よく「手打ちはいけない」と言われる。では、どうして手だけで打球してはいけないのだろうか?

「ダメなものはダメなんだ!」「手打ちがダメなのは常識だ!」

しかし、どうしてダメなのかをきちんと考えないと、根本的な原理を見誤るような気がする。

手だけでスイングすると、不安定になり、腕に力が入らない。
手だけでスイングすると、ボールがブレる。まっすぐ打てず、狙った場所よりも左だったり、下だったりに飛んでしまう。そしていくら腕力のある人でも、手だけで打った場合、力のこもったボールが打てない。速くスイングできない。なぜなら、土台が安定していないからだ。車に喩えると、500馬力の超強力なエンジンを積んだ車でも、安物のタイヤを履いていたら、ムダに空回りするばかりでエンジンの性能を全く生かせないのと同じだ。

だから腰を使えと言われる。腰を回せば、腰の回転によって安定してスイングでき、ブレが少なくなる。そして腰の安定に支えられてはじめて腕力がうまく生かせるわけである。

では、腕と腰を使えば事足りるのだろうか。スイングは腕と腰だけによって作られるのだろうか。そうではないだろう。腕だけでは無力である。だから腕を使うためには腰を使わなければならない。腰は腰だけで使えるのだろうか?いや、腰は腰単体では無力である。腰は足の支えがあってはじめて機能する。
その理屈で言えば、下方向に向かっては、足は足の指の支えがあって初めて力を腕まで伝えられる。身体は個々の部位が独立して機能するわけではなく、体全体が有機的に連携して力をボールに伝えているはずなのだから。

腰を使うようにアドバイスされることはよくあるが、足の指の使い方を指導されることはない。おおざっぱに「重心」という言葉で済まされる。
私たちは腰を回せと言われるが、その回し方をきちんと教わることは稀だ。指導者には「腰が回っていない」などと簡単に指導されるが、腰の回し方にもいろいろあるだろう。雑巾を絞るように水平にクルッと回すのか、あるいは斜めに傾けて回すのか、前方に押し出すように回すのか…
また、回す範囲はどのぐらいなのか。10センチ程度でいいのか、30センチぐらい回すのか。
ボールによって回し方も異なるのだろうが、目安となるものがほしい。
しかし、それ以前に順番から言うと、まず足の指の使い方を身につけて、次に足の使い方、それらが自分なりにできてはじめて腰の使い方なのではないだろうか。

『卓球レポート』2013年6月号にフットワークの特集があった。これこそ私が求めていた記事である。
松平兄弟がモデルなのだが、健太選手が足の指の使い方に言及していた。バック側に小さく回りこむコツについて次のように述べている。

「打球した後は、左足の親指の付け根辺りで床を強く押すようにして、右斜め後ろに動き、基本姿勢に素早く戻ってください」

細かい…。「左足の親指」だけでも十分細かいのだが、さらにその親指の付け根で床を押すといいらしい。この特集は他にもつま先の向きや膝の開き具合などにも言及されていて、具体的で詳しい。非常に参考になる。

【まとめ】
「手打ちはダメ」な原因を考察することによって腰を使う重要性、さらには足や足の指を有効に使う重要性に思い至った。腰は大切だが、腰を使おうと思って腰だけを意識しても腰は使えない。それよりもまず、膝やつま先の向き、足の指の使い方などをしっかり身につけるのが先決ではなかろうか。膝やつま先の向きが根本的に間違っているのに腰を回そうとしても回らないだろう。腰以前に腰而下(ヨウジカ。「形而下」から私が作った造語。腰を含めない下半身のこと)が効率よく使えるようにならないと、腰がうまく使えない。というより、足の使い方さえしっかりできれば、自然に腰が使えるようになり、腰が使えるようになれば、自然に腕も使えるようになるのかもしれない。そのような技術を身につけるためにも、フットワークの解説はステップの順序どまりではなく、膝の動かし方や、足先のどの部分に力を入れるか、どういうイメージで足を動かすか等をより具体的に細かく説明してもらえるとありがたい。