卓球で威力のあるショットを打つにはラバーにこだわらなくてはいけないのだろうか。

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私の裏ソフトラバーに対する認識は、いたってシンプルである。

A 高性能ラバー:テナジーやファスターク、ラクザXといった各社の看板ラバー
B 中性能ラバー:ベガやファクティブ、ライガンといった比較的低価格のラバーや柔らかめのテンションラバー
C 低性能ラバー:スレイバーやマークVといった高弾性ラバー
D その他のラバー:中国ラバーや入門者向けラバー(オリジナルとか、レトラとか)

用具に詳しい人にとってはAの高性能ラバーとBの中性能ラバーは全く違うだろうし、高性能ラバーの中でもいろいろ違いがあるのかもしれないが、私にはAとBの違いがあまり分からない。特に使い古して引っ掛かりが弱くなってくると、その傾向はますます強くなる。

今、私が使っているラバーはフォア面がAの特厚、バック面がCの中である。Aは表面が白茶けてきて、ずいぶん引っ掛かりが弱くなっている。こういう状態になったら、以前なら早めに新品に替えていたのだが、今回はしつこく使い続けている。というのはドライブの打ち方を変えたことによって、引っかかりが弱くなってもあまり打球に影響がなくなったからなのだ。以前は薄くこするような打ち方だったので、引っ掛かりが弱くなると、滑るような気がして心もとなかったが、最近はぶつけるような打ち方のドライブを打つので使い古したラバーでも最低限のひっかかりがあれば打球にあまり影響がない。そしてバック面にはCの高弾性ラバーの、中を使ってみた。これはたまたまうちに保管してあったのを、使わないままだったら、もったいないと使ってみたのだが、なんだ、全然いけるじゃないか。

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Cのラバーの代表格「マーク・ファイブ」。
30年以上前だったら、今のテナジーのような位置づけだったのだが。


初めてAやBのテンション系ラバーを使ってみたときは、その許容度の高さに驚いたものだ。Cのラバーなら落としてしまうボールもテンション系なら入ることが多いし、打点を問わずビュンとスピードのあるボールも行きやすい。それ以来、Cのラバーを顧みることがなくなってしまったのだが、今、あえて低性能ラバーを使ってみると、勉強になる。打ち方が正しければ入るし、正しくなければ入らないというのがはっきりしているからである。下回転打ちやブロックをする場合などはそれが顕著で、早すぎる打点でドライブなりブロックなりをしたとき、AやBのラバーなら入っていたボールがCのラバーだとネットにひっかけてしまうことがよくある。それで打点をしっかり意識しながらドライブやブロックをするようになる。裏面ドライブを打つ場合でも頂点前の相手のボールの威力が残っている間に(つまり、軽くカウンターのように)当てると、CのラバーでもAのラバーと遜色ないスピードのボールが打てる(前陣なら)が、打点を落としてから打とうとすると、あまりいいボールが出ない。相手のボールの力を借りるのを「借力」と、中国卓球で言うらしいが、Cのラバーを使えば相手のボールの力を借りた時と、借りない時の違いがはっきりと感じられる。Cのラバーというのは適切な打点を知るのに非常に有益だと再認識した。

前記事「ボールの生き死に」で「生きたボール」について考えてみた。そのとき私は試合で打たれるような「スピンや勢いのあるボール」を「生きたボール」としたのだが、今回は向かってくる勢いの強い、頂点付近までのボールを「生きたボール」とし、頂点を過ぎて、勢いを失いつつあるボールを「死んだボール」と考えることにする。

性能の低いラバーで威力を出すためにはどうしてもボールが生きている間にボールの勢いを利用して打たなければならない。AやBのラバーを使うようになってから、このボールの生き死にについてあまり気をつけなくなってきたように思う。しかし、Cのラバーを使うようになってから、どうしてもボールの生きているうちに打球しなくてはと思うようになった。

ラバーの性能というのは、諸々の条件で変わるので、常にA>B>Cの順にいいボールが打てるというわけではない。Cのラバーでも、全身を使って最適の打点でドライブを打てば、Aのラバーで下手な打ち方をしたときよりもよほどいいボールが出る。最近、打球タイミングのシビアな中国ラバーを好んで使う人が増えているが、もしかしたら、そういう人の中にも私と同じ意識の人がいるかもしれない。

そういうことを思い出させてくれたCのラバーをこれからもしばらく使い続けたいと思う。

もちろん、どのように打てばいいボールが出るかという基準がはっきり分かっている中上級者なら、わざわざCのラバーを使う必要はないだろうが、基本のできていない初中級者はCのラバーをあえて使うのもアリだと思う(前記事「諸刃の刃」)。

毎年いろいろなラバーが各社から発売され、世間でも「ラバーXよりも、ラバーYのほうが威力が出る」「いや、回転はYよりもZのほうがかかる」などとかまびすしいが、本当にそうだろうか。絶対的な性能でいえば、そうかもしれないけれど、初中級者にとっては、ラバーをより「高性能」なものに変えるよりも打ち方や打点を改善したほうがよほど威力が増すのは明白である。初中級者の打ち方は未発達で伸びしろが大きいからである。マークVを全日本に出るような上級者が使えば、テナジーを使っている初中級者よりもずっと威力のあるボールが出ることは想像に難くない。上級者は用具を性能の限界近くまで使い切れるだけでなく、全身の力を効率的にボールに伝えられるからである。

初中級者がラバーの絶対的な性能によってボールの質を上げようとすると、自分の打法の改善のほうに目が向かなくなりがちで、かえって上達が遅れてしまうことにもなりかねない。