1位と2位の試合を見ても、無感動なのに、世界ランキング2桁と3桁の試合にどうしてこれほど感動できるのか。

そこにはチャレンジがあるからだと思う。誰が勝ってもおかしくないような実力の伯仲した選手同士の試合というのもいいが、それだけではおもしろくない。若くて勢いに乗っている無名の選手がある程度の実績のある選手を倒すというのは、見ていておもしろい。

また、卓球の試合のおもしろさというのは、幸せの感じ方と同じようなもので相対的なものだと思う。私たちはどんな些細なことにも幸せを見出すことができる。雑誌で喉頭がんの患者の記録を読んだことがある。詳しいことは忘れたが、喉の手術をした結果、自分で食べ物が飲み込めなくなってしまい、喉にチューブをさして、流動食で栄養をとっているという。それどころか唾液も飲み込めないから、口から垂れてくる。それを想像すると、本当に気の毒だ。食べ物が飲み込める、息ができる、三食たべられて、寒い季節でも温かい布団で寝られる。こんなすばらしい幸せに私は感謝しなければならない。
卓球の試合は国際大会のレベルでなければ楽しめない、などということはない。市民大会のレベルでも、十分楽しめる。そこに全国大会に出場した経験のある選手などが登場すれば、会場はいやがおうにも盛り上がる。逆にジャパン・オープンのような国際大会に世界ランキング100位ぐらいの選手が登場しても、たいして注目を集めないだろう。今なら、吉村真晴選手が99位、町飛鳥選手が110位だ。こんな選手が市民大会に出場したら、それこそ会場は大騒ぎだ。
問題はコントラストなのだ。県大会レベルの選手がしのぎを削っている中に、日本ランキングに入るような選手が数名いれば、それで大いに楽しめるのだ。

『卓球王国』によると、松下浩二氏が日本で卓球のプロリーグを準備しているという。私はそれを非常に楽しみにしているのだが、一方で日本のトップ選手を勢揃いさせるだけでは、飽きられてしまうのではないかと懸念している。上にあげたようなチャレンジとコントラストをうまく取り入れることはできないだろうか。エキシビジョンのような試合を設け、地元の中高生の生きのいい選手と交流試合のようなことをするとか、女子選手と男子選手の試合をするとか。女子のトップ選手と、男子高校生の試合というのも観てみたい。また、トップ選手が普段どういう練習をしているかというのも見てみたい。

トップ選手同士が試合をすると、選手の技術の高さがわかりにくい。トップ選手同士が何気なく返しているサービスやドライブは、高校生レベルからすると、とんでもなくレベルの高いボールのはずである。しかし、われわれはレベルの高い試合を見すぎているため、当たり前のことが当たり前でないと気づかない。初級者・中級者にとっては、高校生の全国大会も、実業団の試合も、国際大会も、どれも同じように見える。レベルの違いをうまく見せるためには、格の違う選手と対戦させるのが効果的だと思う。日本でプロリーグが行われるとしたら、観客を啓蒙するような要素を盛り込んでほしいものである。そうしないと、私たちは下手の横好きはいつまでたっても試合を見る目が養われないのだから。


【追記】
みんなトップ選手ばかりの大会というのは何かに似ていると思ったら、少女マンガだった。
少女マンガは美男美女ばかり登場するので、おもしろみに欠ける。
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