我々は名前がないものについて深く考えることができない。アスペルガー症候群とか、ADHDといった発達障害も名前がないうちは単に「自己中」とか「落ち着きがない」だけとされていたに違いない。
うちの娘は甘いものに対する執着がひどかったので、幼児の頃、あえて「チョコレート」という単語を教えなかった。そのおかげで「あれ食べたい、あの、あの、茶色いの」と言われても「何のこと?茶色いのって何?」とかしばらくとぼけていたら、忘れてくれた。もし「チョコレート」という名前を教えてしまったら、そのことばかり考えてしまい、娘は今ごろ肥満になっていたのではないだろうか。
このように名前というものは我々の認識活動に非常に大きな役割を果たしている。

また、名付けというものはそれがしっくりきたときは、えもいわれぬ満足感をもたらすものである。

「隼」という名前を見たら、ハヤブサのように素早く獲物を狩るイメージを思い浮かべ、
「孝希」という名前を見たら、実は珍しいぐらいの親孝行なのかもしれないと思い、
「早矢香」という名前を聞いたら、はっきりした、積極的な女性をイメージし、
「佳純」という名前を聞いたら、ぼんやりと、ほのぼのした女性かなと思う。

う~ん。「早矢香」さん以外はあまり私のイメージとは合っていないなぁ。「早矢香」さんの場合は、実物にそのイメージを重ねあわせることができ、私は彼女のことをもっとよく理解できたような満足感を覚える。

それはともかく、私は以前TSPのSWATというラケットを買おうと思ったことがある。値段も手頃だし、評判もいい。使わせてもらったところ、非常によく弾み、カチッとした印象で欲しくなってしまった。しかし名前が警察官みたいだったので、ARSNOVAのほうを購入した。こちらは「新技術」という意味だそうだ。いくら性能が良くても名前が好みでなければ買わないというのが私の美学なのだ。

それで日本の大手4社のラケットの名前をアルクの英辞郎on the webで調べてみた。有名選手に由来するラケット名やニッタクの楽器シリーズ、offensiveやdiffenseといった自明のものは省略した。SK7やKVUのような略語も省略した。英語以外の命名は調べていない。TSPのalteroは「誇り」、campioneは「チャンピオン」という意味のイタリア語らしいが、諸外国語を調べるのは煩瑣なので英語辞書のみで調べた。

バタフライ
有名選手と数多く契約しているため、選手名に由来する命名が非常に多い。また専門用語や素材名もあるが、半分ほどは意味不明である。ラナンキュロスというのはキンボウゲの一種らしいが、どうして?と首をかしげる。

innerforce:内なる力
iolite:《鉱物》アイオライト、菫青石
viscaria:和名コムギセンノウ、ウメナデシコ。
photino:《物理》フォティーノ
amultart:不詳
ishlion:不詳
ranunculus:《植物》ラナンキュラス
salvo :《軍事》一斉射撃
redox :《化》レドックス、酸化還元
lejumu:不詳
xstar:不詳
cutlass :カトラス◆船乗りが好んで使った厚くて重い反り身の片刃の短剣。
cypress:《植物》糸杉(材)、ヒノキ
lendido:不詳
bolgard:不詳
tenper:不詳
brisker:「冷たい/爽やかな」「動作が活発な」の比較級
lapuhta:不詳
reygundo:不詳
keyshot:そのゲームを左右するショットという意味か。
extrawing:もう一つの翼(1枚?)

ニッタク
ラケットの種類も多いが、意味不明な語が多すぎる。ferukuとかtesura、torua、eeruなどは本当に外国語なのだろうか?この音節構造は日本語っぽい。意味はなく、開発者が音の響きで適当に命名しているのではないかという気がする。tenaryのように日本語由来の命名(この命名はすばらしいセンスだと思う)もあるが、上にあげた4つは日本語由来だとしても意味が分かって納得できる命名ではない。

hinoblaze:ヒノキが熱く燃える?
flyatt:不詳
cellenty:不詳
kamkit:不詳
barwell:不詳
ludeack:不詳
kiley:人名?
fillmea:不詳
alulass:不詳
feruku:不詳
meran:不詳
rutis:不詳
lialox:不詳
feminist:男女同権論者
lumilas:不詳
greenshank:緑の柄?
mig・non:〈フランス語〉かわいい?
adelie:南極の地名?
runlox:不詳
bizelox:不詳
latika:人名?
septear:不詳
clout:一撃、あるいは人名
piecea:不詳
canaldy:不詳
tesura:不詳
sanalion:不詳
foum:不詳
jenty:不詳
torua:不詳
razor:カミソリの刃
amin:人名
tiluna:不詳
monophonic:モノラルの、単旋律の
resist:反抗する
wolfeed:不詳
alulass:不詳
rorin:不詳
streak:筋、走り抜ける
russelfor:不詳
ruforal:不詳
trefire:不詳
airuline:不詳
eeru:不詳
acute:激しい、鋭い
zeek:不詳
bizelox:不詳
lumilas:不詳
ristal:不詳

TSP
辞書に掲載されている語からの命名が多いのだが、levantとかsectionとかどういう命名意図なんだろうか。yで終わる命名が多い気がする。

lepard:不詳
flary:不詳
altero:不詳
fasty:不詳、あるいは「速ちゃん」?
swat:ピシャっと打つ、特別機動隊
campione:不詳
arsnova:不詳
astron:天文学
besty:不詳、あるいは「最高ちゃん」?
award:賞、授与する
gaia:ギリシャ神話の大地の女神
choose:選ぶ
japiel:不詳
lightness:軽さ、明るさ
euro:ヨーロッパ
levant:夜逃げする、地中海の東の地方
section:部分、節
shine:輝き
stash:隠しておいたもの、隠し場所
dynam:不詳、dynamicからか?
multy:不詳。複数を意味するmultiからか?それとも「丸ちゃん」的な意味か?
higlory:不詳
sleek:つやつやした、流線型の、よく肥えた
versal:不詳。

ヤサカ
馬琳シリーズやMKVなどのベストマッチシリーズのラケットが多いので、独自のネーミングはそれほど多くない。
命名はclassicやextraのように分かりやすいものが多い。日ペンは「武蔵」や「柳生」といった日本名である。

spelancer:不詳
galaxya:不詳
extra:追加の、さらなる
synergy:相乗効果
balsa:《植物》バルサ
sweeper:掃除人、掃除機
two face:二つの顔、表の顔と裏の顔

まとめ
ヤサカのラケットの命名はオーソドックスなものが多いが、他3社の卓球のラケットの命名は意味不明なものが多い。英語以外の外国語に由来したり、造語もあるのかもしれないが、名前の意味や命名の意図が分からなければ、所有者のラケットに対する愛情は半減してしまうだろう。我々はラケットにしっくりくるイメージの命名を必要としている。名前がないと、その対象について深く考えられないと先に述べたが、名前があっても意味がわからないと、ラケットに対するイメージを持ちにくく、それは同時に愛着を持つ対象になりにくいからだ。メーカーは命名意図が分かるような広報活動をしてほしい。特にニッタクの命名は意味不明度が際立っている。