若いころはフォアドライブには自信があった。低く速いドライブでの一発は上級者にも褒められたものだ。

しかし私はもう目を三角にして必死にドライブを打ちたくない。もういい年だし、初級者の相手をすることが多いので、余裕を持って初級者でも受けられる程度のスピードのドライブを打って、ラリーを楽しみ、決めるときだけ一発の渾身のドライブを打ちたいのだ(こう書くと、上から目線でいかにも偉そうだが、私は初級者に毛の生えた程度の実力である)。

そんな初級者に好かれるようなドライブを打ちたいのだが、ツッツキを軽く打とうとすると、ボールを落としてしまうことが多く、安定して擦り上げられない。ビデオで自分のプレーを確認してみると、自分でイメージしているほどラケットが振れていない。自分の中では30センチはラケットのヘッドを移動させたと思っていたのだが、ビデオを見ると、10センチほどしか移動していない。いや、移動していることはしているのだが、スイングスピードが遅いので、ボールを打球し終えて、ボールが離れていったあとに残りの20センチを振っているという感じなのだ。

そこで、スイングスピードは速いままで、スイングの途中でキュッと止める感じでドライブを打ってみる。たしかにこれなら緩いドライブになるのだが、スイングが不自然に止まるので、次のボールへの対応が遅れるし、疲れる。

どうすれば下回転のボールをゆるやかなスイングで安定して打つことができるのだろうか。言い換えれば、ゆっくり打っても下回転を軽々と持ち上げられる方法はないものだろうか。

最近、これに対する決定的な解答が見つかった。ボクシングのストレートを打つようにこすり上げるのだ。イメージ的にはこんな感じである。
右ストレート

ヒジを後方に引き、上体をやや沈ませ、カーブドライブをかけるようにして、バウンドの頂点をストレートに厚く打つべし!

あるいは相撲の「つっぱり」のように直線的に押し出すようにこするのである。
harite

これは以前「招き打ち」と読んだ打法の修正版である。

「そんなバカな!卓球のスイングを前方に打つなんてありえない」という意見をいろいろな人から聞いたのだが、私の実際の経験から、この「つっぱり打ち」は使えると確信した。

ありえないことだが、この打法はブレードのヘッドから入って、縦にこするのである。その際、かなり厚く当てたほうが安定する。さすがにブレードを水平にして、まっすぐ前方に打つというわけにはいかないが、下回転の程度に応じて上方へ、かつ前方にラケットを出すと、さほど力を入れずに下回転が持ち上がる。押し出すようにこするのである。遠心力を使う、通常のフォアハンドと、ほぼ直線的なつっぱり打ちを比べてみると、通常の弧線を描くフォアハンドはかなり力を込めなければ速いスイングができない。それに対してつっぱり打ちはあまり力を入れなくても速いスイングが可能である。ラケットを縦方向に振ると、安定するのはブロックを考えてみたらよく分かる。

シェークでバックハンドブロックをするとき、ブレードを横に倒して止めるのと、ブレードを縦に立てて止めるのを比べると、ブレードを立てたほうが安定する。横にすると、威力のあるボールに押されてしまうのに、立てて打つと、ほとんど押されることがない。ブレードを横にするよりも、縦にしたほうがラケットが安定するのである(ただ、そのことを上手な人に言うと、「でも、横に倒せば、その形のままバックハンドドライブが打てるので、横にして打った方がいい」と言われたのだが)

さらに、つっぱり打ちはスタートが早い。とっさに苦しい姿勢から放っても間に合うし、連続攻撃も可能だ。ゆるいドライブだけでなく、打点の早いスピードドライブで決定打も打てる。

以前も紹介した(「『まったく新しいボクシング読本』を読んで」)が、セレス小林氏のボクシング講座にこんなことが書いてあった。

 スピードを上げるための練習としては、拳を置きにいくのではなく、投げるイメージを持つといい。さらに言えば、自分が持っている物を相手に渡すのではなく、相手が持っている物を奪い取るイメージ。それによって戻すのも速くなり、相手のパンチをもらわなくなる。そして、当たる瞬間は内側にひねるように拳を握り込む。そうすれば拳の面(ナックル・パート)がしっかり当たるようになる。

この通りにラケットを投げるようなイメージ、あるいはボールを素早く奪い取るようなイメージで戻せば、連続攻撃が易易とできるようになるのではないだろうか。最後の「当たる瞬間は内側にひねるように拳を握り込む」というのも興味深い。
階段を上るとき、普通に、力を均等に入れて上ると、非常に疲れるのだが、階段に足が着地した瞬間にグイッと足に力を入れて上ると、かなり楽になる。スロースクワットも同様の原理ではないだろうか。しゃがんだ状態からグイッと立ち上がるのはなんでもないが、5秒以上かけてゆっくり立ち上がるスロースクワットは筋肉に相当な負担がかかる。力を瞬間的に入れるのと、均等に入れるのを比べると、瞬間的に入れたほうが威力が出、楽なのである。卓球で考えれば、よく「打球時にグリップをギュッと握ると、威力のある球が打てる」と言われるのがそれだろう。

このように素早いスイングで打球時にグイッと力を入れることによってさまざまな場面で安定したボールが打てるつっぱり打ちは、まさに私が求めていた打法である。
しかし、指導者によると、この打法は別に特別な打ち方ではなく、早いピッチ中の打法として多くの上級者が使っているのだそうだ。ただ、フォロースルーが円を描いているので、それほどストレートに打っているように見えないとのこと。

【追記】131104
以前「デッパリ弧線」について書いたが、このストレート打ちはフォアハンドのデッパリ弧線なのかもしれない。

【追記】131105
この打法を当初「ストレート打ち」と呼んでいたが、「ストレート打ち」というと、クロスに対立するストレートという、方向を意味してしまい紛らわしいので「つっぱり打ち」と呼び名を改めた。