韓国オープン2012を見て驚いた。あのオジサンがまたやってくれた!中国勢が参加している試合でスウェーデンのパーソンがベスト8まで進出したのだ。準々決勝で張継科に敗れたが、それでも2セットとっている。バックハンドの打ち合いではバックハンドの名手、張にも負けていなかったように見えた。日本人の生きのいい若い選手でも今の張継科から2セットとるのは難しいのではないだろうか。パーソンは1966年生まれだから、今年46歳である。2008年の北京オリンピック4位のときもビックリしたが、今回もまたビックリである。

persson



世界チャンピオンになることはもちろんすごいことである。しかしそれは若い時の勢いで思わずなれてしまうこともある。ベンクソンがわずか19歳で世界王者になってしまったのはそんな勢いに乗れたからだろう。
それに比べると、20年以上も国の代表として国際試合でプレイし、あまつさえ世界のトップレベルといい試合ができるというのは地味だが、実際ははるかに難しい偉業なのではないだろうか。パーソンは下のITTFのデータによると1985年のジュニアの試合が国際大会デビューだから、約27年国際大会でプレイしていることになる。
http://www.ittf.com/ittf_stats/All_events3.asp?ID=5533
今順風満帆の張継科があと10年世界の第一線で、あるいは競争の激しい中国の代表として戦えるかどうかは疑わしい。ロンドンオリンピックで金メダルをとってしまったら、目標を見失って、人生の新たな生きがいを見つけるかもしれないし、私生活でのトラブルや身体の故障、後生の突き上げなどで埋もれてしまうかもしれない。それを考えると、この栄枯盛衰の激しい現代卓球界でパーソンが30年弱も選手生命を永らえたのは奇跡と言えるかもしれない。

そういえば卓球王国の記事で見たのだが、ベルギーのセイブは23年連続ベルギー王者だそうである。
ヨーロッパの選手は総じて選手生命が長いような気がする。日本でも斎藤清のように今でも全日本選手権に出てくる選手がいるが、ヨーロッパのベテラン選手のように国際大会に出ているわけではない。

卓球選手の選手生命はだいたいどのくらいなのだろうか。地域によって違いがあるのだろうか。以下のwikipediaに載っている卓球選手で、ITTFのデータベースで国際大会に出場していた期間を調べてみた。

http://ja.wikipedia.org/wiki/Category:%E5%90%84%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%8D%93%E7%90%83%E9%81%B8%E6%89%8B

選手生命の始まりはいつからか分からない。遅咲きの選手もいると思うので、
A生まれた年 B最後に国際試合に出た年
を調べてみた。括弧内は引退選手なら引退年齢、現役の選手なら現在の年齢である。2011年に出場が確認できた選手は、2012年も出場見込みとして扱った。

やはりパーソンは頭ひとつ抜けている。伊藤繁雄が44歳と、かなり高齢まで現役だったが、パーソンはその年齢をすでに超えて、前人未到?の領域を歩んでいる。
北欧だけが選手生命が長いのかと思ったが、中欧・南欧も息が長い選手が多い。ボル選手がそろそろ引退かと噂されるが、まだまだ若い。ぜひ次のリオデジャネイロで金メダルを目指してほしい。
コルベル選手は去年のジャパン・オープンで大いに観客を沸かせてくれたが、卓球小国チェコで一人気を吐く、元気オジサンの活躍に期待。ドイツのシュテーガーというと、すごく生意気で態度の悪い子供という印象だったが、年齢的にズュースなどよりも年上でボルと同い年だと分かって驚いた。

北ヨーロッパ
ベンクソン A52-B85(33歳)
アペルグレン A61-B96(35歳)
ワルドナー A65-B05(40歳)
パーソン A66-B12(46歳)
サムソノフ A76-B12(36歳)
スミルノフ A77-B12(35歳)
メイズ A81-B12(31歳)

中央ヨーロッパ
ガシアン A68-B04(36歳)
エロワ A69-B12(43歳)
コルベル A71-B12(41歳)
クレアンガ A72-B12(40歳)
セイブ A69-B12(43歳)
シュラーガー A72-B12(40歳)
陳衛星 A72-B12(40歳)
シュテガー A81-B12(31歳)
ボル A81-B12(31歳)
劉佳 A82-B12(30歳)

アジアの選手生命はヨーロッパに比べるとやはり短いようだ。中国のように次から次へと天才が出てくる国では王励勤のように30代半ばまでトップレベルでいるのは相当難しいのだろう。しかし王励勤にはもう一がんばりして、中国選手の選手生命は短いというイメージを変えてほしい。劉国梁はすっかりおっさんぽくなってしまったが、まだ36歳である。ちょっと引退が早すぎたのではないだろうか。もったいない。馬琳・王皓は30歳前後だがまだ十分強い。馬龍・張継科に負けずに切磋琢磨してほしい。陳チー・ハオシャイもまだまだ諦めるのは早いぞ!
韓国選手もずいぶん年齢が高い印象があるが、ユ・スンミンはまだ30歳。まだまだ若い!あと10年は韓国一を争えるはずだ。

中国・台湾
チャンポンロン A76-B12(36歳)
劉国梁 A76-01(26歳)
王励勤 A78-B12(34歳)
王楠 A76-B08(32歳)
馬琳 A80-B12(32歳)
王エツコ A80-B12(32歳)
荘智淵 A81-12(31歳)
郭炎 A82-B12(30歳)
張怡寧 A82-B09(27歳)
ハオシャイ A83-B12(29歳)
王皓 A83-B12(29歳)
陳キ A84-B12(28歳)

韓国
キムキョンア A77-B12(35歳)
呉尚垠 A77-B12(35歳)
朱世ヒョク A80-B12(32歳)
柳スンミン A82-B12(30歳)

日本選手は30歳前後で引退する選手が多いようである。
女性は出産や育児などでその時期に活動を休止、あるいは引退する選手が多いのはしかたがないが、もったいない気がする。30歳というと、能力的にも経験的にもバランスがとれて、安定して勝てる選手が多いのではないだろうか。
よく「一流選手が大学生/社会人になると、練習時間がとれなくなる」などと言われるが、もし世界のトップを目指すのなら、おかしな話である。大学生/社会人になる19~23歳という年齢は世界のトップを目指すなら、もっとも練習時間をとっていい時期だと思うからだ。経済的な問題が一番の問題だと思うが、こんな一握りの選手の育成費用なんだから、政府がしっかり援助してほしいものである。

下のデータを見ると、世界王者になり、満足して30歳前後で第一線から退いていった人もいるだろうが、そうではなく、思ったような実績を残せないまま無念のうちに第一線を退いた選手も多いように思う。

毎年、天才と呼ばれる若い選手が次々と生まれてくるが、大学生になると、適当に丸くなり、社会人になると行き詰まり、引退していくという選手が多いのではないだろうか。選手育成の難しさを痛感する。天才は放っておいても生まれてくるが、それを世界で通用する選手に育てるのはそう簡単ではないということか。張・岸川・水谷・高木和・松平・丹羽といった天才たちを30歳前後で使い捨てにしないよう、日本の指導者はヨーロッパの指導法を参考にしてはどうだろうか。
またヨーロッパにはプロリーグがあるというのが選手生命を伸ばす上で大きいのだろう。日本でもプロリーグをやってくれたら…近所で入場料1000円ぐらいなら見に行くのだが。

日本
荻村伊智朗 A32-B65(33歳)
伊藤繁雄 A45-B89(44歳)
河野満 A46-B77(31歳)
長谷川信彦 A47-B74(27歳)
高嶋規郎 A51-B83(32歳)
小野誠治 A56-B90(34歳)
渡辺武弘 A61-B92(31歳)
斎藤清 A62-B93(31歳)
星野美香 A65-B92(27歳)
松下浩二 A67-B07(40歳)
梅村礼 A76-B07(31歳)
小西杏 A80-B09(29歳)