「ああ、時間がない。このままでは今日の練習に遅れてしまう…。」
しかしどうしても練習時間までには終わらない仕事量である。なんとか仕事を選別して、自宅でできない仕事だけ、職場で済ませることにした。

というわけで、この週末はいろいろ仕事を持ち帰ってしまい、うちで片づけなければならなかった。
ちょうど香港オープンをやっていたので、ブラウザで卓球動画を開きながら、PCで仕事をしていた。これがおそろしいほどハマった。つまらない仕事でも、卓球の試合を見ながらだと、非常にはかどるのである。卓球の試合も楽しめるし、それにつられて仕事の方も苦痛ではなくなってくる。
Tリーグで生の迫力を堪能するのもいいけれど、年をとると、わざわざ出かけるのがおっくうになる。自宅で仕事のかたわら試合を観戦するほうが私のライフスタイルに合っているようだ。これで積み残した仕事は解消され、月曜から晴れ晴れした気分で仕事に取り組むことができそうだ。ワールドツアーをちゃんと見ることは少ないが、仕事のBGM代わりにすると、とても楽しめる。

以下、香港OPを見たとりとめもない感想などを綴ってみたい。

香港オープンは中国オープンと違い、中国の1軍が出場しなかった。それで日本選手が上位に食い込めたので観戦にも熱が入った。とはいえ、中国の準1軍ともいうべき若手やベテランの強い選手などが出場していたのでレベルが低かったわけではない。

女子は佐藤瞳選手がベテランの木子選手(元世界選手権3位)を破るという快挙を成し遂げ、平野美宇選手は同じくベテランの馮亜蘭選手や馮天薇選手を下した。平野選手は最近思うような戦績が残せていないだけにこの勝利は復活を期待させるものだった。

印象に残ったのは張本選手と周雨選手の準決勝である。

周雨



周雨選手は準々決勝でティモ・ボル選手をラリーで圧倒し、張本選手にもそのすさまじい威力のドライブで襲いかかった。これで1軍に入れないなんて中国の層の厚さよ。ラリーでは張本選手も相当レベルが高いはずだが、その張本選手をもってしてもラリーでは分が悪かった。さすがの張本選手も万事休すかと思われたが、張本選手はラリーで打ち合わず、レシーブでは台上で短く止めたり、コースを厳しくしたりしてラリーに持ち込ませないようにしているようだった。驚いたのは張本選手のサーブである。張本選手のフォアショートサーブは短く低くレシーブされることがほとんどないのである。周雨選手だけではない。他の選手も張本選手のフォアショートサーブをどうしても少し浮かせてしまう。それを張本選手は3球目でフォアフリック強打やフォアドライブで厳しく攻めて、大きいラリーにさせずに一気に攻めきってしまうことが非常に多いのである。それほど個性的なサーブには見えないのだが、試合を通じてずっと効いていた。そして序盤の私の予想を裏切って4-1で張本選手が勝ってしまった。私はついつい派手なラリーに目が行ってしまうが、この試合でラリーが強いからといって勝てるものではないのだと学習した。

試合後のインタビューがおもしろかった。張本選手は抱負を聞かれて「GFでは勝っていますが、相手のほうが世界ランキングも上ですし、格上だと思っているので、1球1球気持ちを込めてプレーして勝ちにいきたいと思います。」のようなことを言っていたが、通訳の英語の説明は「勝てて嬉しいです。次もベストを尽くします」だけだった。張本選手もこの通訳にはびっくりして「え、それで終わり?」と目をパチクリさせていた。張本選手が自分で中国語に翻訳したほうがずっとよかったのに。

え、それで終わり?
「そんなこと一言も言ってないけど…」と驚く張本選手。



続く決勝では林高遠選手との対戦である。中国男子の一軍が馬龍、樊振東、許昕選手だとすれば、林選手は限りなく1軍に近い選手だと言えるだろう。実力では1軍の選手に対して遜色がない。ただ、いつも惜しいところで勝ちきれないという気の毒な選手である。世界ジュニアでは丹羽孝希選手に金メダルを譲ってしまったし、グランドファイナルでは張本選手に金メダルを献上してしまった。実力はあるのに運には恵まれていない選手という印象である。私は張本選手に勝利してほしいと思う一方で林選手にもがんばってほしいと思っている。現在24歳ということなので、張本選手と9つ違いということになる。もう「若手」とは言えない年齢である。実況で林選手のことをDark Knightと連呼していたが、どういうイメージなんだろう?バットマンの映画を見ていないのでよく分からないが、知人のアメリカ人に聞いてみたところ「陰からスッと現れるイメージ」ということだった。それは優勝候補ではないが、無名の人が優勝をかっさらうみたいなことなのか、と聞くと、それはDark horseだということだった。やはりよく分からない。

林選手も周選手と同様ラリーがめっぽう強い。張本選手はやはり正面から打ち合わず、相手の打つ機を外しながら試合をしているようだった。

林高遠
「高遠」という名前がかっこいい。私も改名できるなら「たかとお」にしたい。

他にも伊藤美誠選手のプレーも印象的だった。素人目に見てだが、勝つ気がないのではないかというぐらい思い切ったプレーでミスを連発していた。ラバーを変えたというのが大きいと思うが、要所でミスが出る。ふつうの選手なら、「ちょっと安定性を重視してミスしないようにしよう」と思うところだが、伊藤選手はまるで「こんな試合で負けたっていい、勝利に執着するよりも、思い切っていろいろな技を試してみたい」とでも言いたげにミスを恐れずにプレーしていた。伊藤選手の目標はもっと高いところにあり、ワールドツアーの1大会での負けなど気にならないのだろう。

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この間、ツイッターをたまたま見ていたときにこんなツイートが…。

ishikawa

https://twitter.com/ittfworld/status/1136901898697494528

「今年になって一度も中国選手を倒していない」
「中国の若手にさえ負け続けるなら、東京オリンピックへの出場は難しい」

中国オープンでは若手の陳幸同選手にストレート負け。香港オープンでも若手の王芸迪選手に1-4で敗北。世界ランキングは一時3位まで上がったが、だんだん下がり、現在6位。

石川選手の日本卓球への貢献は計り知れない。世間の好感度も非常に高いし、実績もすばらしい。ミックスダブルスでは、元世界チャンピオンである。現在の卓球ブームは彼女なくしては訪れなかったといっても過言ではない。若手の台頭にどうしても伍していけないというのならしかたがないが、まだまだ十分強いのだから、気力の続く限り、がんばってほしいと切に願っている。