瞬間的に身体中の力を放出する短距離走(たぶん)
そんな短距離走の技術には卓球に応用できるものがあるのではないか。
そんなことを考えて、短距離走の動画を観てみた。


「短距離ドリル 3」

インタビューに答えるのはオリンピックメダリストの朝原宣治氏。

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実は私は氏のファンである(前記事「あなたのベスト・パフォーマンスは?」)。

氏の回答によると、どうやら100m走というのは初めから終わりまで渾身の力で走っているというよりも、限られた体力を上手に配分することによって最高のパフォーマンスを得るというスポーツのようだ。

「100mをどのようなイメージで走っているか」
なぜ60mが大事かというと、60mがスピード曲線の頂点、スピードの一番高いところということもあるんですけど、60mというのは自分の持ってるエネルギーをどれぐらい使ってるかっていうのを分かりやすいポイントになりますね。
60mを過ぎた地点であとどれくらい自分が…あと40m走りきるエネルギーを持っているかというのを60mで確認します。

60mまでは加速していき、それ以降はできるだけ失速を抑えつつスピードを維持するというのがいいようだ。卓球でも、バックスイングからの反動を利用して、スイングが加速していくが、そこからは力を抜いてゆるやかに減速していくというのと通じるものがあるかもしれない。

「力を意識しているところは」
一時期は足の末端――拇指球とか、足の先端を意識して走ってたんですけど、そうすると、力が抜けないんですね。
リラックスしようと思うと、手のひらだとか、末端をリラックスさせないと、リラックスできないんです。
リラックスするには末端の力を抜かなければならないし、末端にすごく集中してそこに意識をおいて走ったりすると、どうしても力が入って真ん中の大きいところが動かなくなってしまう。だからどうしても中心から力が行くイメージですね。
エンジン部分から外に向かって力が出ているっていうイメージで。

これも卓球に通じるのではないだろうか。身体の中心に力を入れて、末端の部分はある程度リラックスさせておかなければ体力が消耗するし、精度も落ちる。

「腕振りのポイントは」
かつて腕振り主導というの、先に腕を意識して腕から動かして足をついてこさせるっていう練習とかしたんですけど、それはあまりうまくいかなかった
なので、今やっているのは、真ん中から動かして腕っていうのはタイミング・バランスをとるためのただの機械っていうかね、レバー、ポイントよくタイミングを取るスイッチみたいな感じで使ってます。

どうやら短距離走の走り方には脚よりも腕の振りを優先して走るというメソッドがあるようだ。しかし、朝原氏には合わなかったとのこと。前記事「「正しい」とか「間違っている」とか」で腕は意識しては振らず、下半身および身体の中心軸を動かすことによって腕も自然に「振れる」のがいいのではないかという結論に達したが、奇しくも朝原氏にとっても「腕っていうのはタイミング・バランスをとるため」という位置づけなのだ。ここまでの朝原氏の身体の使い方は私が想像している「正しい」使い方に近い。

「カラダの意識している部分は」
丹田とか言われてるんですけど、僕の場合はまず骨盤がよく動いてるか、柔らかくなってるかというのを意識するので、骨盤あたりか、おしりの尾てい骨…そのへんよりもうちょっと前ぐらいにちっちゃいボールみたいなものを意識して…

骨盤のあたりにボールのようなものを意識して――私も最近、歩く時にこれを意識している。そうすると、あまり疲れずに早歩きや、小走りなどができるような気がする(前記事「常住卓球」)。

以上のような朝原氏の短距離走での知恵を卓球に応用することはできないだろうか。
卓球に通じる部分も多いように思われる。

まず、身体の末端の力を抜き、身体の中心――骨盤から尾骶骨にかけて小さなボールをイメージし、そこに力を込め、柔らかく動かすようにすればフットワークも軽くなり、身体全体がよく回る。結果として、力が身体の中心から末端に伝わるようになり、スイングも軽い力で動くのではないだろうか。

ただ、このような朝原氏の身体の使い方が万人にとって「正解」だとも思えない。朝原氏は以下のように述べる。

「朝原選手のような走りをするには」
人それぞれ個性があって世界のトップランナーも…いろんな走り方します。僕も誰かのマネをしてるってことはなくて、自分で工夫を重ねて…いろんな人の走りってのを観ます。いいところを盗みながらやっと自分のものが確立しつつあるんで…いろんなトップアスリートの動きのいいところとか、共通点を見つけて、それを自分で実践してみる…そういうふうに工夫しているうちに自分で早く走れる時の感覚っていうのがわかってくる。それをものにした時にやっと自分のフォームになると思う

朝原氏の走りをロールモデルにするのはある程度までは有益だが、個人差や相性というものがあるので、朝原氏の走りに拘泥しては進歩が止まってしまう。そこで自分なりの「正解」を見つけるために朝原氏の身体の使い方の合う部分は取り入れ、合わない部分は自分で模索して補うしかないのだろう。このようにある程度までは上手な人のマネをして、そこからは自分なりの個性で肉付けしていくのがいいと思われる。

【付記】
朝原さん、また地域の運動会にご参加いただければありがたいです。
お忙しいとは思いますが、ご検討よろしくおねがいします。