私の周りにOさんというとんでもない「卓球」をする人がいる。
バックへのロングサーブに対してはバックドライブ強打、ショートサーブに対してはチキータ、こちらがドライブ強打を打てば、フォア、バックに関わらず、カウンター。とにかくどんな厳しいボールでも全部打ってくる。しかしOさんは初中級者なので、ほとんどのショットはミス。それどころか成功率は2割以下である。

「いいかげんにせいよ。そんな卓球あるか!」

と言いたいところだが、そんな卓球が実際にあるということを今日、全日本卓球で見せつけられた。

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大阪開催の全日本卓球2020最終日を観戦してきた。

最終日は男女シングルス準決勝の4試合と、男女シングルス決勝2試合の計6試合が行われた。
たった6試合では物足りない。土曜日なら男女シングルス準々決勝の8試合と、男女ダブルス6試合の計14試合あるからお得だと思う人も多いだろうが、私は6試合も観戦したら、もうお腹いっぱいである。ずっとパイプ椅子に座りっぱなしなので、お尻は痛くなるし、2台同時進行だと目移りして試合にに集中できないし、最終日でよかったと思っている。試合を観るのも楽じゃない。

準決勝に進出したのは

男子:張本智和選手、戸上隼輔選手、吉田雅己選手、宇田幸矢選手
女子:伊藤美誠選手、早田ひな選手、石川佳純選手、橋本帆乃香選手

だった。

その中で注目の一戦は張本選手対戸上選手の準決勝だった。
張本選手の鎧袖一触かと思いきや、結果は全く反対だった。戸上選手のボールがとんでもなく速い。速いだけでなく3本も4本も連打できる。世界の第一線で活躍中の張本選手が最終的に打ち抜かれてしまうほどの威力なのである。バックハンドの強さに定評のある張本選手が、バック対バックのラリーで押されている。張本選手がバックで強打すれば、普通の選手は一発で打ち抜かれるか、せいぜいブロックでなんとか返球するのがやっとだろう。しかし戸上選手はそんな鋭いボールに対してもカウンターで応じ、張本選手のバックハンドに打ち負けない、というより張本選手のほうが次第に劣勢になっていく。とんでもないレベルのラリーが続く。バック対バックの途中で「ヤマを張ってるんじゃないか」と思うほど早い回り込みでフォア強打カウンター。張本選手がフォアに振っても戸上選手は素早いフットワークでフォアカウンター。ブロックなんてしたのだろうか?と思わせるほど戸上選手が守備的な技術を使った印象は薄い。戸上選手が前後左右に動き回り、常に主導権を握り、先手を取って攻撃。そのすさまじいスピードのボールに対して張本選手は返球するだけで精一杯である。試合を通じて張本選手がきれいに打ち抜いたボールは4~5球程度ではないか。張本選手の得点源の大部分は「拾う得点」(前記事「失点を拾うか…」)だったように思う。ほとんどのボールは戸上選手が攻撃し、ミスがなければ戸上選手の得点、ミスが出れば張本選手の得点、という試合だった。張本選手は攻めに行かず、なんとか厳しい返球をして戸上選手のミスを待つという形――試合巧者のベテランが自分のミスを極力減らし、相手のミスで勝利するという戦術に見えた。

ラリー力では戸上選手が一枚うわてなので、張本選手はストップなどの小さな展開で優位に立ちたいところだが、戸上選手は台上も冴えていた。張本選手のショートサーブに対してはチキータや深いツッツキ、それを少しでも浮かせてしまうと戸上選手のフォアフリック強打や台上バックドライブが待っている。とにかくなんでも打ってくる。そしてそれがかなりの確率で入ってくる。

どうやっても張本選手は主導権を握れない。張本選手が試合に勝てるかどうかは戸上選手のミス次第なのである。

結局、フルセット9点で張本選手がギリギリ勝利したが、もし戸上選手のミスがもう少し少なければ、負けたのは張本選手だったかもしれない。まぁ、私程度のプレーヤーの見立てなので、どれだけ的を射ているか分からない。張本選手も顔がずいぶん赤かったので、体調不良だったのかもしれないし。

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どこかものさみしげな戸上選手の背中

とんでもない高校生が出てきたものだ。丹羽選手がストレートで負けるのもむべなるかな。

続く決勝は戸上選手のライバル、宇田選手。宇田選手も戸上選手と同様、超攻撃卓球で、試合を通して主導権を張本選手に渡さなかったように思う。そして戸上選手よりもミスが少なかったのか、張本選手にフルセット9点で勝利した。

女子では伊藤美誠、平野美宇、早田ひなの3選手が切磋琢磨しているが、男子でも張本、戸上、宇田の高校生トリオがこれからの日本男子卓球をリードしてくれそうな気配である。今の男子日本代表もウカウカしていられない。この3人には、もしかしたら中国を倒してくれるのではないかと期待させる頼もしさがある。

以上、本日の観戦の感想を簡単に述べたが、女子卓球も非常に興味深かった。橋本帆乃香選手の前半の攻撃的な姿勢は、女子カットマンの既成概念を打ち壊すような新鮮さがあった。女子も若手が次々と現れて頼もしい。

全日本が来年も大阪開催ならぜひまた観戦したいと思う。