中国の方から聞いたのだが、中国卓球界で最高の栄誉とされるのは「全満貫」を達成することだという。
「大満貫」というのは聞いたことがあるが、「全満貫」というのは初めて聞いた。

鄧亜萍Deng Yapingは13~14歳(中国の年齢は数え年なので、あいまい)で中国の全国大会(これも複数あるらしい)で優勝したらしい(1986年?)。卓球王国の中国でわずか13歳あまりで優勝するというのはどういうことなのか。まさに天才少女と呼ぶにふさわしい。それにしても信じられない。あれほど層の厚い中国でポッと出の中学生の少女が全国優勝を成し遂げるなんて。
しかし、考えてみたら、こういうことも十分起こりうることなのだ。中国は広い。そして卓球人口が非常に多い。都市部でけっこう有名な選手たちは、みんながマークしているので、順当な結果になる。しかし中国は広い。全国津々浦々からとんでもなく才能のある若い選手が毎年現れる。彼女らは当然ノーマークだ。松平志穂選手のしゃがみ込みサービスを予備知識無しに受けたら、世界ランキング一桁の選手もかなり手こずるのではないだろうか。
それで中国では国際大会―大抵の選手は一度ぐらい対戦したことがある、あるいはある程度の情報がある―で優勝するよりも、国内大会―どんな選手が出てくるか分からない―で優勝するほうが難しいとされているらしい。「全満貫」というのは「大満貫」(オリンピック・世界選手権・ワールドカップ)を制し、かつ中国の全国大会を制することを指すという。

水谷選手の1回戦負けのニュースには耳を疑った。まさか水谷選手に限ってという思いだった。先日のワールドチームカップでブラジルのマツモト・カズオ選手にストレート負けをしたときの再来だ。水谷選手が負けたのはチェコのパペル・シルチェクという選手らしい。世界ランキングは131位。相手は当然水谷選手の戦い方を入念にチェックしてあったはず。一方水谷選手は中国との対戦ばかりを視野に入れ、世界ランキング3桁の選手のことなど眼中になかったことだろう。まさかこんな伏兵がいたなんて。マツモト選手といい、シルチェク選手といい、世界ランキングの低い選手といえどもあなどれない。

卓球というのはほんとうに相性で大番狂わせが起きやすい競技だと思う。それはそれでスポーツとして健全なあり方だ。しかしそれでも格下にほとんど負けない中国選手の強さは異常だ。未知の選手に対応するのは中国のトップ選手に必須の能力なのかもしれない。

水谷選手はこんなことで引退など考えないでほしい。まだまだ若いのだから、この敗戦を成長の糧としてがんばってほしい。

【追記】131005
上に言及した「中国の全国大会」というのは「全中国運動会」のことだという。今年の「運動会」には張継科選手が出場していないのかと思ったら、準々決勝で樊振東選手に早々と敗退したのだという。わずか16歳で現世界チャンピオン、オリンピック金メダリストを下すとは、後生畏るべし。なお、女子の李暁霞が優勝し、全満貫を達成したらしい。