昭和の教育テレビといえば、幼児向けの番組や堅苦しい番組ばかりで、見ようという気にならなかった。
しかし、近年Eテレと改名されて、構成も凝っていて、とっつきやすい番組が多く、おもしろい番組が多い。

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この「テレビスポーツ教室 卓球」はTSPの松下浩二氏が中学生に3球目攻撃のコツを指導するというものである。雰囲気も明るく、観てみようという気にさせる。
松下氏は回りこんでの3球目フォアドライブを中心に指導する。松下氏はこれを「3球目攻撃の王道」と呼んでいる。

しかし、回りこみというのはなんだか昭和を感じさせないか。足を使ってオールフォアで動きまわって攻撃するというスタイルが私はあまり好きではない。第一、疲れるし、回り込みがうまく行ったら優位に立てるが、逆にフォア側にボールを送られてしまった時は一転して圧倒的に不利な状況に陥ってしまう。いわばバクチのような戦術である。平成の今の世なら、両ハンドで待つという3球目の迎え方のほうがスマートなのではないだろうか。

だが、この番組を見て、私も回りこみに挑戦してみたいと思うようになった。私にも少ないリスクで回り込めるような気がしたのだ。

以下に回りこみのポイントなどを紹介したい。

ポイント1:サービスはバックサイドギリギリから
松下氏は中学生に3球目を打たせて、よくない点をコメントする。
下の中学生は初め、台の2/3ぐらいのところからフォアサービスを出していたために回りこみが間に合わず、つまっていた。そこで松下氏がバックサイドギリギリからサービスを出せば、すばやく回り込めるとアドバイスして、次の回り込みは余裕を持って成功していた。

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知らなかった。みんなバックサイドギリギリからサービスを出すのは回りこみを有利にするためだったのか。
そんなことも知らずに、私のスタイルは両ハンド待ちなのに、バックサイドギリギリからサービスを出していた…おろかな私。


ポイント2:上体を低くしてボールを下から見る
次の中学生は3球目を十分な体勢で打てたのに、空振りしてしまった。そこで松下氏は上体を低くして、ボールを見上げるようにして打つことを勧める(前記事「三次元で捉える視点」)。低い姿勢から伸び上がるように打つといいらしい。
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ポイント3:余裕を持って早めに回りこむ

次の中学生はなんてことのないオーバーミスをした。しかし、眼光鋭い松下氏はこのミスは回りこみが遅れて、十分な姿勢から打てていないと看破した。

 


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 上の写真がミスした時の回り込みだが、私には十分な姿勢から打てているように見えた。しかし、上級者にはその微妙な遅れが分かるのだろう。もしこのように適切な指導が行われていない場合は、「角度が間違っていた」とか「打球点が遅かった」などといって、間違ったやり方のまま回りこみをして、いつまでたっても回りこみが安定しないと思われる。指導者というのは大切だなぁと痛感した。

次は早めに回り込み、見事成功!
tumaru


回り込みが素早く余裕を持ってできれば凡ミスが減る。スイングの角度やら、打球点の問題ではなく、単に余裕がなかったからだったのか!

しかし、問題もある。

「早めに回り込もうとは、誰もが思うが、相手がフォア側にレシーブするかもしれないから、早めに回り込めないんじゃないか」

そうなのだ。早めに回り込めとはいうものの、それが非常に難しいのである。
松下氏はどうやって早めに回り込んでいるのだろう。

松下氏「相手がバックにレシーブをつっついた瞬間にすぐに大きくまわる」



相手のラケットにボールが当たった瞬間に回りこみを始めないと間に合わないということだろうか。

しかし、松下氏は相手を見てはいけないとも説く。



相手を見ないで予測して回りこむということである。

「いや、それができれば苦労はないよ」

と思うのだが、「相手の打球と同時に回りこむ」のか、「相手の打球前に回りこむ」のか…。悩ましい。
昔の私だったら「説明が矛盾している!」と怒っていたところだが、最近は卓球の正解は一つではないと悟ったので、これらの説明をどちらも私は受け入れられる。

松下氏の説明を敷衍すれば、いつ、どのように回りこむかはケースバイケースという意味なのだろう。
あるいは「気持ちとしては相手を見ないで回りこむつもりで、ギリギリまで相手の打球を確認する」という意味だと思われる。

ポイント4:姿勢を低くして動く

アシスタント「動くときにステップのコツなどはあるんですか?」
松下氏「膝が伸びていると速くステップが使えないので、膝を曲げるようにすると、速くステップが動くことができますので…」

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姿勢が高いと、ステップが遅くなるということである。

ポイント5:ロングサービスのときはすぐに下がる

また、ロングサービスの場合はすぐに少し後ろに下がると余裕を持って対応できる。
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後半、急ぎ足になってしまったが、これらのポイントを全て押さえたら、私も松下氏のような見事な3球目の回りこみができるようになるのだろうか。おそらくできないだろう。松下氏の回りこみと初中級者の回り込みの違いは上記のポイントにとどまるものではない。

最近、「宣言的記憶Declarative memory」と「手続き記憶Procedural memory」という言葉を知った。
私は心理学のことはさっぱり分からないので、誤解や勘違いも含まれているかと思われるがご容赦願いたい。

「宣言的記憶」(この命名は分かりにくすぎる。知的記憶とか論理的記憶と言ったほうが分かりやすいと思われる)とは、言語で議論することのできる記憶で、「手続き記憶」というのは自転車の乗り方といった「身体が覚えている」という類の記憶である。

上述のポイントというのは言葉で思い出して確認することができるので、すべて宣言的記憶に含まれる。しかし、それらの宣言的記憶というのは氷山の一角にすぎず、松下氏の回り込みには言語的に意識されていないさまざまな情報の複合によって成り立っていると思われる。

たとえば、サービス後の立ち位置やスタンスである。
サービス後の立ち位置が10センチずれていただけで回りこみが遅れてしまうのではないか。他にもつま先の向きとか、スタンスの広さといったことも安定した回りこみには重要だと思われる。

また、姿勢と重心である。
相手のレシーブによって前傾姿勢をどのくらいの角度に変えればいいのか、胸はどこを向いていればいいのか、重心は左右の足に何%ずつにすればすばやく動けるのか。重心移動のスピードは1秒あたり何グラムだろうか。あるいはおしりにも重心を作ったほうがいいのかもしれない。さらに伸び上がるスピードやタイミングなども考慮しなければならない。

最後に肩や腰のひねり具合である。
どのタイミングで腰をひねればいいのか。フリーハンドはどのタイミングでどの位置が良いのか…。挙げていけばきりがない。

自転車の乗り方やクロールの泳ぎ方などを誰でも間違えないように詳細に説明しようとしたら、とんでもない情報量になってしまう。同じことが卓球のプレーにも言えると思う。分かりやすいポイントはある程度指摘できるが、実際はその表面化したポイントの陰に言葉で指摘しにくい情報が隠れており、それらはひたすら練習を繰り返して身体で覚えるほかはない。

結局、言葉で伝えられることというのは限定的で、それらのポイントにも留意しつつ、多くの技術は実際に試行錯誤しながら、より効率のいいプレーを自分で模索しなければならないのだろう。