しろのたつみ



卓球について考えたこと、
気づいたこと(レベル低いです)
を中心に中級者の視点から綴っていきます。




2014年07月

当ブログでは皆様からの寄稿を募集しております。卓球について意味のある主張を発表したい方はshirono.tatsumi◯gmail.comまで原稿をお寄せください。

コメントについて:
コメント欄は他の読者が読んで意味のある情報交換の場としてご利用ください。当ブログの方針(察してください)に沿ったご意見は公開します。返信しにくい場合は公開のみとさせていただきます。指導者ではないので、技術的な質問には答えられません。中傷等は論外です。なお、メールアドレスは公開されません。

看脚下――卓球ノートのすすめ

1週間ぶりに卓球をすると、打ち始めはたいてい勘が狂っている。それがしばらく打って元に戻ればいいのだが、時には振り方や動き方の感覚がすっかり失われてしまい、ずっと元に戻らないこともある。さらに仕事や家庭の事情で2週間、3週間と練習を休んでしまったりしたら、途中まで築いた技術の習得を初めからやり直さなければならなくなる。こんな効率の悪い練習はない。

前記事「卓球マシンがほしい」というのは、マシンでの練習によって、1週間前の感覚を確実に戻したいという願望からだった。週に1~2回しか卓球をする機会のない社会人は前回の練習で一歩前進したと思ったら、今回の練習で一歩後退しており、練習も終わりにさしかかって、ようやく前回の勘を取り戻し、プラスマイナスゼロということも少なくない。ひどいときには一歩前進した次の練習で二歩後退するということもありうるのだ。これではいつまでたっても上達しない。
こういうことを考えるにつけても、もし自分の体に「レジューム機能」があったらなぁと思う。前回の練習で到達した地点から、正確に再開できるとしたら、卓球の上達はおそろしく早まるのではないだろうか。毎日練習できない社会人の練習というのは同じ所を行きつ戻りつしてノロノロと進んでいるようなものだ。限られた練習時間を有効につかえるかどうかは前回の感覚を早く取り戻すことが前提になると思われる。前ばかりでなく、足元もよく見た方がいい。

卓球マシンでの練習は、回転もコースも一定のボールを連続して打つことができるので、前回の練習での感覚を取り戻すのに非常に役に立つと思われる。レベルの高い上級者なら、機械での型にはまった練習はあまり役に立たないかもしれないが、まだ基本的な打ち方がしっかり身についていない初中級者にとってマシンでの練習は感覚の回復と基本の習得に有益だと思うのである。もしこの仮説が正しいとしたら、卓球マシンに10万ほどの投資をするのは決して高い買い物ではないだろう。

しかし、金もなく、身近にマシンのある練習場がない私にはその方法は採れない。そこで卓球ノートである。前回の練習の時の感覚を忘れないようにするためには動き方、打ち方のチェックポイントを細かくメモしておく卓球ノートが大切だということに今更ながら気づいた。全国大会を目指す子供たちがよく「卓球ノート」というのをつけているが、いい年をした下手なオジサンが卓球ノートをつけるというのは少し恥ずかしくもある。しかし、そんなことを言っているから万年中級者なのだと思う。卓球ノートをマメにつければ、週1~2回の練習が非常に内容の濃いものになり、それなりに上達するのではないだろうか。

卓球ノートは自分でつけるだけでなく、人のノートを見るのも参考になりそうだ。ネットで卓球ノートが公開されていないかと探してみたところ、以下のブログが見つかった。
卓球ノート
 その日にやった練習メニューと反省点や感想、試合結果や対戦相手の特徴などが図入りで書いてあって興味深い。

ミート打ち
・球の頂点を打つ
・ラケットは高いところにセット
・体重移動をしっかりする
このうち1つでも欠けていたらミート打ちは入らない

フォア強打はふみこんで打つ

乗っけ打ち
・ラケット面は少し上に向けて台の高さから打つ

3/31より

なるほど。ミート打ちは3つの項目が揃ってはじめて入るらしい。しかし「乗っけ打ち」の「台の高さから打つ」というのはどういうことだろうか?少し下がって打点を落として打つということだろうか?

ともあれ、こういう人の躓いたポイントや、その問題の解決法などを読むのは非常に勉強になる。

自分の問題点を言葉にして表現すると、問題点が明確になり、記憶に残りやすい。しかしむやみに細かくメモするだけでは情報が多すぎて混乱してしまうので、それらの情報を取捨選択しなければならない。ある程度の期間を区切って、現時点でのまとめというのを定期的にするといいだろう。たとえば

フォアハンドのチェックポイント
・スイングのスタート位置
・インパクト時のラケットと体の距離
・インパクトのどのぐらい前で力を入れるか
・インパクト時の重心の位置
・ブレードのどの辺でボールをとらえるか

このようなチェックポイントを常に頭に入れておけば、1週間ぶりに練習をするときもすぐに前回の感覚が取り戻しやすいのではないかと思う。

回り込んでバックスイングを取ったら、重心を乗せた右足をけって左足を大きく前に踏み込みながら、フォアハンドドライブを打ちます。コースは安定性の高いクロスを狙います。
このときに、右足から左足への重心移動に加えて、右にひねった上体を左に戻す回転運動、さらに思い切った腕の振りの力を加えることで、非常に強力なフォアハンドドライブを打つことができます。

「酒井明日翔の速攻」『卓球レポート』2014-6

そして上のように自分のフォアハンドを簡潔に人に説明できるようになれば、次のステップに容易に進めると思われる。

【まとめ】
前進するためには、まず自分の位置――前回までの到達点を確認しなければならない。自分の現在のスタート位置がどこかを知るためにマメに卓球ノートをつけ、それを定期的にまとめるというのが練習時間を効率的につかう知恵だと思う。

卓球マシンがほしい――TSPモバイルロボをめぐって

学生さんと打つと、そのすさまじいドライブの威力に圧倒されてしまう。高級ラバーに加えて、有り余る体力で全力で打ってくるので、回転もスピードもすごいボールが迫ってくる。ふだんそういう回転のかかったボールを受け慣れていないので、試合などでそういう人に当たると、相手のドライブを止められない。やっと回転に慣れてきたかと思ったら、カウント的にもう崖っぷちまで追い詰められていたりする。もちろん、回転に慣れていないという理由の他にも、私が相手に一方的に負ける理由はたくさんあるのだが、せめて若い人の回転のかかったボールに慣れておかないと、お話にならない。かといって、周りにそんな強烈なドライブを打ってくれる練習相手もいないし…。

なんとなく、卓球ショップのサイトを眺めていたら、卓球マシンが目に止まった。卓球マシンがあれば、強烈なドライブをブロックする練習も手軽にできるんだけどなぁ…え!3万円台!?

驚いたことにTSPから今月末に発売予定のTSPモバイルロボ は定価45000円+税。ネットショップでは送料込みで3万円台なのだ。この値段なら、個人で所有することも不可能ではない。

 
BR028


だが、こんなに安くて本当に使い物になるのだろうか。そういえば、i Pong pro アイポン プロというのが2万円ほどで売っていたが、耐久性が心配だ。この値段で、週に1回の練習で1時間ほど使って1年も持てば、元は取れると思うが、その程度の耐久性も怪しい。
ダウンロード


しかし、モバイルロボはかなりしっかりとした外見だ。TSPという卓球マシンで実績のあるメーカーから発売されている。そういえば、私が数十年前に初めて使った卓球マシンもTSPだった。TSPは卓球マシンに力を入れている。
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もう廃盤になってしまった「マシンガン愛」。テプラに印刷された商品名が哀しい。

モバイルロボはまだ発売されていないからか、レビューのようなものがネットで見つからない。しかし、猛烈に気になる。

TSPのサイトに以下のように簡単な仕様が記されている。
p52180

重さは2.6キロ。この値段でなんとローラーが2つ。ということは、下回転を出すときも、いちいち射出口を逆さにしたりしなくてもいいということか。回転とピッチが6段階で調整可。首振りも3段階で可。リモコンまでついている。

これは注目せざるを得ない。ただ、この性能で、この価格設定はにわかには信じがたい。ニッタクのロボッチャは実売8万ほどで、かなり安いと思うが、その半分ほどの価格となると、耐久性の方はあまり期待できないのではないか。

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ニッタクのロボッチャ

いくらコストパフォーマンスが高くても、何度も故障したら結局割高になってしまう。最近の電気製品は修理するよりも新品を買ったほうが割安だったりするから、1回の修理代も相当な額になりそうだ。モバイルロボの耐久性次第では、倍の値段のロボッチャのほうがお得ということもありうる。

この値段なら、衝動買いをしてしまいそうだが、既に初回販売は終了し、次回の販売は9月まで待たなければならないらしい。9月になれば、使用した人の感想などもネットに上がってくるだろうから、それを見て、購入を検討したいと思う。


最近の若者を倒す方法――ボールに対する対応力について

もう、60代の老人が30代の若い選手をストレートで下した。
老人は中高では全国レベルの強さを誇ったが、最近はほとんど練習らしい練習をしていない。一方、若者は社会人全国大会に出場するような、今が旬の強い選手。どうしてこんな番狂わせが起きたのか。 

Nさんは裏ソフトのペンホルダー。しかしドライブマンではない。補助的にドライブを使いはするが、本領はスマッシュである。スマッシュ主戦型になった経緯は以下のとおりである。

「私が若かった頃の裏ソフトは、今みたいな驚異的な性能はなかった。ちょっとかぶせてドライブを打てば、全部落ちて、ネットに直撃だった。 それで下回転は慎重にループドライブで引っ掛けて持ち上げたものだ。今のラバーは面をほとんど水平にしてもボールが落ちない。ドライブが楽に入る。」

つまり当時の用具的な制約から、ドライブマンよりも、スマッシュマンのほうが勝ちやすかったということらしい。

次にNさんに若い選手の攻略法について尋ねてみた。

「最近の若い選手は、みんなドライブを打とうと待っている。なんでもかんでもドライブだ。こっちがツッツキで返球すれば、たいてい速いドライブで返球してくる。 しかし、それを1球しのいだら、なんとかなる。相手がドライブを打ってきたら、厳しいコースに返球したり、横回転ショートで返したりすれば、そうそう連続して速いドライブは打てない。苦しくなって相手は打点を落として、下から持ち上げてくる。そのボールを待ってパシーンとスマッシュを打てば、たいてい返ってこない。返ってきたとしても棒球だ。その次で決められる。」

しかし、若い選手のドライブはとんでもなくスピードがあり、スピンもすごい。

「いや、完全な姿勢から打たれたら、なかなか止められないが、コースを突いたり、速いツッツキを送ればそんなに厳しいボールは来ない。ちょっとラケットを上気味に構えてブロックすれば、大丈夫だ。当てるだけで速いボールが返っていく。まして下から持ち上げるドライブなら、ちっとも怖くない。」

不完全な姿勢とはいえ、上級者がドライブを打ってきたら、私の実力では止めるのはなかなか難しい。しかし、上級者同士なら、不完全な姿勢からのドライブはそれほど怖いものではないらしい。

「私はちょっと甘いボールが来た時は、たいてい軽くスマッシュする。これが最近の若者には取りにくいらしい。みんながみんな、ドライブで打ち合っているから、対ドライブにはめっぽう強いが、スマッシュに対する免疫がない。軽いスマッシュでもほとんど返ってこない。しかも私の攻撃はループドライブ、スピードドライブ、スマッシュとバリエーションがあるから、相手がスマッシュに慣れてきたら、今度はループドライブでタイミングをずらしてから、スマッシュだ。」

ここでいうスマッシュというのは、台から50~100センチも上がったボールを打つ決定打としてのスマッシュではない。ネットから10センチほどの高さの、ちょっと甘いボールに対するスマッシュである(こういうのをミート打ちというのかもしれない)。スマッシュ、スマッシュと簡単に言うが、スマッシュは非常にデリケートな角度や打点が要求されるので、そうそう入るものではないのではないだろうか。

「まぁ、それは経験と技術だな。最近の若い人にはスマッシュは難しいかもしれないが、私は若い頃からずっとスマッシュを打ってきたので、かなり安定している。それと、私のラバーは使い古して引っ掛かりが落ちているから、それほど相手の回転の影響を受けない。」

もっと具体的な戦術的なことも聞けたのだが、詳細は忘れてしまった。「最近の若い選手はドライブしか打たない」というところだけが強く印象に残っている。

「私の卓球は古い卓球です。でも、相手は私が次にどう打ってくるか読めない。若い選手はたいていドライブしか攻撃手段がないから、読まれやすく、対応しやすい。」

そういえば、最新号の卓球王国(14年9月号)の「試合で勝つための22の法則」の中で水谷選手がこんなことを言っていた。

自分が心がけているのは、卓球の幅を広げることだ。自分の苦手な選手とか、自分の嫌な球質を持っている選手とたくさんやることが重要だと思っている。…練習でもなるべくやったことのない人と練習をして、体験したことのないボールを経験することで、それに対応しながら自分の幅を広げていくことが大切だ。

やりやすい相手と練習すると、自分の実力以上のラリーが続いたりして楽しい。それでついつい苦手な人との練習を敬遠しがちになる。日本代表レベルの選手にしても、そういう人はいるらしい。しかし、ふだん自分のやりやすい相手とばかり練習していると、ちょっとクセのあるボールを打つ格下の選手にコロッと負けてしまったりする。未知のボールに対する対応力が弱いのだ。

こういう話を聞いて、スマッシュという習得の難しい技術にも挑戦しなくては、と思うとともに、自分の対応力、卓球の幅を広げるために打ちにくいボールを打つ人とこそ積極的に練習しよう、と考えるようになった。

ただ、変なボールを打つ人は、ムチャクチャに強打してミスばかりする人が多い。そういう人との練習は時間の無駄だと思う。


職人芸――打法の適材適所

材木をノコギリで切っていて、おもしろいことに気づいた。
材木を下に置き、水平に刃を当てて切った場合、力を込めてノコギリを引いてもなかなか切れず、非常に時間がかかる。それに対して刃を斜め45°に傾けて切った場合、軽い力でサクサク切れる。
これは卓球の打球を考える場合にも何かを示唆しているように思われてならない。

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独学の精神』(ちくま新書)という本を読んで、職人芸というのは、卓球に近い感覚があるように感じた。

見ていると、本当に驚く。例えば、のこぎりの扱いだが、杉の角材一本を切るのに木を左手に、のこぎりを右手に持って、実に何でもなくヒョイヒョイと切る。その動作には、なんの習練もいらないかのように。切られた断面を見てみると、ぞっとするほど滑らかに平らになっている。

右手にノコギリ、左手に角材を不安定な状態に持ち、スイスイ切れるというのはどういうことだろう。筆者は言う、一流の大工はどのような角度で刃を入れ、どのぐらい押し付けて(卓球で言う「厚く当てる」)切るかを材木の1本1本の性質にしたがって加減する。一流の大工は材木を手にとったとたん、このような最適の切り方を瞬時に判断できるのだと。

大工は手に取った板一枚が、これまでどんなふうに育ってきて、これからどう曲がるかまですぐ分からなければ「話になんねえ。 」ということである。持っただけで、 それは分かる。分からなかったら、 木の家はすぐあちこちすきまだらけになる、くっつけた板が剝がれ、柱もゆがむ。あげくには家が傾く。
 
卓球でもそうだ。横回転ロングサービスが来た時、バックハンドで払うとする。その際、ボールがその先、どのように曲がり、インパクトしたとき、どのぐらいボールが落ちるのか等を計算して角度やこすり方を加減しなければならない。それができなければ払えない。やみくもに払ってもボールはネットに突き刺さるか、大きく台から出てしまう。そして同じような横回転ロングサービスでも、ボールの回転や勢いは1球1球違う。

未熟な職人が電動ノコギリで木を切る時にはこんな配慮はいらない。どんな材木だろうと、同じような力加減で電動ノコギリを押し付ければ、均一に切れる。しかし、名人が細心の注意を払って切った木材の断面の美しさには及ばないのだろう。

もっといい話も聞けた。のこぎりを引くこつは、なんといってものこぎりの重さに従って、それに逆らわず引くことなのだそうである。腕が、体が、のこぎりに勝ってしまうようではいけない。【中略】そういう物の重さを生かして切るという。のこぎりが、自分の重さで、自ら動いているかのように引く。

卓球でも似たような経験をする。全力で振っても、ボールが重く感じ、うまく打てないときもあれば、軽く振ってもボールが鋭く相手コートに入る場合もある。ボールの性質に逆らって打とうとすると、ボールがとてつもなく重く感じ、ボールの性質に従って打てば、軽々と速いボールが打てる。

まとめると、こういうことだ。
名人は木材1本1本の違いを尊重し、その木材の性質に従って切る。その結果、美しく切ることができる。その際、のこぎりを無理に引くのではなく、のこぎりの重さを上手に利用して、あたかもノコギリが切れ目に吸い込まれていくかように切らなければならない。
卓球でも1本1本のボールの性質――回転やスピードを尊重し、それに従って打てば、理想的なボールが入る。打球の際はラケットを無理に振り回すのではなく、ラケットの重さに引っ張られるかのように無理なくボールを打たなければならない。

私たちはともすると、千差万別のボールを2つぐらい――たとえば順回転用と逆回転用――の打ち方で、電動ノコギリを押し当てるように打ってしまう。1球1球のボールのデリケートな違いなど気にせず。そうではなく、もっとボールの性質に沿って、1球1球打ち方を変えなければならない。

「常に全力」というのも効率の悪いものである。

・横に軽く半歩動けば済むところを、斜め後ろに大きく1歩動く。
・カウンターを食らわない程度に5割ほどの力で軽打を打てば済むところを、10割の力で打つ。
・早い打点でハーフボレーで済むボールをわざわざ振りかぶってバックハンドドライブを打とうとする。

打法も適材適所で、全力で打てばミスも多くなるし、無駄な動きが多くなるので、必然的に振り遅れたりもする。流れるような滑らかなプレーをするためには、つなぐところは最小限の動きでつなぎ、決めるところでは全力で打つといった見極めが大切だと思う。

下手な人ほど全力で打とうとする傾向が強い。自分のプレーを振り返ってみて、力が抜けるところでは、積極的に力を抜くように心がけたいと思う。

見えているのに見えない――『男子卓球の真実』2・6を観て

前記事「サービスからのラリー構成」で『男子卓球の真実』1巻を観た感想を紹介したが、今回『男子卓球の真実』2巻・6巻も観てみたので、その感想などを書いてみたい。

『男子卓球の真実』は『女子卓球の真実』に続いて出されたシリーズで全6巻。各2000円。だいたい40分ほどだが、選手紹介や監修者挨拶などがあるので、実質は30分ほどだと考えた方がいい。

このシリーズは青森山田高校男子卓球部の選手の練習法を紹介するという企画である。当時、三部航平選手や上田仁選手は中学生・大学生だったかもしれないが、とにかく青森山田の中心選手、丹羽孝希選手、上田仁選手、町飛鳥選手、吉田雅巳選手、森薗政崇選手、三部航平選手等の練習法を紹介するというものである。

2巻はフットワーク(基本)編。



第1章:フォアとバックの2点をフォアハンドだけで交互に往復する「V式フットワーク」というフットワークの練習。右利き、左利きの各選手にこのV式フットワークをさせて、前、後ろ、斜めのアングルにスロー映像を交えて紹介するというもの。じっくりと目を凝らして観察していたのだが、フォアハンドではどの選手もフォア側のつま先の向きはほぼ一定で、外側を向いている。バック側の足は複雑に動かすが、フォア側の足はあまり動かさないというのがいいらしい。他にも見る人が見れば、有意義な点がいくつもあるのだろうが、私にはこのぐらいのポイントしか分からなかった。

第2章: 両ハンド編として、「サービスから、フォア、ミドル、フォア、バック、バック(回り込み)、飛びつき」などのシステム練習をいくつか紹介している。第1章のV式フットワークのような安定した動きではなく、変幻自在に複雑に足を動かすので、第2章は初中級者がフットワークの基本を学ぶにはあまり適していないかもしれない。レベルの高いフットワークの映像を観ても、初中級者には、どこがポイントなのかよく分からないからだ。

6巻は:ネットプレーで主導権をとる



このビデオははじめの15分ぐらいでネットプレーのコツについて説明されており、後半は選手たちのネットプレーからの練習が延々と流される。その映像についての説明はなく、その代わり、「国際大会でランキングを上げるためのポイント」の解説が続く。いったい「誰得」なのだろうか?どんな大会に出場し、どうやってランキングを上げるかという情報は、日本トップレベルの学校の監督ぐらいにしか必要のない情報だと思うのだが。

2巻のフットワーク編にも言えることなのだが、細かくて複雑な動きの実際をいくら観ても、私にはポイントがわからない。解説があることでかろうじてどこが大切なのか分かる。そうすると、前半の10分ぐらいの解説のみが私のレベルにとって有意義な部分ということになる。

まず、

ストップが上手くできない選手は打球時に突っ込み過ぎて、ボールとラケットが衝突している場合がほとんどです。

のようにミスの原因を特定し、その対処法を示す。

ストップが上手くいかない選手の第2の原因は「手を伸ばすタイミングが遅い。手が伸びきらない」場合があります。

丹羽選手は、「ノーバウンドでもボールに触れることができるぐらいのタイミング」で手を伸ばし、そこから、少し下がって腕をたたむ時のタイミングで打球します。

stop

ストップのコツは、腕を早い時点で伸ばしきり、それからボールを迎え、腕を引っ込めると同時に打球する。こうすれば、ボールを前に押す力を最小限に止めることができるのだという。
しかし、丹羽選手のプレーを何度も観たが、腕を引っ込めるときに打球しているようには見えない。腕を9割ほど伸ばしたところで打球しているように見える。イメージとしては「伸ばしきってから打球する」だが、実際は「ほとんど伸ばした状態で打球する」ということなのかもしれない。

【まとめ】
以上、2つのビデオを観て感じたのは、このようなトップ選手のプレーをただ観るだけでは、あまり初中級者のプレーの改善にはならないということである。2巻のV式フットワークのような単調な動きをひたすら見続ければ、ある程度得られるものもあるが、試合に近い、実際の複雑な動きを、解説なしにいくら観ても、どこに注目すればいいか分からず、かえって何も「見えない」。

適切な解説がなければ、トップ選手のプレーのポイントは分からない。2巻は解説が細かく、2000円の価値があると思ったが、6巻はそのような説明が10分ほどしかなく、あまりおすすめできないと感じた。
 

忘れられる権利――ジャパン・オープン2014男子決勝の判定について

ジャパン・オープン2014男子シングルス決勝 水谷隼選手と于子洋選手の試合は後味の悪いものだった。



問題の場面は3ゲーム目のカウント7-4、上の動画の3:08のところ。
明らかに入っていない于選手のボールが入ったことになっている。水谷選手が抗議するも、結局判定は覆らず、水谷選手は続けざまに得点され、このゲームを失い、なんとなく敗れてしまった。

動画のコメント欄には于選手の態度と、審判への非難が渦巻いていた。
常識的に考えれば、あの場面で于選手は「たしかに水谷選手のポイントでした」と申し出るところだろうが、中国の常識ではちがうらしい。ITTFの動画には次のようなコメントがついていた。

i know in China it is pretty normal not giving the Point to the Opponent if the refree saw it false. But this ball  was really very far from the table. It was not close at all! 
 
Yu Ziyang should not be the one to be blamed as a cheater, it's the judge who made the final decision and took ALL responsibility. 

前記事「精神力の強さとは」でも言及したが、中国社会というのは「弱者は真っ先に食い物にされ、お人好しは足を引っ張られ、油断したらハメられる社会」だというのが私の想像である(実際に住んだことはないので、憶測にすぎないが)。中国ではこのような場面では于選手には非はなく、審判だけが悪いのだ。しかしyoutubeのコメント欄を見ると、多くの国では于選手の態度はスポーツマンシップに悖る行為に映るようだ。

背を向ける
于選手に何か言ってほしげな水谷選手だが、于選手は全く意に介さず背を向け続ける。

このポイントを境に水谷選手は緊張の糸が切れてしまったようで、プレーがグダグダになってしまう。于選手は逆に、チャンスとばかりに徹底的に攻め抜く。

于選手は16歳ということなので、目先の優勝のためなら、何を言われようが構わないといったところだろうか。しかしコーチまでが于選手の態度を問題視していないのには驚かされた。

笑顔
「よくやった!」と言わんばかりに労をねぎらうコーチ

技術ばかりが先行し、人間性やモラルといったものがついてきていない若い選手が、将来どんな怪物になるのか心配じゃないのだろうか。「とにかく勝てばいい」というのでは、誰からも尊敬される国民的英雄になることはむずかしい。それどころか、この行為が生涯にわたって于選手を精神的に苦しめるのではないだろうか。

平岡義博氏は宇田幸也選手に常にこんなことを言って指導していたそうである。

「誰からも好かれる人間になれ」「みんなが注目する選手になれ」
これも将来スター選手になるために常に言い聞かせてきました。
宇田幸矢に求めたもの

「誰からも好かれる」。これは本当に難しいことである。子供の時から強くて注目される選手だからこそ、その言動には細心の注意が必要である。なぜならインターネットが普及した現代では、軽い気持ちで言った一言が永遠に記録され、世界中から閲覧されてしまうのだから。
于選手は世界中の卓球ファンに「卑怯者」「モラルの欠けた嫌な奴」と記憶されたことだろう。おそらく于選手の子供や孫もこの動画を見て、于選手の態度を軽蔑することだろう。于選手が活躍すればするほど「ジャパン・オープンではあんな卑怯なことをしたのに」と思い出されるにちがいない。中国人のメンタリティーは確実に変わってきている(前記事「変わる中国人」)。世界の目を意識している中国の国家チームの監督や先輩などは「あんな奴が中国代表になったら、中国のイメージが悪くなる」としていろいろな妨害を受けるのではないか。中国なら于選手に頼らずとも、いくらでも人材がいる。

ジャパン・オープン決勝ともなると、この動画は10年後、20年後でも閲覧可能である可能性が高い。于選手は目の前の優勝を焦るあまり、自分の経歴に一生消えない、大きな瑕を作ってしまったのだ。

ところで、近年、「忘れられる権利」というものが注目を集めている。
“忘れられる権利”はネット社会を変えるか?
グーグル、「忘れられる権利」の削除要請に対抗策

ネット上に個人情報があふれているので、自分が過去にどんな発言をして、どんな人と付き合い、どんな失敗をしたかなどが、いつでも誰にでも閲覧可能になっている。不名誉な過去や、あまり人に知られたくない経歴をインターネット上から削除してもらう権利というのが「忘れられる権利」ということらしい。最近でも旅費を不正に請求したとして野々村竜太郎氏の過去の言動や経歴などが大きく取り上げられている。野々村氏もこの騒ぎが静まったら、心を入れ替えてまっとうな人生を歩みたいところだろう。しかし、この権利にはいろいろ議論があるらしく、過去の事実がネット上から簡単に消えることはないようだ。

このような事件を見るにつけ、日本選手のことが心配になってくる。
小学生や中学生で国際的に注目される選手が最近の日本にはたくさんいる。彼らが自身の言動をどれだけ意識しているか心配である。

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優勝してこういうことをしてしまったら、いい印象を持たない人も多いのではないか

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世界チャンピオンもこんなことをしてしまったら、人格を疑われかねない

マナーは国によって違う。優勝して台に乗ったり、足でボールを蹴ったりするのを「おもしろいパフォーマンス」と受け取る文化もあれば、「調子に乗ってる」と受け取られる文化もある。もし日本を代表する若い選手がツイッター等のSNSで「授業ダリ~。教師ムカつく~」などと発言したら、清々しい印象の選手も台無しである。「本当はこういうヤツなんだ」という拭いがたいネガティブな印象を世間の卓球ファンに植え付けてしまうことだろう。大人になって若気の至りを悔やんでも遅いのだ。

于選手の問題を他山の石として、日本の若い選手たちは自らの言動を慎んでもらえたらと思う。石川佳純選手のように、常にメディアを意識し、自身の言動に注意深い選手になれれば、日本中から愛されることになるだろう(前記事「日本女子卓球選手の社交性の高さ」)。


口直しにこちらの試合を。

インパクトが見える素振り

ずいぶん昔の卓球王国の伊藤条太氏の文章にこんなことが書いてあった。

世界選手権パリ大会の取材のとき、星野美香氏の前で伊藤氏が素振りを披露したところ、「あまり上手でないのが分かる」と言われたというのだ。星野氏によると、上手な人が素振りをすると、インパクトが「見える」のだという。
その記事を読んで「上手な人は素振りを見ただけで相手の卓球のレベルが分かるんだ、すごいなぁ」などとぼんやり思っていたのだが、よく考えて見ると、不思議である。

素振りの際、スイングの軌道のどこでボールをインパクトしているかなんてそうそう分かるものではない。インパクト時にスイングの軌道がカクっと曲がるというスイング(もしそんなスイングをする人がいるのなら)なら、素振りを見ていてもインパクトが想像できる。あるいはシェークのバックハンドなら、インパクト時に手首を返す人が多いので、人によってはインパクトが想像できないこともない。しかし、フォアハンドの素振りの場合、無理のないカーブを描く軌跡のどこでボールをインパクトしたかなんて分かるはずがないではないか。

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「高島規男のテクニック大革命」より

左上の写真ではかなり前でインパクトしているが、右上の写真ではひきつけて横気味でインパクトしている。
同じ人でもボールによってインパクトの位置が違うし、前陣で早いプレーをする選手と、中陣でオールラウンドに打つ選手のインパクト位置も違うと思われる。それなのにインパクトが「見える」というのはどういうことなのか。

そのことを考えていて思い出したのが、前記事「タメとは何か」である。この記事での結論は、偉関氏のスイングは力を抜いて、スーっとスイングがスタートし、インパクトの直前になって急加速するということだった。おそらくこのようなスイングならインパクトが「見える」のだろう。初中級者のスイングは、緩急・メリハリがなく、スピードが均一なのっぺりとしたスイングなのに対して、上級者のスイングは、インパクトから遠いところではあまりスピードが乗っておらず、インパクトの直前で急加速する。それで加速した先にインパクトが「見える」のではないか。さらに偉関氏は、インパクト時に手首を使っているので、そこでもはっきりと、インパクトと非インパクトの境が際立つのかもしれない。また、偉関氏は強いボールを打つには体全体の力を一点に集中することだと述べていた。そうすると、スイングの軌跡、緩急、手首の動き以外にも上級者がインパクトを見るポイントがあるのかもしれない。

とりあえず、これからインパクトが「見える」ように緩急と手首だけでも注意して素振りしてみようと思う。
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