卓球ショップJASUPOから発売されているDVD「吉田海偉のフィニッシュはフォアハンド!」を観たので、その感想などを書いてみたいと思う。




このビデオは2巻に分かれていて、1枚あたり、35分ほどで約1300円である。2枚で70分、2600円になるが、このビデオはあまりおすすめできないと感じた。

私は吉田海偉選手のプレーが好きだ。数年前に吉田選手のプレーを生で観たことがあるのだが、フォアハンドのスイングスピードが周りの選手とくらべて頭ひとつ抜けていた。今どき珍しい、片面ペンホルダーで、広いプレー領域を持ち、かつ情熱のこもったプレー。吉田選手は観客を魅了する要素をいくつも持っている。
それにしてもあの強力なフォアハンドの秘密はなんだろうか?このビデオを見れば、その秘密が明らかになるのではないか。そんな動機でこのビデオを観たのだが、残念ながら私の求めていたものはこのビデオにはあまり見いだせなかった。

「フィニッシュはフォアハンド」は吉田選手の技術論や練習メニュー、指導理念などの解説的な部分と、実際に実演する部分に大きく分かれている。
前者の吉田選手の解説なのだが、たとえば、次のようなやりとりが交わされる(実際のやりとりは冗長なので、要約して示す)。

【フットワークについて】
Q「コツはあるか?」
A「ないですね。
Q「練習あるのみ?」
A「しっかり練習すれば試合に役立つ


【フォア・ミドル・バック・飛びつきのフットワーク練習について】
Q「なぜいつもこの練習をするのか、この練習の意図は?」
A「なんでだろう…フォアに打って、次に真ん中に返ってくる可能性もあるし、真ん中から打って、次にバックに戻ってくる可能性もあるし、3点の練習もできる。そしてバックからバックに打ったら、ふつう、フォアに返ってくるから、飛びつきしなければならない。試合の時にそういうボールに遭う経験が多かった


コツは「ない」とか、意図は「なんでだろう」とか、このやりとりを見る限り、台本がなく、行き当たりばったりで答えているように見える。そして吉田選手の解答も「なるほど」と思わせるものが少なかった。もしかしたら、このビデオは、前日に飲み屋で一杯やりながら、プロデューサーがおおまかな流れを吉田選手に説明し、ぶっつけ本番、3~4時間ほどで撮影したやっつけ仕事なのでは…と勘ぐりたくなる(ディスクも通常のDVDではなく、耐久性の低いDVD-Rである)。

3球目攻撃の練習の実演があるのだが、画面下に

Q「吉田選手は今何を考えてサーブ・レシーブ練習をしていると思いますか。よく観察して考えてみましょう」

というテロップ。トップ選手は我々の想像も及ばないような緻密な思考をしているのだろう。吉田選手も「卓球は頭を使わなければダメだ」ということを何度も述べていた。しかし解説では次のような解答にとどまった。

A「ちょっと甘いボールが来たらすぐに3球目で打つという気持ちで練習していました」
Q「気をつけるポイントは?」
A「サーブに対してどんなレシーブが来るか考えなければならない。それが一番大事。」「こういうサーブをしたら、相手は短くストップするとか、何でも早めに予想しないと」


「何でも早めに予想しないと」という吉田選手の言葉にはたしかに重みがあるが、実際に「どういうサーブのときに、どういうレシーブをすべきか」という具体例をこそ教えてほしかったのに…私が知りたいのはそういう当たり前のことではなく、トップ選手ならではの「答案」なのだ。しかし、そういう踏み込んだ解答というのは、ほとんどなかった。「手首の重要性」とか、「3球目のコースどり」「インパクト時の面の角度」といったちょっと踏み込んだ発言もあることはあったのだが、全体的に「腰を使って打つのが大事」とか、「子供の時に基本を身につけるのが大事」とか、無難な解答ばかりだった。

結論として、私はこのビデオの吉田選手の解説には満足できなかった。

しかし、吉田選手のフットワークの実演はすばらしかった。3点フットワークの練習などは、何度も見る価値があると思った。カメラも斜め前からと、正面から(こちらは画質が悪いが)と、いくつかのアングルが用意されており、身体の使い方などがわかりやすい。そこで私はビデオ編集ソフトで実演部分のみ切り取って、1つの動画ファイルを作ってみたのだが、それが20分弱だった。

約50分の会話部分はかなり冗長で、新たな発見も少なく、何度も観たいとは思わない。
吉田選手の超人的なフットワーク練習や、豪快なフォアハンドドライブ20分の映像に2600円を出しても惜しくないという人以外は購入しないほうが無難である。

いっそのこと、解説部分を一切入れず、吉田選手の普段の練習をいろいろなアングルから120分ぐらいぶっ続けで流してくれたほうが価値があるビデオになったのではないか。

最後にもう一つ文句を言いたいのだが、BGMの音量が大きすぎて、吉田選手の会話部分が聞き取りにくいのが気になった。