動くのもままならない状態で、私はなぜこんなところに立っているんだろう。

アクアリーナ

連休中に知人にスケート場に連れてきてもらったのだった。

スケートは小学生の時、1回だけやったことがあったが、それきりで、完全な初心者である。おそらくまっすぐ滑るぐらいならできるだろう。

京都アクアリーナ。ここは夏はプールで、冬はスケート場になる。あ、冬でも温水プールはやっているか。阪急電車の西京極駅下車。以前、日本リーグを観に来た場所だ(前記事「みにいくつもりじゃなかった」)。入り口で入場券を買う。靴のレンタル料込みで2050円!高い…のか?時間制限はないから、9時から21時まで楽しめると考えれば、高いとは言えない。しかし、ふつうは2時間も滑れば十分だろう。卓球なら2時間で一人1000円強ということを考えると、ちょっと割高な感じは否めない。

連休とあってスケートリンクはずいぶんにぎわっていた。こんなに人がウヨウヨいるところで私のような初心者が人にぶつからず、ちゃんと滑れるんだろうか。玉突き事故でも起こすのではないか。それ以前に、スケートというのは本当におもしろいんだろうか。ただグルグル回っているだけじゃないか。他のスポーツを体験することによって何か卓球に益することもあろうかと思って来てみたのだが、みんなグルグル滑っているだけで楽しそうには見えない。20~30分も滑れば飽きてしまいそうだ。

「スキーは足の形を八の字にすればいいですが、スケートは逆の八の字、つまり前のほうが開いた形で滑るといいですよ。」

なるほど、なんとなく私にもできそうな気がしてきた。

リンクに降りて、一歩足を踏み出したとたん、その考えが甘かったことに気づいた。軽く一歩、いや、半歩踏み出しただけにもかかわらず、仏倒れしそうになってしまった。滑るどころか、動くことさえできない…。

「はじめから滑ろうとしてはいけません。足を逆八の字にして、ペンギンのように左右に身体を傾けてヨタヨタ歩いてください。足を高く上げてはいけません。ほんの数センチ上げるだけでいいですよ。」

知人の教えてくれたように、ペンギンのように直立して足を曲げずに少しずつ歩いてみる。なんとか倒れないでいられる。滑るというより、カツカツと足踏みをしているだけと言ったほうが近い。ペンギンの歩く姿をイメージし、脚をまっすぐにして体全体を右、左と軽く傾けていると少し前進する。

あ、滑れるかな?と思った瞬間、バランスを崩してまた倒れそうになる。

そんなことを数十分繰り返していると、少しずつ、コツが分かってきた。これは卓球でいうところの体幹を使ってスイングするのに似ている。足首や膝といった脚の先端寄りの部分が主導して脚全体を動かそうとするとバランスを崩しやすい。卓球で言えば手打ちのようなものである。そうではなく、もっと身体の中心に近い部分――股関節、いやもっと上の臍下丹田あたりから下半身を動かそうとするとバランスが崩れにくい。そして次第に足のスタンスも広くなってくる。はじめのうちは棒立ちに近い形で滑っていたのだが、足を大きく開き、ヒザをやや曲げ、重心を低くすることによって、倒れにくい安定した姿勢になる。

それにしても足が痛い。私の靴のサイズは26.5だが、余裕をもって27センチのスケート靴を借りたところ、足に合わず、20分も滑ったら、足が痛くてたまらなくなってきた。靴借り場で26.5の靴に取り換えてもらう。すると、かなり足の痛みがマシになった。卓球でもサイズに余裕のあるシューズはよくないのだろうか(あとで26センチも試してみたが、纏足の苦しさが分かるような気がした)。

またリンクに降りて、滑ってみる。脚を大きく開き、臍下丹田に力を込め、猫背のような姿勢をとってみると、さらに安定することが分かった。少し滑れるようになり、今度はペンギンのように体重移動するだけでなく、片足ずつ外側に押し出すように滑ってみる。ここまで来てやっと「滑っている」と言えるぐらいになった。

楽しい。ただグルグル回っているだけなのにいくらやっても飽きない。周りで滑っている初心者もキャーキャー言いながら楽しんでいるようだ。どうしてこんな単純な運動が楽しいのだろうか。ひるがえって卓球で初心者同士が自由に打って1時間以上楽しめるものだろうか。初心者はラリーがあまり続かないので、せいぜい1時間ぐらいで飽きてしまうのではないだろうか。卓球も何か初心者が長時間楽しめる工夫がほしいものだ。スケートは足の動かし方や、重心などのちょっとした工夫がすぐに滑りに現れるので初心者が取り組みやすいスポーツなのかもしれない。

2~3時間悪戦苦闘して、なんとか私も滑れるようになってきた(うまく止まれないが)

テレビで見たスピードスケートの選手のように上半身を低くして、腕を振り子のように振ってスピードを出してみる。

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あ、この動きはフォアハンドドライブを打つときの少し近い。これはきっとスポーツを問わず、身体に力を入れやすい、理に適った姿勢に違いない。このイメージでフォアハンドドライブを打つといいドライブが打てるかもしれない(ただ、卓球の場合はこんなに上体を低くしてはいけないかもしれない)

卓球でもよく

「姿勢を低く」
「足を使って」
「腹に力を込めて」

などと言われる。私もこういうことを思い出しては試してみるのだが、なんだかしっくりこなかった。頭ではこうしたほうがいいとは分かっているのだが、実際にやってみると違和感があった。

しかし、このスケートのときのイメージで後日フォアハンドドライブを打ったら、違和感をあまり感じなかった。姿勢を低くするというのも、今まではなんだか義務のように無理やり前傾姿勢をとったり、低い姿勢をとろうとしていたのだが、スケートをイメージすることで、その姿勢が自然に感じられる。スケートはバランスのとりかたがデリケートで、不自然な重心移動や脚の先端の力みがあると、それがすぐに転倒に直結する。身体のバランスを意識するのにスケートは有益なのではなかろうか。

スケートのイメージで卓球をすると、身体のバランスを崩さないような低い姿勢が受け入れられるようになるかもしれない。脚の先端に力を入れると転倒しそうになるから、腹に力を入れて足を踏ん張るとか、身体に軸を作るとかすると、身体のパーツが有機的につながってくるように感じられる。

それから滑っているときに感じたのは、ドッヂボールでボールをおなかの辺りで受け止めるような感覚で滑ると、より安定するということである。

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このようにおなかにボールを受けるようなイメージで卓球のボールを迎えるのも効果がありそうな気がする。

スケートの経験が卓球に役立つかどうかは人によるだろうが、私は身体の重心やバランスを考えるきっかけになり、2050円の元はとれたように感じた。スケートに限らず、他競技のイメージで卓球をすると、思わぬ発見があるかもしれない。