それゆえ快楽が人生の目的であるとわれわれが言う場合、その快楽とは、我々の説に無知な一部の者たちが誤解して考えているような性的・肉体的な快楽のことではなく、体に苦痛のないことと、魂に動揺がないことに他ならないのである。
エピクロス『メノイケイウスへの手紙』

子供を育てるというのは、もう一度人生を経験することでもある。幼児期、児童期、少年少女期をもう一度やり直せと言われたら、私は躊躇するが、大人の視点で子供の人生に自分を重ねて疑似的に追体験するというのは楽しそうだ。同じように初心者・初級者に指導するというのは、卓球人生の歩みを中級者・上級者の視点から追体験するという楽しさがあるのかもしれない。

日曜は特に予定がなかったので、知り合いの中学生の女の子が出る京都市の一番下の試合(個人予選)を観に行った。
京都市は中学校が多いので、学年ごとに8つぐらいのブロック(10校程度ずつ割り当て)に分かれ、 そのブロックでベスト8に入ったら、本選(京都市全体の試合)に進めるという仕組みらしい。知り合いの女の子は残念ながら予選敗退だったが、女子中学生の試合をじっくり見たのは初めてだったので、いろいろ勉強になった。自分が中学生の頃の卓球というのは、こんな感じだったのだろうか。当事者のときは自分の卓球がどうなのかよく分からないものだ

女子中学生の試合というと、ショートサービスからのツッツキ合戦というイメージがある。女の子は生物学的に?冒険はせず、慎重に行動しがちなので、強打よりも、安定性重視のストラテジーをとりがちだという解釈ができる。

が、実際に見た女子中学生のプレーは、必ずしもそうではなかった。サービスの構えは、石川佳純か、平野美宇か、というぐらいの本格的である。

佳純サーブ

そこからかなり切れた横回転ロングサービスを出していたし、第1球目としては問題らしい問題がないように見えた。ただ、サービスはほとんどが台から出ていてメリハリがなく、コースも単調だったのが残念である。たいていのサーブがバック側に長く来るので、回り込んでフォアドライブを打てば、かなり有利に試合を進められるはずだが、回り込みという「危険な賭け」に出る女子はほとんどいなかった。

また、全力のスマッシュをバンバン打つ子もいれば、バックハンドドライブを振るような子も珍しくなかった。しかも、そんな子はみんなきれいなフォームである。惜しむらくは、そのきれいなフォームから放たれるスピードのあるボールが決まることはそれほど多くなかったことである。これが本選の上位のほうにいけば、見た目と安定性のバランスが取れてくるのだと思うが、このレベルではフォームの美しさほどには安定性がないことが分かる。フォームだけを見たら、入りそうな感じなのである。ということは、練習の時は入っているのだと思われる。が、試合では入らない。
知り合いの子の試合も見たが、普段の練習の時の力が半分も出せていなかった。ふだんはもっと器用にボールを打っているのに…。

女子中学生の卓球を観て、おじさん卓球の問題点と重なる部分も多いと感じた。えらそうに上から目線になってしまったが、彼女たちの問題の半分は私たちの問題でもある。傍目八目、自分のことは分からないが、人のことだと欠点がよく見える。

私が感じた女子中学生(低レベル)の問題点は以下の通りである。

1.自分の打ったボールに自分で驚いている

相手のサービスの回転が読めていない。だからレシーブの時、びくびくしながら恭しくそーっとレシーブに入る。

bibiri
レシーブでゆっくり当てにいくと、回転の影響をもろに受ける

その結果、回転の影響を思い切り受けて、思い通りに返せない。低く短く返すつもりが高くエンドギリギリに浮かしてしまったり、バック側を狙ったつもりがミドルに行ってしまったりと、レシーブがあらぬ方向に行き、打った本人のほうがびっくりしてしまうのである(ちなみに相手もびっくりして、浮いたボールを強打し、ミス)。その「恭しくそーっとレシーブに入る」ために時間を0.3秒ぐらいロスし、次に自分の想定外のボールにびっくりして、また0.2秒ぐらいロスし、合計0.5秒ぐらい遅れてしまう。
相手サーブに対するレシーブだけでなく、ラリー中のボールでも、思った以上に自分のボールが深くなってしまって、「入るかな?」とボールの行方を追ってしまい、時間をロスする。もし想定内のボールが打てて、スムースに次の動作に移れたら、0.5秒も時間を節約でき、余裕をもって次のボールに対する心の準備ができていたはずである。

2.フットワークをほとんど使わない

ほとんどの打球で1の問題が起こることから、「あっ!」と驚いて、身体の動きが完全に停止してしまう。それで時間的な余裕がなくなってしまい、まず、目の前のボールをなんとか返球しなければという意識が先に立ってしまう。その結果フットワークに意識が向かわなくなる。本来、相手からボールが返球されたら(というか、その直前に)、まずフットワークでポジショニングをして、その後、打球という順に意識が向かわなければならないのに、余裕がないためにそれが逆転して、まず打球のほうから意識してしまうために、足が動かない。

3.つなぐボールが少ない
昔「男の子と違う女の子って 好きとキライだけで 普通がないの」という歌詞があったが、彼女たちの卓球は慎重にツッツキで行くか、強打で決めに行くかの二択で、つなぐボールが少ないと感じた。深く鋭いツッツキが来て、「もうツッツキで返せない!」と思ったら、ついイチかバチかの強打に走ってしまう。苦しいボールを打点を落としてとりあえず上にこすりあげて急場をしのぐ「つなぎ」という選択肢があれば、体勢も立て直せるし、もっと安全に次のボールに対してそなえることができると思うのだが。

彼女たちの卓球の問題点を一言でいえば、意識がボールに追いついていないということだと思う。
動揺するは、時間はないはで、次に返ってくるボールのことを考えるどころではない。

今度知り合いの女の子に会った時に試合のコメントなどをしてやろうと思う。あまり細かいことをしつこく言うと嫌がられるから、簡単に2つぐらいのポイントを指摘するにとどめよう。

「もっと自分の時間を作らないといけないよ」
「打ったらすぐ次のボールにそなえなきゃ」

それはそうなのだが、言われたとおりに時間のロスなく、打ってすぐ次のボールにそなえられるものなら、苦労はない。彼女たちは友達のちょっとした言動に深く傷つく多感な年ごろなのである。低く返したつもりなのにボールが浮いてしまったら、どうしても動揺するだろう。動揺するなというのが無理な話なのである。「自分の時間を作れ」というのは正論だが、そのためにはまずプレー中の心の動揺を取り除かなければならない。

1の、レシーブであらぬ方向にボールが行って動揺するというのは、どうすればいいだろう?
やはりいろいろな人のサーブを受けて回転がある程度読めるようになるしかない。これには長い時間がかかりそうである。

2の、フットワークをほとんど使わないというのは1球1球入るかどうか自信がないから下半身にまで意識が行かないということである。1球1球自信をもって打つためにはフットワーク練習が効果的だと思われる。

私は最近フットワークを使ってフォアドライブを打つ練習ばかりしているので、フォアドライブが安定してきた。打つときに「どのぐらい面をかぶせたらいいだろうか?」などと迷わずに無心でフォアドライブを打っている。フォアドライブにある程度自信がついたので、打つ前に考える時間のロスが減った。そしてフットワークは遅いものの、打つ前にまず足に意識が行くようになってきた。この経験が彼女たちにも役立つのではないかと思う。

ただ…これも長い時間がかかる地道な練習だろう。

たとえば、相手にブロックしてもらって、台の半面に返球してもらい、それをすべてフォアドライブで打球するという練習である。相手のボールは時には浅く、時には深かったりするし、高かったりも低かったりもするが、それらすべてに対応できるようにポジショニングを最優先で練習すれば、本番でも足が動くようになると思われる。そしてその過程でおのずと3のつなぐボールも打てるようになってくると思われる。

結局、簡単ですぐに効き目があるアドバイスはできそうにないが、今度彼女に会ったら、

「いろいろな人のサービスを受ける」
「フォアで動きながら打つ練習をする」

というアドバイスをしてみようと思う。