上手な人と試合をすると、こちらから攻められる気がせず、一方的に攻められてしまう。
まず、サービスがどちらに来るか分からず、 フォア前の短いサービスとバックへの深いサービスに翻弄されて、2球目で優位に立てず、結局無難なツッツキで返す。すると、相手は待ってましたとばかりに3球目攻撃、あるいはフリック・チキータなどで攻撃してくる。
反対にこちらがサービスを持っているときは、長いサービスなら2球目から攻撃されるし、短いサービスでもフリックや鋭いツッツキで、攻撃させてもらえない。
こちらは防戦一方で、試合は相手が完全に主導権を握っており、相手のやりたいように進んでいく。いわゆる「手も足も出ない」「自分の卓球をさせてもらえない」という状態である。

下手な人とやるときは、こちらもいくらか攻めるチャンスがあるのだが、上手な人はこちらに全く攻めさせてくれない。これは一体どういうことなのだろうか。

そういうことを指導者に相談したところ、対応が遅いからだと言われた。
つまり、 相手がサービスやレシーブに入る体勢をよく観察し、相手が打ってから反応するのではなく、打つ寸前に反応して適切な位置に移動し、迎撃の体勢を整えておかなければこちらから攻めるチャンスは巡ってこないのだという。相手のインパクトが終わってから動くのでは遅い。それではボールが突然目の前に迫ってくるように感じられて、とても攻めに転じられない。そうではなく、インパクトの前に動かなければならないというのだ(前記事「丹羽孝希選手のトコトコ」)。そのような予測能力だけでなく、自分の打球後の戻りの早さも迎撃態勢に大きく影響する。

xia氏の卓球理論(「読むだけで強くなってしまう卓球理論」)にあるように、コースを決めての3球目攻撃なら、ミスが少ない人でも、コースを限定しない―言い換えればどこにボールが来るか分からない3球目攻撃では成功率が半分以下に落ちてしまうのは、つまるところ、間に合っていないのだ。

これは卓球の根幹に関わる真理ではないだろうか。スイングも理想的で、すさまじい威力のドライブを持っていても、それを発揮できる体勢が整っていなければ、それらは無用の長物ということになる。途上国に最新の工場を建設しても、電力・道路・港湾といったインフラが十分整備されていなければ、機能しない。となると、私がまず取り組むべきは、スイングの軌道云々よりも、ボールに対して素早く準備できる体勢を整える訓練なのではないだろうか。卓球ではボールを打つ瞬間よりも、ボールを打つ前にどれだけ時間をとれるか―いいかえれば、スイングのスタートの早さほうが重要なのかもしれない(前記事「卓球の基本」)。迷いなく自分のスイングをスタートさせるためには、素早く基本姿勢に戻り、相手のボールが次にどこに来るかを素早く適切に判断し、そこに素早く移動して、どのようなボールを打つべきか素早く判断を下さなければならない。

そうだとすると、自分の戻りを早くして、相手のスイングや体勢から、どんなボールがどのへんにくるかを予測する能力、そのボールを万全な体勢で迎え撃つためのフットワークを改善する等の「インフラ整備」のほうが、スイングの改善よりも優先されるのである。

どうしてこのような大切なことが卓球書ではほとんど触れられていないのか。個々の技術、フォアハンドの打ち方だの、フットワークの動き方だの、そういう技術を習得しても、それを使うべき体勢の作り方を教えてくれないと、練習の成果が試合でまったく生かせず、上述の「手も足も出ない」「卓球をさせてもらえない」状態になってしまう。

「最高の技術」よりも、まず「インフラ整備」を!