しろのたつみ



卓球について考えたこと、
気づいたこと(レベル低いです)
を中心に中級者の視点から綴っていきます。




カテゴリ: 戦術

最近、ロングサービスからの展開がおもしろい。
今まではできるだけミスせず、2球目でいきなり打たれないようなショートサービスばかり出していたのだが、最近ロングサービスがおもしろいと思うようになった。

ショートサービスのいいところは相手に強打されることのないことだが、その反面、甘いボールが返ってこない。短いストップや、切れた速いツッツキなどが返ってくる。その結果、こちらも3球目で優位に立てず、実力差がモロに出てしまう。
それに対してロングサービスは相手に決断を迫る。相手のバックサイドを切る、長い順横回転ロングサービスを出せば、相手はそれをツッツキなどで短く止めることは難しい。このサービスが切れている場合、私レベルのプレーヤーでは適切に返球するのが難しい。無難に短くツッツけない。どうしても台から出る長いレシーブになってしまう。こちらから打って出るか、はたまた相手のフォア側に長く厳しいレシーブをし、相手に打たせるかの決断を迫られることになる。打ちたくはないのだが、長く送ると相手が打つ気満々で待っているので送るわけにも行かず、やむを得ず打たされてミスばかりしてしまうのだ。「行くも地獄、戻るも地獄」とは正にこのようなことをいうのではないだろうか。

最善のレシーブはバックドライブでストレートに強打だろう。しかし切れた横回転をバックハンドでドライブするなんて危険すぎる。そこで軽く払ったり、角度をつけてフォアかミドル(回転の影響でたいていミドル)あたりに受け身のレシーブを送る。上手な人はそのへんで待っていて、一発で打ちぬかれてしまう。

こんな経験から、自分でもロングサービスを積極的に使ってみようと思うようになった。そして先日、上手な人のバックサイドから出す順横回転ロングサービスを観察していたのだが、私のと違う。私のサービスは台に対して90°横を向いて、身体の真正面で打球するのだが、上手な人は身体の真正面ではなく、やや右(つまり後ろ)で打球しているのだ。言葉では説明しにくいが、ギリギリ、ボディーハイドサービスにならないような、身体がインパクトを隠すような位置で、低い打点・やや後方から打っている。私も真似して後ろのほうから打ってみたのだが、速くて切れたサービスが打てた。後ろで打つと、スナップが効果的に使え、非常に切りやすい。しかも台の端から端まで使えるので、スピードがかなり乗ったサービスが出せる。このような速いサービスは回り込みにくく、相手にバックハンドでの難しい処理を迫ることになる。
あとは相手の長いレシーブに備えて、こちらはドライブで待っていればいいのだ。ただ、レシーブにも横回転が残っているので、こちらもそれほど打ちやすくはないのだが。

もう一つはバックサイドからのYGサービスである。ティモ・ボル選手が出しているようなやつだが、このサービスは相手のバック側の深い位置に、サイドライン沿いに速いサービスが打てるというメリットがある。これも相手は無難に短く止めにくいので、打たされることになる。



上の動画の3・4球目は下回転ぽく見せているが、上回転サービスではないだろうか。そして5球目は速いロングサービス。YGサービスはバックサイドから、長短、上下回転、フォア・バックと自在にサービスが出せる(下回転とフォアサイドに出すのは難しいが)ので、サービス時に足でダンッと踏み込んで打たれると心臓に悪い。突然速い横回転サービスが迫ってくるかと思ったら、短いサービスだったり、フォア側にストレートに速いサービスがきたりする。横上だろうと思って角度を合わせると、予想以上に上回転が強くて絶好のチャンスボールを提供してしまう。どっちにくるのか、長いのか短いのか、上回転なのか下回転なのか分からない。次第に相手の「ダンッ」に苦手意識が芽生え、つい受け身になってしまう。この手のサービスに不慣れな相手には絶大な効果をもたらす。通常は速くて長いサービスをバック側に送っておき、時々短いサービスやフォア寄りのサービスをまぜると、格上が甘いレシーブを連発してくれるのだ。先日、このサービスを上手な人(高校の県大会でベスト4か8ぐらい)に試してみたのだが、全部フォアハンドで強打されて打ちぬかれてしまったorz。

「上・横回転だったら、全部打っちゃいますよ~ :-) 」
「そのサーブ出すなら、そちらのバックサイドからこちらのバックサイドのネット寄りに直線的に出されると、ちょっと打ちにくいかも」
「バックサイドに立たず、ミドルに立って、フォアに出したらどうですか?」

とのことだった。上手な人には回転がバレバレなので、絶好のチャンスボールになってしまい、要注意だ。

まとめ
ともあれ、ロングサービスからの展開はおもしろい。最近私がロングサービスを使うようになって、びっくりしたことがある。実力は以前と変わらないのに、サービスだけで格上相手に割と善戦できるようになったことである。上手になったわけではないのだが、自分が打ちに行けるボールが増えたように感じるのだ。サービスを替えただけでプレー全体が変わってくるなんておもしろい。内向的な女性が髪型やファッションを変えたら、性格まで変わってきたというのに似ている。
中級者が上級者相手に無難なショートサービスばかり出していては、ジリ貧である。ショートサービスばかり出している人は、一度ロングサービスからの展開を考えてみてはどうだろうか。

これは私の低いレベルでの話である。笑い話として読んでもらえればと思う。

できるだけ相手に的を絞らせないように今までレシーブのコースをフォアやバックにランダムに散らしていたのだが、試みにレシーブのコースを一定にしてみた。ミドルである。ランダムに長短左右いろいろなコースにレシーブしようとすると、どうしてもミスが多くなるので、安定性を最優先して、あまりあちこちに返球しないようにしたわけである。

ミドルというのは、もちろん台のミドルではなく、相手の右腰のあたり(フォアミドル)と、相手の左腰のあたり(バックミドル) のことである。

Fmiddle

回りこんでフォアを打とうとしても、ボールがバック側にえぐり込むように迫ってくる



Fmiddle

反対にバックハンドで打とうとしても、フォア側にえぐり込み、打ちにくい


ラリー中に相手が台のミドル寄りにいることもあれば、バック寄りにいることもある。相手の位置を常に確認しながら、相手のフォアミドルかバックミドルを狙って長いボールを送るのだ。ぴょんぴょんを使わず、その場にじっとして返球を待っている相手には特に効果的である。深いツッツキなどをミドルに送ると、相手がアッと気づいた時にはもう回り込めず、無理な姿勢で打球することになる。これがおもしろいように決まる。長いツッツキをドライブで仕留めてやろうと待ち構えている相手が苦しい姿勢で甘いボールを返球してくるところを今度はこっちが待ち構えていて強打。相手は私がミドルを徹底的に狙っていることに全く気づいていない。偶然、ちょっと打ちにくいところにボールが来て、振り遅れているとか、角度が合っていないとか思っている。

「ハハハッ。こっちがミドルを狙ってるなんて夢にも思ってないぞ!なんて痛快なんだ…
ハッ!」

自分も同じことをやられていた…orz。

そうなのだ。私もこういうことを上手な相手にこれまで何年もされつづけていたのだ(前記事「人には言えない秘密」)。コースを決めて3球目をドライブする練習などをして、「今日は調子がいい。ドライブがよく入る」などと思っていて、その後、対戦をすると、練習で入ったはずのドライブがちっとも決まらない。私の攻撃はほとんど封じられ、一方的に負けてしまう。

「練習の時は入るのに、どうして対戦では入らないんだろう?」

対戦相手は実は私のミドルを執拗に狙ってきていたのだ!ミドルを狙えば打ちにくいというのは、別に秘密でも何でもなく、いわば卓球の常識である。しかし、まさかそれを自分にされているとは夢にも思わなかった…。何十年も卓球をやっているのに、こんなことにも気づかなかったなんて…。

戦術というのもおこがましいほど基本的な戦術だが、私の低いレベルではこの「戦術」がかなり効果的である。では、相手にこの「戦術」をとられたら、どうしたらいいだろう?

狙う側からすると、前陣でじっとしている相手は狙いやすい。そこでぴょんぴょん小刻みにジャンプしてミドルに来たと判断したら、すぐに移動できるように心の準備をしておくことが大切である。フォアミドルに来たら、無理に回り込むよりは、バックで打ち、逆にバックミドルに打たれたら、フォアで回り込んだほうが打ちやすいかもしれない。とにかくいつも足を動かしておき、「アイドリング」しておくことが大切である。

それにしても、自分の愚かさ、無防備さに怒りがこみ上げてくるというより、呆れてはてて脱力した。基本練習ばかりでなく、実戦もちゃんとしなくちゃなぁ。

 

上級者同士の豪快なドライブの打ち合いには憧れる。
自分もいつかは台から2メートルぐらい離れて連続ドライブを決めてみたい。

hikiai

そんなふうに中陣からの連続ドライブを安定させるにはどんな練習をすればいいのだろうか。上手な人に相談してみたところ

「そんな練習するより、フリックとか、流し打ちの練習でもしぃな。下がってドライブなんか打つより、台上でストップしたり、フリックしたほうが勝てるんや。」

つまり、こういうことである。
xuxinchinasuperleaguer10
打点の遅い中陣からのドライブ強打と

stop
打点の早いストップ

banetto070303ohya
あるいはストップと見せかけて、ひょいとフリックするのと

どちらが効果的かということである。

ドライブの威力がどのぐらいか、あるいは相手がフリックを警戒しているかどうか、相手のレベルはどのぐらいか等、いろいろな条件があるので一概には言えないのだが、我々市民大会レベルのプレーヤーだったら、早い打点でストップやフリックをミスなく深浅自在に打てたほうが効果があるというのである。

しかし、流し打ちとか、フリックみたいな中途半端なボール、相手にしてみれば狙い目なんじゃないだろうか。そんなに速いボールでもないし、回転もそんなにかかっていないし。

「それがな、ラリーが上手な奴は、ラリーの練習ばっかしとるさかい、案外、台上でのフリックなんかを嫌がる奴が多いんや。下手にこっちがそこそこのドライブなんか打ったら、下がって強烈なドライブを打ち返しよるけど、こっちがストップに見せかけたフリックなんかで、先手を取ると、とたんにアタフタして、リズムが狂うんや。」

xu01

「フリックかてライジングで打たれたら、あっという間に自分の懐まで入ってしまうもんやで。ドライブとは違う意味で早いんや。」

「それに試合中の半分はレシーブがあるんや。中後陣からのドライブを連打するチャンスなんて1試合に何回めぐってくる?
試合で大切なのは、1にサービス、2にレシーブ、3にバックハンドや。これがキチッとできれば勝てるんや!

それと、レシーブはツッツキなんか打たんでいいで。ストップか流しか、フリックや。」


1にサービス、2にレシーブ、3にバックハンドと教えられたのだが、どうしてフォアハンドが数のうちに入っていないのか。フォアでミスをしたら、そちらばかり狙われてしまうではないか。あるいはフォアハンドはできて当たり前ということなのだろうか。ツッツキも速くて低い攻撃的なツッツキなら打たれにくいのではないか…まぁ細かいことは置いておこう。
確かに試合でフリックやストップが同じ入り方で、上手に打ち分けられれば、相手にとって脅威だろう。ショートサービスを出したら、ストップで返球されるのか、あるいはフリックで深いボールが来るのか分からないとなれば、攻めづらいに違いない。前記事「練習メニューの仕分け」でも考察したが、実戦で勝つには、まずはレシーブを磨かなければならないということなのだろう。

【まとめ】
中陣からのスピードの速いドライブは派手で見栄えがするが、距離が離れているので、ラリーやブロックが上手な人にはそれほど驚異ではない。それよりもむしろ台上での素早いストップやフリックをミスなく打てる方が対戦では効果を発揮するのだという。
おそらく、こういう地味な技術がきちんとできないと、上級者にはなれないのだろう。やっぱりドライブ練習より先にレシーブ練習を念入りにしたほうがいいのかもしれない。

 

トップ選手は相手のサービスを予測したうえでレシーブするのに対し、中級者は予測ができていない選手がほとんどである。「読み」がなく、相手のサービスを見て判断して返球するだけで、その結果、返球はできてもなかなか得点に結びつかない。サービスを出す時に相手のレシーブ、自分の3球目をイメージするのと同様に、レシーブでも相手のサービスを予測したうえで、得点までのラリー展開をイメージすることが大切だ。
「トップ選手に学ぶ 脱・中級のための”勝ちテク!!” 4」『卓球王国』2015-1

耳が痛い…。私も相手のサービスをどうやって返球すればいいかだけで頭がいっぱいで、その次の展開にまでは頭が回らない。それで、サービスはなんとか返球できても、その次に返ってきた4球目であたふたしてうまく攻撃に移れないことがしょっちゅうである。
レシーブ後の4球目以降の展開までいくつかのパターンを想定しながら相手の3球目に備えることが重要だというのは分かる。しかし、上級者は、2球目の前――つまりサービスにまで頭を回しているらしい。「相手のサービスを予測」ってなんだ?ラリーなら、こちらが打ったボールに対して次を予測することもある程度可能なのかもしれないが、サービスは前の文脈がない。相手の頭の中に、次にどんなサービスを出そうかという思想がまだ固まっているかどうかも分からないのに、それを予測しろだなんて無理な話に思える。
私は目先のレシーブだけで精一杯で、いつになっても全体の展開が見えない。どうしたらいいのだろうか。

------

私は本――とりわけ物語を読むのが苦手だ(前記事「卓霊さま」)。しかし、アニメなら映像の美しさなども楽しめるので、リラックスしながらぼんやり観ることが多い。最近は制作されるアニメが多すぎて(年間に100作品以上あるらしい)、とてもすべては観られないのだが、1シーズンに1作品ぐらいは最後まで観るアニメがある。

アニメスタジオの舞台裏を舞台にした「Shirobako」は今季のアニメで出色の出来だと思う。観る側からすると、大量生産されるアニメに対して「しょーもない駄作ばかりだ」とか、勝手な批評をしてしまうのだが、作っている側にしてみれば、予算やスケジュール、仕事上の人間関係等の都合で、どうしても妥協しなければならない場面が訪れる。どんな「しょーもない」作品にも、多くの人の思いがこもっている。そこには数々のドラマがある。

新人アニメーターの安原絵麻は丁寧に描くことと、早く描くことの両立に悩んでいた。

dougu

丁寧に描いているだけでは行き詰まると考え、早く描こうとするあまり、今までの丁寧さを犠牲にしてしまい、作画監督から、ダメ出しを食らってしまう。

chigai
きっともう少ししたら安原さんもふつうにできるようになることなんだよ、
自分のあとの工程を考えて描くなんてことは。 


自分の仕事を否定されたエマは深刻な行き詰まりに陥る。
7c9d2090-s

そこを先輩の井口がフォローする。
copy
新人は先輩が描いた動きのパターンをつかんで、マネする。
自分なりの表現ってのはそれから。


wikipediaによると、設定では安原絵麻は動画担当を1年半務めて原画担当に昇格したばかりということである。アニメーターは動画から始めて1~3年で原画に昇格するらしい(「原画マンへの昇格」)。絵麻が「自分のあとの工程を考えて描く」ことができないのは、ひとえに動画担当の経験が乏しかったからなのではないだろうか。

原画というのはいわばマンガのコマに相当し、コマとコマの間をつなげてキャラクターを動かすのが動画である。原画の描いた絵に基いて動画が動きをつける。そういう工程にあって、絵麻は動画の人が動きをつけにくい雑な原画を描いてしまったため、作画監督からダメ出しをされてしまったのだ。絵麻は動画の人が喜ぶことや嫌がることがよく分かっていないのではないか。もっと動画担当としての経験が豊富だったならば、原画になってからも、どこで手が抜けるか、どこは譲れないかの判断がついたのだと思われる。

下積みの経験の乏しい二代目社長とか、英語学習の経験のないネイティブ英語教師が、平社員や学習者にムチャなノルマを課したりする場合があるのは、相手の気持ちがよく分からないからだと思われる。

仕事は自分一人ではなく、相手がいる場合が多いから、どうしても相手の気持ちがわからないと、周りから不満が出てうまく回らないものである。

卓球も相手がいるスポーツである。そうすると、相手の気持ちがどうなのかを推量できなければ、試合でうまくプレーできないだろう。私が予測ができないというのは、つまり相手の気持ちがわからないということである。相手の気持ちがわからないというのは、私が確固たる攻めのパターンを持っておらず、サービスを出した後、相手のレシーブを見て、行き当たりばったりに3球目攻撃をしているということに起因している。もし私が自分のサービスから3球目へどうつなげるかというパターンをいくつか持っていれば、その同じ思考を相手のサービスからの3球目にも重ねることができる。

「相手はフォア前のショートサービスから、フリックでこちらのバック側を狙い、そこから大きなラリーにつなげていくという展開を狙っているのではないか」

のように自分に確固たる攻めのパターンがあれば、自分が好きな展開を相手にも重ねることができる。自分がやりたいことは相手もやりたがっている。自分がやられたくないことは、相手もやられたくない。対人スポーツである以上、相手の気持ちを読むということが試合を有利に運ぶのに大きく影響する。予測というのは、つまりこういうことなのではないか。

私は予測というのを物理的に考えすぎていた。いわば「人間不在の予測」である。
サービスのコース
上の図のように自分のバッククロスに来たサービスはどうしてもストレートには打ちにくい。そこで返球は同じくバッククロスになりがちだ、といった物理的な打ちやすさ、打ちにくさから「予測」というものを考えようとしていたが、おそらく上級者の予測というのは、もっと心理的なものなのだろう。

「相手は台の中央寄りで待っているから、おそらくバックハンドからの攻撃が得意で、そこから攻撃の糸口をつかもうとしているのだろう。となると、次のサービスは…」

のように相手の心理状態を推し量ることから次の展開が予測できるのではないだろうか。

【まとめ】
中級者が上手に予測できないというのは、そもそも自分が確固たる攻撃パターンをもっておらず、相手がどう攻めようとしているか想像できないからだと思われる。とすると、予測の第一歩は、まず自分の攻撃パターンを確立し、そこから相手の心理をうかがうことにあるのではないだろうか。
また、自分と異なる戦型を自分で試してみることによって、粒高やカットマンが好きな展開、嫌いな展開が分かり、予測もやりやすくなるのかもしれない。

予測なんて私には無理だと諦めていたが、このように手順を踏んで相手の心理が推量できるようになったら、私もいつか予測が「ふつうにできるようになる」のではないか。

フォアハンドフリックというのは、なんだかあまり強そうじゃない。

flick

バックハンドのように回転もかからないし、スピードも遅い。そんなボール、ちっとも怖くない。
しかし、先日、練習していた時、相手に台上でフォアフリックをされて、とれなかった。そのフォアフリックは高くてスピードも遅く、 なんてことないボールに思えたのだが、完全に死角に入ってきて、対応できなかった。フォアフリックというのは、スピードがなくても狙い所がよければかなり効果があるのかもしれない。

というか、そもそも相手に打たれて返球しにくいところというのはどこなのか。私はぼんやりとしか意識していないと思う。フォアミドルが打ちにくいというのは知られているが、他にも打ちにくいところはあるのだろうか。そんなことを考えてみた。

仮に台の中央に前陣で立ったとすると、打球出来る範囲はどうなるか。

hanni00図1


赤い弧線がフォアアンド、紫の弧線がバックハンドの打球できる範囲だと考えてほしい。
しかしフォアハンドとバックハンドは同じ範囲をカバーしているわけではないので、打球範囲は図1のように左右対称にはならない。フォアハンドのほうがカバーできる範囲が広く、バックハンドのそれは狭い。

右利きのペンホルダー(裏面あり)ならどうなるだろうか。自分で実際に打ちやすいところ、打ちにくいところを調べてみた。下回転ではなく、順回転のロングボールを打つと想定して確認してみたところ、私なら以下のようになりそうだ(図2)。

hanni01図2

台の左寄りの前陣に立って台の対角線上を向くと、フォアミドル(A)に死角ができる。それからバックミドル(B)、そしてバックサイドを切るボール(C)。私が先日の練習でフォアフリックを打たれたのは、BやCのコースだった。これが非常に打ちにくい。私の構え方・向きでは、バックハンドは台に対して垂直の角度までしかカバーできない。
Aの死角を狙うとすると、台の深く、右の矢印の先端あたりにバウンドさせればいいだろう。そこから打球に適した高さまで上がってくると、ちょうどAの死角を突くことができる。中の矢印の先端でバウンドさせると、ちょうど打ちごろの高さになるのがBである。中の矢印よりもさらにバック寄りに打てばCの死角を狙える。今の私の構えでは、自分のバック側に広い死角ができている。

hanni02図3

もう少しバック寄りで構えてみたらどうだろうか。
上の図3ではBの死角がなくなる。もしBのバックミドルを狙おうとすれば、台の外でバウンドさせなければならない。つまり不可能である。そしてCの死角も、半歩動けば手が届く距離になる(というか、自分が左寄りに構えると、Cを狙うのが非常に困難)。その代わり、フォア側が大きく空き、Dの死角ができることになる。

図2と図3を比べると、図3のほうが死角が減りそうだ。というのは、相手にとってバック側からこちらのフォア側、すなわちストレートのDに打つのは難しいから、Dにボールは集まりにくい。そして右利きの私にとって、フォア側である右方向には動きやすいが、バック側の左方向には動きにくいからだ。

【まとめ】
自分が基本的に構えている位置にはどこに死角ができるのか。ぼんやりとは分かっていたのだが、それを視覚化してみるとことで、どのへんに構えれば、どのへんに死角ができるかがよく分かった。また、相手の戦型や利き腕によって、待ち構える位置を変えれば、死角が減らせるかもしれない。
なお、上の図はあくまでもペン両面の私の戦型がカバーする範囲なので、シェークのプレーヤーならAのフォアミドルがもっと大きく狙われやすくなるだろうし、Cは若干狭くなるかもしれない。

この材料から、もっといろいろ考えれば、おもしろいことが分かるかもしれないが、今回は図を描くのに手間がかかってしまい、気力が尽きてしまった。ここまでとしたい。
 

前記事「死角が減らせるかも」で自分の死角がどこにあるかを可視化してみた。

hanni01 図2 バック寄りに構えた場合



hanni02図3 バック深くに構えた場合

その結果、斜めを向いて構えている場合、図2では台からこんなに左に寄っているのにバック側には広大な死角が広がっていたことがわかった。前陣で斜めを向いて構えるなら、図3のようにバック深くに構えたほうがよさそうだ。

さらに相手の向きや、台からの距離によってボールの捕捉範囲が大きく異なってくることも分かった。
たとえば台を正面にして構えていたら、Cの死角は小さくなるが、Aの死角が狙いやすくなり、フォア側も大きく空く。Aの面積自体が大きくなるわけではないが、正面を向くとAが台に近づく。それことによって、それほど深くないボールでもAに飛び込んでいくことになる。

hanni03
図4 正面を向いて構えた場合


一方、台から離れていれば、AやBが狙いにくくなるものの、Cやフォアが大きく空くことになる。さらにネット際にも新たに死角Eが生まれることになる。

hanni04図5 台から離れている場合


おそらく上手な人はラリー中に相手の向きや台との距離をよく観察していて、瞬時に狙うべきコースを変えているのだろう。

下の写真は先日のクウェートオープン決勝の一コマ。

どっち?00
スマッシュを打つ、ギリギリまでどちらに来るか分からない。

どっち?01
右側(許選手のフォア側)だった


 この動画の最後のラリーより。


これを対戦相手にも適用すると、相手の死角がよくわかり、より厳しいコースが狙えるようになるだろう。
今まではぼんやりとフォアミドルを狙っていた(前記事「レシーブで狙う場所」)が、これからは相手の前方に赤と紫の捕捉範囲をイメージして、そこを避けるようにボールを送れば、相手に一発で抜かれる可能性が低くなりそうだ。

最近、『卓球王国』を読まなくなった。
吉田海偉選手の「鬼のペンドラ」の連載も終わってしまったし、「4球目の極意」 も「練習革命」も終わってしまった。
新連載は私の興味をあまり引かない。

そんな中で「初心者のためのゲーム分析ABC」という新連載が10月号から始まった。わずか1ページの軽いものだが、 今までにないテーマを扱った連載で期待が持てる。

「初心者のためのゲーム分析ABC」は戦術の練り方を指南してくれるユニークな連載である。
卓球をやっていると、いろいろな場面で戦術という言葉に出会う(前記事「「戦術」の意味」)。しかも上のレベルになればなるほど戦術というのが試合の結果を左右するらしい。 が、それをどうやって鍛錬すればいいのかさっぱり分からない。戦術を考える手掛かりがあれば…という初中級者にうってつけの連載だ。


第一回にはこんなことが書いてあった。

基本戦術というのは、いわゆる「サービスからの3球目攻撃」、「レシーブからの4球目攻撃」などのことで、【中略】…というように具体的な得点パターンを用意しておくのです。そして、ゲーム分析は「自分の基本戦術でうまく得点できているかどうかチェックする」ことから始まるのです。

自分がどう戦いたいのか明確にになっていない状況ではそもそも分析のしようがありません。

そう言われると…私には「どう戦いたいか」という基本戦術がない。どこにレシーブを集めたいかという狙いもない。典型的な行き当たりばったりの卓球なのだ。これではいけない。そもそも私の卓球とはなんだろうか?

私のやりたい卓球は、威力はそれほどなくてもいいから、安定してミスなく攻撃できる卓球である。ペンホルダーなので、どちらかというとフォアハンドを気持ちよく振りたい。

そしてゲームのときに実際にどんなパターンで得点・失点しているかを数えてみたところ、衝撃の事実が分かった。私が気持よくフォアで攻撃して得点したのは、5ゲームマッチのうち、なんと2本だったのだ。というか、フォアに打ちごろのボールはほとんど来ないことが分かった。たいていはバック側を狙われるのである。そしてどのようなパターンで得点しているかを考察してみたところ、

・こちらのサービスに対する相手のミス
・こちらのツッツキに対する相手のミス
・こちらのバックハンドドライブ

というのが大きな得点源ということが分かった。私のフォアドライブの練習はこの試合では意味がなかったということになる。おそらく、レシーブやバックハンドでチャンスを作った上でないとフォアドライブを使うチャンスが訪れないのだろう。

こういう現実に目を背けているから、ちっとも上達しないんだろうなぁ。戦術云々の前に、まず己を知らなければ。
そういえば、以前xia氏のブログにも同じようなこと(得失点の原因をカウント)が書いてあった。

科学というものが、

分析 → 考察 → 仮説 → 実験(検証) → 総合

の順に進むとするならば、その最も初歩の分析がおろそかになっていては一歩も前に進めない。数を数えるという地道な作業をすっとばして、考察や仮説に進むというのでは本末転倒だ。単純にカウントすることが上達に与える影響は大きいと信じている(前記事「卓球のスコア分析」)。

【補記】
卓レポアーカイブに「三十六計と卓球」という荘則棟氏の連載が公開されている。兵法三十六計の故事を引用し、卓球に引きつけて論じたものである。
36kei-34-01

兵法三十六計というのを10計ほど読んでみたのだが、どれも相手を騙し、いかに意表を突くかという教えのようだ。個人的にはこのように裏をかくことばかりに意識が行っていると、逆に墓穴を掘るような気もする。荘氏はこの三十六計を卓球に置き換えて解説しているのだが、良くも悪くも古典――自分の経験によっては意味を見いだせるかもしれないが、一般的な人生訓のようなものばかりなので、私にはそれほど役に立たなかった。しかし、それでも心に残る言葉はいくつかあった。

・計略の秘密は、これらすでに公にされた物事の中に潜められており、公にされている事柄と相排斥するものではない。 したがって最も公にされている物事の中に、往々にして大変な機密的目的が隠されている。

・ぐしゃぐしゃに絡みついた紐を解く時、強引かつ盲目的に引っ張ることは禁物である。【中略】敵軍の優勢なところを避け、敵の最も弱い部分を打てば、【中略】自然と包囲網を解くのである。

読み物としてはおもしろいかもしれない。



 

卓球におけるサービスの重要性は誰もが認めるところである。
相手のサービスが嫌なところに来ると、こちらは自信をもってレシーブできず、どうしても先手を取られてしまうことになる。

しかし、いくらいいサービスでも、1ゲーム、2ゲームとゲームを重ねるうちにどうしても相手に慣れられてしまい、サービスが効かなくなる。だから私はいろいろな種類のサービスを用意しておき、相手に慣れられたら、新しいサービスを投入するという試合運びだったのだが、最近、それではいけないと思い知らされる出来事があった。

img_news
サービスといえば、福岡春菜選手。

先日、試合に出たら、ちっとも勝てなかった。
自分より明らかに格上だったら悔しくもないが、私がストレートで負けた相手は、自分と同等、あるいは格上だとしても、決して手の届かない相手ではなかったので、なんとも割り切れない気持ちになった。

自分では気づかない欠点もあろうかと、対戦後にコメントを求めてみた。そこで言われたのは全体的にボールが甘いし、甘いボールを見逃しているといったことだった。練習のときは思い切ったプレーで鋭いボールが打てるときもあるのだが、試合になると消極的になってしまい、打てるボールもつないでしまう…。私だけではない。試合で多くの初中級者がこのような印象を持つものだ。

「練習でできることが試合では全くできない」。

私も過去の記事で同じようなことを何度も述べてきた。しかし、考えるだけで解決策に着手しようとはしないのだ。どうやったら練習でできることが試合でもできるようになるのか。自明のことである。相手の出方を予測して、待っていればいいのだ。そんなことは初中級者には無理だと思うかもしれないが、条件を整えれば決して無理なことではないのだ。

台からそこそこ出る下回転サービスをフォア側に出したら、相手がどのような出方をするのか予測しにくい。

・クロスにドライブで打ち抜いてくる
・ストレートにドライブで打ち抜いてくる
・ミドルに打ち抜いてくる。
・打点の早いツッツキ
・深く切ったツッツキ
・ストップ
・フリック
     等等。

台から出るサービスを相手のフォア側に送ったら、相手はやりたい放題である。だから普通の人は相手にやりたい放題されにくいサービスを出す。もちろん私もその例に漏れない。例えば

・相手のフォア前に巻き込みショートサービス。
・相手のバック前に下回転ショートサービス。

だが、ショートサービスばかりだと待たれてしまうので、意表をついて
 
・巻き込みの体勢から、相手のフォアへストレートに速いナックルサービス 
・下回転ショートサービスと同じモーションで相手のバック深くへ横回転ロングサービス


などを出すのだが、私の卓球は行き当たりばったりなので、次のことをほとんど考えていない。
「ショートサービス(ロングサービス)だから、台から近く(遠く)で待っておこう」 
程度のことしか考えていないのだ。
それで例えばミドルあたりに短く返球されるかな?などと待っているとサイドを切るクロスや深いフリックなんかが返って来て、面食らってアタフタしてしまうわけだ。これではいつになってもこちらから先手を取れない。

どうすればいいのか?
答えは分かっている。

いろいろなサービスを行き当たりばったりに出すのではなく、例えばフォア前のショートサービスとバック深くのロングサービスという2種類のサービスに絞って、相手の出方を徹底的に探るのがいいに決まっている。

フォア前に下回転ショートサービスを出した場合、
こちらのミドルに短く返球されること(A)が多い。
しかし、相手によってはこちらのバック深くに流してくる(あるいはフリック)場合(B)もあるだろう。
そしてこちらのフォアサイドを切るツッツキ(C)を打ってくる場合もあるかもしれない。

優先順位からすると、ミドルへのストップかツッツキだろう。そこで(A)で60%ぐらい待っていて、バックハンドのフリックで相手のバック深くを狙う。これがデフォルトで、次にこちらのバック深くへの流しやフリック(B)を20%ぐらい警戒する。もし(B)が来たら――相手の様子をよく観察して、バック側に打ってくると判断したら、すぐに下がってバックハンドドライブでバック深く、あるいはフォアへストレートに打つ。この判断が早ければ早いほどこちらが先手を取れることになる。(C)も同様に警戒し、相手の動きを察知したら、すぐにフォアで相手のミドルを狙うことにしよう。

このようにおおまかにサービスと3球目をパターン化し、さらに検証を重ねてその他の返球にも対応できるようフィードバックし、パターンをより精緻なものとしていく。こういう作業を今まで怠っていたから私は試合で実力が発揮できなかったのだろう。私は新しいサービスにいろいろ取り組んでみるのが好きなので、次から次へといろいろなサービスを試してみる。しかし、サービスの種類が多ければ多いほど、相手のレシーブへの対応が複雑になり、収拾がつかなくなる。サービスというのは1発で得点できたり、甘いレシーブを引き出したりできる威力を持つ代わりに、相手の返球に予測をもってしっかり対応しようと思うと、パターン化のために相当な練習量を要求されるという、いわば諸刃の剣だったのだということを身をもって実感した。

サービスと3球目との連繋を確実にできれば普段の練習のようなプレーが試合でも発揮できるはずである。しかし試合で6種類も8種類もサービスを使ってしまうと、サービスと3球目との連携がしっかりできず、私のように行き当たりばったりでプレーして試合での主導権をちっとも握れないまま、相手にやりたい放題されてしまうことになる。試合でのサービスは、私のレベルなら2種類(ショートサービスとロングサービス)ぐらいに絞って、3球目との連携を確実にしたほうがいいのだ。

【付記】
今日は祇園祭のやまほこ巡行。京都の町なかは人であふれている。 
それはそうと、このブログの管理ページをみると、この記事が記念すべき500本目ということである。
これからも、頻繁には更新できないが、地道に息長く書き続けていきたいと思う。

【追記】160729
興味深い動画を見つけたので紹介したい。

シャーロックホームズは、殺人現場で見たことや関係者の話を非常に細かく記憶している。被害者の爪はギザギザだった、先のとがった革靴を履いていた…【中略】そういうことが犯人を見極める重要な手がかりになることが後でわかる。相棒のワトソンは、同じ場所にいて同じように目撃者や事件に関係する人たちの話を聞いているのに、そういうことはまったく覚えていない。(今井むつみ『学びとは何か』)

相手が横回転ロングサーブを多用してくる人で、次もロングサーブかなとバック側を警戒していたら、案の定、バック側に横回転ロングサーブが。チャンス!とばかりに回り込んでフォアドライブ一閃…と思いきや、なんと台の角でギリギリ2バウンド!

みなさんもこんな経験がないだろうか。

相手の待ちを外すこと。あるいは相手を上手に欺くこと。こういうのも戦術と言えるだろう。ただ、こういう「戦術」に相手は何度も引っかかってくれるわけではない。「次もハーフロングサーブが来るかもしれない」など警戒して効かなくなるはずである。このような「戦術」を一発戦術と呼ぶことにしよう。

このような一発戦術を1~2度使って通用しなくなったら、今度は相手をよく観察して相手の癖や弱点を見極めてそこを突くという「勝義の戦術」を使わなければならない(前記事「「戦術」の意味」)。だが、私にはそれができない。

私はチームメイトが試合をしているとき、相手の出方をじっと観察し、ゲーム間の休憩の時に何か有益なアドバイスでもしたいと思うのだが、いつも何も思い浮かばない。目にした情報はすべて私を素通りしていく。一方、上手な人は同じ試合を見ていても、相手のいろいろな癖や相手の狙いなどを的確に把握し、いいアドバイスができる。

同じ試合を見ているにもかかわず、私は有益な情報が何も得られず、上級者はいくつもの疑問点を探し出してくる。まるでワトソンとホームズのようである。私の観察力や集中力に問題があるのだろうか?

だが、上述の今井氏の著作を読んで、私が何も見つけられなかったのは当然だと分かった。

_SX309_BO1,204,203,200_

氏は著作の中で将棋の名人がどのようにして短時間で最善手にたどり着くかを解説している。ざっくり言うと、それは過去の経験によるものだという。棋士はそれまでに数千、数万という似たような盤面からの展開を記憶しており、その記憶のデータベースの中から、目の前の展開に近いものを選び出し、次の相手の手を予測し、対戦を有利に進めていくのだという。

上級者は私のように必死に観察して考えずとも、相手のプレーを少し見ただけでそのプレーに違和感を感じ、そこを突くことができるのだろう。これはおそらく過去の経験によるところが大きいと思われる。上級者は過去の同じような展開から、戦術をどう変えて有利になり、あるいは不利になったかという数え切れない対戦の経験を長期記憶に貯蔵してあり、必要に応じてそれを取り出すことができるのだ。試合経験の少ない私がいくら目を皿のようにして見ても、下手な考えをめぐらしてみても、相手の弱点など見えてくるはずがない。

これは読書にも言えることだ。若いころ、私は本を読んでもあまり理解できていなかったと思う。字面の意味を理解して、理解したつもりになっていたが、今から考えると、筆者が何を問題にしていて、どういう論理で主張を展開しているかなどさっぱり理解していなかったと思う。中年になった今では字面の意味を追いながら、同時にメタ思考で筆者がどういう論理を展開しようとしているかが予測できるようになってきたと思う。それで文章を読むと、必死に考えなくても自然にいろいろ疑問が浮かんでくることが多い。

たしかに試合で相手の弱点が分からない、戦術が練れないという試合経験の乏しい人でも、必死で頭を使って考えれば、偶然何かいいアイディアが浮かんでくることもあるかもしれない。しかし、それは偶然の可能性が高いと思われる。考える材料がないのに考えることなどそうそうできない。社会経験の乏しい大学生が社会問題について議論しようとしても実りの多い議論は期待できない。それと同じことだ。いくら考えても相手の弱点が分からないからといって心配することはない。試合経験が少なければ、当然のことなのだ。私もいずれ経験豊富になれば自然と相手の弱点が見えるようになるはずだ。

というわけで戦術を練りたいなら、いろいろな相手とたくさん試合をして、経験値を高めるのが一番の近道なのではないだろうか。


上手な人と練習するときは、1球でも多く打ちたいと思うあまり、ボールを手にするそばからサーブを出してしまう。ゲーム練習のときも、気がせいて、ついサッサとサーブを出していると、

「サーブを早く出しすぎや。サーブを出すときはちゃんと静止せなあかんで」

もう、ルール違反の域に達してしまっている。

サービスを出す時は、フリーハンド(ラケットを握っていないほうの手)の「手のひら」の上にボールを置き、いったん静止させます。卓球王国WEB 卓球初心者ナビ」より

練習の時は何も考えないで、適当にサーブを出してしまうが、試合の時はさすがにちょっと考えてからサーブを出すようにしている。

「さっきはフォア前にサーブを出したから、次は…バック深くにロングサーブ、というのは分かりやすすぎるかな。じゃあ、ちょっとひとひねりして、相手のフォアミドルにロングサーブを出してみよう。」

こんなことを考えてからサーブを出すのだが、それでも「よく考えてからサーブを出せ」と言われることがあるので、一般的な人に比べて試合でもサーブを出すのが早いほうなのだろうと思う。だから私は丹羽選手が恬淡とサーブを出す気持ちがよく分かる。考えたからといって相手の意表を突くサーブを出せるとは限らないし、私がじっと考えている間、相手だって考えることができるのだから、サーブの前にじっくり考えることにそれほどメリットがあるとは思えない。

サーブを出す時にじっくり考えてから出す人の気が知れない。あれは相手をじらすという効果を狙っているのだろうか。

miu service
以前、平野美宇選手がサーブの時に時間をとりすぎて審判に注意されたことがあった。

サーブを出す前に頭の中で3球目攻撃をイメージしてからサーブを出すようにすれば、実際に頭で思ったことが現実になった時のミスは大きく軽減できると思います。

あっそういうことだったのか。サーブを出す前にどんな展開になるか頭の中でシミュレートしているというわけか。

「こちらが低い、下回転のショートサーブをフォア前に出したら、どんなレシーブが返ってくるか。一発で抜かれることはないだろう。相手は慎重なタイプだから、フリックではなく、ツッツキかストップにちがいない。ツッツキだったら…そうだなぁ、今までのレシーブの傾向からこちらのフォアサイドを切ってきそうだ。ではストップだったら?こちらのバック前かミドルあたりだろうなぁ。フォアサイドへのツッツキだったら、待ち構えて相手のバック側へドライブしてやろう。ストップだったら、相手のバック深くにつっついてやろう。まとめると、

フォアサイドを切るツッツキなら、ストレートにドライブで対応
ストップならバック奥へツッツキで対応

これで準備は万全だ!」

なんという情報量。さらに5球目や7球目までシミュレートする人もいるかもしれない。

そうか、上手な人はサーブを出す前にこんなふうにあり得る展開を頭の中でリハーサルしていたのか。こんなことをサーブのたびにやっていたら、時間がかかるわけだ。
もしリハーサルどおりに相手がレシーブしてきたら、こちらの対応は無駄なく、流れるように進むはずである。必然的にミスも減る。そうではなく、私のようにサーブを出す場所しか考えていないとしたら、レシーブが返ってきたとき、その場で対応を考えなければならないので、時間をロスしてミスしてしまう。私の3球目の成功率が低いのはこれのせいかもしれない。

卓球は頭を使うスポーツだなどと言われるが、ラリー中に頭を使う余裕はあまりない。最も頭が使えるのがサービスを出すときだろう。私もこれからはサーブの前にリハーサルをしてからサーブを出すことにしようと思う。


私は試合では気の向くままに多様なサーブを出すので、試合が終わった後、何も残らない。
しかし、解説付きの試合動画などをみていると、どうやら他の人は違うらしい。

「何も残らない」というのは、戦術的な反省点が出てこないということである。

「ミドル前に下回転ショートサーブを出すと、相手はフォアハンドでこちらのミドル前にストップするか、こちらのバック奥に深く流してくる。バック奥を警戒しながら、ストップを狙って深くつっつけば、優位に立てたのに…」

のような反省点が出てこず、ただ「負けて残念!」としか思えないのである。

1球ごとにサーブをあれこれ変えるのではなく、腰を据えて一つのサーブを出し続ければ、相手の返球パターンが見えてきて、こちらも試合中に対策を講じることができるに違いない。

とりあえず、王道のサーブといえば、バック前に下系のショートサーブである。これを軸にして、どんな得点パターンが作れるか、研究してみよう。
-----------
現在開催中のWTTドーハ大会。
床のマットも黒で、卓球台の色もガンメタルでかっこいい。Tリーグで一般的なレジュブルーの台は色が明るすぎてディスプレーによってはボールが全然見えないので、この黒い卓球台が日本でも普及してほしいものだ。

今大会で私が日本選手とともに注目しているのがドイツのチウ・ダン選手。
qiu dan

ここ1~2年でメキメキと実力を上げているペンホルダーである。
彼の試合を見ていると、驚くぐらいサービスを変えないのである。しかも出す場所はほぼすべてバック側。基本的にショートサーブである。
ということは、チウ選手の試合を見れば、自分でバック前ショートサーブを出したときの相手のレシーブの反応をイメージすることができるのではないか(プロと、草卓球では全くレベルが違うが、参考程度にはなるだろう)

バック前サーブ
チウ選手のサーブが相手コートにバウンドする寸前の一コマ。戻りがほぼ完了している。
https://youtu.be/vH3blQF-Si8?t=4335


具体的に下の動画でどんなサーブとレシーブになるか数えてみよう。数えるのは研究の第一歩である。
https://www.youtube.com/watch?v=67F2I61bDjg
Qiu Dang vs Thiago Monteiro | WTT Star Contender Doha 2021 | Men's Singles | QUAL Highlights

全4ゲームのチウ選手のサーブの配球は以下のとおりである。
A)バックにショートサーブ:12
B)ミドルにショートサーブ:14
C)バックにハーフロング:9
D)バックにロングサーブ:1

横からの視点なのでバックへのショートサーブとミドルへのショートサーブというのは判別しにくい。またハーフロングかショートサーブかというのも判別しにくい。おおざっぱな分類だと考えてほしい。

バックにショートサーブばかりかと思っていたのだが、実際に数えてみると、バック寄りのミドルへのショートサーブのほうが多かった。このミドルへのショートサーブについてだが、センターラインをフォア側に越えたのは数本で、ほとんどすべてのサーブがセンターラインのバック側である。大雑把にまとめると、長短はあるものの、チウ選手のサーブはほとんどが相手のバック半面へのサーブである。

それに対するモンテイロ選手のレシーブは以下のとおりである。上の数字と数が合わないのはご愛敬(1回目と2回目の集計で分類の基準が変わったか)
A)バックへのショートサーブに対するレシーブ
→バックへツッツキ:2
バックへストップ:5
ミドルへストップ:2
→ミドルへツッツキ:1
フォアへストップ:3

B)ミドルへのショートサーブに対するレシーブ
→バックへツッツキ:3
→ミドルへツッツキ:1
ミドルへストップ:3
→フォアへフリック:1
フォアへストップ:5

C)バックへのハーフロングサーブに対するレシーブ
バックへドライブ強打:3
バックへフリック:2
→バックへツッツキ:1
ミドルへフリック:2
→フォアにツッツキ:1
→フォアにストップ:1

D)バックへのロングサーブに対するレシーブ
→バックへドライブ強打:1

まず、A)とB)のショートサーブで考えてみよう。
ショートサーブに対してモンテイロ選手はチキータやフリックをほとんど使わなかった。どういう理由か分からないが、仮に下回転がブチ切れだったということにしておこう。

A)とB)に対して最も多かったレシーブはA)のバックへのストップと、B)のフォアへのストップである(ここで「ストップ」というのは、台から出さないように打ったという意味で、結果として台から出てしまったものも含む)。次がA)のフォアへのストップ、B)のミドルへのストップとバックへのツッツキである。

このことから、バック辺りに下系ショートサーブを出したとき、まず警戒すべきはストップだということが分かる。バックからフォアまで幅広くストップされる。回数にして18回/26回(約69%)。ツッツキは7回/26回(約27%)。ストップとツッツキを7対3ぐらいの割合で待っておけばいいだろう。

次にC)のハーフロングサーブに対するレシーブである。
これはバックハンドドライブやバックフリックなどである程度強打される可能性が高い。ツッツキも少しは警戒したほうがいい。コースはバックやミドルで待つのが無難である。逆にストップは1回のみなので、待ちから外していいだろう。

最後にD)のロングサーブは自分のバック側への強打を待っておけばいいだろう。

このような待ちはレベルの低い、愛好家レベルの試合でも通用するだろうか。ストップとツッツキの割合が変わるかもしれないが、基本的に通用しそうに感じる。

バック側への下回転ショートサーブを出したあと、前陣でストップを待っておき、返球が低く、短いストップなら深いツッツキで、高く、甘いストップならフリックで返球する準備をしておけばよい。
モンテイロ選手とは違い、ストップよりもツッツキを多用する人との対戦なら、ドライブでコースを突く準備をしておけばよい。

やや長いハーフロングサーブを出す場合は、相手に軽く打たせてから、カウンター、あるいはブロックでコースを突くという心構えでいたらよさそうだ。

それ以前に相手がフリックやチキータをしたくならないような低くて切れた下系サーブを身につけることが先決なのは言うまでもない。

【付記】
2011年3月11日のあの日から、もう10年が経とうとしている。
まだ4万人以上もいる避難者のみなさんの健康と心の平安をお祈りいたします。


このページのトップヘ