コクタクという会社はなにかこう、憎めないところがある。いや、むしろ「にくい」会社である。

「にくい」
(2)(反語的に用いて)かわいい。いとしい。

「私の心を奪った―・い人」
(三省堂『大辞林』より)

まず、社名が野暮だ。カタカタ言っている旧式の機械のような響きである。そしておちゃめな会社である。

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このパッケージデザイン、どうみても80年台前半である。シンクロンのパッケージデザインは中国に依頼したのだろうか。ロゴがなんとなく鄧小平以前の中国のデザインを思い起こさせる(労働者色強し)。そしてクリッターは昔あった「トロン」という映画にインスパイアされたのではないだろうか。
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今となっては一周回ってかえって新鮮な感じがする。と思ったら、トロンのほうも、最近続編が出たらしい。


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コクタクと同様、1周回って、トロンの世界観が今カッコイイということだろうか。

そしてラケットの名前もおもしろい。「パスピー2号」ってなんだろう?まるで70年代の特撮ロボットの名前のようだ。スペリングはpassvyと思われるが、意味不明である。

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「ベーシックV3」というのは初心者向けのラケットかと思いきや、スペリングがbeseicとなっている。これも意味不明である。
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このラケットは卓球屋で3800円ほどだったので、購入してみた。思ったより良い感じだった。スプリングラケットというシリーズで、確かによく弾む。

コクタクというのは、どうしてこう時代の流れに乗るのが下手なのだろうか。世間の卓球メーカーが他社に出し抜かれまいと必死で手を広げ、様々な試みをしているのに、コクタクは30年経ってもあまり変わらない。東京に住んでいる若者が久しぶりにふるさとを訪れて、その時間の流れの違いに驚くようなものである。

「新素材とか、新技術搭載とか、そんなものを追いかけても、いずれ色あせてしまうさ。卓球用具は安くてクセのないものが一番だ。あとは使う人の技術次第だよ」

とでも言いたげな企業姿勢である。それはそれで、ある種の真理を突いている。

以下のページを見て、オーラというラケットが欲しくてたまらなくなってしまった。
TTI-LABO 小型軽量7枚合板 「コクタク オーラ中国」 
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まず、安い。卓球屋やジャスポなら3200円ぐらいである。デザインだけでなく、価格設定まで当時のままというのはありがたい。そしてどうやらブレードが小さく軽いので、振り抜きやすいらしい。サイズ的には、王道04中国式と同じぐらいのサイズらしい。王道04が横長なのに対し、オーラは縦長のようだ。
名前も不思議だ。OHRAってなんだろう?この名前が気になってしょうがない。値段も安いし、つい衝動買いしてしまった。

これが実物である。

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実物を手に入れて、OHRAの名前の秘密が分かった。ラケットの箱に「気(オーラ)中国」と書いてあったのだ…。このネーミングセンス、さすがコクタク。

ラケットの箱には「性能区分表」が載ってあり、オーラ中国は
オフェンス13
オールラウンド5
デフェンス2
安定性10

というのがカタログデータである。ちなみに最高値が15だというから、オフェンス13は相当高い数値のようだ。レーザーが9、ベーシックが10、尾州NO.1 D.60が同じく13なので、コクタクのラケットの中では相当ぶっ飛ぶラケットである。私はあまり弾むラケットが好きではないので、レーザー中国のほうがよかったかもしれない。

形状についてだが、確かに小さく軽い。そしてグリップが細く握りやすい。しかし、グリップ中央の麦の穂のような意匠は何なのだろう。グリップの色がグレーに変わったのはいいとして、グリップ中央を走るあの模様はちょっと痛かった。安っぽさ50%アップである。それからよく見ると、グリップとブレードの接着面にほんのすこし接着剤がはみ出して固まっていた。実用的にはまったく問題ないのだが、これが「匠の技」なのだろうか?「神は細部に宿る」というではないか。TTI-LABOに「職人技が光る」などと書いてあるが、私にはあまりピンとこない。コクタクはそういう昔ながらのやりかたにこだわるガンコな職人仕事というよりも、単にシーラカンス的な、流行を気にしない会社のような気がする。実用性が最優先で、多少仕上げが悪くても、安くてちゃんと使えれば十分という哲学を持っている気がする。

試打してみた感想を述べたい。
初めはキョウヒョウ3を貼って打ってみたのだが、弾みすぎるので、余っていたアンソート(中)を貼ってみたら、ほどよく弾まなくなり、良い感じである。このラケットは気分転換用のラケットなので、あまり使い込んでいない。特に驚くような特徴もないし、逆に気になる点もない。値段を考えれば、十分満足の行く買い物である。

このラケットの特徴を簡単に挙げると、
・安い
・グリップが細い
・ブレードが小さい
・軽い
・やや弾む

というものである。グリップの意匠だけ(名前もちょっと)が気になるが、それ以外は問題ない。一言で言えば、「手軽なラケット」である。ラケットが小さいのでジャマにならず、カバンにいつも忍ばせておいて、持ち歩くのにいいかもしれない。平凡なラケットなのだが、なんともいえず愛着が湧きそうだ。

コクタクというメーカーといい、オーラといい、学生時代にクラスにいた、目立った特徴もなく、垢抜けない女の子みたいなイメージだ。ふだんは気にもとめず、忘れているのだが、付き合いが長くなると、意外なかわいさをときどき発見できて、小さな満足を覚える。がっかりしたり、失望したりすることがない。噛めば噛むほど味が出る。オーラ中国は私にとってそういう位置づけになるだろう。