春の新製品が発売された。
私が注目したのは、バタフライの高級ラケット 林昀儒 SUPER ZLCである。性能やデザインに惹かれたというわけではない。ついに実売3万円台のラケットも珍しくなくなってきたと感じたからなのである(下は国際卓球の価格。激安ショップなら、もっと安い)
lin yun ju ZLC

LIN YUN-JU SUPER ZLC 37,620円(税込)

この不景気にこんなに高い用具をいったい誰が買うのだろうか。別に高いラケットを買ったからって卓球が上手になるわけでもあるまいし。それほどの値打ちがあるものだろうか?
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散髪屋で髪を切ってもらいながら、店員さんの腕を見ると、スマートウォッチがはまっていた。
この手のガジェットが使い物になるのかどうか、前から気になっていたので、スマートウォッチの使い勝手などについて質問してみた。

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しろの「それ、スマートウォッチですよね。おいくらぐらいするんですか?」
店員さん「アップルウォッチなので、6万ぐらいしますね。」

し「へぇ。私のケータイ本体よりもはるかに高いですよ。それ自体でケータイとして使えるんですか?それともアイフォンがないと機能しないんですか?」
店「それ単体で電話ができるタイプもあるんですけど、もう少し高くなります。これはアイフォンが近くにないと使えませんね。」

し「もっと安いやつもありますよね。」
店「僕はアイフォンをずっと使ってるので、スマートウォッチもアップルで統一したかったんです。
毎日仕事で腕にはめて、防水もあるので、このままシャンプーもできるし、仕事の後にジムに行ってワークアウトのデータとかも記録できるし、一日中使えるんです。6万円は高いですが、毎月5000円払うと思えば、1年で元が取れますから、そんなに気になりません。」

し「平成なら、男は車とかバイクとかにお金をかけたりしましたよね。」
店「中京区(※京都市の中心部)に住んでいるので、車は必要ないですし、買って趣味で乗るとしても休日だけだから、ほとんどガレージの中に置いとくことになるので、もったいないですよ。」

し「なるほど。そう考えると、毎日使える時計なら、あまり高く感じませんね。」
店「でも、いつか100万円ぐらいのロレックスを1本買いたいと思ってるんですよ。」

し「え、時計に100万!? 商談のときとかにはめてると、見栄えが良いからですか?」
店「いえ、高級時計は値崩れしにくいので、資産にもなりますし、いつか自分の店を持ったときに自分へのご褒美として買いたいんですよ。」

し「私は4桁の値段の時計しか自分で買ったことがないですよ。」
店「そういう人生の節目に高い時計を買ったら、『あぁ、オレはがんばったな』って励みになると思うんですよ。腕にはめて仕事中に眺めたら、仕事もがんばれますし。」

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店員さんのお金のつかい方が、私と全然違うので、新鮮に感じた。
一見高い買い物も、毎日(あるいは頻繁に)使うのであれば、1回あたりの「使用料」は大したことはない。

また、店員さんの買い物についての考え方で感心したのは、ほしいものがあれば、高くても妥協しないという点である。

たとえば私がアップルウォッチがほしいと思って、アマゾンやらヨドバシやらのサイトを見れば、類似品がもっと安く売っている。性能的にアップルウォッチの80%ほどで、値段が半分だったら、私は迷わず類似品のほうを買ってしまうだろう。しかし次第に不満な点も出てきて、別の類似品に買い換えることになるだろう。もしかしたら、買い替えたものにも不満で、結局もう1台ぐらい買い換えることもありうる。結果としてアップルウォッチを3~4年使い続けるよりも割高になってしまう。

そして人生の節目に、記念として買い物をするという発想である。
私は何となくお得なものが目に入ったら買ってしまうという悪い癖を持っている。「ほしいけど、高いから買えないな」と思ってためらっているモデルがある一方で、特売品やら中古品やらで5~6千円ぐらいのラケットがあると、「ずっとほしかった」というモデルでなくてもつい買ってしまう。特に思い入れもないので、数回使ったら、別のラケットに替えてしまったりする。ずっと気になっていたラケットを買って、3~4年も使い続けるよりも、はるかにお金がかかる。

さらに買ったものが励みになるという価値観である。
自分ががんばったから買ったという大義名分があるので、なんとなく買ったものよりも思い入れも生まれるし、なによりもその時のがんばりを思い出して、「私はやりとげられる!」という自己肯定感の源泉となる。パワースポットならぬ、パワー用具である。

人が何かを買うとき、その人なりの理由がある。その理由を聞くと、その商品が不思議とかけがえのないものに思えてくる。逆に特に理由もなく、安いから買ったというだけでは、その商品の価値を高めることはできない。ラバー込みで、実売1万円台前半という標準的?な価格のラケットでも、それを買うに至ったストーリーがあれば、そのラケットは持ち主にとってかけがえのないものとなる。したがって他のラケットに目移りしなくなる。いつも他のラケットのことが気になる私のような人間は、今使っているラケットに大した価値を見出していないからだろう。

商品の値打ちというのは、まさに買う人によって決まるということを散髪屋のお兄さんから学んだ。3万円台のラケットを買う人は、きっとなんとなく買うわけではないのだろう。

ちなみにニッタクの新製品ではキョウヒョウ龍5が3万円台である。
馬龍5