World Team Classic 2013 男子準決勝 日本 対 中国 の試合をテレビ東京のライブ配信で観た。
女子の日本 対 韓国・シンガポール、男子の日本 対 ブラジル も観たので、30日の土曜日はこの大会をほぼ一日中観戦していた。女子はオリンピックに続いてシンガポールを破り、決勝進出。男子はところどころヒヤッとしたものの、ブラジルを順当に下し準決勝進出。男子が中国に勝てる見込みは薄いが、一矢報いてほしいと期待しながら観戦していた。

結果は1-3で敗北したが、それでも一矢報いることができた。松平健太選手と丹羽孝希選手のダブルスが張継科選手と王皓選手のダブルスを大接戦の末、破ったのだ。


第三試合:
松平健太/丹羽孝希 対 張継科/王

上のITTFのハイライトのyoutubeにおけるコメントを見ると、「中国ペアのミスが多すぎた」といった意見が多かった。あたかも「中国の調子が悪かったから、たまたま日本ペアは勝てた」とでも言わんばかりだ。この5分程度の「超ダイジェスト版」を観たら、そう感じるかもしれないが、全てをリアルタイムで観ていた私には首肯しがたい意見だ。

この勝利は偶然や幸運だけによってもたらされたものではない。第1戦から見れば、「さもありなん」という結果なのだ。

第一試合の丹羽孝希選手と
張継科選手の試合はスコアだけを見れば0-3で丹羽選手の完敗だが、内容は少し違う。
丹羽選手を第一試合に持ってきたオーダーは英断だったと思う。
丹羽選手の最近のブンデスリーガの試合を見ると、ひどい内容だった。やる気のなさそうな試合態度で、全体的に投げやりなプレーが目立つ。慎重にやれば勝てたかもしれない試合でも最後までテキトーにプレーして勝利を捨てていたように見える。チームの勝利のことなど、眼中にはなさそうだ。天才との呼び声高い丹羽選手との対戦を期待していた相手はさぞ興をそがれたことだろう。丹羽選手の態度は最悪だっだと思う。youtubeのコメントにも「コーキは終わった」とか「やる気がないなら帰れ」といったコメントが散見される。


ブンデスリーガ2013:丹羽孝希 対 アポローニャ

そんな「勝てる試合でも適当にプレーして、捨ててしまう」「何をしでかすか分からない」不気味さを丹羽選手は醸していた。その上、丹羽選手は今年の全日本で水谷選手を破って優勝していることから、張継科選手のライバルの馬龍選手を倒したのは運だけでなかったということが証明されている。馬龍選手は丹羽選手に相当苦手意識を持っているのだろう。今回の日本戦ではオーダーから外されていた。「丹羽はどう出てくるのか。もしかしたら、俺まで負けるのではないか」と張継科選手に思わせる不気味さが丹羽選手にはあった。この試合でも丹羽選手はところどころでやる気のなさそうな、不敵な態度を見せた。試合には負けはしたものの、心理戦では負けていなかった。ところどころ光るプレーも見せたし、卓球になっていた。「こいつを調子に乗らせたら、もしかしたら…」というプレッシャーを中国選手に与えることができたと思う。


第一試合:丹羽孝希 対 張継科

もしこの第一試合で2011年の世界選手権、水谷隼選手 対 王皓選手 のような一方的な試合になっていたらどうなっていただろうか。当時、水谷選手は世界ランキングをどんどん上げており、「もしかしたら、中国に勝てるのでは?」という期待を持って試合を観たのだが、蓋を開けてみたら、「王皓選手のサービスが分からない」「皓選手のフォアドライブが止められない」で、水谷選手は防戦一方。相手に全く脅威を与えられなかった。


世界選手権 2011 
水谷隼 対 王

続く第二試合は水谷隼選手と
許昕選手の試合だった。水谷選手は対ブラジル戦で格下のマツモト・カズオ選手にストレート負けしており、調子が心配された。逆に許昕選手は今、上り調子で世界ランキングも2位である。私はこの試合で先の世界選手権のような一方的な試合になるのではないかと心配していたが、杞憂だった。1ゲーム目から水谷選手が優位に立ち、2ゲーム目は落としたものの、3ゲーム目もとり、優位に立った。対する許昕選手はおそらくボールが合わない(一般的な中国選手よりも遅い?)せいか、水谷選手を得意のフォアドライブでしとめることができない。しかもフォアの打ち合いではしばしば水谷選手に打ち負けてしまう。中国選手にとっては第一試合からのイヤな雰囲気がこの試合にも尾を引いているように感じられたことだろう。許昕選手はリードされた4ゲーム目で相当緊張していたように見える。観客席からは「シューシン、ジャーヨー」と脳天気な声援が繰り返される。許昕選手の焦りは如何ばかりか。その後、許昕選手は慎重に戦い、水谷選手のミスにも助けられて、なんとか3-2で勝利した。もし水谷選手の調子が良かったら、この結果はひっくり返っていたかもしれない。

この試合で中国チームに「日本チーム侮りがたし」という脅威を抱かせ、次の第三試合に入ったのである。


第二試合:水谷隼 対 許昕

松平健太選手と丹羽孝希選手の左右ペアのダブルスは実績を残している。最近では、全日本を去年、今年と連覇し、去年のワールドツアー、ポーランド・オープンでは中国ペア(王皓/周雨)を破って優勝している。
健太選手は第三試合で初めて中国選手と対戦するが、緊張しているようには見えない。第一試合で負けた丹羽選手も、全く臆している風には見えない。日本ペアは精神的に負けていない。しかし、日本チームはこの時点で0-2。崖っぷちだ。緊張やプレッシャーがないはずがない。対する中国ペアは2-0で王手をかけているものの、これまでの流れから、「もしかしたら」というイヤな雰囲気がある。ここで崩れたら、中国チームに動揺が走るので、大事に至らないうちに、なんとかここでイヤな流れを断ち切りたい、食い止めたいという気持ちがあったことだろう。
日本ペアは中国ペアの凄まじい攻撃をみごとに受けきり、技術的にも負けていない。両者ともに相当なプレッシャーの中でのプレーなので、ミスが出るのは当たり前だ。というか、両者ともに、よくあのプレッシャーの中でこれだけ普通にプレーができると感心させられた。初めは中国ペアが先行するが、日本ペアは引き離されず、ジワジワと差を縮めてくる。そういう展開が目立った。2-2で並んだ5ゲーム目。中国ペアがリードを広げ、10-5で王手をかけた。「地力の差がでたか。もはやここまで」と思ったが、ここから日本ペアはプレッシャーに負けることなく、怒涛の7点連取で逆転して勝利!「イヤな予感が現実になった…」中国チームはそう感じたことだろう。

続く第四試合は健太選手と許昕選手の試合。
先の敗北からの動揺からか、
許昕選手は積極的な攻撃が影を潜めている。相当緊張しているのがうかがえる。対する健太選手は持ち味を発揮し、前半は互角の勝負をするが、後半の3、4ゲーム目は許昕選手に余裕を与えてしまい、1-3で敗北。しかし1ゲームをとるという意地を見せた。


第四試合:松平健太 対 許昕

ふだん、私たちはインターネットのダイジェスト版で試合を観る。ポイントとポイントの間やつまらないミスなどを取り除き、わずか数分にまとめられた試合を観て、試合を理解したつもりになっている。しかしダイジェスト版は多くの情報を取りこぼしてしまっている。緊張感や会場の雰囲気、その日の試合の流れというのもその一つだ。今回、インターネットのライブ配信と、そのダイジェスト版を比較してそれを痛感させられた。上のITTFのダイジェスト版は試合の間やリプレイ、凡ミスなどを完全に取り除いた「超ダイジェスト版」だったので、その違いが際立った。「超ダイジェスト版」からは試合のドラマが伝わってこない。
よく「写真と実物は全然違う」と言われる。いくら生中継だからといって、映像で見るのと、その会場で観戦するのとは、また全く違うものだろう。卓球観戦のおもしろさを十分に味わうためにはやっぱり生での観戦が理想だが、現実には難しいので、映像になる。映像なら完全版の方がいい。といっても、そんなにしょっちゅう省略なしの完全バージョンを観るほど時間の余裕はない。だから、同じダイジェスト版でも、「超ダイジェスト版」ではなく、ある程度試合の雰囲気を伝えるダイジェスト版を観たいと思う。「超ダイジェスト版」というのは次の動画のようなものである。


北京オリンピック:水谷隼 対 エロワ(超ダイジェスト版)

上の動画を見ると、エロワ選手はちょっと独特のフォームで、ミスの少ない、なかなか上手な選手といった印象だが、下のダイジェスト版は、ほんの少し選手の感情が垣間みえる。6:12と7:38のエロワ選手がおもしろい。
フランス人によると、「フランス人とは、いつも何かしら文句を言っている国民で、特にパリ市民はそれが著しい」ということらしい。フランスでは古い制度や習慣を政府が変えようとすると、いつもデモが起こるという。その改革の中身はどうでもよくて、とにかく反対し、議論するのが好きらしい。エロワ選手が失点すると、なにか喚いており、フランス人の面目躍如という感じがする。ダイジェスト版を作ってくれる人には感謝だが、できればもう少し余裕のあるバージョン―試合後の選手の表情などをもう少し映してくれると、試合の雰囲気や選手の人柄が少しは分かってありがたい。一見無駄に思える情報の中にも、実は理解に欠かせないものが含まれているもなのだから。


北京オリンピック:水谷隼 対 エロワ(少し余裕のあるダイジェスト版)