著者の近藤欽司氏は女子日本代表監督も務めた名指導者。
御年76歳。
昨今の出版事情を鑑みると、これが最後の著作になるかもしれない。
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雑誌の技術記事と比べると、卓球書というのは退屈なイメージがある。
どの本も
「卓球は楽しい」
「卓球のルール」
「ラケットとラバーの種類」
「サービス、レシーブ、ドライブ、ブロック等の各打法」
「練習メニュー」
といった章段によって構成されており、目新しい発見に乏しい。雑誌記事のほうが詳しく具体的で読みがいがあるものが多い。
しかし、本当にそうだろうか。
雑誌記事というのは過去の記事が顧みられることは少ないが、著作というのは図書館などに蔵書され、数十年後まで人々に顧みられることになるし、著者の「作品」として自身のプロフィール欄に記載されるのだから、書く側としてはそれなりに力を入れて書くものである。雑誌記事の執筆よりも著作の執筆の方が多くの時間を費やし、力を入れることになるのは当然のことと言えよう。
雑誌記事というのは過去の記事が顧みられることは少ないが、著作というのは図書館などに蔵書され、数十年後まで人々に顧みられることになるし、著者の「作品」として自身のプロフィール欄に記載されるのだから、書く側としてはそれなりに力を入れて書くものである。雑誌記事の執筆よりも著作の執筆の方が多くの時間を費やし、力を入れることになるのは当然のことと言えよう。
ただ、この「力を入れる」というのは卓球でも執筆でもマイナスに働くことがままある。
処女出版のときは、自分の持つ知識の限りをあれもこれもと詰め込んでしまった結果、情報量が多すぎて主張がぼやけてしまい、読みにくくなりがちである。それが二作目以降となると、情報量と読みやすさのバランスを考えるようになり、まとまりもよくなる(前記事「卓球警句」)。そして最後の出版となると、おそらく「これだけは!」という必要最低限の厳選された情報だけに絞って書くようになるのではないかと想像される。
処女出版のときは、自分の持つ知識の限りをあれもこれもと詰め込んでしまった結果、情報量が多すぎて主張がぼやけてしまい、読みにくくなりがちである。それが二作目以降となると、情報量と読みやすさのバランスを考えるようになり、まとまりもよくなる(前記事「卓球警句」)。そして最後の出版となると、おそらく「これだけは!」という必要最低限の厳選された情報だけに絞って書くようになるのではないかと想像される。
実際『新しい卓球の教科書』も情報量は決して多くはない。そして同じ主張が繰り返し現れる。これは著者の50年にわたる指導経験から確立された、ぶれない指導姿勢と言えるだろう。
『新しい卓球の教科書』という書名にも意気込みが感じられる。流行に左右されない、数十年の参照にも堪える、卓球の本質が書かれているという自負の現れなのかもしれない。教科書というのは参考書などと違い、やたらと詳しく書かれているわけではない。枝葉の情報は削ぎ、必要最低限の骨組みだけが書かれているものである。この本は近藤氏の考える、卓球で最も大切な核心の部分を厳選して綴ったものと言えるだろう。
前置きが長くなったが、この本を読んだ感想を記してみよう。
この本は表紙に「試合に勝てる!」とうたっているように試合で勝つことを目的とした卓球書である。
内容は非常にシンプルな主張から展開されている。
内容は非常にシンプルな主張から展開されている。
「卓球のラリーの7~8割はせいぜい6球目で終わってしまう。だからその6球目までで得点できる展開を考えましょう」ということである。こういうデータがあるのは知っている。たしか卓球部の大学生の試合を分析したものだったと思う。6球目というと、あっという間である。交互に打つわけだから、得点までに自分がボールを打てるチャンスはわずか3球である。最後に自分が強打を打とうと思ったら、残りの2球をなんとなく返球するのではなく、その2球で確実に仕掛けを入れていかなければならない。無駄な「球目」は一つもないと言ってもいいだろう。自分にサーブ権があるときは、サーブから仕掛けていかなければならない。
私の場合で言えば、試合の時は、相手のボールを返すのがやっとで、どうやって5~6球目で決めればいいのかまで考えが及ばないことが多い。ついなんとなくダラダラと行き当たりばったりでラリーを続けてしまう。しかし、名指導者にこういう現実を示されると、1~2球目に臨んだ時点で、次の展開と、さらに次の次の展開まで考えておかなければならない、一球も無駄にはできないと襟が正される思いである。
そして近藤氏は言う、「卓球は守りが難しい競技」であると。
したがって相手よりも先に攻撃することが試合を有利に進める上でのポイントになる。
では、練習はどうすれば良いかというと、点を取る部分を高める練習は当然必要です。自分のサーブから3球目、5球目で先手を取って連続攻撃をしていく。これは基本的な「得点力」ですね。それから、いくら点を取っても、それ以上に点を取られては勝てないわけですから、取られる部分を少なくする「対応力」の練習も必要です。相手も得点力がありますから、それをいかに防ぐか、失点を減らす部分ですね。
攻撃が大切だといっても、何が何でも先手をとらなければならないというわけではない。相手も先手を取ろうとしているのだから、どうしても先手を取れない場合もある。そういう場合は無理して攻撃するのではなく、「対応力」(相手に先手を取られた場合にしのぐ守備力のことか)を高めて次の攻撃のチャンスをうかがうのである。
だから、練習の基本は「得点力」を高めるか、「対応力」を高めるか、これが大きな柱になります。
単純なミスを減らして、粘り強くするというのも必要ですが、甘いコースに打って相手に打たれたらいけませんから、コースをついたり、強くは返さないけれども、安定して低く深く返すという部分も練習のテーマとして必要です。この3つが、練習の大きなテーマになります。
さらにできるだけ相手に強く攻めさせない能力――低く厳しく返球する能力も大切だと述べる。この第三の能力には名前がないが、相手の一発強打を未然に防ぐという意味で「防御力」とでも呼べようか。
以上が競技卓球に対する近藤氏の基本的な思想だと思われる。
それに4つの戦型(A~D型)、7つの「技の感覚」(こする、はじく、うけとめる、相手のボールを利用する、流す、切る、切らない)、4つの「技」(決める、守る、つなぐ、仕掛ける)、を組み合わせて卓球を論じているのである。
戦型について少し補足すると、A型は一発強打で勝負するタイプ。B型はラリーを続けて点を取るタイプ。C型は異質ラバーで相手を惑わすタイプ。D型はカット型である。
私の取り柄はフォアドライブなので、A型になるだろうか。
A型は3球目で強打をするため、サーブのレベルを上げることが重要で、たとえばボールの下側をこする下回転のサーブを出し相手にツッツキのレシーブをさせ強打していくわけです。
なるほど。質の高い下回転サーブを磨くことが必要なのか。
A型は一発で決めに行くわけですから、長いラリーを続けてしまうと、良さが消えてしまいます。…フォアハンドの強打を出すためには足の動きが重要になってきます。フットワークが重要視される戦型なので、「自分は動きや反応が少し遅い」という選手には向かない戦型になります。
う~ん。私はフットワークに難があるので、A型には向かないようだ。初心者はとりあえずB型を目指すべきだとある。
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この本は、即効性のあるコツや詳しい知識といったものはそれほど多くない、地味な本に見える。しかし何度も読み返すことによって基本に立ち返ることができ、いろいろな発見もあるかもしれない(私は通読しただけなので、見落としも多いことだろう)。
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