明治2年、京都に全国初の「小学校」が誕生した。

番組
地域のコミュニティーセンターであるだけでなく、
火の見やぐらとしての役割も果たしていたらしい


もちろん、江戸時代から寺子屋や藩校といった教育機関もあったが、身分や貧富を問わず通える(通わなければならない?)大規模な「学校」というのは日本で初めてだったようだ。

小学課業表」というカリキュラムをみると、四書五経、日本外史、万国公法、真政大意といった、いかめしい科目が並んでいて、封建時代が終わって間もない庶民の子供がどこまで理解できたのかわからないが、とにかく世の中にはこういうありがたい本や考え方があるということぐらいは知ることができたはずである。

お上に頼らず、地域の全ての住民が出資(竈代として1戸につき現在の数千円を出し合った)して作った小学校であることから、京都市民はこの小学校を地方自治の観点から誇りに思っている(ただし、今では大半の小学校が閉校・合併されている)。京都の中心部を64の「番組」という区域に分けて、それぞれの番組に小学校が作られた。例えば湯川秀樹が卒業した京極小学校(上大組28番組と29番組で合同設立)は、御所の東に作られ、現在も残っている。その後、明治政府が全国に学制を敷き、小学校を作り始めたのは、その3年後だったという。(KYOTO SIDE より)

小学校という、地域に欠かせないインフラを政府に先駆けて、市民が自腹まで切って作ることができたのはどうしてだろうか。おそらく今では考えられないほど地域の絆が強く、地域の一体感や危機意識も強かったのだろう。近所付き合いも希薄で、地域のことは人任せで誰かがやってくれるだろうという現代の風潮とは隔世の感がある。最近、京都市が「レジエント・シティー」とかいうのに選ばれたらしいが、その決め手となったのは京都市の地域の伝統と絆の強さだと聞いたことがある。

京都は近世まで学問の中心であり、教えられる人がいて、学びたい人がいて、学ぶことは正義だという考え方があったので町衆(市民)は自腹を切ってでも小学校を作ろうと考えたのだろう。

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最近、世間の卓球に対する関心が低下しているように感じる。
去年はネットのニュースで卓球の記事をよく見かけたものだ。世界選手権はもちろん、ワールドツアーのレギュラーイベント、チャレンジシリーズでも、日本人選手が優勝したり、中国選手に迫ったりすれば、ニュースに取り上げられていたが、現在、開催中のアジア選手権2019インドネシアについてのニュースを全く見ない。卓球ブームはもう終わりかけているのだろうか。

私は別に卓球が世間で話題にならなくても困らないが、卓球界にお金が入らなくなって、卓球イベントが開催されなくなったり、卓球メーカーがつぶれたり、卓球場や卓球教室が廃業するとなると、非常に困る。今のところ、東京や大阪での卓球業界はそこそこ利益が出ているのかもしれないが、地方の卓球場や卓球教室の経営は赤字を出さないだけで精いっぱいなのではないかと思う(前記事「オジサンの夢」「卓球教室経営」)。卓球場がつぶれて、卓球をしたいときにできる場所がないというのは絶対に困る。社会人がいつでも卓球できる環境というのはどうしても必要なインフラである。地域のクラブがあるじゃないかという人もいるかもしれないが、週に1~2回しかないし、2時間程度しか使えない。しかも幅広いレベルの人と打たなければならない。初心者やムチャ打ちでミスばかりして、みんなに敬遠されている人とも打たなければならず、自分のための練習ができるのは2時間のうち、せいぜい20~30分程度である。これで上達しろというのは無理な話である。

そこで地域の卓球人がお金を出し合って、場所を借りて指導者を雇い、練習するということはできないだろうか。教えられる(管理できる)人がいて、練習したい人もたくさんいるし、卓球の練習はもちろん正義である。指導者がレベル別に練習相手をマッチしてくれれば、自分の近いレベルの人と打てて、お互いにいい練習ができる。例えば一人あたり月に5000円出資するというのは社会人にとって無理な金額ではない。有志を20人集めれば、月に10万円になる。そのうち5万を指導者に支払い、週に1回4時間ぐらい卓球場を借りて思う存分卓球をする(社会人なので、夕方の20時~0時まで)。この時間帯を1万円で貸し切りにしてくれる卓球場は探せばありそうだ。社会人なので20人がずっと練習するわけではない。22時から参加する人もいれば、21時過ぎには満足して帰る人もいるだろう。半年に1度総会を開き、お金の使い方や指導方針を見直すこともできる。

そもそも地域の卓球協会がこのようなサービスを提供してくれればいいのだと思うが、そのような動きはなさそうだ。「お上」が動いてくれるまで待つよりも自分たちで行動したほうが早い。

でも、こんな夢をいろいろ思い描いていても、実際に行動するのは様々な困難が伴うだろう。何かいい方法はないだろうか。

ネットで私の想像したような試みを探してみたところ、近いものが見つかった。


クラウドファンディングというのを利用して寄付を募り、東京に卓球場をオープンするという試みらしい。私の考えた出資したメンバーで指導者を雇い、練習場所を確保するというのとは違うが、こちらのほうが規模が大きく、卓球場を借りるのではなく、所有するという形態は、番組小学校により近いものと言えよう。ここが地域の卓球コミュニティーセンターとなり、多くの人を巻き込んでいけば、卓球を仕事にできる人も増えていくのではないか。

さすが日本の首都である。東京にはこんな計画を行動に移してしまうような人々が存在する。

彼らの運動をモデルにして、卓球における「番組小学校」が日本各地に広まっていくことを願わずにはいられない。

【付記】
もう一つ、北海道でも同じような試みがあるようだ。
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