ジャパン・オープン2014男子シングルス決勝 水谷隼選手と于子洋選手の試合は後味の悪いものだった。
問題の場面は3ゲーム目のカウント7-4、上の動画の3:08のところ。
明らかに入っていない于選手のボールが入ったことになっている。水谷選手が抗議するも、結局判定は覆らず、水谷選手は続けざまに得点され、このゲームを失い、なんとなく敗れてしまった。
動画のコメント欄には于選手の態度と、審判への非難が渦巻いていた。
常識的に考えれば、あの場面で于選手は「たしかに水谷選手のポイントでした」と申し出るところだろうが、中国の常識ではちがうらしい。ITTFの動画には次のようなコメントがついていた。
i know in China it is pretty normal not giving the Point to the Opponent if the refree saw it false. But this ball was really very far from the table. It was not close at all!
前記事「精神力の強さとは」でも言及したが、中国社会というのは「弱者は真っ先に食い物にされ、お人好しは足を引っ張られ、油断したらハメられる社会」だというのが私の想像である(実際に住んだことはないので、憶測にすぎないが)。中国ではこのような場面では于選手には非はなく、審判だけが悪いのだ。しかしyoutubeのコメント欄を見ると、多くの国では于選手の態度はスポーツマンシップに悖る行為に映るようだ。
于選手に何か言ってほしげな水谷選手だが、于選手は全く意に介さず背を向け続ける。
このポイントを境に水谷選手は緊張の糸が切れてしまったようで、プレーがグダグダになってしまう。于選手は逆に、チャンスとばかりに徹底的に攻め抜く。
于選手は16歳ということなので、目先の優勝のためなら、何を言われようが構わないといったところだろうか。しかしコーチまでが于選手の態度を問題視していないのには驚かされた。
「よくやった!」と言わんばかりに労をねぎらうコーチ
技術ばかりが先行し、人間性やモラルといったものがついてきていない若い選手が、将来どんな怪物になるのか心配じゃないのだろうか。「とにかく勝てばいい」というのでは、誰からも尊敬される国民的英雄になることはむずかしい。それどころか、この行為が生涯にわたって于選手を精神的に苦しめるのではないだろうか。
平岡義博氏は宇田幸也選手に常にこんなことを言って指導していたそうである。
「誰からも好かれる人間になれ」「みんなが注目する選手になれ」
これも将来スター選手になるために常に言い聞かせてきました。「宇田幸矢に求めたもの」
「誰からも好かれる」。これは本当に難しいことである。子供の時から強くて注目される選手だからこそ、その言動には細心の注意が必要である。なぜならインターネットが普及した現代では、軽い気持ちで言った一言が永遠に記録され、世界中から閲覧されてしまうのだから。
于選手は世界中の卓球ファンに「卑怯者」「モラルの欠けた嫌な奴」と記憶されたことだろう。おそらく于選手の子供や孫もこの動画を見て、于選手の態度を軽蔑することだろう。于選手が活躍すればするほど「ジャパン・オープンではあんな卑怯なことをしたのに」と思い出されるにちがいない。中国人のメンタリティーは確実に変わってきている(前記事「変わる中国人」)。世界の目を意識している中国の国家チームの監督や先輩などは「あんな奴が中国代表になったら、中国のイメージが悪くなる」としていろいろな妨害を受けるのではないか。中国なら于選手に頼らずとも、いくらでも人材がいる。
ジャパン・オープン決勝ともなると、この動画は10年後、20年後でも閲覧可能である可能性が高い。于選手は目の前の優勝を焦るあまり、自分の経歴に一生消えない、大きな瑕を作ってしまったのだ。
ところで、近年、「忘れられる権利」というものが注目を集めている。
“忘れられる権利”はネット社会を変えるか?
グーグル、「忘れられる権利」の削除要請に対抗策
ネット上に個人情報があふれているので、自分が過去にどんな発言をして、どんな人と付き合い、どんな失敗をしたかなどが、いつでも誰にでも閲覧可能になっている。不名誉な過去や、あまり人に知られたくない経歴をインターネット上から削除してもらう権利というのが「忘れられる権利」ということらしい。最近でも旅費を不正に請求したとして野々村竜太郎氏の過去の言動や経歴などが大きく取り上げられている。野々村氏もこの騒ぎが静まったら、心を入れ替えてまっとうな人生を歩みたいところだろう。しかし、この権利にはいろいろ議論があるらしく、過去の事実がネット上から簡単に消えることはないようだ。
このような事件を見るにつけ、日本選手のことが心配になってくる。
小学生や中学生で国際的に注目される選手が最近の日本にはたくさんいる。彼らが自身の言動をどれだけ意識しているか心配である。
優勝してこういうことをしてしまったら、いい印象を持たない人も多いのではないか
世界チャンピオンもこんなことをしてしまったら、人格を疑われかねない
マナーは国によって違う。優勝して台に乗ったり、足でボールを蹴ったりするのを「おもしろいパフォーマンス」と受け取る文化もあれば、「調子に乗ってる」と受け取られる文化もある。もし日本を代表する若い選手がツイッター等のSNSで「授業ダリ~。教師ムカつく~」などと発言したら、清々しい印象の選手も台無しである。「本当はこういうヤツなんだ」という拭いがたいネガティブな印象を世間の卓球ファンに植え付けてしまうことだろう。大人になって若気の至りを悔やんでも遅いのだ。
于選手の問題を他山の石として、日本の若い選手たちは自らの言動を慎んでもらえたらと思う。石川佳純選手のように、常にメディアを意識し、自身の言動に注意深い選手になれれば、日本中から愛されることになるだろう(前記事「日本女子卓球選手の社交性の高さ」)。
口直しにこちらの試合を。
問題の場面は3ゲーム目のカウント7-4、上の動画の3:08のところ。
明らかに入っていない于選手のボールが入ったことになっている。水谷選手が抗議するも、結局判定は覆らず、水谷選手は続けざまに得点され、このゲームを失い、なんとなく敗れてしまった。
動画のコメント欄には于選手の態度と、審判への非難が渦巻いていた。
常識的に考えれば、あの場面で于選手は「たしかに水谷選手のポイントでした」と申し出るところだろうが、中国の常識ではちがうらしい。ITTFの動画には次のようなコメントがついていた。
i know in China it is pretty normal not giving the Point to the Opponent if the refree saw it false. But this ball was really very far from the table. It was not close at all!
Yu Ziyang should not be the one to be blamed as a cheater, it's the judge who made the final decision and took ALL responsibility.
前記事「精神力の強さとは」でも言及したが、中国社会というのは「弱者は真っ先に食い物にされ、お人好しは足を引っ張られ、油断したらハメられる社会」だというのが私の想像である(実際に住んだことはないので、憶測にすぎないが)。中国ではこのような場面では于選手には非はなく、審判だけが悪いのだ。しかしyoutubeのコメント欄を見ると、多くの国では于選手の態度はスポーツマンシップに悖る行為に映るようだ。
于選手に何か言ってほしげな水谷選手だが、于選手は全く意に介さず背を向け続ける。
このポイントを境に水谷選手は緊張の糸が切れてしまったようで、プレーがグダグダになってしまう。于選手は逆に、チャンスとばかりに徹底的に攻め抜く。
于選手は16歳ということなので、目先の優勝のためなら、何を言われようが構わないといったところだろうか。しかしコーチまでが于選手の態度を問題視していないのには驚かされた。
「よくやった!」と言わんばかりに労をねぎらうコーチ
技術ばかりが先行し、人間性やモラルといったものがついてきていない若い選手が、将来どんな怪物になるのか心配じゃないのだろうか。「とにかく勝てばいい」というのでは、誰からも尊敬される国民的英雄になることはむずかしい。それどころか、この行為が生涯にわたって于選手を精神的に苦しめるのではないだろうか。
平岡義博氏は宇田幸也選手に常にこんなことを言って指導していたそうである。
「誰からも好かれる人間になれ」「みんなが注目する選手になれ」
これも将来スター選手になるために常に言い聞かせてきました。「宇田幸矢に求めたもの」
「誰からも好かれる」。これは本当に難しいことである。子供の時から強くて注目される選手だからこそ、その言動には細心の注意が必要である。なぜならインターネットが普及した現代では、軽い気持ちで言った一言が永遠に記録され、世界中から閲覧されてしまうのだから。
于選手は世界中の卓球ファンに「卑怯者」「モラルの欠けた嫌な奴」と記憶されたことだろう。おそらく于選手の子供や孫もこの動画を見て、于選手の態度を軽蔑することだろう。于選手が活躍すればするほど「ジャパン・オープンではあんな卑怯なことをしたのに」と思い出されるにちがいない。中国人のメンタリティーは確実に変わってきている(前記事「変わる中国人」)。世界の目を意識している中国の国家チームの監督や先輩などは「あんな奴が中国代表になったら、中国のイメージが悪くなる」としていろいろな妨害を受けるのではないか。中国なら于選手に頼らずとも、いくらでも人材がいる。
ジャパン・オープン決勝ともなると、この動画は10年後、20年後でも閲覧可能である可能性が高い。于選手は目の前の優勝を焦るあまり、自分の経歴に一生消えない、大きな瑕を作ってしまったのだ。
ところで、近年、「忘れられる権利」というものが注目を集めている。
“忘れられる権利”はネット社会を変えるか?
グーグル、「忘れられる権利」の削除要請に対抗策
ネット上に個人情報があふれているので、自分が過去にどんな発言をして、どんな人と付き合い、どんな失敗をしたかなどが、いつでも誰にでも閲覧可能になっている。不名誉な過去や、あまり人に知られたくない経歴をインターネット上から削除してもらう権利というのが「忘れられる権利」ということらしい。最近でも旅費を不正に請求したとして野々村竜太郎氏の過去の言動や経歴などが大きく取り上げられている。野々村氏もこの騒ぎが静まったら、心を入れ替えてまっとうな人生を歩みたいところだろう。しかし、この権利にはいろいろ議論があるらしく、過去の事実がネット上から簡単に消えることはないようだ。
このような事件を見るにつけ、日本選手のことが心配になってくる。
小学生や中学生で国際的に注目される選手が最近の日本にはたくさんいる。彼らが自身の言動をどれだけ意識しているか心配である。
優勝してこういうことをしてしまったら、いい印象を持たない人も多いのではないか
世界チャンピオンもこんなことをしてしまったら、人格を疑われかねない
マナーは国によって違う。優勝して台に乗ったり、足でボールを蹴ったりするのを「おもしろいパフォーマンス」と受け取る文化もあれば、「調子に乗ってる」と受け取られる文化もある。もし日本を代表する若い選手がツイッター等のSNSで「授業ダリ~。教師ムカつく~」などと発言したら、清々しい印象の選手も台無しである。「本当はこういうヤツなんだ」という拭いがたいネガティブな印象を世間の卓球ファンに植え付けてしまうことだろう。大人になって若気の至りを悔やんでも遅いのだ。
于選手の問題を他山の石として、日本の若い選手たちは自らの言動を慎んでもらえたらと思う。石川佳純選手のように、常にメディアを意識し、自身の言動に注意深い選手になれれば、日本中から愛されることになるだろう(前記事「日本女子卓球選手の社交性の高さ」)。
口直しにこちらの試合を。