山中教子氏(元全日本チャンピオン、テナリー開発者)の提唱するARP理論の紹介動画を見た。



今までの卓球のビデオと全く違う。なにか、こう、痩せるためのフィットネスのビデオのようだ。
無地のTシャツを来た健康そうな二人がリラックスして危なげなく切り返しのラリーを続けている。
卓球の練習というより、ダンスでもしているかのような軽やかさ。

獲物を狙ってギラギラしながらチャンスを待ち、チャンスが来たら全力で襲いかかる。

こういうのが従来の卓球のビデオに漂っている雰囲気だが、このビデオを見ると、そんな世界とは別世界に来たかのような気がする。
山中氏は言う。卓球は美しくなければ真の意味での勝利ではないと。
紹介ビデオでは、その基本理念である、軸・リズム・姿勢について解説している。
たしかに従来の卓球ビデオでも軸とか体幹ということは強調されている。しかし、ARPでは軸がフロアからまっすぐ上に伸びるのがいいらしい。つまりY軸が真っ直ぐというだけでなく、Z軸も真っ直ぐ(前傾姿勢をとらない)ということらしい。姿勢についてはほとんどのビデオで「軽く前傾姿勢を取る」程度にしか言及されないが、ARPではまっすぐ立ち、ヒザのクッションでバランスをとるということを重視しているようだ。これによって連打してもブレない姿勢が保たれる。

そしてリズム。モデルプレイヤーは常にかかとを上下させ、リズムを取りながらプレーしている。ビデオによると関節を弛緩させることによって、ヒザをクッションにして地面の反発力とボールのバウンドをシンクロさせ、最小の力でボールに力を伝えるということを重視しているようだ。いかに速くブレずに動くかといったことを重視する従来のビデオとは違った視点である。

このビデオを見て卓球のあり方を考えさせられた。
よくコースを限定してロング対ロングの練習をしているのを評して、「あんな技術は試合で使うチャンスなどほとんどない。やっても無駄だ」といわれたりする。それよりももっと実戦に役立つ練習――相手の裏をかくための戦略やストップと見せかけてフリックをする練習、下か横か分からないサービスの練習などをすべきだと。
しかしそういった練習に汲々として、「あの人には一度も負けたことがない」「あの人に勝った」などということにこだわるのは、そんなに意味のあることだろうか。

つまりこういうことだ。
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時速200キロまで何秒で到達できるとか、コーナリング性能がいいとか、万年中級者のわれわれ(卓球人口の大半)にとってそんなことはどうでもいいことなのかもしれない。

われわれの卓球のイメージはむしろこれだ。

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燃費がいいとか、壊れにくいとか、何時間乗っていても疲れにくいとか、そういうことのほうがはるかに大切なのだ。

私たちにとっては、試合ではあまり勝てないが、リラックスしながら緩急自在にボールが打て、しかもどんなコースに来ても対応できる、往復20本ぐらいのロングのラリーが続く、こういうことのほうが「3~4球目で必ず決められる」ことよりも大切なことなのだ。試合で勝つことが目標になりすぎてしまったあまり、卓球の楽しさのようなものが置き去りにされている。そうではなく、楽しく体を動かして、ラリーを続けることこそが目標で、その結果として試合での勝利にも結びつくという立場があってもいいのではないだろうか。

結論に入るが、このビデオを見て、フィットネスとしての卓球があってもいいのではないかと感じた。
卓球愛好者のほとんどは中学生以下か、中高年である。子供は勝利が目標であってもいいと思う。しかし大半の中高年の卓球はフィットネスこそが目標になるべきではないだろうか。試合で勝つためのテクニックよりも、安定感のあるフォームで延々とラリーが続けられることこそが目標になってもいいのではないだろうか。
卓球の大会では、通常のルールの試合とともにフィットネスとしての競技、たとえば切り返しが何本ミスなく続けられたか、あるいはコースを限定して、ドライブをブロックで何本止められるか、といった競技があってもいいのではないだろうか。