ツッツキの練習を続けていて、気づいたことがある。

私のプレーの中で、ツッツキのあとの戻りが最も遅いということである。それに気づかせてくれたのが下の動画である。


MurajiLab. feat岡田選手 6限目 戻るってどういうこと?

「戻り」とは何か?

そのような問いかけから始まるこの動画は、私にとって多くのことを教えてくれた。
打法を説く動画はたくさんあるが、これほど卓球の本質に迫った動画というのは多くないように思う。

岡田選手は自分の打球が相手コートにバウンドしたときには自分は「ニュートラル」の状態になければならないとする。岡田選手は「ニュートラル」と「戻る」を定義し直しており、その定義は難しくて、動画を一度見ただけではなかなか頭に入ってこなかった。

戻りというと、一般的?には体の前に両手を待機させ、すぐに次の動作に移れる状態のことだと思われるが、岡田選手は異なる視点で戻りをとらえなおす。

一般的な「戻り」
一般的に考えられている1打球後の「戻り」の状態

自分の打球から、次の打球までを岡田選手の定義で考えると以下のようになると思われる。( )内は従来の定義。

「フォワードスイング」
→「インパクト」
→「フォロースルー」
→「ニュートラル」(戻りの途中)
→「ニュートラル」(戻り完了・上の写真の状態)
→「ニュートラル」(バックスイング)
→「戻り」完了(バックスイング完了)
→「次の自分のフォワードスイング」

「ニュートラル」というのは、従来の定義で言う、戻りやバックスイングなどを含む概念である。
「ニュートラル」とは、意識が自分の打球から解放されている状態――いつでもフォアかバックに引ける状態ということなので、おそらく「フォワードスイング→インパクト→フォロースルー」以外の全ての状態を指していると思われる。打球(インパクト)というのは一瞬なので、より単純化すれば卓球のスイングというのは

「フォワードスイング+フォロースルー(含インパクト)」/「ニュートラル」

の2つの相に分かれると考えたほうがよい。

「フォワードスイング+フォロースルー」中は、意識がそれに集中していて、他のことができないのに対して「ニュートラル」のときは、フォアにもバックにも意識が対応できるので、時間がある程度長くても大丈夫である。ただ、いつまでも「ニュートラル」の状態に留まっているのは危険である。

相手がスピードの遅いループドライブを打ってきた場面を想像してみよう。

自分が打球して、フォロースルーを終えて、すぐに「ニュートラル」の状態に入ったとする。相手は打点を落としてゆっくりしたループドライブをフォア側に打ってきた。それを察するとすぐにこちらはフォアでブロックやカウンターを打つ姿勢に入り、バックスイングを引き、「戻り」が完了する。

このように相手の打球が遅い場合は「ニュートラル」の状態でしばらく待つことになる。が、相手のボールがどこに来るかがほぼ特定できたなら、速やかに「戻り」(バックスイングを引いていつでも打球できる状態)に移らなければならない。

岡田選手は下の体勢で戻りが完了していると考える人が多いと指摘している。
一般的な「戻り」

この姿勢のまま「もう安心」と相手からのボールを待ってしまうと、時間を大きくロスすることになる。相手のボールを待つなら、この状態からさらにバックスイングを引いて、いつでも打球できる「戻り」を完了させておかなければならない。

岡田選手の卓球理論は、ボールが相手コートに着地する時点までには「ニュートラル」でいなければならないという明確な基準を示してくれたことで、一般層のプレーヤーにとって非常に有益であると思われる。

なぜ有益かというと、この理論を使えば、自分がどこで間に合っていないかが分かるからである。

多くの初中級者は戻りが遅い。しかしどのへんで時間をロスしているかというのは自分ではなかなか気づかないものだ。私の場合は自分の打球が相手コートにバウンドした音を聞いてから、俄に我に返ったように動き始めるが、それではいけない。自分の打球の音を聞く前にフォロースルーから意識が自由になっていなければならない。さらにその意識の自由に甘んじているだけでなく、相手の打球に応じて速やかに「戻り」に移らなければならない。前記事「キュー(CUE)」で私は相手のボールが自コートにバウンドしてからバックスイングを引く癖があると述べたが、これを岡田氏の理論に当てはめると「ニュートラル」のまま安心してしまい、「戻り」に入るのが遅れているということだったのである。

なお、『卓球王国』20年2月号の中澤鋭氏の連載「「脱・手打ち」のスイング改造術」では、「戻り」を、打球後に重心が左右のどちらにも偏らず、身体の中心にある状態と定義している。こちらも非常に有益な連載なので、一読を勧めたい。