将棋の駒で最も強い駒は飛車だろう。
ob_1d64d6_shogi

誰もが飛車を大切にしてできるだけ取らせないように気をつかう。一方、歩は取られたところでさして痛くもない。
将棋の駒を卓球の打法に喩えるならば、飛車はさしずめフォアドライブだろうか。ペン表の人なら飛車はフォアスマッシュかもしれない。バックが得意な人なら、バックドライブが飛車の位置づけかもしれない。

一般的にいうと、バックドライブは角といったところか。ペンならバックプッシュだろうか。
私の中ではフリックやチキータは銀で、ブロックは金というイメージである。
サービスは桂馬で、ストップは香車かな。
では、歩はなんだろうか。
人によってイメージは違うだろうが、私の中ではツッツキである。

友人とツッツキは試合で使う機会がほとんどないという話をしたことがある。たとえばショートサーブに対してツッツキを使ったら、相手に両ハンドで待たれてドライブ強打をくらってしまう。ツッツキを使うぐらいなら、ストップとかフリックを使ったほうが主導権を取りやすい。ツッツキというのは地味だし、相手にとっては絶好球になってしまうし、使いどころがない。

真下回転サーブはチキータされにくいのだそうだ。


 
https://youtu.be/m9-lKZiXIiw?t=1473

といっても、上級者は来る場所さえ分かっていれば、いくら切れていて低い下回転ショートサーブでも、簡単にチキータできるのだという。そこで下回転サーブを同じモーションからフォア側に出したり、バック側に出したりする。といってもスピードの遅い下回転サーブをコースを散らして出したところで限界がある。同じところに出すよりはマシだが、慣れられてしまったら、やはり簡単にチキータされてしまうだろう。そこでスピードの速いロングサーブを同じモーションから出すようにすると、下回転ショートサーブが生きる。一つの技では効果は薄いが、二つの技を組み合わせて使うと効果が倍増する。逆にずっと速いロングサーブを出していたら、いくら切れた速いロングサーブでも効果は薄いだろう。短いサーブと組み合わせることによってこそロングサーブが生きるのである。

ツッツキで考えると、ツッツキの質を単独で高めるだけではなく、ツッツキとストップを併用することでツッツキの価値は倍増する。つまり、ツッツキをすると見せかけて、同じ体勢からストップをしてみたり、ストップと見せかけて深いツッツキをしてみると、単独では非力なツッツキといえども相手にとっては脅威になりうるのである。

以上は一つの場面でどの技術を選択するかという範列的な関係で考えてみたのだが、今度は統語的な関係で考えてみる。

初中級者はフォアドライブ等の「強い」打法を単独で磨けば試合に勝てると思いがちだが、試合ではだいたいそのようなおいしいシチュエーションはめぐってこない。いくら威力のあるフォアドライブを持っていても、それを試合では全く打たせてもらえないことも珍しくない。そこでツッツキが生きる。相手のショートサーブに対して低くて速いツッツキでガツンと相手のミドルを突くと、相手は詰まって甘い返球をすることが多い。それを待ち受けて4球目でフォアドライブが強打できるのである。



上の動画で「3球目でチキータを打つにはどうするか」という視聴者の質問に村田コーチはしばらく、考え込んで次のように答えた。
https://youtu.be/yuUwCIU9src?t=812

曰く、ふつうは3球目をチキータで待つシチュエーションはほとんどなく、長いボールを待っていたところでストップが来て、急遽方向転換して3球目でチキータを打つというのなら、ありうるシチュエーションだというのだ。

質問者はおそらく1球目のサーブとの関連をあまり考えず、単独でのチキータで主導権を握るためのコツを知りたかったのではないかと思う。しかし、上級者以上になると、単独での技をあまり考えることができず、常に他の技との統語的な連続で考えてしまう。それでチキータを3球目で待つことはほとんどないというような答えが出てくるのだと思う。

b6e17be0

将棋では飛車が眼の前の歩をとれずに退散させられたり、むざむざと飛車を歩にとらせたりするといったことが起こる。同様に卓球でもタイムリーなツッツキの前に強烈なフォアドライブが不発に終わるといったこともありうる。ツッツキ単独では簡単にフォアドライブの餌食となってしまうが、そのツッツキの前にストップを噛ませたりすれば、ツッツキが豹変して決定打となることもありうる。

前記事「要素構成主義を超えて」で単独の打法だけをひたすら学んでもあまり効果はないと主張したが、地味な打法でも合わせ技で、効果的なつかいどころを見い出せれば、相手にとって脅威になりうるだろう。


【付記】
今週末を利用して小旅行に行ってくるので、コメントなどをいただいても対応できないことを予め申し上げておく。