「私は、年下の美誠(伊藤)ちゃんや美宇(平野)ちゃんたちの中にいて、彼女たちに追いつこうと必死にやってきたんです。強い選手、勝ち続けている選手は緻密ですし、総合力が高い。私はひとつが飛びぬけているけど、ダメなものも多い。…」森園美月選手インタビューより)

「緻密」という言葉が目に留まった。強い選手は卓球が緻密なのだという。

緻密というのはどういうことなのだろうか。

私がまずイメージしたのは戦術の緻密さである。「フォア前に切れていないサーブを出して、クロスへのフリックを誘い、それをフォアドライブでストレートかミドルにカウンターで狙い打つ…」のようにサーブから3球目、5球目の展開を計算しておき、相手の打球を先回りして待ちかまえているといったふうに緻密なのではないかと想像していた。

しかし、もしかしたら、それ以外の緻密さのことを指しているのかもしれない。

 
Q. なぜ、ボルは強いのか? vol.1
https://www.youtube.com/watch?v=JVaYNWj2how&t=0s

たとえば、上のティモ・ボル選手の衰えない強さを解説した動画の中で、こんなことを言っていた。
「数cmの差にこだわってサービスを出すのが私のサービス戦術でそれが自分の最大の長所だと思います。」
Boll selfcommentary

数センチといえば、ボール1個分以下(おそらく)である。第一バウンドなら誰でもそれぐらいの精度で出せるかもしれないが、回転量を変えながら第二バウンドまでコントロールするのは難しいだろう。さらにボル選手はコースをあちこちに変えながら数センチの誤差で出すというだから、一般愛好家がそうそう真似できるものではない(当たり前か)。

次に最近見たWRMの動画である。やっすん氏の動画はいつも内容が深く、教えられることが多いが、今回も非常に有益な動画だった。
やっすん氏がフォア側2/3の範囲のフットワーク練習で意識しているポイントを公開してくれた。


やっすんが大切にする、フットワーク練習の意識とは
https://www.youtube.com/watch?v=SGSmVs3iSCA&t=132s

「どこからどこまで動くのかという基準をはっきりさせることですね。」

たとえば、フォア側2/3の範囲をオールフォアで動くというフットワーク練習の例でいうと、


フォアの身体の位置
「フォア打つときはこの辺」

ちょうどセンターラインのあたり(ややフォア寄り)に身体の中心がくると、フォア角にラケットが届く。
そして今度はバック側のボールをフォアで打つときなのだが、

バック側の身体の位置(悪い例)
「動いているつもりで、(実際は)腕を伸び縮みさせながら打っている方がいる」

あ…これはまさに私のことだ。
バック側に動くとき、下半身のことを忘れてしまい、まずラケットをボールに当てることばかり考えた結果、十分移動できず、中途半端な状態でラケットを振ってしまい、詰まりながら打ってしまうのだ。

バック側の身体の位置(良い例)
「同じような(身体の)ポイントで打つには、この辺まで動かないといけないんですよね。」

うすうす感づいてはいたが…詰まらないでバックサイドのボールを打つためには、やはり身体が台の外側に出るまで動かないと、ダメなのである(成人男性の場合)

やっすん「これすごい意識してます。」

私はバック側に来たボールを打つとき、どこまで身体が移動すれば(足を動かせば)打てるかなんてことは意識せずに感覚で動いてしまい、よく詰まってしまう。上級者は、なんとなくそこまで動いているのではなくて、「ここまで身体を移動させれば、ここのボールが打てる」のようにしっかり身体の位置とボールの打てる位置の関係を意識して動いているのである。逆に言うと、そういう距離感を強く意識しないと、つい横着して十分動ききれないまま打ってしまうということなのだ。

上級者はこういう数センチ、あるいは十数センチの違いを決してないがしろにしない。しっかりと自分の中で意識している。振り返って私はどのポイントでボールをバウンドさせて、どこまで足を動かすといったことにとんと無頓着である。これでは卓球がうまくなるはずがない。

「いや、世界トップレベルの超上級者や、全日本に出場するような上級者と一般愛好家は違う」

という意見もあるかもしれないが、少なくとも一般愛好家でも一定のコースへのサービスなら第一バウンド、がんばれば第二バウンドも一定の長さにコントロールできるはずである。回り込みのときの身体と台の距離感だって愛好家でもある程度は決めておくことができる。

仕事で締め切りを守って書類を提出したり、遅刻しないで出社したりといったことは社会人なら誰でもできるはずである。こんなことだってよく考えてみたら、かなり緻密な行動である。平凡な社会人だって毎日いろいろなことが起こる。締め切りの2日前に大きな書類上のミスが発覚したとか、朝起きたら、炊飯器が壊れていたり、うっかりクロックスを履いて電車に乗ってしまったり(私も実際にこういうことがあった)とか。そんなときでもなんとか締め切りを守って書類を提出できるし、遅刻せずに会社にたどり着けるではないか。そのような仕事での精度を卓球で発揮できないことがあろうか。

冒頭の森園選手の言う緻密さというのはこのようなレベルにとどまらず、卓球のあらゆる場面をカバーしているのだと思うが、最近、レシーブしたボールをネットからどのぐらいの距離に落とすべきかということとフットワークに興味があったので、このような点のみを取り上げてみた。