しろのたつみ



卓球について考えたこと、
気づいたこと(レベル低いです)
を中心に中級者の視点から綴っていきます。




2015年03月

前回は上級者の意識と行動とのズレについて述べた。
上級者は(おそらく)意識の整理を先に済ませておいて、あとは打つだけという状態にして行動を区切る。
台上からの展開を具体例で示すと、

1「あっサービスが来た」→2「ツッツキの姿勢」 【打つ前に次のアクションを予約しておく】
3「打球」→4「ボールが飛ぶ」→5「相手の打球に備えて戻る」【戻りのことを意識しながら打球】
 
これは言い方を変えれば、

意識が行動に一歩先行している

ということではないだろうか?

どんなボールが来るか、自分のブレードの角度やどのぐらいの厚さで当てるか等を予め整理しておき、次のタスク(打球)を「予約」しておいて、自分のメタ意識は既に相手の反応や次の行動をどうするかに向けられている。打球は意識下で行う。意識上は次の相手の行動に集中している。心と体が裏腹である。これをジュディー・オングの名曲の歌詞を借りれば

「好きな男の~、腕の中でも~ 違う男の、夢をみる~ 」



ということである。

前回は台上からの展開を例にこのズレを紹介したのだが、これは上級者の他の行動にも当てはまるだろうか。
たとえば打球からフットワークへの展開である。
私たちは打球と動きの区切り方を次のように考えているのではないか。

【打球パート】
「重心を右へ(バックスイング)」→「右足で踏ん張る」→「重心を左へ(打球)」→「左足で踏ん張る」

ここまでがセットである。ここを区切りにして、たとえばフォア側へ移動しようとして

【移動パート】
「重心を右へ」→「左足を右足に寄せる」→「重心を左足に」→「左足で踏ん張りつつ右足を出す」

のようにひとまとまりの動作として捉えているのではないだろうか。

しかし、上級者においては「打球パート」の途中から意識はすでに相手の動きの観察のほうに移っているのではないだろうか。

【打球パート】
1「重心を右へ(バックスイング)」→2「右足で踏ん張る」→【ここ(打球前)で意識は相手の対応に向けられる】
3「重心を左へ(意識下で打球)」→4「左足で踏ん張る(意識下で)」


【移動パート】
【相手の打球がフォア側に来ると察して】5「重心を右へ(右足を軽く出す)」→6「左足を右足に寄せる」→【この時点で意識は自分の打球に】7「重心を左足に」→8「左足で踏ん張りつつ右足を出す」

言葉では分かりにくいが、打球の直前で区切りが来て、その後の行動は意識下で行われる。そしてメタ意識は相手の動きに集中して、次のボールがフォア側に来ると察したら、5以降のフォア側への移動パートに移る。
移動パートでもその半ばで意識はすでに次の自分の打球へと移っている。

このような打球からフットワークへの連繋だけでなく、あらゆる場面で上級者はアクションの半ばで区切りを入れ、残りのアクションを意識下で行なっているのかもしれない。

子供のときは物語の世界に没入することができたが、大人になると、完全に感情移入することは難しくなり、話の流れを追いながらも、作者がこの作品でどのようなメッセージを伝えようとしているかにも自然と意識が向いてしまう。心理学のことはよく知らないが、こういう並列的な意識の使い方(単純な運動を意識下に任せて、より複雑な認知処理に意識を集中させる)が上級者の流れるようなプレーに大きく与っている気がする。

打球するときは、打球に集中し、移動するときは移動に集中するというのでは、あらゆる運動に遅延が生じてしまう。意識と運動を切り離すのが素早いプレーに必要だというのが私の今の見解である。


What are you going to do? 「(これから)どうする?」

相手の予定や意図を聞く言い方だが、これを

「ホワット アーユー ゴーイング トゥードゥー 」

のように日本人はカタカナっぽく発音してしまうが、ネイティブにきいたところ、その人は

リヤ ゴナ ドゥ

と発音していると言われた。字面と発音がかなり違うので、ほんとに通じるかどうか、アメリカ人に試してみたのだが、え?とかいって聞き返されてしまった。どうやら私の発音が平板すぎたのと、日本語的に語尾を弱く発音してしまったのが悪かったらしい。もういちど、「ワ」と「ドゥ」を強く発音してみたところ、ちゃんと通じた。

日本人の英語と、ネイティブの英語は、発音が根本的に違う。日本人は"What"を、下手をすると4音節で発音している。ネイティブにとってはもちろん1音節である。そして日本人は最後の"t"を「ト」と、母音"o"をつけて発音しがちだが、実際は子音で終わるので、あまり聞こえない。

私ははじめ、以下のスラッシュのところで区切りが入ると思っていた。

What /are you going to/ do?

意味のバランスで考えればこうなるのが自然ではないだろうか。しかし実際は

What are you/ going to/ do?

である。are you going to は意味的にひとまとまりに感じられるのだが、その間を区切って、What are you という意味的に不安定な形で切っている。意味と音がずれている。what が1音節なのでそれだけで独立させるのは短すぎて非効率的だから、いっしょに are と you もくっつけて、3音節でひとまとまりにしてしまっている。意味よりも音の効率優先なのである。

(私)What /are you going to/ do?
     1        4         1

(ネ)What are you/ going to/ do?
       3        2       1

こういう区切り方の違いは卓球にもあると思われる。
たとえば、4球目の場面を例に取ると、

(A)相手サービス→(B)ツッツキ→(C)相手ツッツキ→(D)ドライブ

となるが、もう少し細かく見ると、(B)のツッツキが問題である。

(B)1「あっサービスが来た」→2「ツッツキの姿勢」→3「打球」/

   4「ボールが飛ぶ」→5「相手の打球に備えて戻る」

このスラッシュのところまでがひとまとまりのアクションで、そこで一息ついてから4以下に入るのではないか。これが(B)を区切る自然なやり方だろう。いや、もしかしたら、私はボールが入るかどうか確認してしまうくせがあるので、以下のようになるかもしれない。

(B)1「あっサービスが来た」→2「ツッツキの姿勢」→3「打球」→4「ボールが飛ぶ」/

   5「相手の打球に備えて戻る」

私の場合、この1~4までがひとまとまりの「ワリヤ」である。しかし、どうやら上級者は違うらしいのである。

(B)1「あっサービスが来た」→2「ツッツキの姿勢」/

   3「打球」→4「ボールが飛ぶ」→5「相手の打球に備えて戻る」

言葉ではわかりにくいので、写真で示すと(『卓球王国』最新号より。分かりやすいように左右反転してある。左から右に見てほしい)

ツッツキ01
1~3「あっサービスが来た」「ツッツキの姿勢」
ここまでで一区切りである。そしてこの一番右の写真で既にどこにどのようなボールを打つか腹が決まっていて、あとは腕を動かすのを待つのみである。自然な人間の営みからすると、打球して一区切りであろう。しかし、その自然な営みの途中に区切りをいれてしまうのだ。

ツッツキ02
4~5「打球」「ボールが飛ぶ」
重要なのはここである。打球する前から意識は早くも戻りに入っているのだ。繰り返すが、打球前に戻りの意識なのである。そして打球である。打球している間に意識は戻っているので、いつでも下がれる心の準備ができている。それで打球後は素早く戻れる。

ツッツキ03
6「相手の打球に備えて戻る」
4~6までで、セットである。こうすれば、相手コートでバウンドするかしないかの時点で戻りが完了している。

なんというメカニズム。驚くべきことに、心のほうは戻りのことを考えていながら、身体は打球を今、まさに行なっているのである。身体というのは心が伴っていなくても動くものなのである。

上級者というのは打球時に打球に意識を集中していない。それは打球直前に済ませてある。打球時には次の戻りのことを考えているのである。意識と行動とがずれているのだ。

このような意識を試すようになってから私の戻りは確実に早くなった。これは私の卓球に一線を画すような大きな変化である。私と同じようなレベルの人で、この意識を実践していない人はぜひ実践することを勧める。

最近、仕事がたまっていて、疲れているので、続きはまた機会を改めて。

卓球用具に詳しくて、いろいろな用具を試し、試打した感想などを公にする人たちがいる。
卓球王国のゆう氏やWRMのぐっちぃ氏がその代表だろうか。他にも有名ショップの店員さんなども含まれるだろう。

こういう人たちって自動車評論家に似ているなぁと常々感じていた。こういう卓球の用具に詳しい人たちを「用具評論家」と呼んでいいかどうかわからないが、仮に用具評論家として、自動車評論家と比較してみると、いろいろおもしろいのではなかろうか。

自動車評論家が世間でどのように扱われているのかwikipediaで調べてみると、おもしろいことが書いてあった。

 ただ一般に自動車評論というと、A市販車のドライブインプレッションなど、車そのものの評価・評論を行うだけでなく、自動車メーカーのB今後の動向の分析・解説(近年では自動車メーカーの巨大化に伴い、内容はむしろ経済評論に近づいている)、C自動車に関わる行政の動きや警察の取締体制などに対する評価・批判、さらにはいわゆるモータースポーツにおけるDドライビングテクニックやチーム・ドライバーの評価等を含むものと解されている。特に「モータージャーナリスト」を名乗る場合は、狭義の自動車評論以外の記事をメインに執筆している者を指すことが多い。

なるほど、自動車評論家といっても、発言する範囲は幅広いようだ。
「卓球用具評論家」はどうか。卓球と重なりそうなところを比較してみると、

A 新製品のインプレッション:◯
B 卓球用具メーカーの今後の動向の分析・解説:◯
C 卓球に関わる協会(行政)等の動きに対する評価・批判:△
D 卓球の技術や選手の評価:△

Aに関してだが、これはいうまでもなく扱っている。
Bも「薄い7枚合板が流行る」などと、メーカーの動向の分析なども行っている。
Cについてだが、ITTFやJTTAの政策に対する評価や批判というのも、控えめに行っているといえるだろう。
Dについては、競技力は本業ではないので、それほど行われていない。

日本においてはEメーカーの接待漬けとなって客観的・中立的な評論を行わない者や、ドイツ車びいきやフェラーリ絶対主義など極めて偏った観点からの「評論」を売りにする者、主に日本車を対象とした針小棒大な粗探しの成果を架空座談会形式の記事で披露する者、Fメーカーのプレスキットの内容を丸写ししているだけのような「評論」しか書けない者など、評論としての質に疑問符が付くような「自動車評論家」も多く、結果として自動車評論家に対する信頼性はさほど高くない。

E 客観的・中立的な評論を行わない、偏った観点から評論する、あら探しばかりする:✕
F メーカーの解説の丸写し:✕

Eは、完全に客観的・中立的というのはムリだろうが、「卓球用具評論家」でそれほど偏ったインプレッションはないと思われる。ダーカーびいきやバタフライ絶対主義というのも聞いたことはない。まぁ、多少はそういうブランドに好印象を持っている人もいるだろうが。
Fについてだが、メーカーの見解とは違うといった感想をよく目にするので、丸写しというのもないだろう。
 
また同じく日本においては公道においてG交通法規を無視した試乗車による暴走行為を行い、その感想を「評論」と称して発表する者も後を絶たず、こうした体質への批判も根強い。

G ルールを無視した試打を行う:✕
卓球で言えば、ラバーに対する後加工をして、その感想を記すような行為だろうか。今まで聞いたことがない。
 
さらに、上記の「極めて偏った評論」に付随するが、自動車メーカーに対してはあまねく公正かつ適正な評価をすべきである評論家が、H私(わたくし)の感情を濫りに書面にする姿勢に疑問がもたれる。たとえば、2006年に発覚したトヨタの欠陥放置に関しても、それまで「GMを抜いて世界一の自動車メーカーになるのは当然だろう」といっておきながら一転して「メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンには及ばない、やっぱりB級メーカーだ」と掌を返したような論調が後を絶たず、アナリストとの境界線が曖昧になっているのも事実である。

H 感情的にメーカーを批判する:✕
卓球用具では、特定のラバーを指して些細な欠点をあげつらい、「失敗作だ」「しょせん二流企業」などと製品を貶めるような論評はほとんどないのではないだろうか。「A社はさすが世界を代表するメーカーだ。それにひきかえB社はしょせん安さで販売台数を伸ばしているに過ぎない」といった論調が自動車評論には多いようだが、卓球用具評論ではそのような意見はまれだろう。そもそも2つの製品を上下関係で論じようとするところに無理がある。自動車の良し悪しというのは、購入者のさまざまなニーズによるのだから、「安価で壊れにくい」という点ではAのほうが優れているが、「乗り心地や個性」の点ではBに軍配が上がるといった守備範囲の特長を評価するしかないだろう(前記事「ラバーの特長」)。感情的な「評論」を公にする自動車評論が幅を利かせているなら、「信頼性はさほど高くない」のももっともなことである。

卓球用具評論は比較的控えめな発言にとどまっており、発言内容は今のところ健全と言えるのではないだろうか。卓球用具の場合、自動車評論が陥っているような混乱には陥りにくいと思われる。
メーカーからの接待漬けというほどの状況は起こりにくいし、車と違って、卓球用具は比較的安価なので、ユーザーはいろいろな用具を実際に試すことができる。その結果「卓球ラバーレビュー」のような、1ユーザーからの声が届きやすい。自動車は車に全く興味のない人が大勢購入するのに対して、卓球用具を購入するのは卓球に興味のある人がほとんどである。

しかし、自動車評論のいい点に卓球用具評論は学べないだろうか。
卓球用具評論から発展して卓球評論になれないだろうか。

X 卓球選手のプレーに対する評論
Y 各国の卓球政策に対する評論
Z 卓球の指導理論に対する評論

などというのはあまり聞いたことがない。Xは卓球雑誌などでときどき目にするが、特定の選手の技術をいろいろ分析したもの(たとえば『卓球レポート』)はあるが、分析だけでなく、従来とは別の価値(「バックハンドの概念を変えた○○選手」とか)を付与するような評論ならおもしろい。こういう評論ができる人は限られてしまうが、卓球界をリードする人たちの評論を読んでみたい。

文芸評論から、経済評論家、相撲評論家、アイドル評論家にいたるまで、世の中にはさまざまな評論家がいるのだから、卓球評論家というのがいてもいいのではないかと思う。私も、もし元日本代表監督で、卓球メーカーやITTFとも太いパイプがあれば、卓球評論家になってみたい。


最近は中学生や高校生でも卓球がとんでもなく強い選手が増えている。
中学生の試合を観て、「すごい!」と思い、高校生の試合を観ても「すごい!」と思う。
ある一定以上のプレーヤーはどの選手も「すごい!」で、その違いが分からない、いや、分からなかった。
しかし、先日東京選手権を観に行って、その違いがなんとなくわかった気がする。
いつもどおり、レベルの低い「発見」なので、恐縮である。

image (3)


東京選手権はカデット、ジュニア、シニア(一般)、年齢別とさまざまなカテゴリーがある。私が観たときは中高生と一般の試合が行われていたが、ジュニアの試合を観て、「さすが全国レベルの選手だ」とその安定感とボールのスピードにすっかり感心した。私の周りにはこんなレベルの高い練習相手はいない。


ちょうどミスの多い場面ばかりで、あまりいい動画ではないが…

片面ペンの斎藤選手は秋田県の高校生。どことなくY君(前記事「あたし、ついていけそうもない」)を彷彿させる選手で、いまどき珍しい片面ペンだったので、注目してしまった。斎藤選手は安定感があり、私のレベルからみたら、非常に上手である。しかし、隣でやっているシニアの選手の試合と比べると、何かが違う。


手前の王凱選手 対 定松選手の試合と見比べてほしい

ジュニアの試合を観て、隣のシニアの試合と見比べて、やっとその「何か」が分かった。

斎藤選手の試合は、ラリーの途中で一瞬ボールが止まるような、「エアポケット」のような瞬間がしばしばある。それに対してシニアの選手のラリーは流れるように間髪をいれず、展開していく。シニアの選手は台上でもテキパキとボールをさばいてピッチが速い。ジュニア(トップレベルの名門校の人は除く)の選手は速いスピードのボールを打つ人もいるが、シニアの選手と比べて打球点やピッチが遅めなのかもしれない。さらにシニアのボールはギュンとよく弧線を描いてスピードが乗っている。この打球点の高さと回転量がジュニアとシニアを分けるものなのかもしれない。言い換えれば、ボールの回転量とピッチの早さを追求すれば、上級者に近づけるかも。

他にもコースどりや、サービスのわかりにくさ等、シニアとジュニアではいろいろ違いがあるのかもしれないが、レベルの低い私には分からない。パッと見て分かるボールのスピードとピッチの早さの差が分かっただけでもよしとしよう。

こういうことは動画などを観てもあまり良くわからない。同一フロアで、シニアとジュニアの選手の試合を生で見比べないとなかなか気づかないと思う。

【おまけ】
今回の観戦では主にペンホルダーの選手、それもyoutubeであまり見る機会のない選手を撮影してみた。
ペン粒のレベルの高い選手というのを初めて観たので撮影してみた。ブロックを中心に戦うのかと思ったら積極的にスマッシュしていた。高橋佑希選手というらしい。

高橋佑希

相手はカットマンの牛嶋星羅選手(前記事「蝶のように舞い、蜂のように刺す」)。youtubeで観たとおり、優雅なカットだった。









どうでもいいことだが、この撮影をしていたとき、後ろの席で年配の女性3~4人が観戦していたのだが、ず~っとおしゃべりしながら笑っていた。10-10のような緊迫した場面で絶え間なく談笑され、興が削がれること甚だしかった…。

東京選手権で印象に残った試合がある。
上田仁選手 対 渡辺裕介選手の5回戦である。

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67-2

勝敗は明らかだ。
上田仁選手は過去、全日本選手権でもベスト4(たしかこの時、水谷選手をヒヤッとさせたという)、国際大会でも安定した成績を残しており、本大会でも準優勝。しかも優勝の張一博選手をフルゲームの11-9まで追い詰めているのだから。
一方の渡辺裕介選手はインターハイで準優勝したとはいえ、まだまだ若く、経験がない。上田選手との実力差は明らかだ…と思っていたのだが、この試合は上田選手がフルゲームの11-9まで追い詰められ、ギリギリでものにした勝利だった。



上田選手の集中力が切れ、あるいは運が悪ければ、渡辺選手が勝利したということも十分ありえた。渡辺選手は不運にもベスト32にも残れなかったが、その実力は上田選手が4-1で退けた塩野真人選手よりも上ということにならないか。

しかし、まぁ「実力が塩野選手より上」というのは素朴すぎる考え方である。

私たちは試合の勝敗によってつい上とか下とかそういうことを考えがちだ。しかし上とか下というのは単純に決められるものではない。たとえば「松田聖子と中森明菜はどちらが上か」という問いには答えようがないではないか歌手としての能力が上とか下というのは何を基準にすればいいのか。卓球の能力も同様である。「カット打ちが上手い」「ブロックが上手い」「レシーブが上手い」「かけひきが上手い」等、様々な能力があるのだから、二人の選手の卓球の能力の優劣を一概に決めることはできない。ある部分では渡辺選手のほうが優っていただろうし、次に対戦する時は上田選手が敗れるかもしれない。全ての点において一方が優れ、一方が劣っているなんてことはそうそうない。にもかかわらず、私たちは物事を単純化して二項対立で考えてしまいがちである。

あるスイングが「正しい」とか「間違っている」とか、そういう二項対立で私たちは卓球の技術や指導法を考えてしまいがちである。しかし一方のフォームが全ての点において効率的で、他方のフォームが全ての点において非効率的だということもないだろう。「三角形を描くようなフォアハンドのフォームは間違っている」などとよく言われるが、あのフォームも全ての点において非効率的だとは言えまい。もちろん、だからといって、「どんなフォームでもいいんだ」という極端な相対主義では問題は解決しない。三角形のフォームは様々な特徴を持っているが、楕円のフォームと比べて非効率的な点が相対的に多いということである。そのプレーヤーの求めているものによっては三角形フォームのほうがいいという場合もありうる。
練習法でも同様だ。「フォアの1000本ラリーは意味がない」などと私たちはつい考えてしまうが、あらゆる点で意味がない練習法など、おそらく存在しない。
私は中学生の時、部活で中腰での球拾いを強制されていた。当時は「あんな姿勢で球拾いをする意味があるのか!」などと理不尽に感じていたが、あれも考えようによっては長時間低い姿勢で体力を消耗させずに重心を安定させるのに効果がないとは言えないだろう。

卓球にかぎらず、日常生活でもこのような二項対立の単純化は根深い。「食品添加物が入っているから、Aのソーセージは有害で、入っていないからBのソーセージは安全だ」などと私たちはつい考えてしまう。しかしAのソーセージの添加物は微量で人体にほとんど影響はなく、Bのソーセージは脂肪分が多すぎてAよりもかえって身体に悪いかもしれない。「無添加」だから「安全」とは限らない。二項対立はこのようにレッテルを貼ることにもつながる。

「○○国の大統領は信用できない。だから○○人も信用できない」というのもおかしな推論だ。

私はあなたが嫌い。私は女子。だから女子はあなたが嫌い」というのと同じである。
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「福島県は放射能があるから危険だ」というのも安易なレッテル貼りである。

「福島第一原発の跡地は危険だ。」
「跡地は福島県にある」
「福島県は危険だ」

という論理だからである。福島県のどの範囲が危険か安全かというのは、今後の調査に俟たなければならないが、それ以前に「危険/安全」という安易な二項対立は厳に戒めなければならないだろう。多くの人の生活に影響するデリケートな問題なのだから、「福島県のある地域で生活するのは相対的に危険が伴うおそれがある」のようにできるだけ慎重に判断すべきだ。「危険がある/ない」という白か黒かということではなく、どんなことをするにも危険は伴うのだから、白と黒の間に広がる灰色の部分の濃淡をよく見極めるように心がけなければならない。

卓球の東京オープンの話だと期待していた読者には申し訳ないが、今回の話は卓球の話ではない。
あの事故から4年。ふだんは3・11のことをすっかり忘れている私もこの時期にはあの事故のことが思い出される。

今年の3/11から十日あまり時間が経ってしまったが、あの事故で人生を変えられてしまっても、前向きにがんばっている人がいて、危険を顧みず原発事故処理に当たってくれている人がいることを私たちは忘れないようにしなければならない。 

【付記】 150322
関東ではいまだにしょっちゅう余震が続いているようだ。関西では地震などほとんどないというのに。
 

私はトスが苦手である。

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まっすぐ上に飛ばないことがよくあるし、手が汗ばんでくると、トスを上げた時にボールが手に貼り付いて、うまく上がらない時がある。

先日、上手な人にトスの上げ方を教わった。
知っている人も多いかと思われるが、私のようにトスが苦手な人もいるかと思い紹介する次第である。

手順1:トスを思い切って上げる
手順2:フリーハンドを思い切って下げる

これだけである。私はフリーハンドを思い切って下げていなかったので、中途半端に手に密着してしまい、ボールがうまく上がらなかったのだ。 

さらにヒザを使うと効果的だが、とりあえず手順2を実践するだけでもトスの安定性が大幅に上がる。

上手な人曰く「緊張している時でもヒザはあまり影響を受けないので、試合などではヒザを使ってトスした方がいい」とのこと。

 

先週、第67回東京卓球選手権大会を観に行った。
私はレベルの高い大会というのは、過去に神戸で行われたジャパン・オープン、大阪の日本リーグ、大津の高校選抜を観に行ったことがあるが、全日本選手権はまだ観に行ったことがない。東京選手権は私が観に行った大会の中でも極めてレベルの高い大会だった。来年、東京選手権を観戦したいという人のために、どんな雰囲気か感想のようなものを記しておきたい。

まず、会場だが、JR千駄ヶ谷駅前の東京体育館で行われた。東京駅から30分ほどのところだろうか。JR総武線と都営地下鉄大江戸線でアクセスできるようだ。

入場料は一日1000円。安い。しかもビデオ撮影なども禁止されていない(ストロボを使った写真撮影は禁止)ので、いろいろな選手の動画が撮れた。

そして出場選手の顔ぶれがすごかった。日本代表を除いた超有名選手が勢揃いといった感じだった。しかも、その辺を歩いていると、上田仁選手が客席のそばに立っていたり、張本智和選手がそのへんを歩いていたり、森本耕平選手に至っては、私の後ろに座って観戦していた。他のスポーツは知らないが、雑誌などで目にする超有名選手が手の届くような距離で観戦していたり、すれ違ったりといったいうのは試合会場ではふつうのことなのだろうか?サインや写真撮影を求める人は誰もいなかったが、みんなそんなことをしたいと思わないのだろうか?自分のお気に入りの選手と卓球の話ができたら、一生の思い出になるのではないか。私は有名選手にちょっと声をかけてみたいという欲求にかられたが、試合のことで頭がいっぱいだろうから、遠慮した。しかし「がんばってください!応援しています」ぐらいの言葉はかけても迷惑じゃないだろう。

卓球メーカーのブースも7~8店舗でていたが、特価品のようなものはあまり多くなかったので、よく見ていない。バタフライのカタログをもらってきた。

私は会場の端っこで観戦していたのだが、選手との距離がとても近く、興奮した。座った目の前で中央大学の山本怜選手がプレーしていた。評判通りの美人だった。

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私が訪れたのは15日の4日目だったのだが、シードの有名選手が次々と登場するとあって客の入りは7割ほど、なかなかの盛況だった。

その中で私の関心を引いたのは専修大学の厚谷武志選手だった。『卓球王国』などでよく名前だけは目にするし、前記事「TOKYO OPEN 2014 第66回 東京卓球選手権大会のスコアを眺めながら」で触れたこともあったのだが、どんな選手か全然知らなかった。しかし、名前だけはよく目にする。

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大きく分類すればカットマンなのだが、後陣からの攻撃力がすごい。ボールのスピードもあり、単なるカットマンというより、カットもできる攻撃型といった感じに見えた。そしてなによりすごかったのは、ミスの少なさである。3m以上下がったところから全力でドライブを放つのだが、それがほとんどミスしない。カットも同様にミスが少ない。そして相手の強打をカットでしのいだ後に、全力のドライブで反撃という、フロアを大きく使った派手なラリーをするので、見栄えがいい。ふつう、豪快なプレーをする選手はミスが多いというイメージがあるが、厚谷選手の場合、非常にボールを丁寧に扱っているように感じられた。ボールのスピードや回転量などには注目があつまるが、私はミスの少なさにこそ注目したい。どうすればあんなにミスが少なくできるのだろうか、何かコツがあるのだろうか。もし厚谷選手と話す機会があれば、そんなことを聞いてみたい。豪快でいて、かつ繊細なボールさばきというのが多くの人の注目を集める理由なのだろう。結果はベスト16だったようだ。 


専修大学というのは今では明治大学や早稲田大学ほど注目されていないが、過去には伊藤繁雄氏、河野満氏、今なら王凱選手、田添健太選手と常に強い選手を揃えている名門なんだなぁと気づかされた。

試合は朝の9時頃からはじまり、18時頃までやっているようだ。次から次へと有名選手が登場するので、16時ごろにはビデオのバッテリーが切れてしまった。しかし、16時以降にはもっと有名な選手が登場したので、ビデオ撮影をするなら、夕方までバッテリーの余力を残しておいたほうがいいと感じた。

東京の人は恵まれている。こんなレベルの高い試合が一日あたりたった1000円で観戦できるのだから。
 

今回の卓球場めぐりは金閣寺の近く、もう少し厳密に言うと、平野神社

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の近くにある平野卓球場である(卓球場めぐりを書く経緯については前記事「卓球場めぐり」参照)。 金閣寺まで600m、北野天満宮まで800mほどなので、卓球ついでに名所観光もしやすい。

image (3)
西大路通に面しており、隣はマクドナルドの大きな駐車場

2015012516510000

【2015年3月現在】
料金:1時間(1人)550円
ラケット貸出:あり 50円
ボール貸出:無料
利用時間 10:00~22:00(混み具合によっては早く閉めることもあるとのこと)
台:5台
用具販売:あり(種類は多くない)
電話:075-463-4784(予約可)
定休日:火曜
駐車場:未確認だが、「卓球王国」のサイトによると2台あり 

台はかなり立派な台で、内装も新しくきれいだった。しかし前後左右ともそれほど間隔が空いていないので、カットマンなどには厳しいかもしれない。アット・ホームな雰囲気である。私が利用したのは日曜だったが、あまり混んでいなくて快適だった。隣にマクドナルドがあるので、お腹が減ったらハンバーガーを食べながら、ミーティングというのもいいかもしれない。

常連さんがよく利用しているようで、50代とおぼしき男性が私の隣で練習していたが、非常に上手だった。卓球場が運営?しているクラブがあり、活発に活動しているらしい。その二人はいわゆる昔の卓球で、バシバシとスマッシュを打ち合っているのだが、驚いたことに、それでもかなりラリーが続く。私はスマッシュなんて打たれたら、ほとんど返せないが、ここではスマッシュは2~3回返すのがふつうらしい(カウンタースマッシュとか…)。常連さんたちはかなりの頻度で練習していると思われる。

近くに立命館大学 衣笠キャンパスがあるので、バスでのアクセスがいい。15番、50番、55番、204番、205番、101番、102番、M1番などの京都市バス、「わら天神前」で降りるのが近いと思われる。逆に電車でのアクセスはあまりよくない。京福電車の「北野白梅町」駅から約800mである。

京都産業会館など、アクセスのいい卓球場は予約ができないが、ここは予約ができるのがありがたい。

今回の卓球場めぐりは、右京区、嵯峨野高校の近くにある嵯峨野卓球場である。他にも太秦映画村、広隆寺も程近い。

京都はもともと太秦の渡来人の家系である秦氏に与えられた土地であり、平安京遷都以前は、このあたりもかなり栄えていたかと思われる。緑も多く、ちらほら畑も残っており、閑静な町並みが広がっている。

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この右の建物の2階が嵯峨野卓球場である(グーグルのストリートビューより)


matumoto
1階部分は駐車場になっており、「松本工業所」という看板が見えることから、もともとは工場だったようだ。3階にはオフィスが入っている。階段を上がって2階に入ると、フロアすべてが卓球場になっている。

image (4)
中はこんな感じである。横長にズラッとSANEIの台が10台並んでいる。台の状態も悪くない。

電話で確認してみたところ、「今日は、人がいないかもしれないので、勝手にやって、料金を置いていってほしい」ということだった。日によっては店員さんがおらず、イメージ的には、いなかの野菜の無人販売所のような雰囲気だった。

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おそらくこの会社の社長さんが無類の卓球好きで、地域の卓球人のために工場2階を卓球場に改装してしまったのだろう。これだけの台があれば、大所帯のクラブでも十分に練習できると思われる。近所に住んでいる方なら、とても利用しやすい卓球場である。

お店の人がいなかったので、詳細は不明である。電話で確認してから訪れることをおすすめする。
土曜にクラブの練習があるらしいので、そこで確認すれば、詳細がわかるかもしれない。

アクセス:JR太秦駅から350m
駐車場:あり(4~5台?)
料金:一時間1人400円。
電話:075-861-3027 

その他:多球練習用のネットがある。ボールはそのへんに何個か落ちていた。入り口のカウンターにラケットが置いてあったので、おそらく勝手に使ってもいいと思われる。

右利きの人は左足前スタンスが一般的ではないかと思う。最近は平行足もいいとされる。そこを一歩進んで右足前スタンスはどうなのかということについて私の実践報告をしてみたいと思う。右足前スタンスは一般的ではないものの、一部の指導者には推奨されていたと記憶している。それほど突飛な発想ではないはずだ。

前提として「スタンス」とは何かということから始めたいと思う。
 
スタンス(Stance)には大きく分けて3つの意味があります。

・立場、態度、姿勢
・野球、ゴルフなどで、球を打つ時の両足の幅や位置、構えのこと
・ロッククライミングで、足場のこと

いずれも立ち位置のことを意味しています。

スタンスというのは、股の開き具合というだけでなく、足の位置や向きも表す。ここでいう「スタンス」もこの、足の向きや位置のことである。

次に私がどうして右足前スタンスを試してみたかということを話したいと思う。

「ラリーで相手に背中を見せたら終わり」

上手な人にこんなことを言われた。どういうことかというと、たとえばバック寄りで待っていた時、こちらのフォア側に逆モーションで振られてしまった状況を考えてみよう。反応が遅れて、フォアに大きく飛びつくが、その時に身体の向きが真横よりもさらに後ろを向いてしまい、振り向くような形で打球してしまった状況をイメージしてほしい。相手に背中を見せてしまっている(図1)。このように身体の向きが90度以上フォア側になってしまった場合、もう次球に対応できない(打球時に身体が流れないように左足軸でターンできればなんとかなる)。これが「相手に背中を見せたら終わり」という意味である。

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         図1 つまり、こんな状況



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錦織選手、間に合うか?


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図2 左足前スタンス

左足前スタンスで相手のフォア側にボールを送ってしまったら、こちらのフォアに返球され、図1のような窮地に陥ることが私にはままある。そこで相手に背中を見せないような構えにすればいいのではないかと思い至った。

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図3 右足前スタンス

このスタンスなら相手に背中を見せるような状況に陥ることが考えにくい。バックサイド深くを突かれた時に背中を見せてしまうかもしれないが、バック寄りに構えているので、そうそう背中を見せることにはならないと思われる。かくして私は右足前スタンスを試してみることにしたのだ。

右足前スタンスにすると、自然と相手のフォア側、つまり相手に向かって左側を向くことになる。そうなると、多くの人の苦手とするフォア前と、フォアミドルに強い。フォア前は動線上にあるので、身体の向きを変えずに自然に最短距離で移動できる。そしてフォアミドルを突かれた時も、左矢印の方向に横移動ができるので(一般的な左足前でフォアミドルを突かれたら、後ろに下がるか横に避けるかで迷うのではないか)、動きやすく、さらに台から離れることになる。台から離れる――左後方に横移動すれば(この時も身体の向きは左である)、ボールの到達時間に余裕ができ、ツッツキ程度のスピードなら、回りこみが十分間に合う。しかも、角度的に右腰の苦しいコースにボールが入りにくく、自然とフォアハンドの打点が早くなる。

では、どんなデメリットがあるかというと、バックサイドを切るボールや、バック前が弱そうだ。そしてバックハンド強打を持っていない片面ペンの人などにはきついだろう。このスタンスは右足前で、始めからバックハンドを打つ姿勢になっているので、バックハンドが得意でバックハンドの強打が打てる人に適していると思われる。逆にフォアハンドはどうかというと、右足前なので身体を素早くひねりやすい。豪快なフォアハンドは打てないかもしれないが、打点の早いコンパクトなフォアドライブが打てそうだ。ただ、身体の向きから、フォアハンドで相手のバック側を狙いにくい。こちらから打つコースが読まれやすくなるかもしれない。

以前はフットワークというのは下の図4のように台に対して平行に移動するものかと思っていたのだが、

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図4 台に対して平行なフットワーク


私には合わなかった。ボールというのはストレートに来ることが少なく、たいてい斜めに向かってくるからである。斜めのボールに対しては、体の向きも斜めにしたほうが私は安定する。

【まとめ】
中ペンで裏面打法が打てない、あるいはどうしてもストレートに打てず、クロスになってしまうという人の多くはグリップが間違っていると思われる。間違ったグリップでいくらがんばってもいい結果は出ない。そしてグリップを変えることで見違えるように安定するということを私は経験した(前記事「中ペン裏面のグリップ」)。同様に、どうしても動けない、フットワークが間に合わないという人は、スタンスの位置を変えてみてはどうだろうか。私の経験が多くの人に当てはまるかどうかわからないが、私はスタンスを変えることによって、今まで動けなかったボールにも対応できるようになったのである。


 

非才』(柏書房)という本を読んで興味深い部分があったので紹介したい。

筆者のマシュー・サイド Matthew Syed という人はイギリスの卓球選手で、なんとオクスフォード大学の哲学政治経済学部を首席で卒業したのだという(「著者紹介」より)。 そうとう賢い人のようだ。冒頭は以下のように始まる。
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一九九五年にわたしはイギリス人としてはじめて卓球チャンピオンの座についたが、それがなかなかたいした業績だというのはみなさんも同意してくれるはずだ。二四歳にしてわたしはいきなり、国際的な栄冠の座にどうやって上り詰めたかといった話をするよう、しょっちゅう学校に招かれるようになった。そしてそのときには金メダルをもって行って、若者たちを魅了するのが常だった。

 えっ?世界チャンピオン?「卓球チャンピオン」と書いてあるが、「イギリス人としてはじめて」とあるので、イギリスチャンピオンではないと思われる。95年というのは、私が卓球をやめていた時期なので、どんな選手が活躍していたかよく分からない。
ネットによると、95年の世界選手権で優勝したのは孔令輝選手。準優勝は劉国梁選手、3位は丁松選手と王涛選手。96年のオリンピックの優勝者は劉国梁選手。準優勝は王涛選手、3位は ヨルグ・ロスコフ選手となっている。95年のワールドカップの優勝者は孔令輝選手。準優勝はヨルグ・ロスコフ選手。3位は劉国梁選手となっている。なお、96年のITTFグランドファイナルは世界チャンピオンとは言えないかもしれないが、優勝者は孔令輝選手である。

孔令輝、劉国梁、ロスコフ、ワルドナー、ガシアンと、そうそうたる選手がひしめく時代にこれらの選手を破って優勝するのは至難の業だろう。一体どこの世界大会のチャンピオンなのだろう?「コモンウェルス・ゲームス」という英連邦の大会では97年に優勝しているが、初めてのイギリス人ではない。まともな大人がこんなすぐバレる嘘をつくだろうか?あるいは誤訳だろうか?「首席で卒業」というのもなんだか信用できなくなってきた…。

ちょうどamazon.comで「ちょい読み」ができたので、該当部分を引用すると、

In January 1995, I became the British number-one table tennis player for the very first time, which, I am sure you will agree, is a heck of an achievement. At twenty-four years of age, I suddenly found myself on the receiving end of regular invitations to speak to school audiences about my rise to international glory, and would often take my gold medals along to dazzle the youngsters.

「I became the British number-one table tennis player for the very first time」という部分が「イギリス人として初めてチャンピオンになった」のように訳されているが、実際は「人生で初めてイギリスのチャンピオンになった」とでも訳すべきだったのではないか。誤訳だと思われる。訳者の山形浩生氏というのは「プロジェクト杉田玄白」などの活動で有名な文化人だが、意外に雑な仕事をする人なのかもしれない。



それはさておき、本書は生得的な「才能」というのが存在するのかについての興味深い議論なのだが、冒頭にこんな問題提起がある。

一九九一年にフロリダ州立大学の心理学者アンダース・エリクソンとその同僚二人が、傑出した技能の原因を調べる史上もっとも徹底した調査を実施した。

以下、簡単に要約すると、心理学者はドイツの有名な音楽学校のバイオリニストを以下の3つのグループに分けた。

A:国際的なソリストになることが期待されるグループ
B:国際的なオーケストラで演奏することが期待されるが、スターであるソリストまでは期待されていないグループ
C:音楽教師になることが期待されているグループ

そして育った環境や練習に費やした時間などを詳しくインタビューした。その結果、A、B、Cともに同じような家庭環境で同じような年齢から楽器を始めていることがわかった。つまり、同じような人生を歩んできたのにこれだけの差がついたということは、Aは「才能」があり、Cは「才能」がないと結論されがちだ。しかし、実際は違っていた。音楽に携わった時間は同じだが、「彼らがまじめに練習してきた累計時間」には大きな差があったのだ。20歳になるまでにAのどの学生も平均1万時間の「まじめな」練習を積んでいた。Bは8000時間、Cは4000時間だという。なんとなく練習している時間も含めれば、ABCのどの学生も同じような時間になるが、「まじめに」取り組んできた時間で大きく差がついたというのだ。

最高の生徒とそのほかの生徒を分かつ要因は、目的性のある練習だけなのだ。

なんとなく部活で毎日練習していても、全国レベルに達することはできない。全国レベルに達するためには高い目的意識と「生涯にわたり技能を改善しようと意図的に努力してきたこだわり」がなければならないのだ。こういうことを私が卓球に打ち込んでいた小中学校時代に知っていれば、練習時間を無駄に費やすこともなかっただろうに。

そんなことから、卓球で小中学生が全国レベルに達するためにはどうすればいいかを考えてみた。私の勝手な想像なので、現実と大きくかけ離れているおそれがある。ご注意いただきたい。

まず有名なチームに入って強い選手と常に打てる環境がなければならない。そのチームへの月謝はいくらぐらいだろうか?2~3万ぐらいはかかるのではないか。そして試合でいろいろなタイプの強い選手と対戦することも必要だ。東京で大きな大会があるなら、東京まで行くし、青森や山口や九州の有名校と練習試合ができる機会に恵まれたなら、なんとしても遠征しなければならない。ベンチに入ってもらう指導者も自腹で来てもらうわけにはいかないから、コーチの交通費も必要だ。新幹線代などで毎月数万の出費は覚悟しなければならないだろう。日帰りで帰って来られればいいが、遠征地の大会等で勝ち進んで1泊するとなると、また出費がかさむ。ラバーも月に2回貼り替えるとして、テナジーなら毎月両面で36000ぐらいの出費になるだろうか。ラケットやシューズ、ユニフォームなども定期的に替えなければならない。もしかしたら、名門高校の卓球部にに入るには、そこの監督に接待なんかもしなければならないのかもしれない。なんやかんやで毎月10万はかかるのではないだろうか。全国レベルに達するには、経済的に余裕があるというのも条件の一つと思われる。

そして次に意識や精神力の鍛え方である。


「水曜日のダウンタウン 過酷高校SP」

上の動画を見ると、全国レベルに達するには地獄の苦しみを乗り越えなければならないということがうかがえる。
かつてすさまじい強さを誇ったPL学園野球部。寮で1部屋に3人で生活し、先輩の命令に絶対服従。奴隷同然の扱いだったらしい。練習もきつく、ほとんどの部員が疲労骨折になってしまったという。
サッカー名門校、市立船橋高校でも8割がたの部員が疲労骨折になってしまったという。練習中に水をのむことが禁じられていたため、渇きに耐えられず水たまりの水を飲んでいたという。
他にも暴力や人権蹂躙などは珍しくなかったようだ。そのような地獄を経験したら「これだけの地獄を乗り越えたオレたちが、『楽しく』練習している奴らに負けるわけがない!」という精神的な強さが身に付くのだろう。小中学生の場合はこれほどひどくはないのかもしれないが、やはりいろいろな理不尽や精神的なストレスにも耐えなければならないだろう。

そして「生涯にわたり技能を改善しようと意図的に努力してきたこだわり」。自分を律し、常に高い集中力を持って練習に臨まなければならない。心が折れる…。

…と、ここまで考えてきて、その遠く険しい道のりにうんざりしてきた。水谷隼選手や松平健太選手など、全国トップレベルの選手はこのような地獄を耐えてきたのだ(たぶん)。全国レベルになるのは…私にはとうてい無理だったと思った。

【追記】 150309
大切なことをいい忘れていたので付け加えたい。上記の3つの条件が備わっていれば「才能」がなくても、誰でも全国レベルの選手になれるのである。というか、それができることが「才能」というのかもしれないが。

 

先日、試合で上手な人(日ペン)がフォア前でフリックをしていたのだが、そのボールタッチがみごとで今でも目に焼き付いている。フォアフリックはいつになっても不安定で、私はよくネットに掛けてしまう。なんとか入れようと全力でこすってはネットにひっかけてしまう。

それに対して上手な人はまるでボールがラケットに吸い付くようにフォアフリックしていた。あれはどうやっているのだろうか。

ボールが吸い付くといえば、ぐっちぃ氏のドライブを思い出す。ぐっちぃ氏のドライブは独特で、非常に小さなスイングなのにとんでもなく速いボールが飛んで行く。まるでボールがラケットに吸い付いていくように見える。



上の動画で紹介されているコツは以下のとおりである(ドライブの実演は5:55から)。

1.L字型にヒジを曲げて、力をため込む。小振りで。
2.グリップを握る3本の指に力を入れる。
3.重心移動は左右にすると力が逃げるので、後ろから前へ

この中では言及されていないが、ぐっちぃ氏のドライブはボールを「迎えに行く」距離が非常に短いように感じる。極端に言えば、ラケットにボールが当たってからラケットを前に振っているようにさえ見える。この「迎えに行かなさ」こそがぐっちぃ氏のコンパクトで速いドライブの秘密なのではないか。



フォア打ち:11:28ぐらいから
フォアドライブ:13:18ぐらいから
xia氏のドライブは17:17あたりから

上の動画のほうが、その「迎えに行かなさ」が際立っている。フォア打ちのときからバックスイングがほとんどなく、ボールがラケットに当たる寸前になってラケットを前に動かしていると思われる。そうすると、まるでボールがラケットに吸い付くように見えるのだ。それに対してxia氏のドライブはぐっちぃ氏のドライブに比べると、少しだけ迎えに行っているように見える。


上の「フォアドライブ徹底分析!」でぐっちぃ氏自らが打ち方の特徴について語っている。

「バックスイングが体の横より後ろに行っていない」
「体の横で止めて、頭の前まで振る。っていうこの小さなスイングだけで私はドライブをしています」
「私以上の上級者になると、タメて打つ時にバックスイングをもっと大きく取って振る」
「手打ちの方は後ろにバックスイングが行ってしまうので、安定感がなくなります」

なるほど、バックスイングをもっと大きく取るプロの選手などもいるが、ぐっちぃ氏は安定性を重視してバックスイングではなく、身体全体で威力を出しているようだ。そしてこのバックスイングの小ささが、ボールが吸い付くようなドライブを実現するカギなのではないか。

前記事「タメとは何か」でボールが十分近づいていない状況で力を入れるのではなく、ボールを十分引きつけてから力を込めて打球すべきだという結論に達したが、このぐっちぃ氏のスイングも同じような原理に基づいているように思える。

つまり、「バックスイングの小ささ」「ボールの引きつけ」という要素があって、その結果として小さなスイングでラケットにボールが吸い付くようにグリップするということではないだろうか。

ここで冒頭のフリックが安定しないという問題に戻ると、フリックの際、私はほんの少しバックスイングが長く、ボールを迎えに行ってしまったためにグリップする前にボールを弾いてしまい、十分擦れないうちにボールが飛び出てしまい、ネットにかけてしまったのではないか。フリックを安定させるためにはバックスイングをゼロにしてボールを十分引きつけてから打たなければならなかったのではないかと考えるようになった。

さらに上手な人の吸い付くようなボールタッチというのは、ボールといっしょにラケットも少し後ずさりさせて、ボールがラケットに到達するかしないかという瞬間に上にこすっているのかもしれない。

こういうシチュエーションはフリックだけでなく、他にも考えられる。早いピッチでラリーをしているとき、自分のピッチがだんだん早くなりすぎて、ボールがまだラケットに近づかない――十分引きつけないうちにラケットを前方に振ってしまい、グリップできず、ネットに引っ掛けてしまうことがある。威力のあるボールを打とうと焦るあまり、バックスイングをとりすぎて、十分引きつけずに慌ててラケットを出してしまうというのは、私がよくするミスの一つである。

【まとめ】
以上、吸い付くようなフリックとぐっちぃ氏のコンパクトなドライブの共通点について考察してみたが、この「バックスイングを小さく」「ボールを十分引きつける」というコツは回転をかける打法全般に通じて言えることではないだろうか。特に「引きつける」というのは、私はつい忘れてしまいがちなことである。以上の2つの点に注意することによって小さなスイングでも安定して回転をかけられると思われる。

【追記】150306
今日の練習でバックスイングなしのドライブを試してみた。
威力的にはバックスイングありとあまり変わらず、ピッチのほうは格段に早くなった。
ペンの打点の早いショートでガンガン攻められても、ドライブが間に合った。
これは使える。
 

卓球のプレーエリアには位置によって前陣、中陣、後陣というのがある。
卓球を初めたばかりで中陣、後陣でプレーする人はいないだろう。ほとんどの人は前陣である。
しかし、ある程度卓球歴が長くなってくると、前陣では物足りなくなってくる。「物足りない」というと、語弊があるが、最近の上手な学生とかをみると、中後陣から豪快なドライブを放ったり、とにかく台から離れて派手なプレーをしているのが目を引く。ああいうプレーをみるにつけ、中陣、後陣を試してみたいと思う。

しかし、いきなり後陣というのは敷居が高いから、まず中陣というのを試してみようと思い、数ヶ月来、できるだけ下がってプレーすることにしているのだが、やっかいなシチュエーションがある。ストップである。
サービス後にすぐに下がって大きな展開を期待していると、相手はつれなくもストップをしてくるのである。

「そりゃないよ。あなただって台上でチマチマよりもラリーのほうが好きでしょ?」

そう来られると、せっかく下がったのにまた急いで前陣に戻らなければならない。まるでドタバタ喜劇である。中陣でプレーするというのは、ストップに対する脆さという弱点を抱えることになるようだ。上手な人はどうやって中陣の展開に持っていくのか。言い方を変えれば、どうやってストップに対処するのか。

いろいろ試してみて分かったことは、前陣、中陣、後陣と言っても、必ずしもそこばかりでプレーするわけではないということである。前陣速攻の選手は「前陣を死守し、決して下がってはいけない」などと言われるが、中陣の選手は「中陣を死守し、前に出てはいけない…」とはならない。初めは前陣から始めて、ボールが長くなるにつれて中陣に下るということのようだ。当たり前のことかもしれないが、私はおろかにも前陣速攻の選手のように中陣の選手は中陣の位置をホームポジションとし、できるだけその領域を守っているものかと勘違いしていた。だから、相手にストップされかねない状況でも中陣に入ろうとしてしまったわけだ。

よく後ろに下がってプレーする選手でも、常に後ろに下がるわけではない。



下がって豪快なプレーをすることで有名な許昕 Xu Xin 選手も、上の動画のように3球目で決めに行くようなプレーをすると、後ろに下がる前にポイントが終わってしまう。美しい中陣プレーをするにはジワジワ(前記事「なりきりプロ選手」)とプレーしなければならないのだ。上手な選手はグルメである。まだ機が熟していなければ――3球目が絶好球でない場合は、打てそうなボールでも、がっついて決めに行かない。ほどほどの厳しいボールでジワジワと責め、相手が甘いボールを返すのを待つ。そして食べごろのボールが返ってきた時に初めてガツーンと決めに行くのだ。このジワジワこそが中陣でのラリーの醍醐味とでも呼ぶべき時間なのだ。ということは、3球目で決めに行かない卓球が中陣プレーへの第一歩なのかもしれない。

長くなったので、ここまでをまとめると、

・必要もないのに中陣に下がると、ストップをくらう。下がる必要がなければ前陣にいたほうがよい。
・3球目からいきなり中陣に行けるわけではなく、4球、5球とラリーを続けることによってジワジワと中陣でプレーできる。3球目で決めようとしてはいけない。

次にどうやって4球、5球と続ければいいのか。
相手に先に打たせるのが手っ取り早そうだ。といっても相手のサービスに対してフォア寄りに打ちごろの長さでツッツイたら、もちろん一発で持って行かれて、ラリーは終わってしまう。相手に一発で決められないように工夫する必要があるのだ。どんなボールなら一発で抜かれないで済むんだろうか?

中陣からドライブで豪快なラリーをしている人は、いろいろ工夫をしているんだなぁ。
私のようにたまたま後ろに下がってうまい具合に大きなラリーが続いたからといって、安易に後ろに下がって待つというのは、まるで株を守っている人のようだ。

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上の動画は大きなラリーになった例。
許昕選手が3球目で相手のバック深くにボールを送り、樊振東選手に打たせてからラリーに展開している。
よくみると、3球目で一瞬ツッツくように見せかけて、フリックしているので、相手のタイミングを上手に外している。判断が遅れた+バック側に回りこんでのドライブなので、ほどほどのスピードのボールしか打てない。それを待ち構えて、ドライブで応じるということで大きなラリーに展開している。

そんなときに今回のトピックにちょうどピッタリのやっすん氏の下の動画が公開された。フォアドライブの引き合いに引きずり込むための工夫が紹介されている。


実演は4:00あたりから

普通に相手に打たせたら、どこに打たれるか分からず、危険極まりないので、相手が打ってくるコースを限定するために相手の判断を遅らせたり、余裕のないコースを狙うという戦略である。

A.相手のバックに打つと見せかけてフォアに送る(一瞬、判断を送らせて強打を打たせない)
B.相手に回りこませて、こちらのバッククロスに来たボールを相手のストレートに返す(移動に時間がかかって強打が打てない)
C.こちらがフォアで打てるときは、フォアドライブにサイドスピンをかける

なるほど。バック対バックからストレートに送ってフォアクロスのラリーに持ち込むというのが定石なのかもしれない。

他にも、こちらがサービスを持っている場合は以下の記事が参考になる。
逆に自分がサーブする方で、相手がびびっているときは、どうすればいいでしょうか??
上回転系を中心にゲームを組み立てれば良いですね。
短い上回転系で攻めつつ、ロングボールに下回転系を使います。
ロングボールに下回転系??
ロングボールは基本的に上回転系です。しかし、なぜ下回転系なのでしょうか??
理由は、びびっている選手は判断が遅れるし、スイングも中途半端になるからです。
この時に注意したいことは、ロングボールに使う下回転系のサーブは、
回転量よりもスピード重視するということです。
 「回転を見極める練習

「ロングボールに下回転系」というのは、速いナックルや横下ロングサービスのことと思われる。
こちらにサービスがあれば、フォア前にショートサービス(あるいはハーフロングサービス)で横上回転等のツッツかれにくいサービスを出し、払わせてからラリーに持ち込み、ときどき横下ロングサービスをバックに送るという戦術をすれば、一発で抜かれず、大きなラリーに持ち込めそうだ。

【まとめ】
中陣でプレーするためには、ある程度長いボールのラリーが続かなければならない。
そのために相手に一発で抜かれないための工夫が必要だ。

・フェイントなどで相手の判断を送らせて打たせる。
・相手に回りこませて打たせてからストレートを突く。

また、こちらからサーブしてラリーに持ち込むなら、

・短い横上回転などでツッツかせない。
・長い下系のサービスを出して、相手に持ち上げさせる。

などの工夫が有効だと思われる。

 

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