速いボールと、遅いボールとを比べると…

速いボールは返しにくく、遅いボールは返しやすい、

というのが一般的な考え方だが、よく考えてみると、そうとも言えないのではないだろうか。
また、低いボールと、高いボールを比べると、高いボールのほうが打ちやすいというイメージがあるが、本当にそうだろうか。高いボールのほうがかえって打ちにくいということもある。

たとえばバックハンドで打つ場合である。フォアハンドなら胸ぐらいの高さにバウンドするボールでもさほど難しくはないが、バックハンドの場合、胸の高さのボールはとっさに一歩下がらないと非常に打ちづらい。

また、相手がストップするつもりで、レシーブミスをしてしまい、やや下回転のかかった浮いたボール返してきた時、チャンスとばかりにそれをフォアハンドで強打しようとしてネットに引っ掛けてしまう光景を見たことがないだろうか。上級者はないと思うが、私ぐらいのレベルのプレーヤーなら、ときどきそんなことをしてしまう。

あるいは松平健太選手の得意技、バックハンドの変化ブロック(ワイパーショット)である。

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健太選手のあの横下回転のかかった、スピードの遅い、フワッと浮いたボールというのは、世界レベルの選手を以てしても、ミスする場合が少なくない。


5:45ぐらいから始まる変化ブロック(横下サイドスピン)を見ていただきたい。2球目はかなり高くボールが浮いているが、返しづらそうだ。ただ、このブロックはどちらもわりとスピードがある。あまりフワッとしていない。

どうして高いボールや遅いボールは打ちにくいのだろうか。それはおそらくボールの向かってくる力が弱まっているためだと考えられる。このボールが自分の方に向かってくる力を「向此力(こうしりょく)」と呼ぼう。「彼岸・此岸」からの連想である。

向此力というのは、卓球では重力のように当たり前のものなので、あまり意識していないが、この力があるおかげで、ボールをしっかりとラバーにくいこませることができる。すなわち相手の回転を上書きして自分のボールとして返球することができる。それに対して向此力が弱く、きつい回転のかかったボールはラバーにしっかり食い込ませてドライブ等で打ちにくい。そのため、上方に向かう力が強いボール―向此力が弱いボールを打つには、こちらもボールを前ではなく、上に擦り上げなければならない。

ボールを台上に落とし、バウンドしたボールを打つ独り練習――「一本打ち」――というのがあるが、あのボールをドライブで打っても、あまり回転がかけられない。向此力がゼロであり、ボールのベクトルは完全に上だからだ。卓球では十分な向此力と自分のストロークの強さが相俟ってはじめて十分なインパクトができる。もし向此力がゼロの場合は、その分よけいにストロークを強くしなければならない。これは意外に大変だ。逆に向此力が非常に強いボールなら、こちらのストロークはほとんど力を入れずとも速い、威力のあるボールが返球できる。

【まとめ】
世間ではドライブの打ち方を教えるときに以下の要素を考慮に入れて打球するよう指導されるのが一般的ではないだろうか。

・相手のボールの回転(回転量や回転の質)
・打球点
・こするタッチ(厚いか薄いか)
・こちらのストロークの角度

しかし、これだけでは、ゆるい山なりの下回転をミスしがちである。いくら強いドライブを打てるプレーヤーでも、垂直に近いバウンドのドロップショットに対して強烈な回転をかけることはできない。相手のボールがこちらに向かってくる力―「向此力」を利用しなければ威力のあるドライブを打つことができないのである。

当たり前と言われればそれまでだが、卓球というのは自分の力だけでボールを打っているわけではない。相手の力を利用しなければ、打球の威力は半減する。この向かってくる力というのは空気のような存在なので、今まであまり意識していなかった。もちろん上手な人は意識しているのかもしれないが、私はぼんやり気づいてはいても、意識化はできなかった。こうして概念化し、「向此力」と名前を与えることによって、この要素を意識化し、上のドライブを打つ際の指導項目に加えれば、初中級者のドライブミスを減らすことにつながるのではないだろうか。

【付記】
2014年(平成25年度)の全日本卓球選手権大会もいよいよ大詰めを迎える。
本日は女子シングルス決勝がテレビで放送されるとのことなので、楽しみにしている。
youtubeに少し動画が上がっていたので、観てみたのだが、石川佳純選手のパンツがまるで「罰ゲーム」のような残念なデザインだったので気の毒だった。
全日本という晴れの舞台なのだから、選手の技術や気迫、かけひきだけでなく、ファッションやパフォーマンスなどでも観客を惹きつける工夫がほしいものだ。

罰ゲーム