フォアロングとバックロングが安定して打てるようになってきた初級者の女性と打った時のことである。
きれいなフォームでフォア・バックどちらの打法もかなり速いボールが打てるようになり、本人は楽しそうである。
バック対バックで打ちあっているときは、さして集中しなくても体が打球タイミングを覚えている感じで、往復10本ほどリラックスしてラリーが続くようになった。
しかし、私がサーブ(というほどのものではないが、ワンコースで打つためにこちらから順回転のロングボールを送るだけである)すると、よくネットに掛けてしまう。 ボールが数往復してラリーが安定すると、ミスしないのだが、こちらからボールを送った2球目でよくミスをする。
彼女からしたら、2球目のボールも4球目以降のボールも同じなのだろう。しかし、このバック対バックのロングを打ち合う練習で、2球目のボールはまだ十分勢いに乗っておらず、軽く当てるとネットを越えないし、逆に速いスイングスピードで後ろから前にガンとぶつけてしまうと、ボールが落ちてネットに突き刺さってしまう。2球目は軽くひっかけてこすりあげたり、あるいはラケットを後ろから前に一直線にぶつけるのではなく、下からくるりと一回転させて軽くぶつけてやらなければ、ボールが安定しない。
下回転のボールは面を上向きにしないとボールが落ちてしまうし、順横回転のサーブをレシーブするときは相手のフォア側(右利き)を狙って打たないと、相手のバック側にボールが飛んで行ってしまい、台に収まらない。当たり前のことだ。しかし、この程度のことを知っているだけで、ボールの性質が分かったつもりになっていないだろうか。
例えば、強い前進回転のかかったロビングをスマッシュするとき、自コートでバウンド後、普段のポジションで頂点に達してから打球する人は少ないだろう。そんなことをしたら、手元でグンとボールが伸び、さしこまれてしまい、スマッシュがオーバーミスしやすくなる。一歩後ろに下がるか、バウンド後の、ボールがそれほど高くなる前に打ってしまったほうが安全である。
また、こちらから相手のフォア前に下回転ショートサービスを出したとき、相手がフォアフリック(強くこすり上げるタッチではなく、ひっかけるようなタッチ)すると、そのボールはナックルになって返ってくる。私はかつてそのようなボールの性質を知らず、「払われた」という印象で、順回転のボールだと思い込み、相手のフリックを何度もネットに掛けてしまっていた。
下回転なら面を上に向ける、順横回転なら相手のフォア側に面を向けるといった基本的な知識だけでは現実のさまざまなボールに対応できない。同じ前進回転でも、勢いがある場合とない場合、バウンド直後と頂点を越えてからの打点ではボールの性質が全く異なる。
そのようにボールの性質をよく観察し続けるうちに私も低いレベルながら、ボールの性質というものがだんだん分かってきた。しかし、上級者はこのようなさまざまなシチュエーションのボールの性質を私よりも何倍もよく知っているのではないだろうか。譬えていうなら、私のボールに対する理解というのは、エアコンを使わないときはエアコンの電源を切れば、電気消費が減るというシンプルな原則をどんな場合にも適用するようなものである。詳しく知らないが、エアコンはこまめにつけたり消したりすると、かえって消費電力が多くなり、また待機電力というのもばかにならないらしい。
ボールというのは現実のさまざまなシチュエーションによって千変万化する。自分ではボールの性質を十分理解しているつもりでも、現実のボールは私の単純な理解を超えて気まぐれに飛んでいってしまう。数多くのシチュエーションに応じたボールの性質に対する理解をもっと深めなければ上級者には近づけないだろう。私はボールの性質をある程度理解しているつもりでも、おそらくその理解はせいぜい現実のボールの性質を半分程度カバーしているに過ぎない。したがって残りの一半のボールを私の理解で打てば、ミスしてしまう。
私がどうしてこんなことを考えたかというと、裏ソフトから表ソフトに転向したばかりの人に表ソフト一筋の達人がアドバイスしているのを聞いたからなのだ。
「○○のレシーブの時は、××の回転になっているから、普段の角度で打つとボールが落ちるぞ」
とか
「△△の打点でそっと弾けば速いナックルになって、打ちづらいボールを送れるんだ」
といったこと(あまり正確ではないが、だいたいそんなようなこと)をアドバイスしているのを立ち聞きして、表ソフトでボールを安定させるには回転や打点にこれほど細心の注意を払わなければならないのかと感心したからなのである。表ソフトは回転に鈍感だから、ボールの回転にあまり注意しなくても大丈夫という先入観があったが、表ソフトのほうがかえってボールの微妙な回転に対する深い理解が必要なのかもしれない。
上級者がどんなボールにも対応し、ミスなくラリーを続けているのを見て、上級者は基礎がしっかりしていて、フォームがきれいだから安定するのだと思っていたのだが、上級者を上級者たらしめているのはフォームよりも、現実のシチュエーションのボールに対する、経験からくる知識なのではないだろうか。「このボールは上から抑えないとオーバーしてしまう」とか、「ボールの勢いを横に逃がせば安定する」といった細かい個々の状況におけるボールの性質を知悉しているから、どんなボールにも対応できるのではないだろうか。
きれいなフォームでフォア・バックどちらの打法もかなり速いボールが打てるようになり、本人は楽しそうである。
バック対バックで打ちあっているときは、さして集中しなくても体が打球タイミングを覚えている感じで、往復10本ほどリラックスしてラリーが続くようになった。
しかし、私がサーブ(というほどのものではないが、ワンコースで打つためにこちらから順回転のロングボールを送るだけである)すると、よくネットに掛けてしまう。 ボールが数往復してラリーが安定すると、ミスしないのだが、こちらからボールを送った2球目でよくミスをする。
彼女からしたら、2球目のボールも4球目以降のボールも同じなのだろう。しかし、このバック対バックのロングを打ち合う練習で、2球目のボールはまだ十分勢いに乗っておらず、軽く当てるとネットを越えないし、逆に速いスイングスピードで後ろから前にガンとぶつけてしまうと、ボールが落ちてネットに突き刺さってしまう。2球目は軽くひっかけてこすりあげたり、あるいはラケットを後ろから前に一直線にぶつけるのではなく、下からくるりと一回転させて軽くぶつけてやらなければ、ボールが安定しない。
下回転のボールは面を上向きにしないとボールが落ちてしまうし、順横回転のサーブをレシーブするときは相手のフォア側(右利き)を狙って打たないと、相手のバック側にボールが飛んで行ってしまい、台に収まらない。当たり前のことだ。しかし、この程度のことを知っているだけで、ボールの性質が分かったつもりになっていないだろうか。
例えば、強い前進回転のかかったロビングをスマッシュするとき、自コートでバウンド後、普段のポジションで頂点に達してから打球する人は少ないだろう。そんなことをしたら、手元でグンとボールが伸び、さしこまれてしまい、スマッシュがオーバーミスしやすくなる。一歩後ろに下がるか、バウンド後の、ボールがそれほど高くなる前に打ってしまったほうが安全である。
また、こちらから相手のフォア前に下回転ショートサービスを出したとき、相手がフォアフリック(強くこすり上げるタッチではなく、ひっかけるようなタッチ)すると、そのボールはナックルになって返ってくる。私はかつてそのようなボールの性質を知らず、「払われた」という印象で、順回転のボールだと思い込み、相手のフリックを何度もネットに掛けてしまっていた。
下回転なら面を上に向ける、順横回転なら相手のフォア側に面を向けるといった基本的な知識だけでは現実のさまざまなボールに対応できない。同じ前進回転でも、勢いがある場合とない場合、バウンド直後と頂点を越えてからの打点ではボールの性質が全く異なる。
そのようにボールの性質をよく観察し続けるうちに私も低いレベルながら、ボールの性質というものがだんだん分かってきた。しかし、上級者はこのようなさまざまなシチュエーションのボールの性質を私よりも何倍もよく知っているのではないだろうか。譬えていうなら、私のボールに対する理解というのは、エアコンを使わないときはエアコンの電源を切れば、電気消費が減るというシンプルな原則をどんな場合にも適用するようなものである。詳しく知らないが、エアコンはこまめにつけたり消したりすると、かえって消費電力が多くなり、また待機電力というのもばかにならないらしい。
ボールというのは現実のさまざまなシチュエーションによって千変万化する。自分ではボールの性質を十分理解しているつもりでも、現実のボールは私の単純な理解を超えて気まぐれに飛んでいってしまう。数多くのシチュエーションに応じたボールの性質に対する理解をもっと深めなければ上級者には近づけないだろう。私はボールの性質をある程度理解しているつもりでも、おそらくその理解はせいぜい現実のボールの性質を半分程度カバーしているに過ぎない。したがって残りの一半のボールを私の理解で打てば、ミスしてしまう。
私がどうしてこんなことを考えたかというと、裏ソフトから表ソフトに転向したばかりの人に表ソフト一筋の達人がアドバイスしているのを聞いたからなのだ。
「○○のレシーブの時は、××の回転になっているから、普段の角度で打つとボールが落ちるぞ」
とか
「△△の打点でそっと弾けば速いナックルになって、打ちづらいボールを送れるんだ」
といったこと(あまり正確ではないが、だいたいそんなようなこと)をアドバイスしているのを立ち聞きして、表ソフトでボールを安定させるには回転や打点にこれほど細心の注意を払わなければならないのかと感心したからなのである。表ソフトは回転に鈍感だから、ボールの回転にあまり注意しなくても大丈夫という先入観があったが、表ソフトのほうがかえってボールの微妙な回転に対する深い理解が必要なのかもしれない。
上級者がどんなボールにも対応し、ミスなくラリーを続けているのを見て、上級者は基礎がしっかりしていて、フォームがきれいだから安定するのだと思っていたのだが、上級者を上級者たらしめているのはフォームよりも、現実のシチュエーションのボールに対する、経験からくる知識なのではないだろうか。「このボールは上から抑えないとオーバーしてしまう」とか、「ボールの勢いを横に逃がせば安定する」といった細かい個々の状況におけるボールの性質を知悉しているから、どんなボールにも対応できるのではないだろうか。