最近、卓球ショップからのプロモーションのメールが頻繁に届く。大手のショップでも経営が苦しいのだろうか。

このような社会の変動にあたって、卓球ビジネスについて考えることが多くなった。別に卓球ビジネスを自分でやってみようと思っているわけではない。単に世の卓球ビジネスの行く末が気になるだけである。

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やまなみ氏:歌詞の中に「思い描いていた未来とは違うけれど、すべてがいとおしい」とありましたが、…(若いころ)どんな未来を思い描いていましたか?


純一氏:少なくとも、20代のころに住み始めたワンルームマンションに、まだ住んでるとは思いませんでした。もうワンルームは卒業してると思ってました。45歳でワンルームにまだ住んでるとは思いませんでした(笑)。

 

 山下純一

https://www.youtube.com/watch?v=xnOzTIu6sqk

京都の誇る、全盲車いすのブルース・ハープ奏者、山下純一氏のライブ動画がアップされていたので見てみた。その中での障害者アートをプロデュースする「やまなみ工房」の代表、山下完和(=やまなみ)氏との対談が興味深かった。

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やまなみ氏:やまなみ工房の人たちの中にはですね、描きたいときに描きたいものを描くっていうような、たとえば社会の評価や賞賛を気にせず、極端に言えば、描き終わったものに執着も何もなくなるんですね。有名になりたいとか、いくらで売りたいとか、そのような意識がなく、とにかく描きたいものを描くという方々もいらっしゃるんですけども、純一さんの表現とやまなみ工房の人たちの絵画作品を見ていると、純一さんは目の前の誰かに音楽を通して何かを伝えたいとか…目的がまずあると思うんですが、そのあたりはただただ音楽が好きだから伝えている、じゃなくて音楽を通して社会に何か発信をしたいっていうようなことはあるんでしょうか?

純一氏:好きだからやる、これは当然ありますし、誰かとつながりたいという思いで音を発信している。もう一つはそれをやり続けたい、そのためにはみなさんに喜んでもらったり、かわいがってもろたり、応援してもろたり、ようするにビジネスとして成り立つっていうところまでいかないと、グルグル回らないですよね。

 

純一氏:僕がやまなみさんのすごいなぁって思うのはね、知的障害の方とか、そういう方たちに居場所を提供されてるのかなって思うんです。好きな絵を描いて、喜んでもらうために描いてないとしても、結果として喜んでもらえている。それを世の中の人に「いいやんか、これ」みたいな形にして送り出しておられる。人間ですから、生きていかなあきませんから、お金のことは大事だと思うんですよ。そこでグルグル回る…やっぱ回らんとね、福祉とかって止まってしまいますよ。


やまなみ氏:社会を回していくっていうのは、それだけ人と人とがつながっていくっていうことが大事なんだろうな、っていうふうに思いますが…。

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やまなみ工房のアーティストたちは、純粋に描きたいから描いているだけ。それをやまなみ氏が間に入って世の中に広く発信していることで人と人とがつながってビジネスになり、お金が「グルグル回る」。
一方、純一氏(と、その仲間たち)は純粋に演奏したいから、演奏するだけでなく、それを広く社会に発信していくという二つの役割をこなしている。多くの人の鑑賞に堪える演奏をするだけでも大変だが、それを「ビジネスとして成り立つ」ように発信するというのも同じぐらい大変なことだろうと思う。

「卓球ビジネス」などという言葉を軽く使ってしまうが、これがいかに大変なことか、起業してみないと実際には分からないに違いない。卓球ビジネスがグルグル回るためには2つの難関を突破しなければならない。

一つはマッチングである。欲しい人に、欲しいもの(サービス)を届けてやる。

これがうまくマッチすれば、卓球ビジネスは「ぐるぐる回る」。しかし、今まではマッチしていても、これからはマッチしなくなるものも出てくるだろう。

たとえば、
生産者側:「外出先でも食材のストックがケータイでチェックできる。スマート冷蔵庫30万円!」
消費者側:「機能は基本的なものだけでいいから、故障しにくくて15万円ぐらいの冷蔵庫がほしいなぁ。」

こういうのがマッチしない例である。

卓球ビジネスでいえば

生産者側:「あの有名選手の卓球指導DVD!1枚5000円!」
消費者側:「何回も見るもんじゃないし、DVDでなくてもいいから、24時間制限付きネット配信で、500円なら見てみようかな。」

生産者側:「各チームに国家代表レベルの選手が在籍!世界最高レベルのプレーが目の前で見られる!入場料3000円。」
消費者側:「交通費で往復2000円ほどかかるし、国内上位レベルの選手でいいから、入場料1000円だったら見てみたいなぁ」

DVDにしても、作っている人は精いっぱいがんばって作っているのだろう。その結果、非常に質の高い製品ができ上っているに違いない。卓球リーグはどうだろうか。各選手は「卓球が好きだから卓球をしている」という純粋な気持ちで非常にレベルの高いプレーをしていると思われる。が、それだけでは「グルグル回」らない。品質がいい、プレーのレベルが高いだけではダメなのである。山下純一氏のハーモニカの演奏は一級品である。にもかかわらずワンルームを卒業できない。それを必要とする消費者とマッチングしなければならないのである。

もう一つの難関はメッセージ性だと思われる。

上の動画のやり取りの中でやまなみ氏は「音楽を通して社会に何か発信をしたいっていうようなことはあるんでしょうか?」と問いかけていたが、これからの時代は、単に安くて質が高いだけでなく、卓球を通して何かを発信したいという思いが求められるように思われる。卓球用具メーカーにしても、Tリーグにしても、どんな理念をもって、消費者にどんなメッセージを伝えようとしているのか。その辺があいまいである限り、卓球ビジネスは、やがてグルグル回らなくなってくるのではないだろうか。

先日のネットニュースで福原愛氏がomusubiという会社を設立したというのを見た。どんな活動をするのか未定ということだが、今の卓球ビジネスに欠けていること――メッセージの発信を担い、生産者と消費者をつなげるような活動をしてくれればなぁと思う。