前記事「卓球は人なり」があまりにも中途半端な内容だったので、後味が悪い。口直しにもう1本、記事を書いてみた。

ドイツオープンが開催中だが、スウェーデンのモアガルド選手の試合に注目している。昨年末の世界ジュニアで中国の若手二人を破り、優勝まであと一歩のところまで行った才能が今大会でどう開花するか興味があったのである。

U21の準決勝 安宰賢(AN Jaehyun)選手との試合で、モアガルド選手の個性的なプレーの数々に唸らされた。



打点の早いすごいピッチのラリーを展開していく一方で、ミスが少なく随所に独創的なプレーを繰り出してくる。バックハンドのブロックでコースを巧みに打ち分けるのだが、それを拾いまくる安選手も大したものだ。

モアガルド選手はやっとのことで安選手を下し、決勝へ。

決勝の相手はフランスのSEYFRIED Joe(読みはセイフリード? シーフリード?)選手。聞いたことがない選手だ。
SEYFRIED01
たぶん十代だと思うのだが、日本人の感覚からすると、20代後半に見える。

fence
フェンスを軽々とまたぐ足の長さ。


tall2
176センチの方博選手が子供に見えるほどの長身。190センチ近くありそうだ。



モアガルド選手との決勝戦。しょっぱなのサーブでフォルトをとられる。

serve

インパクトが顔で隠れていたようだ。
気を取り直してもう一度サーブを出すも、またもやフォールト。

SEYFRIED
フランス語が分からないので、雰囲気から察すると、
「オウオウ、オッサン、俺のサーブのどこがフォールトやねん!」
のようなことを言っているのではないかと想像される。こんな大男に詰め寄られたら、さぞ怖いことだろう。しかし審判は一切抗議を受け付けない。

そして試合は大幅に中断。やがてSEYFRIED選手が引き下がり、試合再開されるも、その後もしばしばフォールトをとられ、SEYFRIED選手はどうしても納得が行かない様子。また審判のところへ抗議に行く。一般的な日本人なら「私のせいであんまり中断したらみんなに迷惑だし…」のように考えてしまうだろうが、SEYFRIED選手は一向に気にしていないようだ。ずっと審判と交渉している。

いつまで経っても再開しないので、うんざりしたモアガルド選手が「ほら!バックサーブなら絶対フォールトにならないよ」と、たぶんスウェーデン語で提案し、

backserve
「これなら大丈夫! ね?審判さん。」

SEYFRIED選手もその提案を受け入れ、バックサーブで試合を再開することになったようだ。

SEYFRIED選手は気も強いが、卓球も強かった。バックサーブからの展開にあまり慣れていなかったようで、ちょっとミスも多かったが、フォアドライブがすさまじく速く、威力がありそうだ。そりゃあ190センチの大男が全力でフォアドライブを打ったら、とんでもないボールが出るだろう。バックサーブからの展開はモアガルド選手のほうもあまり慣れていなかったようで、準決勝の生き生きとしたプレーはすっかり影を潜めてしまった。

giri

自分が提案したことに責任を感じたからか、モアガルド選手も義理でバックサーブをしばらく出し続けた。モアガルド選手も自分のバックサーブからの展開はやりにくそうだ。

モアガルド選手は結局最後まで調子が出ずに敗れてしまう。

この試合を観て、モアガルド選手のフェアプレーに喝采を送りたい一方で、付き合いで自分までバックサーブを出すという甘さに15歳という年齢を感じないわけにはいかなかった。

プロの試合というのは、相手の弱みにつけこむぐらいの非情さが必要である。水泳で金メダルをとった北島康介選手は「相手をぶっ殺してやる」というぐらいの気持ちでオリンピックに臨んだとインタビューで答えている(前記事「水谷隼選手の面魂」)。

松本薫
オリンピックの柔道で金メダルを取った松本薫選手も、入場のときは鬼気迫る表情だった。口のなかで何かブツブツ言っているのをテレビで見ていたのだが、おそらく「この野郎…絶対にぶっ殺してやる」といったことをつぶやいていたのだと思われる。こういうメンタルにならないとオリンピックで金メダルなんてとれっこない(たぶん)

モアガルド選手も試合中は「このフランス野郎!てめぇがどんなサーブ出そうが結局俺に喰われる運命なんだよ!絶望の淵に突き落としてやる」ぐらいの気持ちで相手を完膚なきまでに叩きのめしてほしかった。紳士に戻るのは試合後で十分である。

その点、SEYFRIED選手の試合にかける意気込みはプロだった。自分のせいで相手にも迷惑をかけたなどという遠慮や萎縮を全く感じさせず、堂々と戦い、勝利を勝ち取った。このドイツオープンのU21では木造選手や及川選手が出場していたが、上位進出はならなかった。彼らだって相当高いポテンシャルを持っていると思うのだが、いい結果が出せないのは、もしかしたらメンタルのタフさが足りないのではないか(根拠のない推測に過ぎないが)

モアガルド選手は非情に徹しきれずに勝てる(はずの)試合を落としてしまった。残念というほかはない。

ただ、私はこれまでの試合を観て、モアガルド選手の振る舞いや態度にそれほど好感を持っていなかったのだが、この試合を観て、モアガルド選手のことがちょっと好きになってしまった。