子供叱るな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの
来た道行く道二人旅 これから通る今日の道
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卓球を再開して10年近くになろうか。
中学時代まで卓球部に所属していたが、なにぶん田舎だったもので、環境がひどかった。指導者がいないのはもちろん、上手な人もいない。せいぜいシングルで県大会に出場して2回戦に進めるかどうかという先輩が4~5年前にいたという程度だった。大きな大会が開かれることもないから、全国レベルの選手のプレーを目の当たりにすることもなかった。卓球用具を買うためには自転車で40分もかかる道をからっ風の中の走らなければならなかったし、そういう店でしか『卓球レポート』は売っていなかった。情報は皆無に近かった。

Appelgren

当然の帰結として我流の卓球にならざるをえない。ロングサーブとショートサーブの違い(台上で2バウンドするかどうかなど気にしたことがなかった)も知らず、ボールの質の違いなどお構いなしで、腕力だけでがむしゃらに両ハンドを振るだけの卓球。とにかくスピードのあるボールを打つことしか考えていなかった。行き当たりばったりで、イチかバチかの感覚勝負。これじゃ上達するはずがない。
安定性とも無縁だった。調子がいいとき(数か月に1度しかない)は何でも入るし、調子が悪い時は何も入らない。

どうして調子が悪いのか自分で分からないので、原因帰属はいつも「外的」。

「ラバーが悪いのかな?」
「相手が変なボールばかり打ってくるから調子が狂う」
「今日は入らない日だ…」

そんな山猿のような卓球をしていた自分が二十数年ぶりに卓球を再開し、現代の最新の卓球に触れた時の驚きと言ったらなかった。

「卓球ってこんなに深く、繊細なものだったのか!」

それからもう10年近い歳月が流れ、あのころの感動や記憶が薄れつつある。その記憶が残っているうちに私の覚えた感動や発見を少しでも記しておきたい。今から考えるとなんてことのない、当たり前のことばかりなのだが、初心者や情報のない卓球人のためにこういう私の経験は記すに値するのではないか。

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久しぶりに卓球と再会したのは、義理からだった。

知り合いのCさんが卓球のコーチをしていて、「よかったら、教室に来てみませんか?」と誘われたことがきっかけだった。卓球には全く興味を失っていた私だが、Cさんは定職がなく、生活も不安定だったので、私が卓球教室の生徒になって月謝を払い、少しでも助けてあげられたらと思ったのだった。また当時私は仕事のストレスや運動不足、不規則な生活から体調が悪く、人間ドックで内臓脂肪がついていると言われたので、運動でもしてみようと思っていたのだった。

用具はその知り合いからいただいた。

もちろん聞いたこともないラバーが貼ってあった。

「狂…このラバー、なんていうラバーなんですか?」

「キョウヒョウです。中国の粘着ラバーですよ。」

あぁ、そういえば中学の時の先輩がチョコレート色の中国粘着ラバーを貼っていたなぁ。中国のラバーはみんなこういう感じなのかな。マークVやスレイバー、タキネスで中学時代を過ごした私にはキョウヒョウがとりたてて弾まないとは感じなかった。しかし、なんだか日本のラバーとは違った感じだった。何が違うんだろう…。なんとなく、ゴム(シート)が汚くて硬い感じがする。日本のラバーは黒でももっと透明感のある黒だった感じがする。裏にはモリストというラバーが貼ってあった。ニッタクのラバーだが聞いたことがない。というか、ニッタクのラバーってあまり印象にないなぁ。中国ラバーはニッタクからしか発売されていなかったと思うが、ラバーといえば、ヤサカかバタフライ。表ソフトならTSP。他はあまり見たことがなかった。ニッタクはボールぐらいしかイメージがなかった。

「ラケットは5枚合板だから扱いやすいですよ。」

え?板が何枚かとか気にしたことがなかった。5枚合板だと扱いやすいのか。

それから何度か教室に通っているうちにまた驚くべき事実を知った。同じラケットでも個体差があって、10グラムぐらい重さが変わるらしい。よく考えれば天然の素材を使っているのだからそういうこともあるだろうと思いいたったのだが、それを見越して重量の重いラケットや軽いラケットを卓球ショップで選んで買うことができるというのを聞いて驚いた。今の卓球ショップにはそんなサービスがあるのか!いや、昔からあったのかもしれないが、私が田舎にいたころは聞いたことがなかった。というか、そんな10グラム程度のラケットの重さを気にする人がいることにも驚いた。そんなの誤差の範囲でしょ?どんだけ神経質なんだ!

それからラバーに硬度があるというのにも驚いた。私が昔卓球をやっていたころは、「スレイバーはなんとなく硬い感じがする。マークVのほうが打っていて気持ちいいなぁ」ぐらいしか気にしていなかったのに。38度だの、42度だの、そんな数値を聞いても硬さがさっぱりイメージできない(今でもよく分からない)。かつての私がラバーを選ぶときは、値段、厚さ、弾みだけで選んでいたが、現代ではそれに硬度とか、テンション加工の有無という要素が入ってくるようだ。スポンジの厚さというのは私の中では特厚、厚、中、薄ぐらいの区別はあったが、2.1ミリとか2.2ミリとか、中とか中厚とかゴクウスとか、現代ではもっと細分化されているようだ。私の周りでは「特厚」というのはちょっと弾みすぎなので、厚ぐらいを選ぶ人が多かったのだが、現代では男子の攻撃型の人はほとんどが特厚というか2.2ミリを選んでいるようだった。テンションって何だ?よく分からないが、これがあることによってよく弾むらしい(それだけではないというのは後で知る)。しかし、弾みすぎてもよくないんじゃないだろうか…。私はテンションラバーとか特厚にはあまり興味を引かれなかった(今ではテンション+特厚である)。ラバーで驚いたことの極めつけは、ラバーの重さを気にする人さえいることだ。ラクザ7よりもラクザ9のほうが重いから、7を選ぶといった会話を聞いたときはたまげた。ラケットの10グラムの重さよりもさらに微々たるものではないか。そんな違いがプレーに影響するものだろうか。上級者になると、同じラクザ7でも、個体差があるので、より自分に合う重さのものを選ぶのだという。

ボールのサイズが38ミリから40ミリ超となり、あれだけ隆盛を誇ったペンホルダーは今や少数派となり、アンチラバーは絶滅寸前。粒高ラバーにとってかわられた。接着剤は木工用ボンドのような貼りにくいものに変わっていた。

用具についての驚きもさることながら、当時の私にとっての驚きは、自分が下手だったということである。

地元ではけっこう強いと他校からマークされる存在で、1年生からレギュラーだった。ブランクは長かったが、今再開しても、卓球を始めて1~2年の中学生には負けないだろうと思っていたのだが、教室の女子中学生に負けてしまったorz。
コーチからははっきりとは言われなかったが、どうやら私の卓球は典型的なムチャ打ち卓球、ぶちかまし卓球で、相当矯正しなければ上達は難しいということらしかった。

【追記】171112
よく「何年も使っていると、湿気がラケットの内部深くに入り込み、弾みが悪くなる」と言われるが、本当だろうか。
もしかしたら、長年の打球による衝撃で板の繊維がつぶれ、弾力がなくなるのではないだろうか。「雨垂れ石を穿つ」というではないか。あるいはラバーの張替えなどによる表面の板へのダメージなどから板の繊維が寸断されて弾みが悪くなるのかもしれない…などとなんとなく思ってみたりする。