世界卓球2017をテレビで観たいのだが、なかなか時間が合わず、インターネットで少しずつ観ている。平野美宇選手は今大会も期待できそうだし、吉村・石川ペアのミックスダブルはもっと期待できそうだ。まだ観ていないが、男子のダブルも金メダルがとれるかもしれない。

ここまでいくつか試合を観ていて、最も印象的だったのは水谷選手対張本選手のシングルの試合である。
まさか水谷選手があれほど手も足も出せずに負けるとは意外だった。

無気力02

技術的なこともあるとは思うのだが、あの試合ではそもそも心理的に水谷選手は普通ではなかったように思う。この試合の水谷選手は今年のヨーロッパチャンピオンズリーグのプレーオフで全勝優勝を果たした時のような自信に満ち溢れた水谷選手ではなかった(ように見えた)。13歳の子供に大の大人、それも今、乗りに乗っている自分が本気でぶつかっていっては大人げないという心理状態だったのかもしれない。私にはその気持ちがよく分かる(前記事「時至不行 反受其殃」)。それでなんとなくモサっとしたプレーになってしまい、張本選手に先手を取られてしまったのではないか(そのへんは本人にしか分からないから、推測の域を出ないが)。

水谷選手は序盤ではいろいろなサーブを出していたが、中盤からはサービスをずっとフォア前に短く出していたような印象がある。

フォア前SV

それを張本選手に回り込まれ、バックによるフリック強打か、あるいはストップで止められ、強烈なフリックを打たれたら、防戦一方。ストップで止められたら、水谷選手もなぜかストップで応じ、ストップ合戦が続いたところで張本選手に先に強烈なフリックを打たれる…という試合展開だったように見えた。

いつもの水谷選手の冴えや閃きがなく、同じ展開をずっと繰り返し、張本選手にやりたい放題させていたように見えた。

しかし、一方で、水谷選手が絶好調で、心理状態も万全だったとしても、もしかしたら負けてしまったのかもしれないという可能性もある。張本選手のあの台上でのフリック強打である。

flick01

flick02

水谷選手はあのフリックを打たれまいと、張本選手のサーブに対して小さいストップで応じていたが、それがことごとくフリックされてしまう。ふつうフリックは浮いたチャンスボールでなければそれほど強烈なボールはこないはずだ。ストップのような下回転のボールに対しては安定性を重視して、ややスピードを落としたボールになるはずなのだが、張本選手のフリックは強烈すぎた。下回転がかかったストップを送っているにもかかわらず、取るのが精一杯の強烈なフリックを打ってくる。しかも成功率が非常に高い。なんとかブロックできても張本選手は早い打点で畳み掛けるように打ってくるので、水谷選手はサンドバック状態である。水谷選手が攻撃する前の3球目、あるいは4球目で強烈なフリックが来て、それを受けたら怒涛の連続攻撃にさらされるのだから、水谷選手の調子がよかろうが悪かろうが負けてしまうだろう。こういう「先手を取ったら、一方的に攻めまくって勝つ」というスタイルはアジア大会での平野美宇選手のプレーを思い出させる。

試合後に水谷選手はこのように振り返っている。

試合前にこうしようという作戦はあったけど、彼がことごとく対応してきて、自分のやることがなくなってしまった。サービス、レシーブで張本は優位に立ったし、ぼくは得意のサービス、レシーブで点を取れなかったのが敗因。(『卓球王国』速報より)

張本選手のサービスとレシーブがよかったことと、水谷選手のサービスとレシーブが通用しなかったことが敗因という分析である。

サービスとレシーブだけで体勢が決してしまうということだろうか。私はもっと心理的なものに原因を求めたい。が、私の見立てが外れていて、心理的にも水谷選手は充実した状態だったとして、あのように負けたとしたらどうだろう?

卓球では先手を取ったほうが有利とはいうものの、レベルの高い試合では、必ずしも先手を取ればポイントを取れるというわけではなく、「後の先」で、相手に先に打たせておいて、ブロックで厳しく返球したり、カウンターで返したりして、先手を渡した方にも十分に形成を逆転できる余地がある。

しかし、張本選手(あるいは平野選手)のように強打(あるいは厳しいコース)で先手を取ったらそのまま前陣でミスなく攻め続けて、相手に主導権を渡さないというスタイルでは、後手に回ったら挽回できるチャンスもない。この強烈なフリックから攻めきるというのは新しいスタイルでこれから主流になっていくかもしれない。そうすると、今までの戦術は通用しなくなり、新しい戦術やスタイルが生み出されていくのかもしれない。

…などということを考えて、おおけなくも想像をたくましくしてしまったが、上級者から見たら、的外れでちゃんちゃらおかしい考察かもしれないので、このへんで擱筆しようと思う。

とにかく、日本選手、ガンバレ!