以前、「仕事としての卓球」という記事を書いたが、卓球教室経営というのは果たしてビジネスとしてうまみがあるのだろうか。卓球教室を立ち上げて、ガッポガッポ儲けて、イタリア製のスーツを着て、外車を乗り回しているという卓球教室経営者は想像しにくい。

卓球教室の中心は小中学生と主婦・高齢者だと思われる。京都市内では卓球教室は週1回2時間で7000~8000円ぐらいというのが相場だろう。以下のような条件で考えたら、卓球教室経営のおおまかな収入が想像できる。

・子供たちは週3回通って1人月15000円とする。
・成人は週1回通って1人月8000円とする。
・成人向けに指導者を1人、2時間5~6000円で雇うとする。

子供たちが30名通うとして15000☓30=45万円。
高齢者や主婦なども30名所属して、週1回通うとして8000☓30=24万円。

そこから成人向けの指導者(1人だけ)への謝礼が5000☓6日☓4週=12万円。
テナント料が30万円。
その他もろもろの光熱費・備品代などが5万円。

45+24=69万円(売上)
12+30+5=47万円(経費)

残りは22万円となる。新しいタイプのボランティア?とか言われそうな数字である。借金をして卓球教室を立ち上げ、経費を削りに削って、必死にがんばって毎月22万円なんてありえない。
だからおそらく他にもいろいろな売上増の道があるのだろう。用具販売や有名選手を招いての特別教室、夏休みの夏期合宿や個人レッスン、空いている時間を最大限に有効活用。熱心な勧誘。しかしこれだけいろいろやったところで、どんなにがんばっても月に100万円の収入には届かないのではないだろうか。自宅を教室にできるなら、テナント料は払わなくてもいいが、そうなると、人が集まりにくい郊外ということになってしまう。そして指導者をもう一人増やしたり、設備の補修費なども考えたら、さらに収入が減ると思われる。
これは経営者が指導者も兼ね、ギリギリ最低限の経費で運営し、かつ大きな問題が起こらなかった場合を想定してである。何年もやっていれば、なんらかの問題が起こらないとも限らない。子供がケガをして裁判ざたになったり、いじめの問題が起こったり、などというのは起こりそうな問題である。

まったく新たに教室をオープンして、子供を30名、成人を30名集めるというのも楽観的な数字である。この数字はかなりの実績と評判があって初めて実現できる数字だと思われる。教室をオープンして、駅前で必死にビラを配っても、60名の受講生を集めるのは至難の業だろう。すでに実績のある卓球教室と生徒を奪い合わなければならないのだ。実績も目玉もない教室に人がたくさん集まるというのは考えにくい。しかも受講生の中にマナーが悪い人が混じれば、その人に嫌気が差して辞めていく人も相次ぐだろうし、初心者ばかりで、上手な受講生が少なければ、辞めていく人も出てくる。受講生が指導者に不信感を抱いたりすれば、一気に受講生が半分ぐらいに減ってしまうかもしれない。効率的な経営をして、上の推計よりもかなりうまくいったとして、可処分所得は50万程度と考えるのが現実的だろう。

経営について私は全くよく知らないのだが、借金をしてなんとか独立したとしても、毎月の収入が(うまくいって)わずか50万円というのは、かなり不安定な仕事と言わざるを得ない。独立している人ならまだ生活していけるが、雇われている指導者は専門的な技術職であるにもかかわらず、フリーターとそう変わらない収入ということになってしまう。

卓球教室で小遣い稼ぎとしてコーチ業をするなら、楽しくていい稼ぎにもなるが、雇われコーチ業で家族を養っていくのは難しそうだ。教室の経営者にしても、安泰とは言いがたい。受講生の子供に対する体罰などという問題が起これば、教室の経営が立ち行かなくなるおそれもある。
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一方、受講生の立場からすると、週1回通ったとして、毎月8000円の月謝。週4回2時間のレッスンがあるとして、1時間あたり、支払っている金額は1000円に過ぎないということになる。講師は指導経験の豊富なプロである。民間の卓球場を利用すれば、1時間1人500円ぐらいはかかるものである。そう考えると、プロの指導への対価が1時間わずか500円ということになる。ずっと講師を独占できないにしても、これは安すぎるのではないだろうか。私もできるならあまり高額な月謝は払いたくないが、1時間あたり1500円ぐらいは月謝をとったほうがいいのではないだろうか。こんな安価な月謝しかとれないのでは卓球教室の経営に乗り出そうとする人はみんな尻込みしてしまう。その代わり、月謝を値上げした分、きちんと到達目標や指導計画を示してほしいものである。1年指導を受けたら、フォアとバックの切り替えがスムーズになり、両ハンドで安定したドライブが振れるようになるといった目標を設定し、受講生が自分の向上を実感できるような指導にしてもらいたいのだ。成人なら、1年前の自分と比べてあまり進歩がないと感じる人が大多数だろう。それが1年で劇的に進歩するなら、月に1万円以上払っても惜しくないという人は少なくないのではないだろうか。そしてそのほうが指導者もやりがいがあると思う。
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卓球を仕事にしたいという夢を抱く若者に現実は冷たい。コーチ業は言うまでもなく、教室経営にも多くの困難が伴うのだ。こういう教室には公的な援助が必要だと思われる。無条件に援助するわけにはいかないが、ある程度の条件を満たした教室には国や自治体が積極的に援助すべきではないだろうか。そうしないと、私たちのような成人は憲法が保障する文化的な生活が送りにくくなってしまう。

また、「卓球療法とは?」にも書いたが、卓球は国民の健康を大いに増進させる可能性を秘めている。最近「スポーツジム」というビジネスが成り立っていることからも、あるいはトレッキングや自転車を趣味とする人が増えていることからもスポーツに対する国民の関心が高まっているのは明らかである。しかし、経験のない人が新たに始められるスポーツはジョギングや水泳といったものに限られている。中高年になって、新たにスポーツに取り組もうとしている国民にもっと多様な選択肢を提供すべきではないだろうか。指導者なしでは取り組めるスポーツは限られてくる。しかし指導者さえいれば、国民はさまざまなスポーツを楽しめるのだ。卓球という最も手軽で健康増進に効果のあるスポーツに対して国や自治体が援助することによって、生活の質が向上し、国民が健康になるのなら、政府は民間のスポーツ教室にも補助金を出してもいいのではないだろうか。

【追記】
算数の計算を間違っていたorzので修正した。大幅に収入が減った。
【追記2】
公的な補助ということで、総合型地域スポーツクラブというのを思い出した。こういう制度を利用してなんとか質のいい卓球教室を作れないものだろうか。