あなたは自分の身体の限界や特性を知っているだろうか。

たとえば

「今日は4時間ぐらいパソコンに向かって事務処理をしたから、集中して事務処理ができる時間はあと2時間ぐらいだ」
「午前中は肉体の限界の70%ぐらいで練習したから、午後は50%ぐらいのパフォーマンスで3時間ぐらい練習するのが精一杯だろう」

のように、自身の体力・知力の限界を知った上で客観的に自分の能力を配分できるだろうか。

若い時は自分の限界が無限に思えて、「2日間、徹夜すれば、この仕事は片付く!」のように無理な目標設定をして失敗していたが、中年になった今は「昨日はあまり寝ていないから、今日1日で本当に集中できるのは4時間だけだろう」のように冷静に自分のパフォーマンスを分析できる。

自分の身体を知るおもしろさというのを以下の本から学んだ。

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朝原宣治 『肉体マネジメント』幻冬舎新書

筆者の朝原氏は36歳のとき、北京オリンピックの400mリレーで銅メダルを取った陸上選手。体力がモロに結果に反映する陸上競技で、36歳という年齢にもかかわらず世界トップレベルの結果を出せるというのは信じられないことである。卓球なら30代の選手が10代、20代の選手に勝てるということも珍しくないが、陸上では難しいのではないだろうか。きっと何かおもしろい秘密があるに違いない。

本文中にこんな記述がある。
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僕の場合でいえば、同じ10秒15のタイムであっても、若い頃の10秒15と2007年に出した10秒15では、そのプロセスがまったく違っています。
 それが100mのようなスプリント競技の面白いところです。
若い頃は筋力に頼った動かし方で走っていました。自分から動かす意識が強かったと思います。それでも10秒15が出せました。
しかし、ベテランになってからの僕の筋力ではそれができなくなったので、体幹を固めて、地面からの反動をより効率的に利用することを考えた動きになった。【中略】自分から動かすというよりも、自然に進む技術を身につけたと言えます。さらに経験を積んでいくうちに、集中力や、練習の組み合わせ方、ピークを合わせる方法にも長けてきました。
2007年に出した10秒15は、総合力で成り立っているタイムです。
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肉体的にはピークを過ぎていても、工夫次第でいい結果を出せるというのはおもしろい。その工夫を手探りで見つけていくのだ。

例えば、あなたの趣味が「車」だったとする。トランスミッションはもちろんMTである。
あなたは次のようなことに興味を持つに違いない。

・時速100キロまで加速するのに何秒かかるか
・燃費はどのぐらいか
・近所の坂道を登る時、何速で走るのが一番走りやすいか。
・何キロぐらいのスピードで交差点を曲がったら、後輪が滑るのか。

さらにマフラーやタイヤを取り替えた場合には、どのぐらい性能が上がったかを確かめたくなるに違いない。

パソコンが趣味の人もメモリを増設したり、グラフィックボードを取り替えた時にパソコンの性能を確かめてみたいと思うはずだ。

こういう楽しみを自分の身体でしてみるという発想はなかった。自分のパフォーマンスがどんな時でも変わらなかったら、自分の身体について知りたいとは思わないだろう。しかし自分の身体のパフォーマンスは心がけやトレーニングでずいぶん変わってくる。たとえば前の晩に酒を飲んだら、次の日のパフォーマンスはいくらか落ちるかもしれない。逆に十分な睡眠をとって、朝、軽く部屋の掃除などをしたら、パフォーマンスがよくなるかもしれない。毎日朝1時間、晩1時間ジョギングしたら、もっといいパフォーマンスが出せるかもしれない。いろいろなことを試してみて、どんなことをすれば一番パフォーマンスが高まるのかを知るのは楽しそうである。

『肉体マネジメント』には以下の記述もある。

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そして、「体との対話」を繰り返していくうちに、人間の体には、動きを引き出すための「感覚」があることに気づきました。この動き方が良いという外見的なものではなく、自分の体の内面にある“型”のようなものです。その“型”をしっかり覚えておいて、そこにガチッとはまると良かった動きが再現できる。
それがわかってからは、がぜん競技が面白くなってきました。
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私も頭が冴えている時と、鈍い時がある。その調子の良さを引き出す「型」を把握して、大きな仕事の前にうまくその「型」にはめられたら、人生をかなり効率良く過ごせるに違いない。若いころのようなパワーのない、ポンコツ車でもチューンナップすれば、若いころと同じパフォーマンスを出せるなんて、ワクワクする。
肝心なときに自分の最高のパフォーマンスを出せるように自分を管理していけば、後輩などに「○○さんは、40代なのに全然衰えませんね」などと言われるかもしれない。