今更ながら、全日本を観た感想などを書いてみようと思う。大阪開催なので、実際に見に行きたいと思ったのだが、あいにく都合が悪く、見に行けなかった。来年こそはと思っている。

先週末からの3連休で時間的な余裕があったので、シングルスの準決勝から決勝までまとめて視聴してみた。男子解説の河野正和氏も悪くはないのだが、やはり宮崎義仁氏の解説は圧倒的におもしろい。プレーを見ればそこから選手の考えを鋭く見抜き、技術や戦術についてのコメント、さらには国際的な視野からの比較や古いエピソードなど、いくらでもおもしろいうんちくが湧き出てくる。そこからわれわれ一般愛好家も多くのことを学ぶことができる。

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宮崎氏「今、ちょっと悩んだまんま入ってしまったっていう感じですかね。」

渡辺アナ「迷ったまま入ってしまった、そこをもう少し詳しく教えていただけないでしょうか。」

宮崎氏「チキータをやらせようか、それともチキータをやらせないでロング(サーブ)から勝負しようか、どちらかなんですよ。チキータもやらせなかったですよね?ミドル前に(サーブが)行ったら、チキータがやってくるんですけど、バック前に行ったから、チキータこないんですよ。レシーブはチキータが来ない。でもロング(サーブ)でもないから、早田もどんなレシーブが来るか分かんないで(サーブを)出してるんですよ。だから、明確にチキータさせるか、ロングサーブを出してロング戦に持っていくか、どっちかはっきりした戦術じゃなかったんですよね。ただ単にチキータやられたくないな、でもロング(サーブ)も打たれたくないな、どうしようっていう戦術のない…迷ったままサービスを出してしまったという感じですね。」

バック前サーブ
バック前に下回転っぽいショートサーブを出した早田ひな選手

打ちミス
それを伊藤選手はうっかり浮かせてしまい、突如チャンスボールが訪れるが早田選手はスマッシュミス

はたから見たら、早田選手がなんてことのないボールを打ちミスしてしまったように見える。しかし、上述の宮崎氏の解説を聞いていれば、これは起こるべくして起こったミスだということが分かる。

「どんなレシーブが来るか分かんないで(サーブを)出してる」

というのは、私がしょっちゅうやっていることである。それでどんなレシーブが来るか分からないから、判断が遅れてミスを連発する。しかし、こんなレベルの高い試合でも同様のことが起こっているというのに驚かされた。宮崎氏が「世界トップレベル」と称賛する早田選手の実力をもってしても不意に訪れるチャンスボールをミスしてしまうというのはどういうことか?つまり私のような草卓球レベルでは「必ミス」となるだろう。私のような低いレベルのプレーヤーはどんなレシーブが来るか分かっていてもミスするのだから、どんなレシーブが来るか分からないようなサーブは絶対に出してはいけないということになる。

勉強になるなぁ。

回り込みバック

女子の試合ではフォア側に回り込んでバックでサイドを切るレシーブがよく見られた。バック側に回り込んでフォアを打つというのは私のレベルでもよくあることだが、フォア側に回り込んでバックを打つというのはほとんどない。私もこれからは台上でこういうプレーを取り入れてみたいと思う。

反対の山の準決勝は森さくら選手対木原美悠選手。
木原選手は平野美宇選手を破り、佐藤瞳選手をフルセットの大逆転で破る金星を重ねてここまで勝ち上ってきた。対佐藤選手の試合を見たが、木原選手は佐藤選手のカットの変化が分からず、1、2ゲームを見た時点でもう木原選手が勝ち目はないなと思ってみるのを止めたのだが、なんとツッツキ合戦に持ち込んで促進ルールで木原選手が勝利したのだという。その戦術を授けたのがエリートアカデミーの劉楽コーチなのだという。

劉コーチ
木原美悠選手の劉楽コーチ

手ごわい森選手に対して木原選手はフォア前サーブからのミドル攻めという戦術で危なげなく森選手からゲームを奪っていく。ゲーム間に劉コーチが木原選手にまくしたてるようにアドバイスをしている。
その劉コーチのアドバイスについて福原愛氏は次のように述べている。

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福原氏「的確なアドバイスだと思います。本当にしっかりと、こういうボールに対してはこういう対応をしなさいっていうアドバイスだったので、選手としてはとてもやりやすい環境を作ってくれたと思います。」

宮崎氏「(劉コーチは)日本に来てそんなに経験が長くないんですけど、すぐ日本語を覚えたんですよ。選手のために毎日勉強してテレビを日本語で見て…ほんとに努力家です。…(木原選手は)指示通りやってますね。指示通りやれる選手と、全く指示を聞かない選手っているんですけどね。木原の場合は指示通りやれる選手なのかもしれませんね。」
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実力的には木原選手が他の強豪選手を圧倒していたという印象はない。木原選手が倒してきた選手たちにも決勝に進出するチャンスがあったと思う。とすると、この劉コーチの授けた戦術こそが木原選手を決勝まで導いたと言えるかもしれない。


木原美悠選手のバックハンドの安定感と技術がすごい。バックハンドってあんなにコンパクトでいいんだ…

https://youtu.be/WECbVzKrRWs?t=37


コーチングについて最後にRallysの宮崎氏へのインタビューが興味深かったので紹介したい。
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宮崎氏「例えば、ミックスダブルス決勝では、張本は森薗の質の高いサーブをうまくチキータできていなかった。それに気づいてやっとストップに切り替えた。まずそのタイミングも遅かったんですよね。
そしてストップに切り替えた1本目は得点になる。その次のボール、張本はもう1本ストップしてしまった。伊藤美誠がストップを待っているにも関わらず。なので待ち構えていた伊藤に強打され失点してしまった。この場面ではもう一回チキータか長いツッツキレシーブをミドルかバックに送る方がよかった。」

ーーだから先を読んだ実況解説ができるんですね。恐れ入りました。ちなみに今みたいなお話は選手たちに直接アドバイスされるのでしょうか?

宮崎氏「伝えないですよ。全て選手が自分で考えて、感じてやるもの。選手は自分でやります。人に教えられてやるなんてありえないですし、それだと遅いんですよね。
「選手をどうやって指導するんですか?」と良く聞かれますが、教えない。教えたこともないし教えようようとも思わない。」
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指導というと、なんらかの「正解」を指導者が生徒に「教える」ものだと誤解されがちだが、自分で考えられるようになったら、「正解」は自分で探し出さなければならない。国際レベルの選手ともなれば、中高生でもこのような思考を身につけておかなければならないだろう。

「先生が言ったことを生徒はちゃんとメモして忘れないようにする」

というのは自分で考えることができない子供に対する教育だと思う。レベルの高い選手には考え方や枠組みを教えるだけでいいのだ。選手一人一人が宮崎氏の上記のような試合の見方を参考にして自分自身で相手の弱点を探し出せるようにならなければ世界で勝つことなどできるわけがない。私は宮崎氏の指導方針を聞いて、現在の日本代表の未来は明るいと感じた。