久しぶりにいとこのうちを訪れて、近況などを話しあった。
いとこは毎日多忙な生活を送っているが、最近の唯一の楽しみはウィスキーなのだという。
ウィスキーが趣味というのは具体的にいうと、いろいろなウィスキーを飲み比べ、味わい楽しむことである。作っているわけではない。言うまでもないか。
ウィスキーに限らず、お酒というのはビックリするほど高いものがある。サントリーの「山崎」というウィスキーなどは700mlで数万円するものもある。その一方で近所の酒屋には1500円ほどの値段で売っている安価な製品もある。同じウィスキーなのにこんなに違いがあるなんておかしい。体に悪いわけでもないし、別に1500円のウィスキーでもいいじゃないか。
そのような私の話を聞いて、いとこはおもむろに見覚えのある懐かしいボトルを取り出した。
「これ、知ってるよね?昔、日本で人気のあったサントリー・オールド。独特のボトル形状からダルマって呼ばれてる。ちょっと飲んでみる?」
勧められるままに一口ふくんでみると…なんてことはない、普通のウィスキーである。
「次にこっちのウィスキーもどうぞ。」
よく知らない銘柄だが、輸入品だということは分かる。こちらを一口飲んでみると…全然味が違う!ダルマは雑味が多くごちゃごちゃした味わいで、喩えて言えば、「倉庫の中でほこりをかぶっている」ような味に感じられたのに対し、輸入品のほうは透き通るような味わいで、成分が生き生きしている。身体に染みわたるようなうまさだった。
「こっちは1本5~6千円するスコッチ・ウィスキーなんだけど、全然違うでしょ?昔の日本では『本物』のスコッチ・ウィスキーは高くて手が届かなかったので、比較的安いダルマが人気だったけど、今となってはダルマを飲もうっていう気にはならないな。同じウィスキーといっても、銘柄によってずいぶん味が変わるでしょ?」
味の良し悪しというのは人によって違うから、ダルマの雑味?こそが美味いと感じる人もいるだろうが、私にはスコッチ・ウィスキーのほうが美味しく感じられた。今ではサントリーの高級ウィスキーというのは世界的に認知されつつあるが、昭和の時代には高級な輸入ウィスキーの代替品といった位置づけだったのかなと思う。
考えてみれば、昭和の貧しい時代には欧米の「本物」の代わりに国産の「代替品」のようなものがよく作られていたように思う。ドイツやアメリカの車は高いので、スバル360が作られたり
「本物」のスイス製の腕時計は高すぎるので、「代替品」としてセイコーの腕時計、「本物」のドイツ製の代わりにキヤノンやニコン。今では国産品のほうが「本物」を凌駕してしまったものもあるかもしれないが、昭和の時代というのは、高すぎて手が届かない「本物」の代わりにとりあえずの代替品で日常の便に間に合わせようという時代だったように思う。だから昭和の末期になって性能的には国産品が輸入品に肩を並べても、やはり舶来品というものは一目置かれていたと思う。「日本製」とか「メイド・イン・ジャパン」といった言葉が宣伝に使われるようになったのは、ここ20年ほどではないだろうか。昔は国産というのは宣伝文句になる言葉ではなかった。とすると、今から30年後にはもしかしたら「中国製」という言葉が宣伝文句に使われるようになっているかもしれない。
この間、上手な人と練習をした時、ツッツキの鋭さにびっくりした。
バックスイングをとらず、身体全体でボールに近づいていくから、いつ打たれるかタイミングが取れない。そして同じ体勢のまま急に面を起こしてフリックをしたり、そのまま手を伸ばさずストップになったりと変幻自在である。ツッツキもスーッと手を伸ばすのではなく、早く短くグッと押すのでスピードが速い。かと思うと横回転をかけてつっついたりするので、こちらは余裕をもってドライブを打つ姿勢に入れない。こういうのが「本物」のツッツキなのだと思った。私や私がよく練習している人たちのツッツキは、同じツッツキといっても「代替品」にすぎない。一応ツッツキではあるけれど、「本物」のツッツキと比べたら、ツッツキの良さを全く引き出せていない。
いい勉強をさせてもらった。「本物」を知らないと、自分の技術が「代替品」であるということにすら気づかず、十年一日のごとく同じような卓球をして進歩がないだろう。幸いなことに、最近ではTリーグが始まり、地方の人間でも「本物」を見るチャンスが多くなった。今年は全日本も大阪で開かれるので、一般愛好家も機会があれば、ぜひ「本物」を観に行ってほしい。プロのプレーはあまりにもレベルが高くて一般愛好家の参考にはならないと思っていたが、プロのプレーをじっくり観察し、自分のプレーと比べれば、一つや二つ、何か発見があるかもしれない。
私は冒頭でウイスキーの価格に数十倍の違いがあると驚いたが、いとこにしてみれば、卓球のラケットだって、ラバーが初めから貼ってあるホビー用のラケットが1500円ほどで買えるのに、一方で2~3万円もするラケットがあることに納得できないかもしれない。「木でしょ?どれでもそんなに違いはないでしょ?」と言われそうである。たしかに一般層の大半にとっては実売5千円ほどの安価なものだろうが、2万円強の高級ラケットだろうが性能的に問題になることはないだろう。上手な人が使えば、スワットやSK7で全日本に出ることだってできるのである。国際レベルになると用具の微妙な性能差で試合に勝てないということもあるかもしれないが、一般層にとっては結局見た目と打球感の違いにすぎない。とは分かっているが、個人的にはやっぱり実売1万円以上のラケットを使いたい…。
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