全日本卓球選手権2016が終わった。
決勝だけをNHKで観たのだが、その感想などを綴ってみたい。
ネタバレになってしまうので、結果を知りたくない人はご注意いただきたい。

















女子決勝は石川佳純選手 対 平野美宇選手。

最近、伊藤美誠選手に差をつけられた感のある美宇選手が今大会は美誠選手を破っての決勝進出とあって大いに期待していた。美宇選手の早いピッチのラリーが決まれば、石川選手も危ないのではないか。
しかし、結果はあっけないものだった。美宇選手は得意のラリーにあまり持ち込めず、石川選手にいなされたような形で敗れてしまった。

そして男子決勝は水谷隼選手 対 張一博選手。

中年の私としては張一博選手には、ぜひともがんばってほしい。いままで日本の卓球界を引っ張ってきた一人なのに、あと一歩というところで大きな結果を残せていない。若手が台頭する近年の卓球界で、ベテランの金星もみてみたい。他の選手が相手なら、張選手を絶対に応援するところだが、私は水谷選手の大ファン(前記事「面を開いて…」)なので、やっぱり水谷選手に勝ってほしい。そんな気持ちでの観戦だった。

言うまでもないことだが、私ごときのレベルでは、両選手がどれほど高い技術でしのぎを削っていたかなどはさっぱりわからない。私にも分かる程度の低いレベルの話である(技術・戦術的にレベルの高い分析はぐっちぃ氏のブログにある)。例のごとく、上級者にとっては当たり前のことにすぎないことを予めお断りしておく。

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張選手といえば、バックハンドが固いという印象がある。水谷選手はどうやって張選手のバックハンドを打ち破るのか。それが観戦前に考えていたポイントだった。

1ゲーム目が始まると、両者の豪快な強打が正面からぶつかり合った。ラリーなら、ミスの少なさで定評のある水谷選手が優位かと思ったが、張選手もちっともミスをしない。何度か派手なラリーになったが、張選手のほうがラリーで優位に立っているように見えた。バックハンドが固いのはもちろんだが、解説者によると張選手は「フォアハンドが得意」なのだという。

「得意なのはバックハンドではなく、フォアハンド!?じゃあ、水谷選手はどうやって張選手を攻略すればいいんだろう?フォアもバックもメチャクチャ強いじゃないか!」

もしかしたら、今度という今度は水谷選手も負けるかもしれない。得意のラリーで劣勢だったら、水谷選手はどうやって勝てばいいのか。ボールの威力においても、体格に恵まれた張選手に分があるだろう。スピードならどうだろうか?台に貼り付いて早いピッチでボールをさばいていけば?いや、スピードで定評のある丹羽選手も張選手の前に敗れ去った。張選手には死角がない。水谷選手はどうやって勝機を見出すのか…。

しかし、2ゲーム目からは水谷選手が優位に立って試合を進めていく。私には何が何だかさっぱりわからない。実況者の「やはり張選手はバックサイドを突かれるとちょっと弱いですねぇ」といったセリフにピンときた。

もしかしたら、コースどりで相手の強打を封じることができるのか?

おそらくそうなのだ。張選手はフォアもバックも鬼のように強いし安定している。そこで水谷選手は張選手のいろいろなところにいろいろな球種のボールを送り、それに対するレシーブから相手の弱点を瞬間的に見抜いているのだ。もちろん、初中級者のように

「バックに深いツッツキを送られると弱い」
「チキータすると、甘いレシーブを返してくる」

といった分かりやすいものではないだろう。実際はどうなのか、私の想像の及ぶところではないが、たぶん

「フォア前に送ったショートサービスを相手はバックかフォアサイドに払ってくるから、それを一度ミドルに強打して相手にバックでブロックさせた上で、相手のバックサイドを突く」

といったぐらいに複雑な「棋譜」のようなポイント(サービスから得点までのラリー)を組み立てているのだろう。

「何を当たり前のことを」

と思われる読者も多いと思うが、私にとっては発見だった。

卓球というのは「すごいスピードの強打」とか、「すごい早さのピッチ」とか、「回転がぜんぜん分からないサービス」といった技術的・体力的な部分で勝敗が決まると思っていたのに、技術的・体力的には同等か、やや劣勢といった場合でも勝てるというのはすごいことではないか。

そういえば、先日、60歳から卓球を始めたという70近いおじいさんと対戦したのだが、フルセットデュースの末、なんとか勝利した。おじいさんはシェーク・バック半粒で、ドライブなどは使わず、フォアはほぼ全部ロングボールかスマッシュという独特の戦型だった。ちょっとフォア打ちをして「私のほうが技術的に上だ」などと感じていたのだが、いざ、試合が始まってみると、サービスを半粒の流しレシーブでとんでもないコースに送られ、やっと返球すると、フォアスマッシュで待たれていて、パシンと決められてしまう。システム練習だったら、私のほうがミスなく続けられるし、体力、反射神経なども私のほうが上だと思うが、試合ではおじいさんのほうがずっと優位に立っていた。
私は自分の持っている限りのサービスを使ってなんとか勝てたが、もしおじいさんがレシーブが巧みで、私のサービスが効かなかったら負けていただろう。
この試合の経験から、技術等が多少上回っていても、 負けることは十分ありうると感じた。

水谷選手の技術が張選手に劣っているかどうかは分からないが、1ゲーム目のラリーでは水谷選手は張選手に対して、打ち合いで優位に立っているようには見えなかった。しかし、試合では水谷選手の圧勝だった。

くどいようだが、技術や体力よりも、戦術やコース取りといった分析力で勝てるのが卓球なのだ!

この試合ではそれが非常に分かりやすい形で現れており、私は感動した。卓球は体力や技術ではなく、知力がものをいう競技なのだと(もちろん技術に大差がないという前提なら)

私は途中から水谷選手の立場に立って相手を分析しながら観戦し始めた。どんなときに水谷選手が得点できるかを1ポイントごとに分析し、張選手の弱点を探ろうと試みたのだ。しかし、途中で頭がパンクした。張選手だって自分がミスしたところをなんとか修正しながら今までと違う対応をしようとするだろうし、張選手に対して「実験」できる回数も限られている。そのような中でどこに送れば相手は予想通りの甘い球を返球するのかを「実験」しながら分析するのは非常に神経を使う作業である。1ポイント終わって、相手のミスしたパターンを記憶に止め、相手の弱点を予想し、それをポイントを重ねながら修正してく。とんでもない情報量である。しかもポイントが終わって集まった情報をまとめるために考えこむわけにもいかない。相手の弱点がはっきりしないままに、すぐに次のサービスを出さなければならないのだ。

この緊張感はどこかで見たことある。なんだっただろう?
そうだ!パネルクイズ アタック25の最後の映像クイズだ。

atack25


映像クイズというのは、

優勝者が獲得した自分のパネルを全部外した時点で「ある○○とは何(誰)でしょうか、問題スタート!!」と言ってVTRが始まる。【中略】 映像終了後、司会者に「その○○とは!?」と尋ねられ、5秒以内で正解を解答する(wikipediaより)


saigo

自分が得点したパネルの部分は見えるが、他の回答者が獲得した陣地は上の写真のように隠れていて見えない。それで2~3秒ごとに5~6枚の映像が矢継ぎ早に映し出され、映像終了後、回答者はその映像に縁のある人物なり、都市なりを答えなければならない。子供のころ、日曜の午後におもしろい番組がなかったので、よくアタック25を見ていたが、最後の映像クイズは非常に難しく、回答者といっしょにドキドキしながら考えていたものだ。

卓球でも相手の苦手な球種やコースを全て試せるわけではない。上の写真のように虫食い状態で部分的に相手の苦手そうな部分が見えるだけだ。そしてそのようなヒントが考えるいとまもなく次々と与えられる。選手は身体では目の前のボールを返球しつつも頭では相手の弱点を探り出さなければならない。体力的というより、精神的な負担が大きすぎる。

「こんな膨大な情報量を選手一人で限られた時間内で処理するのは至難の業だ。しかし、もし相手の弱点を分析する頭が2つあればどうだろう?」

そうだったのか…。

水谷選手が高いお金を払って邱建新コーチを雇っているのはそういうわけだったのか。コーチというのは「打点が遅れているぞ!」とか「もっと足を使って回り込め!」とかそういう技術的なアドバイスをする人かと思っていたが、そういうのよりも、選手と一緒に相手(および自分)の弱点を分析するのがメインの仕事だったのか。

卓球では、反射神経や技術よりも戦術(分析力)が勝敗を左右することが多い。卓球とはなんとも奥深いスポーツであることよ。

こんなことを今年の全日本を観ながら考えさせられた。