「卓球は頭を使うスポーツだ」などと言われるが、果たして私は頭を使っているのだろうか。サービスを出す前に

「フォア前に短いサーブを出して、ストップされたら裏面バックハンドでフリックしよう。相手が先にフリックしてきたら、カウンターで強打しよう。」

ぐらいのことを考えないことはないのだが、この程度で「頭を使っている」などと言えるのだろうか。おそらく上級者はこんな簡単なことではなく、めまぐるしく代わる局面で瞬間的に何手も先を読んで1つのポイントを組み立てているに違いない。

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卓球のレベルをどう考えるかについては諸説あると思うが、私は大雑把に3つのレベルを考えたいと思う(もちろん厳密に考えれば、こんなにきれいに分けられるというわけではない)

レベル1:初中級レベル
このレベルではボールを正しく打つというところに重点がある。例えば「横系のサーブを浮かさずにしっかりと台に収めてレシーブできる」「体幹を使って力のこもったショットが打てる」等である。私もこういうレベルの問題を数多く残しているので、強い興味をもっている。

レベル2:中上級レベル
このレベルでは打球と打球をつなぐ技術が問題になる。例えば「どうすればドライブ連打ができるか」「素早くボールに近づくにはどうすればいいか」等である。レベル1でどんなボールでもだいたい安定して返球できるようになったが、実戦ではそれらの技術がうまく機能しない。ほぼすべてのボールに対して間に合っていない。

「おかしい。練習ではちゃんといいショットが打てるのに実戦では全く打てない。」

ここに来て中級者は壁にぶち当たる。そして気づく、打球と打球の合間に問題があるのだと。打球のしかたというのは目に見えるものである。雑誌の写真でラケット面や腕の位置がどうなっているかが参考になるし、ビデオでも威力のあるボールを打つためにどのような姿勢で待っているかというのはわかりやすい。しかし、上級者が打球の前後にどんなことを意識し、どんな狙いで、どうやって足を動かしているかというのは見えにくい。いくら上手な人のプレーを見てもレベルの低い人間には自分のプレーと何が違うか分からない。

「自分のサービスを出した瞬間に相手のラケットの角度を確認し、その方向へ素早く動くんや」

などと上級者や指導者に解説してもらってはじめて気づくのである。自分の観察だけでは分かるわけがない。このような打球と打球の間に隠された秘密が分かってくると、レベル1で習得した打法が実戦でも使えるようになってくる。

レベル3:上級レベル以上
私はこういうレベルに達したことがないので分からないのだが、Rallysの記事で大島祐哉選手がこんなことを語っていた。

大島:「最後はフォアハンドで」と皆さん簡単に言うんですけど、そこまでにいろんなストーリー、シナリオがあった中での最後のフォアなんですよね。ただサーブを出して、(バックサイドに来るボールを)フォアハンドで回り込めば良いってものではない。そこが卓球の奥深さです。

――なるほど。フォアで勝負行く1本にストーリーがあると。

大島:相手にもフォア側にチキータやストップをするなどいろんな選択肢がある。そんな中で、最後に僕がバック側で回り込んでフォアを振るためには、それまでの布石がなければ、絶対に攻められない。そういう戦術、勝負勘が必要なんですよね。

見ている方にはなかなか伝わりづらいと思いますが、回り込んでフォアを振っている時は、常に勝負をかけているんです。

https://rallys.online/person/player-voice/oshimayuya2/


大島回り込み

やっぱりそうだったのか。
上級者はどんなボールでも軽々と回り込んでいるように見えるが、そんなに簡単なことではないのだ。そのためにしっかりと「布石」を打っていたのである。レベルが上がれば上がるほど、相手は自分の回り込みを防ぐ対策を講じてくる。そんな中でも回り込めるというのは相手のボールを自分のバック側に集めるための工夫や戦術が要るのである。

私もよく回り込みをしては失敗するので、「若い人のようなフットワークがあれば…」などと、自分のフットワーク力の低さを嘆いていたのだが、それ以前の問題なのである。たとえ若い人のような脚力、体力があったとしてもおいそれと回り込みなどできるものではない。大島選手ほど身体能力の高い選手であっても、偶然バック側に来たボールをフォアで回り込むなんて「絶対に攻められない」のである。偶然ではなくて、必然を作ってからでないと回り込めないのである。

そしてこれは回り込みだけではなく攻撃全般に言えることだと思う。簡単そうに強烈なスマッシュを打ちこむペン表の人も、きっと綿密な準備をしてはじめてスマッシュを打っているに違いない。
「頭を使う」と言えるほど高度な作戦ではないかもしれないが、自分から攻めるためには中級レベルでもある程度の工夫や仕掛けをした上でないと「絶対に攻められない」。

正しく打球できる(打球単体の)レベル、打球と打球を繋げるレベル、そして最後のレベルは戦術と駆け引きのレベル。この最後のレベルになって初めて真の意味で「頭を使った卓球」というものができるのではないかと思う。私が今から上級者になれるとも思えないので、一生縁のないことかもしれないが、中級レベルでも「頭を使う卓球」というのをいつかやってみたいものだ。