ブルガリアオープンに続いてチェコオープン。全中も熱い戦いが繰り広げられているという。そこへアジア競技大会も続き、卓球の大会が目白押しである。

youtubeを見ていると、これらの大会の動画がたくさんアップされている。
有名選手の試合は、たしかにレベルは高いのかもしれないが、どれも同じような試合なので、それほど見たいという気にならない。10年以上前は国際大会の動画はそれほど多くなかったが、今のようにひっきりなしに国際大会の動画がアップされていると、誰か特別にひいきの選手でもいなければ、毎試合チェックしようという気にはならない。ITTFの実況のアダム氏などはいつもハイテンションで、”Unbelievable shot !!”などと必死に叫んでいるが、ああいう仕事も大変だなと思う。

日本人選手の動画のダイジェスト版を2本見て、「もうこれ以上はいいや」とyoutubeから去ろうとしていたとき、一本の動画が目に留まった。

「栃木県8位対決」

という動画である。どうやら栃木県の高校生の8位と、社会人の8位の試合(※コメント欄参照)ということらしい。
栃木県8位…ってどのぐらいのレベルなんだろう?栃木って卓球が盛んだったっけ?

栃木県は、女子は平野早矢香氏の出身地だし、レベルが高いイメージがあるが、男子はどうなんだろう?
そもそも、栃木県というのがどこにあるか、みなさんはご存じだろうか(関西の人はかなりの確率で位置を間違って覚えている)。

北関東
東京や神奈川は言うに及ばす、埼玉や千葉といった南関東の位置関係は知られているが、北関東は「どっちが群馬でどっちが栃木だっけ?」という人が多い。鳥のような形のAが群馬県(鶴舞う形の群馬県)で、ジャガイモのような形のBが栃木県である。

「めしだ会長」という人がこの動画のアップ主で、栃木県社会人ランキング?で8位の人らしい。

棒立ち

坊主頭で「無職」。第一印象はちょっと怖い人だった。

片面ペンドラの戦型だが、前傾姿勢で必死にフットワークを使って回り込むというスタイルではない。というか回り込みはあまりせず、ツッツキや遅いループドライブでまず相手に打たせてからラリーに持ち込むというスタイルのようだ。


https://www.youtube.com/watch?v=D-Pd-1Q6G0I

国際大会の動画の後にこの動画を見たら、そのレベルの差に驚いた。

めしだ氏の我流のフォームと、ゆっくりとした高いボール。それを今風のスタイルのシェークの男の子が低い速いボールで攻める。

サーブ→ツッツキ→ツッツキ(浮かす)→スマッシュ(ネットミス)

あっ、これは私たちがよく知っている卓球である。トップ選手たちの無駄のないフォームと低くて速いボールの応酬ではなく、空振りもすれば、打ちミスもする、そういう私たちの身近にある卓球である。

レシーブ失敗
回転を見誤り、ボールを浮かしてしまうめしだ氏。

動画の字幕でユーモアを交えながら戦術の説明などをしてくれている。

「サーブが甘くなってきたので、先にブロックさせてからオープンになったクロスを狙っていきます」
「(相手の)ロングサーブにも慣れてきたのでコースを散らしてレシーブ。なるべく強いボールは打たせないようにミス待ち」

この人、見かけによらず上手いぞ…。

なんとか先手を取って積極的に攻撃し、力で相手をねじ伏せるような卓球は強そうに見えるが、めしだ氏は自分からガンガン振っていくというタイプではなく、とりあえずミスせずボールを入れて、チャンスが来るのを待ち強打、あるいは相手のミスを誘って点を取るという戦い方である。しかも片面ペン。一見するとあまり強そうには見えない。

こういう戦い方で今風の若い人のイケイケ卓球といい勝負ができるというのは、相当頭を使った、繊細な卓球をしなければならないはずだ。

まず、サーブがうまい。よく切れていて深くて速いので相手が強打しにくい。さらにバックのブロックが固く、ミスが少ない。またボールのコントロールがすばらしい。そして台上での棒立ち姿勢からは想像できないほど、ラリーになると前後に大きく動く。そして時には豪快なフォアドライブ。

馬林ばりの回り込み
馬琳ばりの回り込みドライブを放つめしだ氏。

さすが栃木県8位である。私よりもはるかに強い。



https://www.youtube.com/watch?v=x2zW8uaKFjM

次の対戦は栃木県では知らない人はいないというムラムラムーラン氏との対戦。なお、ツイッターでの名前はペロペロペロンチョだそうである。
「ムラムラ?」「ペロンチョ!?」
一体どんな卓球をするのか。どうしても見てみたい。

 
https://www.youtube.com/watch?v=myzGCvqkUrg

さらにいくつか動画を見てみたのだが、どれもおもしろかった。

たとえば、栃木県の高校生の全国大会予選というのはどのぐらいレベルが高いのだろうか。
みな、整ったフォームでダイナミックな卓球をしているに違いない。おそらく、めしだ氏の動画のプレーよりもレベルが高いと思われる。しかし、私が観戦するなら、レベルの高い高校生の卓球よりも、めしだ氏(と、その仲間たち)の卓球を選ぶだろう。めしだ氏(と、その仲間たち)の卓球には個性がある。もっと見たいと思わせる何かがある。

上級者、ひいては国内トップ選手の試合というのはレベルが高すぎて、どこがどうすごいのかさっぱり分からない。見ていてあまり参考にならない。一方、めしだ氏の動画は、プレーのレベルは高いものの、手の届かない高さではない。私たち初中級者が見ても、いろいろ参考になる。

「あっ、今のミスは打点がちょっと低かったな」
「おぉ、ああいう戦い方をすれば強打者に強打を打たせずに主導権を握れるのか」
「こういうミス、私もよくやるなぁ」

自分よりレベルの低いプレーを見るのはあまりおもしろくないが、自分の手の届くレベルのうまい人のプレーを見るのはすごくおもしろい。

Tリーグ・プレミアの開幕が近づいてきて、Tリーグに話題が集まってきているが、そういう高いレベルの卓球だけでなく、地域の社会人の個性的な卓球も非常におもしろいと思う。こういう草の根ユーチューバーがもっと増えてくれるとありがたい。

哀愁のピアノ

なお、めしだ氏は現在国家試験の準備のため、動画投稿を控えると宣言している。無事合格して、動画投稿を再開してほしいものである。