しろのたつみ



卓球について考えたこと、
気づいたこと(レベル低いです)
を中心に中級者の視点から綴っていきます。




2016年07月

フォアロングとバックロングが安定して打てるようになってきた初級者の女性と打った時のことである。

きれいなフォームでフォア・バックどちらの打法もかなり速いボールが打てるようになり、本人は楽しそうである。

バック対バックで打ちあっているときは、さして集中しなくても体が打球タイミングを覚えている感じで、往復10本ほどリラックスしてラリーが続くようになった。
しかし、私がサーブ(というほどのものではないが、ワンコースで打つためにこちらから順回転のロングボールを送るだけである)すると、よくネットに掛けてしまう。 ボールが数往復してラリーが安定すると、ミスしないのだが、こちらからボールを送った2球目でよくミスをする。

彼女からしたら、2球目のボールも4球目以降のボールも同じなのだろう。しかし、このバック対バックのロングを打ち合う練習で、2球目のボールはまだ十分勢いに乗っておらず、軽く当てるとネットを越えないし、逆に速いスイングスピードで後ろから前にガンとぶつけてしまうと、ボールが落ちてネットに突き刺さってしまう。2球目は軽くひっかけてこすりあげたり、あるいはラケットを後ろから前に一直線にぶつけるのではなく、下からくるりと一回転させて軽くぶつけてやらなければ、ボールが安定しない。

下回転のボールは面を上向きにしないとボールが落ちてしまうし、順横回転のサーブをレシーブするときは相手のフォア側(右利き)を狙って打たないと、相手のバック側にボールが飛んで行ってしまい、台に収まらない。当たり前のことだ。しかし、この程度のことを知っているだけで、ボールの性質が分かったつもりになっていないだろうか。

例えば、強い前進回転のかかったロビングをスマッシュするとき、自コートでバウンド後、普段のポジションで頂点に達してから打球する人は少ないだろう。そんなことをしたら、手元でグンとボールが伸び、さしこまれてしまい、スマッシュがオーバーミスしやすくなる。一歩後ろに下がるか、バウンド後の、ボールがそれほど高くなる前に打ってしまったほうが安全である。

また、こちらから相手のフォア前に下回転ショートサービスを出したとき、相手がフォアフリック(強くこすり上げるタッチではなく、ひっかけるようなタッチ)すると、そのボールはナックルになって返ってくる。私はかつてそのようなボールの性質を知らず、「払われた」という印象で、順回転のボールだと思い込み、相手のフリックを何度もネットに掛けてしまっていた。

下回転なら面を上に向ける、順横回転なら相手のフォア側に面を向けるといった基本的な知識だけでは現実のさまざまなボールに対応できない。同じ前進回転でも、勢いがある場合とない場合、バウンド直後と頂点を越えてからの打点ではボールの性質が全く異なる。

そのようにボールの性質をよく観察し続けるうちに私も低いレベルながら、ボールの性質というものがだんだん分かってきた。しかし、上級者はこのようなさまざまなシチュエーションのボールの性質を私よりも何倍もよく知っているのではないだろうか。譬えていうなら、私のボールに対する理解というのは、エアコンを使わないときはエアコンの電源を切れば、電気消費が減るというシンプルな原則をどんな場合にも適用するようなものである。詳しく知らないが、エアコンはこまめにつけたり消したりすると、かえって消費電力が多くなり、また待機電力というのもばかにならないらしい。

ボールというのは現実のさまざまなシチュエーションによって千変万化する。自分ではボールの性質を十分理解しているつもりでも、現実のボールは私の単純な理解を超えて気まぐれに飛んでいってしまう。数多くのシチュエーションに応じたボールの性質に対する理解をもっと深めなければ上級者には近づけないだろう。私はボールの性質をある程度理解しているつもりでも、おそらくその理解はせいぜい現実のボールの性質を半分程度カバーしているに過ぎない。したがって残りの一半のボールを私の理解で打てば、ミスしてしまう。

私がどうしてこんなことを考えたかというと、裏ソフトから表ソフトに転向したばかりの人に表ソフト一筋の達人がアドバイスしているのを聞いたからなのだ。

意味ないイラスト


「○○のレシーブの時は、××の回転になっているから、普段の角度で打つとボールが落ちるぞ」

とか

「△△の打点でそっと弾けば速いナックルになって、打ちづらいボールを送れるんだ」

といったこと(あまり正確ではないが、だいたいそんなようなこと)をアドバイスしているのを立ち聞きして、表ソフトでボールを安定させるには回転や打点にこれほど細心の注意を払わなければならないのかと感心したからなのである。表ソフトは回転に鈍感だから、ボールの回転にあまり注意しなくても大丈夫という先入観があったが、表ソフトのほうがかえってボールの微妙な回転に対する深い理解が必要なのかもしれない。

上級者がどんなボールにも対応し、ミスなくラリーを続けているのを見て、上級者は基礎がしっかりしていて、フォームがきれいだから安定するのだと思っていたのだが、上級者を上級者たらしめているのはフォームよりも、現実のシチュエーションのボールに対する、経験からくる知識なのではないだろうか。「このボールは上から抑えないとオーバーしてしまう」とか、「ボールの勢いを横に逃がせば安定する」といった細かい個々の状況におけるボールの性質を知悉しているから、どんなボールにも対応できるのではないだろうか。 

今、「卓球屋」でセールをやっている。
バタフライやヤサカ、アシックスやミズノ等を除いて4割引だそうだ。
いろいろ見てみてスティガのインテンシティーNCTが目に止まった。
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う~ん、グリップのデザインが好みだ。昔使っていたヨハンソンにそっくりだ。

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でもお高いんでしょう?
いえいえ10692(税込)円ですよ。

1万円のラケットというのが不思議と安く感じる。最近のラケットは実売1万以上のものがポンポン出てくるからだろう。

う~んどうしよう。

「欲しい欲しい」という気持ちを引きずりながら何年も自分をごまかすよりも、思い切って買ってしまったほうが精神衛生にもいいのではないだろうか。たとえ自分ごのみの打球感でなかったとしても、いつまでも恋恋と所有したいという気持ちを抱えていくよりはマシだ。

とはいうものの、今の自分の用具に特に不満があるわけではない。というより結構気に入っている。使い続けていくとだんだん手に馴染んでくる気がする。最近はグリップの感触が分かるようになってきた。

今まで自分がラケットのどの辺に力を入れるかをほとんど意識していなかったのだが、最近は人差し指の根本、中手骨の辺りに力を入れるとグリップと当たって気持ち良いことに気づいた。

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赤く塗りつぶした辺り

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上の写真のようにペンホルダーのグリップのちょうど中間辺りの一点に力を入れると手首が自然に使え、打ちやすく感じる。長年?同じラケットを使っていると、今まで意識したことのない、グリップと手の接触する部分に意識が行くようになる。それも接触するすべての部分ではなく、とりわけ一点に意識が集中するようになった。

よく打球時に手に力を入れるといいと言われるが、手という漠然とした部分ではなく、手のどこに力を入れればいいのだろうか?ラケットに手が馴染んでくると、そういう細かい部分まで気になってくる。

グリップだけだろうか?

スイングをする場合はどこに力を入れているのだろうか?上半身全体でスイングするのがいいとはいうものの、上半身の中の、それを代表する一点があるのではないだろうか。自分でフォアハンドの素振りをして確認してみると、左の肩甲骨の下あたりの脇腹に力を入れているかなぁと思う。

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下半身はどうだろう?
右の鼠径部の辺りだと思う。
鼠径部29

足はどうだろうか?
やっぱり拇指球の辺りだろうか。
拇指球

このように身体のパーツごとに力を入れる一点というのを意識できればより敏捷に効率よく身体を使えるようになるのではないだろうか。ただし、これはまったく根拠のない私の思い込みである。

ということを考えているうちに、新しいラケットを買いたいという欲望がだんだん薄れてきた。

今回も危ないところだったが、なんとか用具購入の誘惑を退けることができた。
長々と綴ってきたが、結局あまり意味のない駄文となってしまった。
インテンシティーNCTのレビューなどを期待していた方には申し訳ない。

結論としては、用具が欲しくなったときは、上達のためにいろいろ想像をめぐらしてみるのが有効なのである。

卓球におけるサービスの重要性は誰もが認めるところである。
相手のサービスが嫌なところに来ると、こちらは自信をもってレシーブできず、どうしても先手を取られてしまうことになる。

しかし、いくらいいサービスでも、1ゲーム、2ゲームとゲームを重ねるうちにどうしても相手に慣れられてしまい、サービスが効かなくなる。だから私はいろいろな種類のサービスを用意しておき、相手に慣れられたら、新しいサービスを投入するという試合運びだったのだが、最近、それではいけないと思い知らされる出来事があった。

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サービスといえば、福岡春菜選手。

先日、試合に出たら、ちっとも勝てなかった。
自分より明らかに格上だったら悔しくもないが、私がストレートで負けた相手は、自分と同等、あるいは格上だとしても、決して手の届かない相手ではなかったので、なんとも割り切れない気持ちになった。

自分では気づかない欠点もあろうかと、対戦後にコメントを求めてみた。そこで言われたのは全体的にボールが甘いし、甘いボールを見逃しているといったことだった。練習のときは思い切ったプレーで鋭いボールが打てるときもあるのだが、試合になると消極的になってしまい、打てるボールもつないでしまう…。私だけではない。試合で多くの初中級者がこのような印象を持つものだ。

「練習でできることが試合では全くできない」。

私も過去の記事で同じようなことを何度も述べてきた。しかし、考えるだけで解決策に着手しようとはしないのだ。どうやったら練習でできることが試合でもできるようになるのか。自明のことである。相手の出方を予測して、待っていればいいのだ。そんなことは初中級者には無理だと思うかもしれないが、条件を整えれば決して無理なことではないのだ。

台からそこそこ出る下回転サービスをフォア側に出したら、相手がどのような出方をするのか予測しにくい。

・クロスにドライブで打ち抜いてくる
・ストレートにドライブで打ち抜いてくる
・ミドルに打ち抜いてくる。
・打点の早いツッツキ
・深く切ったツッツキ
・ストップ
・フリック
     等等。

台から出るサービスを相手のフォア側に送ったら、相手はやりたい放題である。だから普通の人は相手にやりたい放題されにくいサービスを出す。もちろん私もその例に漏れない。例えば

・相手のフォア前に巻き込みショートサービス。
・相手のバック前に下回転ショートサービス。

だが、ショートサービスばかりだと待たれてしまうので、意表をついて
 
・巻き込みの体勢から、相手のフォアへストレートに速いナックルサービス 
・下回転ショートサービスと同じモーションで相手のバック深くへ横回転ロングサービス


などを出すのだが、私の卓球は行き当たりばったりなので、次のことをほとんど考えていない。
「ショートサービス(ロングサービス)だから、台から近く(遠く)で待っておこう」 
程度のことしか考えていないのだ。
それで例えばミドルあたりに短く返球されるかな?などと待っているとサイドを切るクロスや深いフリックなんかが返って来て、面食らってアタフタしてしまうわけだ。これではいつになってもこちらから先手を取れない。

どうすればいいのか?
答えは分かっている。

いろいろなサービスを行き当たりばったりに出すのではなく、例えばフォア前のショートサービスとバック深くのロングサービスという2種類のサービスに絞って、相手の出方を徹底的に探るのがいいに決まっている。

フォア前に下回転ショートサービスを出した場合、
こちらのミドルに短く返球されること(A)が多い。
しかし、相手によってはこちらのバック深くに流してくる(あるいはフリック)場合(B)もあるだろう。
そしてこちらのフォアサイドを切るツッツキ(C)を打ってくる場合もあるかもしれない。

優先順位からすると、ミドルへのストップかツッツキだろう。そこで(A)で60%ぐらい待っていて、バックハンドのフリックで相手のバック深くを狙う。これがデフォルトで、次にこちらのバック深くへの流しやフリック(B)を20%ぐらい警戒する。もし(B)が来たら――相手の様子をよく観察して、バック側に打ってくると判断したら、すぐに下がってバックハンドドライブでバック深く、あるいはフォアへストレートに打つ。この判断が早ければ早いほどこちらが先手を取れることになる。(C)も同様に警戒し、相手の動きを察知したら、すぐにフォアで相手のミドルを狙うことにしよう。

このようにおおまかにサービスと3球目をパターン化し、さらに検証を重ねてその他の返球にも対応できるようフィードバックし、パターンをより精緻なものとしていく。こういう作業を今まで怠っていたから私は試合で実力が発揮できなかったのだろう。私は新しいサービスにいろいろ取り組んでみるのが好きなので、次から次へといろいろなサービスを試してみる。しかし、サービスの種類が多ければ多いほど、相手のレシーブへの対応が複雑になり、収拾がつかなくなる。サービスというのは1発で得点できたり、甘いレシーブを引き出したりできる威力を持つ代わりに、相手の返球に予測をもってしっかり対応しようと思うと、パターン化のために相当な練習量を要求されるという、いわば諸刃の剣だったのだということを身をもって実感した。

サービスと3球目との連繋を確実にできれば普段の練習のようなプレーが試合でも発揮できるはずである。しかし試合で6種類も8種類もサービスを使ってしまうと、サービスと3球目との連携がしっかりできず、私のように行き当たりばったりでプレーして試合での主導権をちっとも握れないまま、相手にやりたい放題されてしまうことになる。試合でのサービスは、私のレベルなら2種類(ショートサービスとロングサービス)ぐらいに絞って、3球目との連携を確実にしたほうがいいのだ。

【付記】
今日は祇園祭のやまほこ巡行。京都の町なかは人であふれている。 
それはそうと、このブログの管理ページをみると、この記事が記念すべき500本目ということである。
これからも、頻繁には更新できないが、地道に息長く書き続けていきたいと思う。

【追記】160729
興味深い動画を見つけたので紹介したい。

バックハンドの表面と裏面を器用に使い分けるような卓球がしたい。
たとえば王建軍選手の以下の動画のプレーのように。


Chuang Chih-Yuan vs Wang Jian Jun (French League 2016)

1・2ゲームはほとんど裏面を使わず(追記:改めてみたら、1ゲームは裏面をけっこう使っていた)、表面のバックハンドばかりだが、フォアのラリーでは荘智淵選手に歯が立たず、回りこんでフォアドライブを打っても優位に立てない。そこで3・4ゲーム、特に4ゲーム目は表面と裏面のバックハンドを上手に使い分けておもしろいプレーをしている。

表面は身体のかなり前方で早いピッチで打つことができる。台上などで表面のプッシュをすると、相手の意表を突くことができる。それに対して裏面はやや身体に近づけた遅い打点で打つことになるが、ドライブやフリックなどの擦る系の技術が使いやすい。表面で相手と早いピッチでバックハンド同士のラリーをしているときに突然、打点を遅らせ、裏面でドライブなどを打つのはペンホルダーの特権ではないだろうか。

私は表面をあまり使わず、裏面ばかり使っているのだが、表面の良さを認識してからは表面もできるだけ使うようにしている。しかし、表面が安定しない。そんなとき、以下の記事を見つけた。

相手のドライブが強力であればあるほど、
ブロック&カウンターはフォア面バック面に限らず、
ヘッドを上げないと相手の威力に圧され、
オーバーすることになります。
卓球技術研究所「2016.5.8■中ペン、F面表・B面裏かF面裏・B面表に換えたのですが……」


今までは表面BHはラケットを水平にして、上にこするように打っていたのだが、この記事を読んで、ヘッドを上げて、真後ろからチョンと押すようなバックハンドにしてみた。すると、かなりボールが安定するようになった(レベルが低すぎて申し訳ない)。ヘッドが水平だったのが悪いのか、後ろから前に押さなかったのが悪いのか、どちらが原因か分からないが、とにかくずいぶん表面が安定してきた。

そこで考えたのは、バックハンドはとにかくヘッドを立てたほうがいいのではないかということである。

裏面のバックハンドもできるだけヘッドを上げて打てば、力がラケットに伝わりやすく、安定する。素人考えだが、裏面の場合、親指の位置が問題のように思う。

親指

上図のように前腕と親指が一直線になっていれば、腕の力がラケットに伝わりやすい。それを手首をカギ型に曲げてしまうと、安定しない気がする。といってもプロの選手の裏面バックハンドを見ていると、必ずしも私の言ったとおりではなく、ヘッドを下げている写真もある。

DSC_5340
ヘッドを下げて打つワンハオ選手

なので、手首を曲げ、ヘッドを下げるやり方もありなのだと思うが、私の経験上、ヘッドを上げたほうが安定すると思う。親指を腕と一直線にしようと思うと、必然的に脇が閉まり、ヘッドを相当上げることになる。シェークのバックハンドの立て具合とあまり変わらないぐらいである。こうすると、裏面バックハンドでもしっかりしたボールを打てるようになる。

ペンホルダーのバックハンドは表面でも裏面でもヘッドを上げたほうが安定するのではないだろうか。ただ、これはあくまでも個人的な意見なので万人にとって正しいかどうかの保証はない。

【追記】
今週の木曜から土曜にかけて京都府立体育館(通称島津アリーナ京都)でインカレが行われる。せっかくレベルの高い試合が近くで見られるというのに仕事の予定が詰まっていて、行けそうもない。残念。


地域の社会人のクラブに来ている初心者の女性がフォア打ちが安定しないということなので、私がいろいろアドバイスをすることになった。初心者だし、フォア打ちだし、私でも直せるだろうと高をくくっていたのだ。

「棒立ちだから、やや前傾したほうがいいですよ」
「スタンスが狭すぎます」
「もう少し脇を閉めて」
「ラケットが下から出すぎています。もっとスイングをコンパクトにしてバックスイングを引かないで」
「肘と手首を使いすぎています。そこは動かさずに胃袋のあたりに力を入れて、胃袋で振って下さい」
「打球点が遅いです。バウンド後はボールを見ないで。バウンドする点にラケットをぶつけるタイミングで。」
「こすりすぎです。もう少し当てを強く」

思いつく限りのアドバイスを頭から足先に至るまで細かくやってみたのだが、女性はかえってフォームがおかしくなってしまい、明らかに以前よりもフォア打ちが不安定になってしまっていた。

結局

「すみません…。今までのアドバイスはすべて忘れてください。1点だけ。打球点が遅いので、そこにだけ気を付けたほうがいいですよ。」

面目ない…えらそうに指導なんか買って出たくせに、それが逆効果だったなんてみっともなすぎる。たとえはるかに格下の相手であっても、指導するというのは難しいものなんだなぁと思い知らされた。

私はそれからどうして自分の指導がうまくいかなかったのかを反省してみた。…そして私は学習者の考える余地を完全に奪ってしまっていたというのが最大の原因だったと結論した。

私が与えたアドバイスの中にはいくつか当を得ているものもあったに違いない。しかし、私がいろいろ言いすぎるものだから、彼女は自発的に考えたり、試したりすることをやめてしまい(いわゆる思考停止)、すべて指導者の言いなりになってしまったのだ。諸々のアドバイスの中には矛盾するものも含まれており、それらが互いに邪魔をして打ち方がおかしくなったのではないかと見当を付けている。

『卓球レポート』でフィギュアスケートの佐藤信夫コーチの記事を興味深く読んだ。

壁にぶち当たったのはジュニアの指導を始めてからである。
体格も性格も、モチベーションも違う子どもたちに、自分の体に染みこんだノウハウをたたき込もうとした。【中略】離れていく選手もいたし、親と対立したこともあった。「ずいぶん遠回りしました」と、本人は振り返る。
【中略】
教え子の一人である村主は「佐藤先生の凄いのは『待てる』こと」だと言う。
「キャリアのある人ほど、自分が思う正解を選手に押し付けてしまいがちです。」
答えまで教えてしまうと、その選手は人として成長できませんから
「城島充の取材ノートから」18『卓球レポート』2016-6

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最後の村主選手の「答えまで教えてしまうと、人として成長できない」という言葉が心に響いた。

壁にぶち当たったときに「正解」があると言われたら、誰でも飛びついてしまうだろう。自分でいろいろ長い間試行錯誤してまちがった答えに辿り着くよりは安全な「正解」をそのまま習ったほうがいいに決まっている。しかし、その安易さが落とし穴なのではないだろうか。

吉村真晴選手は中学時代、先生が見ていないときは「すぐロビングを上げたり、横回転を入れたり、試合で使わない『魅せる技術』ばかりやっていた」と振り返っている。そしてこの「遊び」が今の吉村選手のプレーに確実に生きていると述懐している(「私の戦型、私の個性」『卓球王国』16年7月号)。遊びの中には「どうやったらより効果的に相手をビックリさせられるか」といった要素があり、それは先生に教わるものではなく、自分でいろいろ試して探さなければならない。

これは自分の卓球にも当てはまるのではないだろうか。卓球の雑誌やネットの動画等で、「正解」は世に溢れている。しかし、これらをつぶさに調べて学んだところでそれほど自分卓球が上達したという実感はないような気がする。これらの「正解」が無意味だと言っているのではない。時機が来ていないのにあれこれ教え込んでも効率が悪い。まずは自分で試してみて、壁にぶち当たってみることが必要――「憤せずんば啓せず、悱せずんば発せず」なのである。
私も自分でいろいろ試してみるよりも、つい「正解」に飛びついてしまうのだが、そういう知識は頭の片隅に置いておくだけにして、まずは自分でいろいろ試行錯誤してみるべきなのだ。

私が初心者を指導するときにははじめに「打球点が遅れていますよ」とだけ言えばよかったのかなと思う。彼女は問題点を指摘されて、どうやったら打球点が遅れないようになるのか自分でいろいろ試行錯誤してみることだろう。そうやって自分で問題を解決できるのなら、それに越したことはないが、おそらくそれがうまくいかないことのほうが多いだろう。そこで次に「ボールがバウンドして頂点に達してから急いでバックスイングを引いても間に合わないと思いますよ」のようにもう少しヒントを与える。この繰り返しによって学習者は自分で考えることもできるし、大きく迷わずに正しい道を歩めると思う。

先日知人にこんなエピソードを聞いた。

「大学時代に『つまらない』『眠くなる』と言ってみんなに敬遠されていた授業があったんですが、私はおもしろいと思ったんです。そこで授業の後に先生に『先生の授業はとても分かりやすくておもしろいです』とコメントしたら、先生は『学部生に分かりやすいと言われるような授業を私はするようになってしまったのか…我ながら情けない』と言っていました。」

分かりやすく明快なのが正義というこのご時世にあってなんという時代錯誤!とはじめは思ったが、村主選手の言葉を思い出すと、この先生の言い分にも一理あると感じた。分かりにくい指導というのも、しっかりした裏付けがあれば有効なのだ。


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