しろのたつみ



卓球について考えたこと、
気づいたこと(レベル低いです)
を中心に中級者の視点から綴っていきます。




2014年05月

中年になると足が動かないというのはやっぱり当てにならないと思った(前記事「足が動かない」)。
上級者なら加齢とともに以前のような素早い、超人的なフットワークはできなくなるかもしれないが、初中級者のレベルの卓球なら、中年でもそれなりに十分足が動く。そして足が動くと体力の消耗が激しく、かつ卓球の楽しさも倍増する。動き回れる楽しさはドライブを決めた爽快感に勝るとも劣らない(たとえ低いレベルであっても、である)。フォアハンドの安定性と、そこそこのフットワークがあれば、中年の卓球としては十分である。

以前は気にも留めなかったが、もしかしたらシューズを替えることによってフットワークが格段に向上するのではないかと思うようになった。これまで私はシューズに経済性ばかりを求め(前記事卓球用具代用考(シューズ)」)た結果、実売4000円強の最も安いシューズを履いているが、世間では1万円もする高級シューズも売られている。もしかしたら、このような高級シューズを履くことによって私の卓球も劇的に変化するのかもしれない。

しかし、ラケットならまだしも、シューズに1万円ものお金をかけるのは本意ではない。だが、フットワークによって卓球の楽しさが倍増することも事実だ。買うべきか、買わざるべきか。

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アディダス TT10 実売 約9000円

TT10の蛍光ピンクは今までにない色使いで心惹かれる。

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アシックス アタックSP2 実売 約9000円

アタックSP2のオーソドックスな外見にも惹かれる。

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ミズノ ウェーブメダル4 実売 約8000円

ウェーブメダル4の赤と黒の色使いも好みだ。いかにも機能性がよさそう。シューズの性能の違いが分からないので、とりあえず見た目で選んでみる。

しかし、私は貧乏人なので、シューズにこれだけのお金をかける勇気がない。逡巡しながらシューズをいろいろ見ていたら、インソールに目が留まった。

「もしかしたら、インソールを替えることによって、4000円ほどのシューズが、8000円ほどのシューズの履き心地に近づくのではないだろうか」

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ニッタク エクスファンインソール 2000円強

シューズの中敷きが2000円以上もする!?これはかなり期待できそうだ。4000円のシューズが8000円のシューズに匹敵する履き心地になるかもしれない。しかし、インソールに2000円以上もかけるなら、素直に8000円のシューズを買ってもいいかもしれない。

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ニッタク アーチサポートインソール 1500円ほど

これぐらいなら、ちょっと考えてしまう。しかも「アーチサポート」というぐらいだから、立体的で、いかにも足にフィットしそうだ。

ただ、私はインソール初心者なので、とりあえず最も安い以下の製品を購入してみた。

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バタフライ・インソール 700円ほど

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上から

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横から

なんだか、ホテルなどに備え付けられている使い捨てのスリッパのようなペラペラさ。もっとこう立体的で、くびれているようなものを期待していたのだが、さすがに700円でそれは無理か。

TSPのアストール・レピトのインソールを剥がして取り替えようと思ったのだが、剥がれない。どうやらアストール・レピトは中敷きの交換を前提に作られていないらしい。

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アストール・レピトの中敷きはかなり分厚く、フカフカのスポンジが2枚重ねだった。ムーンスター製?

中敷きを取り替えるのは断念し、元ある中敷きに、バタフライ・インソールを追加することにした。
すると、ただでさえフカフカのインソールがさらにフカフカに。喩えるなら、トヨタ・クラウンである。

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一方、私が期待していたのは、軽くてソリッドなトヨタ86である。
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なお、上の写真の両車は、乗ったことはおろか、見たこともないので、あくまでも私の中のイメージである。

高級車は路面の凹凸を拾わず、運転者もあまり運転を意識しない、乗っていて疲れない。一方、スポーツカーは路面の凹凸を直に反映し、よく言えば素足感覚、悪く言えばゴツゴツした乗り心地だと思う。

私のアストール・レピト改は、素足感覚とは程遠く、床面の感覚をあまり感じられない。まるでソファーに座っているような、包まれる感覚だったが、決して悪い感じではない。動いた際の衝撃も軽減されるので、膝に故障を抱えている人などにはいいかもしれない。フットワークにも特に影響はなく、とにかく「安心感」が倍増した感じである。私が期待していたフィット感の向上はそれほど感じられなかったが、これはこれでよかった。

今回は機能性よりも、履き心地を優先する結果となったが、次は「アーチサポート・インソール」に挑戦してみたいと思う。こちらは機能性にも影響を与えそうだ。

【付記】
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ASHIMARU スペースフィットSP 1000円ほど

卓球用ではないが、ジョギングシューズ用のインソール(最も安価なもの)を買ってみた。こちらは少し凹凸があり、フィット感もちょっと期待できる。ジョギングシューズのインソールを剥がしてみたところ、カビのようなものが…。もしかしたら、インソールの交換は防臭にもいいのかもしれない。使用感などは後ほど。

【追記】140603
100円ショップでもいろいろなインソールが売っており、クッション性の向上に大きく役立つことが分かった。1000円ほどの専門メーカーのもののほうが履き心地などもいいかと思われるが、コストパフォーマンスは圧倒的に100円ショップのもののほうがよかった。 

安定したドライブを打つ上で、また重要な知見(上級者にとっては当たり前のことかもしれないが)を得たので報告したい。この考察は多くの初中級者の卓球の安定にとって意味のあることだと確信している。

ドライブがオーバーミスして悩んでいる人は多いと思う。ネットミスとオーバーミスを比べると、男性ならオーバーミスのほうが圧倒的に多いのではないだろうか。オーバーミスを修正するために初中級者が考えるのは、面の角度をもっとかぶせようということである。しかし、そのようにかぶせをきつくしたら、今度はネットミスになってしまい、ネットミスを防ぐために、同じ角度のままでさらにスイングスピードを上げようとする。すると、今度はスイングが速すぎて、またオーバーミスしてしまい、さらにかぶせをきつくすると、またネットミスになり、もっと渾身の力でスイングして…というのが初中級者のミスを連発するロジックなのだと思う(少なくともかつての私は)

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さらに悪いことにこの輪廻を繰り返す中で、きらめくような強打を放てる瞬間がある。上級者でもちょっととれないような低くて鋭いエースボールである。ボールと面を思い切りガツンとぶつけているので、タイミングと角度が合えば、スピードや威力は相当なものになる。このようなボールを打った時の爽快感はなかなか忘れられない。

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ただ、そのタイミングと角度はシビアすぎ、上級者ならともかく、初中級者が安定して打てるボールではないため、とうてい実用に堪えるものとはなりえない。しかし我々は

「あっ!これが正しい角度とスイングスピードだったんだ」

と、その10本に1本も打てないようなボールを追い求めてまた六道輪廻が繰り返される…救われない。

前記事「オーバーミスの原因を探る」で、オーバーミスの原因はボールの威力を板に直撃させることによって押してしまうことが原因だという結論に至った。いくら面を寝かせても、ガツンと厚く当ててしまってはボールは安定しない。面をかぶせはするが、厚く当てないことこそが肝要なのである。

弧

Bの角度で面を厚く当てながらドライブすると、ボールの威力をモロに受け止めてしまい、ボールがコントロールできず、すっ飛んでいってしまう。一方、Aの角度で、ボールの1時ぐらいのところを撫でるように薄く打てば、ボールが飛び出る前にラバーでしっかりグリップできるので、速いスイングでも飛び過ぎず、ボールの長さをコントロールできる。Bは板の反発でボールを飛ばし、Aはスポンジの反発で(あるいはスポンジでつかんで)ボールを飛ばしているのである。

弧線

ボールの軌道を見ると、上の図のようになる。Bはボールを十分グリップできないまま押し出してしまって、軌道がより直線的になり、オーバーしてしまう。一方Aのようにボールの威力を殺し、板に直接当てないようにすれば(前記事「打球音が変わった」「厚さ4ミリの間のドラマ」)、ボールの描く弧が小さくなり、余裕を持って台に入れることができる。Bの打ち方は、弧が大きくなるためにどうしても着台までの距離が長くなり、台に収めるのは難しい。一方、Aは弧が小さいために、タイミングやスイングスピードが多少狂っていてもボールが安定して台に収まる。

これでドライブは安定するはずだった。

しかし、最近、また不安定になってきた。やはりオーバーミスである。Aの打ち方で打っているはずなのに、Bのような弧線を描いてしまう。これを指導者に相談してみたところ、インパクトの瞬間にラケットを巻く傾向があるからだと言われた。


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上の図のように、横から見た角度は問題なかったのだが、

下の図のように上から見た角度は内側にかなり傾いており、そのせいでボールを押していたというわけだった。

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早速、Aのように面を開いてインパクトしてみたところ、安定した。

【まとめ】
安定したドライブを打つためにはボールを厚く当てない、押さないことが肝心である。私の場合、ラケットを寝かせる角度のみに神経を集中させていて、上から見たときの左右の角度のほうは完全に盲点だった。この左右の角度をできるだけネットと平行にして打たないと、ボールを押し出してしまう可能性が高い。
また、ラケットの当て方以外にも、打球点やスイングのスタートのタイミング等も考慮すべきである(前記事「それでもまだ遅い」 )。
このようなことは、上級者なら誰でも知っていることだと思われるが、初中級者がどうしてオーバーミスを連発するのか、その意識が分かるという点で、上級者にも有意義な情報なのではなかろうか。
 

卓球王国に「強くなる人、ならない人」という連載があり、毎回興味深く読んでいる。
しかし、最新号(2014年7月号)の 

強くなる人は、どの練習も“自分のため”と考える
強くならない人は、“練習相手”で時間を無駄にする

強くなる人は、難しい技術にどんどん取り組む
強くならない人は、「まだ早い」と言って挑戦せず

というスローガンは、それだけ見たら誤解を招くのではないかと懸念している。卓球マナーの悪い人に変なモチベーションを与えてしまうのではないかと。

卓球マナーが悪い人は、人に練習させない。いつも自分の練習のことだけしか考えていない。

例えば相手が3球目をバック側に打ち、それをブロックで相手のフォア側・バック側に回してやるような練習でも、そういう人は相手のための練習などとは思っていない。なんとか隙を見て「自分のため」の練習にしようと考えるのだ。

マナーの悪い練習相手は相手の3球目を素直にブロックで受けずに、カウンターで返そうとする。あるいは、わざわざプッシュや横回転レシーブで返そうとする。相手の3球目の速いボールに対してそんな高度な返球が確実にできるなら、それでもいいかもしれないが、こういうムチャな返球をする人に限ってとんでもなく下手だったりするのだ(これは私の低いレベルの練習の話である)

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「そうだ!相手の練習も『自分のため』だ!」
「『難しい技術にどんどん取り組』まなくては!」

とかいって成功率が3割にも満たない技術に挑戦してみたり、わざとタイミングを外してみたり。私の経験上、そういう人が初・中級者の中にかなりの高確率で存在するのだ。彼らはとにかく自分が気持ちよく打つことしか考えておらず、ミスなく続けようという意識はなく、練習相手は利用する対象でしかないと考えているフシがある。

 上手な人同士で、そのような高度なレシーブでも、ミスなく続けてラリーできるなら、そのようなレシーブを練習中に取り入れてもいいのかもしれないが、私レベルだと、仮に1/3本、そのようなレシーブが入ったとしても、次のラリーが続かない、練習にならない。こういう卓球マナーの悪い人が、こんなスローガンを見たら、迷惑な卓球をさらにパワーアップさせてしまうのではないか。

「強くなる人、ならない人」で勧めているのは、むしろこのような誤解とは正反対のことである。試合中の場面をイメージし、質のいいブロックを返球することに徹し、練習相手としての務めを全うすること――ミスなく完璧なコースに返球し、相手に練習させることこそが「自分のため」にもなるというのだ。

また「難しい技術にどんどん取り組む」というのは、同程度のレベルの中高生の部活内での練習を想定していると思われる(筆者の大橋宏朗氏は中学校の指導者)。社会人のクラブで、それほど親しくもない相手に初めて取り組む高度なレシーブを試してミスを連発するというのでは練習相手に多大な迷惑をかけることになるし、稀にボールが入ったとしても、それ以上ラリーが続かないからお互いに練習にならない。

【まとめ】
「相手の練習も自分のため」「難しい技術にどんどん取り組む」というのを文字通りに受け取って、誤解する人が多いのではないかと危惧し、言わずもがなのことを長々と書いてしまった。私の知っている初級者で、こんな誤解をしそうな人が片手では収まりきらなかったので、全国規模で考えると、とんでもないことになるのではないかと想像をたくましくして、余計なことまで書いてしまったかもしれない。

「自分の練習になる」というのは「相手にとっても練習になる」というのが前提となる。そうでなければ、勘違いしている一人のためにクラブ全体の雰囲気が悪くなり、クラブの存続さえ危うくなってしまう(前記事「スポーツの意義」)。部活などを経験した人にとっては分かりきったことだが、社会人の中にはそれが分かっていない人が結構多いのだ。
 

愛工大名電高校の松下大星選手に興味があるのだが、情報があまりないのが惜しまれる。
youtubeで探したところ、非常に画質の悪いポーランドオープンの動画があっただけだ。



映像が暗すぎて細かい部分がよくわからない。

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松下選手は日ペン両ハンドドライブ主戦型というユニークな戦型。反転式のようなブレードにシェークのようなグリップ。現在はインナーフォースZLCの特注だという。
最近、反転式を異質ラバーではなく、裏裏の組み合わせで攻撃的に使うのが流行っているようだ(「時代は反転式?」「反転式のバリエーション」「ダブルフェイスTOについて」)。中国式よりも面積が小さく、軽いので、両面に重いラバーを貼っても振り抜きやすいのだという。

上の写真の松下選手の裏面の指の置き方がおもしろい。中・薬・小指の三本をほとんどまっすぐに伸ばしてペタッとブレードを抑えている。
通常のペンホルダーの指の置き方は下の写真のように指を丸めて、点的、あるいは線的に支えているが、上の松下選手の場合は面的に押さえている。

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「卓球 初心者ナビ」より

前記事「指使い」で劉国梁・元選手が

「薬指をラケットにつけてもかまいません」
「ただし、小指をつけてはいけません

とアドバイスしているが、松下選手の握り方は、思い切り小指をつけている。この握り方は従来のペンホルダー・グリップの常識を覆す握り方である。

ペンホルダーはグリップによって面の角度の自由度が大きく変わる。グリップを変えた途端に裏面が安定する等、グリップ位置変更による効果が大きい。ペンホルダーのプレイヤーが自分に合っていない握り方をするのは「人生、損している」といっても過言ではない。

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最近の写真でも、指は伸ばし気味だ。

 私も試しに裏の3本の指を伸ばして握ってみたのだが、こうすると、人差し指による押さえが必要なくなり(人差し指を持て余してしまう)、結果、親指と3本の指だけでブレードを押さえることになった。すると、フォア面、バック面の角度が非常に出しやすい。特にフォアを打つときに、相手にフォア面を向けながら、ラケットのヘッドが上を向きやすくなる。

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つまり、こんなふうに面を相手に向けて腕を上げる形

表面バックハンドを捨て、裏面に徹するなら、これほど使いやすいペンホルダーのグリップはないのではないだろうか。

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ペンでフォアハンドを打つとき、面を開いて打つと、肘が曲がりがちだが、松下選手は伸び伸びとまっすぐ上に伸ばしている。

バックハンドも惚れぼれするほど美しい。
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平成25年度 第41回全国高等学校選抜卓球大会より

私は中ペンで試してみたのだが、中ペンに、この松下式グリップを適用するにはラケットを限界まで浅く握るのが有効だと思う。裏指3本を伸ばすためには、グリップのお尻のあたりに軸を置かなければ、指がラバー奥深くまで伸びてしまい、裏面打球時にジャマになるからだ。

また、グリップは柔らかく握ったほうがいいように思う。打球時にグッと力を入れるためには、それ以外の時に力を抜いておかなければならない。普段からしっかりと握っていると、インパクト時に力を入れられない。

中ペンは重すぎて、両ハンド攻撃型は非力な子供や女子選手には難しいと言われているが、松下選手のような日ペンなら、非力な選手にも使いこなせるのではないだろうか。このような戦型に合うラケットを各社が発売してくれれば、女子選手の戦型のバリエーションも広がるかもしれない。


下は日本最初期のラケット秩父宮スポーツ博物館所蔵)らしい。穴あきラケットはルール上無理だが、右の、ペンともシェークともつかない形状のラケットはこれから流行るかもしれない。

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先日、葬儀に参列して信州の親戚とお話しする機会があった。
初老の仲の良さそうな夫婦で、ご主人はおおらかで人の良さそうな人、奥さんはとても控えめでおとなしい人だった。奥さんの控えめな人柄を褒め讃えると、

「でも、こう見えて亭主をよくひくんですよ」
「『ひく』って『惹きつける』ってことですか?あるいは『尻に敷く』ということですか?」
「いや、そういうことじゃなくて、『亭主を立てる』というか…そのぉ…なんて言ったらいいずら?」


どうやら信州で「ひく」というのは、「操る」といった意味らしい。正面から要求したり主張したりするのではなくて、うわべは夫のやりたいようにやらせるが、最終的には妻が夫を意のままに操るというイメージが近いようだ。そのように妻にいいように「ひかれて」、夫の方はまんざらでもなさそうだった。こういう頭のいい奥さんは、どんな環境でもうまく世を渡っていけるのだろうと感心させられた。相手に不満を持たせるどころか、嬉々として従わせてしまうのだから。

大橋宏朗『先生、できました!』(卓球王国)は、『卓球3ステップレッスン』を『卓球王国』で連載していた中学校の先生、大橋氏の教育エッセイである。大橋氏の長年の中学校での授業および部活指導の経験から、気づいたいろいろなことが短い文章で綴られている。一つの記事が1000字ほどなので、空き時間にリラックスして読むことができる。

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思春期の難しい時期の子供をうまく導いてやることは、きれいごとばかりでは済まないだろう。怒鳴ったり、傷つけ合ったり、ストレスのたまる仕事だと思うが、大橋氏は子供たちを「ひく」のに長けているように思われた。大橋先生の指導の中核には「共感」がある。

「子どもに教えてあげているんだ」という姿勢では、子どもたちとの共感的な関係は絶対に生まれません。教師と生徒たちが教え合う、助け合う関係を築かなければいけません。【中略】部活動でも、「この技術はこうやるらしいぞ。誰かできる人はいないか。ちょっと見せてくれないか。」と言うと、「それをやりたい。やらせてください」と言ってきます。

共感というのは互いにできることを補い合い、子供たちに主体性を持たせるだけではない。生徒の失敗を教師が許すとともに、教師の失敗を生徒が許せる、堅い信頼関係にもとづく感情である。そしてそれが教師への過剰の依存をなくし、自分で考えることにつながるのだという。
ときどき仕事ができないのに周りといい関係を築いている人がいる。逆に仕事をすべて完璧にこなしているのに周りに疎んじられている人がいる。何でもキチッとしている人が周りに疎んじられているのは、相手を許すことができず、このような「共感的な関係」を築けていないのだろう。

また、大橋氏は生徒の自尊心を重視している。

子どもたちによって、「好きになる」ことがとてつもない可能性を引き出すことにつながります。子どもの可能性は「いかに好きにさせるか」がキーポイントです。【中略】好きになると虫の種類や、卓球メーカーのカタログの写真や説明文を暗記することさえ楽しみであり、苦にならないものです。
私は小学校3年生くらいの頃、学校の図書館にあった百科事典の「あ」から順番に、全部ノートにただ、書き写していました。傍目には変な子だけど、ある先生がそれを見て「おまえ、えらいな」とほめてくれました。写した内容は忘れたけれど、ほめられたことは今でも覚えています。


もし私が教師の立場で大橋氏の上の行動を見たら、どうするだろうか。

「やみくもに覚えることは意味がない。知識というのは考える過程で自然に身に付くものであって、無理に詰め込んでもどうせ忘れるだけだぞ」

とか言って、代わりに事典中のおもしろそうな項目を探して、それについて講釈などをしてやるかもしれない。
しかし、そんなことをしたら「君のやっていることは無意味なんだ」というメッセージを送ることになってしまう。それは子供の自尊心を傷つけることになるかもしれない。大橋氏はまず「好きになる」を伸ばすことが第一なのだという。たしかに私にも覚えがある。熱心に取り組んでいたことが認められたときの喜びというのは記憶に残りやすく、積極的に自分を高めようとする自信につながったと思う。「これだけは人に負けない」という自尊心がさらに「好きになる」を伸ばし、相乗効果をもたらすと思われる。

そもそも大橋氏の持ち味というのは卓球部の指導力の高さだと言われている。世間の強豪校の指導者が威圧感や緊張感を背景に指導しているのに対し、大橋氏は生徒の自主性に任せ、上手に生徒を「ひいて」いる点が並みの指導者と違うのである。なかなか思い通りに動いてくれない子供たちを上手に「ひく」ためには叱責や体罰などで子供たちを隷属させるのではなく、伸び伸びと子供たち自身に何をすべきかを考えさせることだという。

このような意見を聞いて現場の指導者は「子供たちにはそんな甘いやり方は通用しない」と言うかもしれない。しかし、大橋氏は実際にそのやり方で何度も生徒たちを全国大会に出場させているのだ。なんらかのヒントがあるはずである。

私の個人的な見解だが、子供たちの自主性を尊重しつつ、上手に導いてやれるかどうかは、子供たちに指導者を「ひいている」と思わせられるかどうかにかかっているという気がする。つまり子供たちに自分たちの方が「ひいている」と思わせられれば、指導者は上手に子供たちを「ひける」のではないかと思う。

私は精神年齢が低いからか、大橋氏の教育論がいちいち自分にも当てはまるような気がしてならない。「いい年をして」とか「いつまでも子供じゃないんだから」のように頭ごなしに自分を否定されるのが嫌いである。大人だってガマンばかりするのは嫌だし、「正しい」ルートではなく、時には道草や回り道をしたいときもある(前記事「卓球書代用考(育児書)」)。この本に書かれていることは子供たちの扱い方にかぎらず、大人にも有効な「指導法」なのではないだろうか。


 

ITTF Legends Tour という企画があることは知っていた。往年の名選手を招いてエキシビション・マッチをしてもらうというものらしい。動画が上がっていたので、あまり期待せずに観てみたのだが、なんとそこには江加良の姿が!若い人は知らないかもしれないが、’85、’87年の世界チャンピオンである。中ペン表ソフトでガンガン打っていく選手である(前記事「昔の卓球は今、通用するのか」)。

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1988年ソウルオリンピックでの江加良(Jiang Jialiang)

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老いを感じさせない江加良 今年50歳?

 

出場選手は以下の6人

ヨルゲン・パーソン 48歳
アペルグレン 53歳
江加良 50歳
J.M. セイブ 44歳
ワルドナー 48歳
ガシアン 45歳

ワルドナー、パーソン、セイブはたぶん今でも現役選手?だし、アペルグレンも、ときどき試合に出ているのを見かける。ガシアンは私が卓球を休んでいた頃に活躍した選手なのであまり思い入れがない。

が、江加良は違う。レアかつ私の最も思い入れのある選手の一人である。江加良の最近のプレーなんて観たことがない。メディアによると、最近はゴルフばっかりやっていて、卓球の方はすっかりお留守らしい。youtubeのなかった時代、『卓球レポート』等の写真付き記事が私にとって世界の卓球を知る唯一の手段だった。そんな江加良の現在のプレーが観られるなんて!これを見逃す手はない。

しかし、卓球から遠ざかっている江加良が半分現役の他選手たちに伍していけるのだろうか。いや、最新の用具に江加良の往年の前陣速攻が加われば、かなりいい試合ができるのではないだろうか。

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江加良のまさかの裏面打法
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結果は観てのお楽しみだが、 ITTF Legends Tour は古い卓球ファンには非常におもしろい企画だったと思う。こういうのを日本でもやってくれればと思う。
近畿大学の高島規郎氏や同志社大学の田阪登紀夫氏、TSPの小野誠司氏といった元世界レベルの人が関西にいるのだから、関西の卓球協会が同様の企画をやってくれないだろうか。京都の龍谷大学には王会元氏もいるし、吉富永剛氏も京都にいたはずだ。大阪には新井周氏もいる。近畿大会の決勝戦の後などにこういう元世界レベルの選手のエキシビションマッチをやってくれたら、決勝戦まで残る観客も増えるかもしれない。若い人たちにとっても、昔の卓球に刺激を受けるのではないだろうか。温故知新である。
 

平亮太『DVDブック これで完ぺき!卓球』(ベースボールマガジン社)に付属のDVDの映像がすごい。
スロー映像だけでなく、スーパースロー映像がふんだんに使われているのだ。

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スーパースローでもこの画質。ボールのマークがはっきり分かる。

卓球にはいろいろな「都市伝説」がある。

・バウンド直後は回転が一時的に弱まり、その後再び回転を増す。
・だから、バウンド直後にフリックすると安定する(前記事「ショートから説き起こし、フリックの位置づけに至る」)。
・ サービスでインパクトと同時にスイングに急ブレーキをかけるとよく切れる。
・インパクト時にグリップをギュッと握ると回転がよくかかる。

「都市伝説」というと、まるでデタラメか何かのようで聞こえが悪いが、これらが嘘だというつもりはない。ただ、上級者が経験的にそう言っているというだけで、実際のところ、それが本当に事実なのかどうか決定的なところは分からなかった。前記事「フォア打ちから見なおしてみる」でも述べたが、英語のネイティブスピーカーが自分がどのように英語を使っているのか気づいていなかったように上級者も自分がどのようにボールを打っているか気づいていない、あるいは意識と実際の打ち方が異なっている可能性も否定できないからだ。

こういうことが事実かどうかは大学の先生の研究論文などで詳細に検証されているはずだが、大学の先生の研究論文を読んでも、あまり納得できない。大仰な測定器具などを用いていろいろ数字を出して論証しているのだが、たくさん数字を並べられても、なんだかうまく言いくるめられているような気がして、納得できなかった(それ以前に読んでいておもしろくない…)

しかし、このスーパースロー映像を見れば、辛気臭い(失礼!)学術論文など読む必要はない。一目瞭然、掌を指すが如く、回転の秘密が丸裸になるのだ。

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サイドスピンツッツキの回転もよく分かる

このDVDで使用されたハイスピードカメラは恐ろしく性能がいいようだ。WRMの卓球知恵袋で使われているカメラでもボールの回転などが分かるのだが、『これで完ぺき!』の映像のほうがはるかに画質がいい。

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こちらの映像はボールがブレている。

ただ、惜しいかな、この『これで完ぺき!』はそのような検証を目的とした動画ではない。言うまでもなくふつうの入門者向けの卓球本なので、比較・検証などはほとんどない――このカメラを使って、いろいろな打ち方、いろいろなプレーヤーの打球を比較して回転のかかり具合などを検証してくれればもっと興味深い事実が明らかにされただろうが、そういう意図でスーパースロー映像は使われていない。

ただ、比較・検証がなかったとしても、このDVDに見るべき点は多い。私が興味をもったのは、フットワークの映像である。激しく動く選手の太ももの肉が波打つ様まで鮮明に確認することができるのである(こんなことを書くと、誤解されそうだが…)。これによってフットワーク時の重心移動やステップの詳細――右足と左足のどちらが先に着地しているのか、上半身との連動はどうか等がよく分かる。たしかに雑誌の連続写真などでもステップを確認することはできるのだが、映像による実際の動きの分かりやすさには比ぶべくもない。

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卓球のステップは馬のステップに似ている?

スーパースロー映像はこれからの卓球指導を劇的に変える可能性を秘めている。世間で言われている卓球の「常識」がスーパースロー映像によって覆される可能性も大いにあるからだ(なお、前記事「型にとらわれない卓球」で紹介したなるほど卓球サイエンスの中にもそれらの卓球の「常識」が必ずしも正しくないと指摘した記事があった)
技術の進歩にしたがって多くの指導者がスーパースロー映像で回転や選手の身体の使い方を詳細に分析できるようになれば、より実際に即した指導が行われるようになるのではないだろうか。このDVDを観て、そのような未来を想像し、興奮させられた。

最後にこの本についても述べておきたい。
筆者は正智深谷高校卓球部監督の平亮太氏。モデルは正智深谷高校卓球部員(牛嶋星羅選手、平真由香選手等、主に女子選手)である。今までこういう本のモデルは男性のトップ選手が多かったのだが、女子校生のトップ選手がモデルというのは、我々非力な一般人が観るのに参考になると思う。

選手によって体格が異なるので、「これが一番」という誰にとっても正解になるような答えはないため、本書ではあくまでおおまかな方向性を示すにとどめ、これをヒントとして読者自らが試行錯誤してほしい

というのが本書の立場のようである。内容は詳しく読んでいないが、編集なども行き届いており、よくまとまっている入門書だと思う。すばらしいDVDも付いており、これがわずか1600円程度で買えるというのは、隔世の感がある(前記事「おかしいのは私か、私以外か」)。

これからもスーパースローの映像が卓球のいろいろな事実の解明に活用されることを期待する。


 

世界卓球2014が大盛況のうちに閉幕した。
私もGWは東京を訪れたのだが、時間的な余裕がなく、文字通り世界卓球会場を素通りしただけだった。

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東京での滞在時間はわずか1時間。

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品川駅から山手線原宿駅で降り、会場の前を通ることしかできなかった。

日本男子は健闘したものの、あと一歩だった。それに対して日本女子は福原愛選手を欠いていたにもかかわらず、準優勝という満足の行く結果を残せた。明暗を分けたのは何だったのか。組み合わせだったかもしれない。日本男子は実力の拮抗しているドイツと準決勝で当たり、日本女子は同じく実力の拮抗しているシンガポールではなく、香港と当たったことが幸いし、銅メダルと銀メダルという結果につながったのかもしれない。

しかし、もしかしたら男女の精神力の強さに差があったことが原因だったのかもしれない。

私は平野早矢香選手の大ファンである。もちろんサインも持っている。

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マッチカウント1-1で迎えた第3試合。ここを落とすと、日本女子チームが崩れかねない重要な対戦である。香港の呉穎嵐選手との試合は0-2とリードされ、運命の第3ゲーム。もう絶望的だと思われた3-8からの奇跡の大逆転!!

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「本当に負け試合だった。3ゲーム目を気持ちで取れたのが勝ちにつながった。」

平野選手の精神力の強さをまざまざと見せつけられた好試合だった。石川選手もギリギリの苦しい展開の中、精神力の強さを発揮してくれたが、私はこの試合の平野選手の精神力の強さが最も印象に残っている。

一方、男子日本対ドイツの第3試合、松平健太選手対フランツィスカ選手の試合は、女子と同様マッチカウント1-1で回ってきており、チームの勝敗を左右する大事な試合だった。

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健太選手はゲームカウント2-1でリードしていたにもかかわらず、その後、波に乗れず尻すぼみで負けてしまった。トップ選手の駆け引きが私などに分かるはずはないが、素人目には健太選手は去年の世界選手権パリ大会で見せたような生き生きとしたプレー(前記事「二人の若き才能 その1」「二人の若き才能 その2」)が見られず、すんなり負けてしまったように思える。これももしかしたら、苦しい状態での精神的な踏ん張りが発揮できなかったからなのかもしれない。

前記事「「あの人は卓球を知らない」」で述べたように精神力の強さというのは試合において時には技術力の差を解消してしまうほどの大きな影響力を持つ。

しかし、「精神力が強い」というのはどういうことなのだろうか。

(A)どんな場面でも沈着冷静でミスが少ないということだろうか。
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はたまた
(B)燃え上がるような闘志をここぞというときに発揮できることだろうか。
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(C)ミスを恐れず思い切った攻撃ができることだろうか。
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状況にもよるが、ミスを引きずって消極的なプレーをしてしまうとか、戦術が変えられず、ズルズルと勝機が見いだせないままジリ貧になってしまうというのは精神力が弱いということではないだろうか。日本人も近年、技術力を高め、世界有数のレベルに達しているが、同格や格下の選手に負けてしまうこともままある。中国人選手が外国選手にほとんど負けないのと対照的である。

日本選手は一般的に精神力が弱く、フルゲームの9-9などで競った時には負けてしまうことが多い。例えば2012年のジャパン・オープンで上田仁選手がとてもいいプレーをしていたにもかかわらず、U-21決勝で鄭栄植選手に負けてしまったことなどが思い出される(前記事「ジャパンオープン2012観戦記」)。それに対して中国人や韓国人はこのような競った場面でも強気のプレーで勝利することが多いような気がする。彼らは日本人に比べて精神力が強いという傾向があるのではないか。その強さはどこから来るのか。

先日、知人の韓国人にこんな質問をしてみた。

「韓国は日本よりも古い歴史があると言われているのに、どうして韓国最古の書物は1200年ごろまでしか遡れないんですか?古事記や日本書紀が700年頃の成立ということを考えると、1200年ごろというのはあまり古くないですよね?」

「韓国にはもちろんもっと古い書物があったと言われています。しかし、ずっと中国(時にはモンゴル等)と戦争したり、中国に支配されてきたので、古い書物は全部燃やされてしまったんです。昔は負けた国の文化等は完全に根絶やしにされてしまいましたから。日本は島国なので、歴史的に民族の存立が脅かされるような戦争はほとんど経験していませんが、韓国はそんな戦争ばっかりでした。だから、歴史に対する考え方が日本人と根本的に違います。日本のように甘くないです。」


以下はあくまでも私の個人的な感想である。またいつもの思い込みに満ちた妄想だと軽く読み流してほしい。

この知人は韓国史の専門家でもないので、上の話には誤った認識も含まれているかもしれないが、この話を聞いて、こんなことを思った。

日本人は、「たとえ敵でも誠実な態度で向き合えばきっと分かり合える」といったナイーブな考え方を持っているが、隣国に蹂躙されてきた歴史を持つ韓国のような国(前記事「不思議な韓国人」「韓国人が起源好きなわけ」)は、「少しでも譲歩などしたら、必ず滅ぼされる」という認識を持っているのではないか。この認識が韓国人の精神的な強さ、厳しさの源泉なのではないだろうか。

また、中国に30年ほど前に留学していた人から、こんな話を聞いた。

「中国では黙っていたら、全部その人のせいにされるんですよ。
昔、高級ホテルに泊まった時、電気がつかないから、フロントにそのことを言ったら、『お前が壊したから、弁償しろ』って言われたんで、『私が壊したって証拠があるのか!あるなら、今すぐ出せ!私は外国人だ。外国人に濡れ衣を着せたらどうなるか分かっているのか!公安に電話しろ!徹底的に調査してもらって証拠が出てこなかったら、どうなるか分かっているんだろうな!』って文句を言い続けたら、しぶしぶ電球を交換してくれたんですよ。他にも大学の事務室が閉まる5分前に書類を提出したら、『お前のせいで私は定時に帰れなくなった』って文句言われたから、5分前でも1時間前でも期限内は期限内だ!って思いっきりケンカして、やっと書類を受け取ってもらったこともあったんですよ。」


かなり古い経験談なので、今はかなり変わってきているとは思うが、本質的な部分はあまり変わっていないのではないだろうか。この人は中国語が堪能だったから、文句を言われても言い返せたが、ふつうの日本人なら、「納得行かないけれど、野良犬にでも噛まれたと思ってガマンしよう」となるのではなかろうか。不自由な中国語で中国人と口論をするなど、なかなかできるものではない。

また、私の知っている中国人はこんなことを言っていた。

「日本で数年生活して、中国に帰国したら、『お前は根性なしになった』と言われました。日本のぬるい生活に慣れてしまうと、中国での競争についていけなくなります。」

「日本の国会中継を初めて見ました。政治家がみんな真剣に国民の生活のことを考えているのに感動しました!」

これらのエピソードから想像されるのは、中国社会というのは弱者は真っ先に食い物にされ、お人好しは足を引っ張られ、油断したらハメられる社会なのではないかということである。言いがかりを付けられたら、徹底的に争わないと、どこまでも不利になる。そういう油断も隙もない、かつ競争の激しい社会で勝ち抜くにはあまっちょろいきれいごとなど通用しない。おそろしくタフな精神でないと生き残れない。

こういう話を聞くと、「やっぱり韓国・中国は途上国だから民度が低い」などと早合点をする人が出てくると思うが、上のエピソードはあくまでも私が見聞きした範囲の話であり、信憑性は高くない。特に中国は恐ろしく広く、地方によって習慣の違うたくさんの人がいるので、こういう数人の経験談から、十把一絡げにその国民性を論じることはできないだろう。ただ、国民性といった本質的なものではなく、こういう雰囲気のようなものは社会の端々にしばしば顔を出すのではないだろうか。
韓国・中国では、歴史に由来する認識(「負けたら破滅」)や、油断できない雰囲気の中でたくましく生きなければならない環境であるらしい。日本とは根本的に環境や考え方が違う。そしてこの環境が精神力を育む。このような過酷な環境で、子供の頃から騙されたり、裏切られたりといったことを見聞きして育ったら、自ずから精神的な強さが養われるだろうと思われる。平和で豊かな環境で育った日本人が精神的に負けてしまうのもむべなることである。

では、平野選手の精神力の強さはどう説明すればいいのだろうか。平野選手も子供の頃から信用できない人たちに囲まれて、あるいは無慈悲な競争社会の中で精神力を鍛えられたのだろうか。しかし、平野選手の人柄について悪くいう人は誰もいない。「平野選手は人格者だ」と平野選手に近しい人は口を揃える。そんな真っ直ぐな人格者の平野選手が騙したり騙されたりといった中で育ってきたとは思えない。おそらく平野選手はまっとうな環境でまっすぐに育ってきたのだと思われる。それなのにあの精神力の強さはどうだろう。

平野選手の精神力の強さは、厳しい環境によって自然に形作られたものではなく、平野選手自身の努力と苦悩の末に獲得したものだろう。悲しい歴史もなく、特別過酷でもない日本の環境でも努力すれば強い精神力を養うことができるということを平野選手は証明してくれた。努力次第では日本選手も精神的に世界のトップレベルに引けをとらないはずである。平野選手のような選手がいることは私たちの希望であると信じている。

 

先日、大学生の卓球部の練習を観たのだが、ものすごかった。
私にとっては「決定打」というようなすごいスピードのボールをミスなく何度も連続して返球しているのだ。私がこれからどれだけがんばってもこのレベルには到達できないだろう。
しかし、到達は無理でも、せめてこのレベルに近づきたいと思う。そのためには「常住卓球」である。

自宅にいるときでも、卓球ができたらなぁ。卓球台が家にほしい。でも集合住宅の我が家にはそんなスペースはない…。だが、工夫すればどうにかなる!ということがわかった。

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これが我が家の卓球台である。ダイニングにある食卓なのだが、測ってみると、120mm x 75mm x 70mm(高さ)という寸法だった。 

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ニッタク 「ピポン」 ジャスポで15,390円(税込)  幅75×長さ125×高さ72(cm)

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バタフライ 「ミニピン台DX」 ジャスポで17,280円(税込) 幅76.25×長さ137×高さ72cm

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ユニバー 「YD-MIDI」 卓激屋で20,736円(税込) 1815x1020x760mm

ミニ卓球台というのは、写真で見るとおもちゃみたいに小さく見えるが、実際は我が家の食卓よりも少しだけ大きく、意外に立派なものだということが分かった。
もし自宅のリビング等に適当なテーブルがないなら(一人暮らしの人ならいるかも?)、ミニ卓球台の購入をおすすめしたい。我が家の場合とは逆に食卓としても使えるのではないだろうか。ミニピン台DXが食卓だなんてなんてセンスのいい家庭だろうか。ユニバーのYD-MIDIはさらに大きいので、広いお宅にはいいかもしれないが、ちょっと野暮ったいデザインである。見た目を考えるなら、ピポンもいいが、もう少しだけサイズが大きいミニピン台DXのほうをおすすめしたい。ミニピン台DXは大きさがふつうの卓球台のちょうど1/4というから、将来もう一台増設したら、反面練習もできる(台を斜めや縦に並べれば)。

さっそく食卓で卓球をしてみた。ボールはラージボールで、ネットはティッシュの箱である(普通の硬式球でやると、より難易度が高くなる。硬式球ですると、台端が10センチぐらい短く感じられる)。ネットの高さもちょうどよく、これがなかなかいい練習になる。サービスは、第一バウンドをできるだけ手前にしないとすぐオーバーする。しかもインパクトの際、しっかりボールを押すと、即オーバーミスである。サービスは軽くチョンと引っ掛けるように出さないと速いボールが入らない。次にラリーだが、これもボールを押さず、ラバーのシートにそっと触れる程度にして軽く打たなければ安定しない。ドライブも試してみたのだが、少しでも押してしまうとオーバーしてしまう。高く弧線を描いてゆっくり入れれば安定するのだが、それではつまらない。本当に軽く、シートの表面だけで引っ掛けて、ネットギリギリの弾道で速いドライブを打つのが楽しい。

つまり、総じて「できるだけ押さない」「ボールをスポンジまで食い込ませない」という打ち方をすれば安定する。これが何を意味するのか。繊細なタッチの鍛錬になるのではないかと思うのである。

安定した卓球をするためにはボールを押してはいけない。では「押さない」というのはどういうことなのか。頭ではなんとなく分かるが、私はまだ明確に、あるいは感覚的には分かっていない。それがこの食卓卓球台+ラージボールでかなり明確になってきた。

ドライブをかける際はブレードの先端でこするのが安定するだろう。当てる場所はボールを横から見て1時ぐらいの「板に当てないドライブ」である(前記事「厚さ4ミリの間のドラマ」)。

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さらにスイングを前ではなく、斜め上にして(剣術でいう「右切り上げ」)ボールとブレードが衝突する力を「逃がす」と、より短い、浅いドライブが入る。打点もいろいろ試してみる必要があるだろう。

最後にこのミニ卓球台ではしっかりスイングすることができない。それでスイングは前方で小さめに、そして身体を揺さぶるように打たなければならない。しっかり腕でスイングすると、オーバーしてしまうからである。身体を小さく揺さぶりながら、身体全体で打球していると、だんだん熱くなってくる。わずかだがフットワークも出てくる。小さいながらも「卓球している!」という気分になってくる。これは楽しい。

【まとめ】
ミニ卓球台はラージボールと組み合わせることで「予備練習」になると思われる。 本格的な練習ではないが、規模を小さくした練習である。この練習は相手さえいれば自宅で手軽に取り組むことができ、ボールタッチや角度の感覚が明確になる。しかも身体全体を使って打つ感覚を身につける練習にもなるのではないだろうか。

「あの人は卓球を知らんからなぁ」

上級者からよくそんなことを聞く。 上級者の知っている「卓球」と私たちが知っている「卓球」はおそらく違うものなのだろう。一方で

「○○くんは卓球を知ってるで。弱いけどな。」

という言葉も聞いたことがある。どうやら「卓球」は上級者でなくても知ることができるようだ。その上級者の言う「卓球」というものを知りたい。

日本代表男子が危なげなく準決勝進出。銅メダル以上を確定させたのに対して女子チームは格下のオランダとの対戦に最後まで苦しんだ末にようやく薄氷の勝利をものにした。前記事「緊張感と臨場感」 でも書いたようにリアルタイムで観るのと、結果を知った上でダイジェスト版を観るのとではおもしろさは雲泥の差である。今回、テレビとはいえリアルタイムで対オランダ戦を観られたのは非常にしあわせだった。もしこれを結果を知った上で観ていたら、「格下なんだから、勝つのは当たり前だろう」などと軽く思っていたにちがいない。「卓球」はそんなものではなかったのだ。

今回の世界卓球2014はチームの主軸の一人、福原愛選手を欠いた厳しい戦いになるはずだった。しかし、蓋を開けてみれば、調子を上げてきた平野早矢香選手、この大会で急に存在感を増してきた石垣優香選手、未知数の実力を秘めている田代早紀選手、森さくら選手など、そうそうたる人材に恵まれた実力者揃いのチームとなり、これまで1マッチも落とさず全勝で準々決勝を迎えた。

メダル獲得がかかった準々決勝の相手はオランダ。初戦の平野早矢香選手は信じられないほどの安定感とファインプレーの連続で危なげなくエーラント選手を下したが、次のリー・ジャオ選手がクセモノだった。この41歳の息の長い選手のなんと強かったことよ。第2試合の石川佳純選手をギリギリで破り、第4試合の平野選手まで破ってしまった。どちらもギリギリの接戦。どちらが勝ってもおかしくなかった。それまで第3試合の石垣選手の勝利でリードしていた日本は第5試合までもつれ込むことになる。第5試合は石川選手対エーラント選手。

オランダとの準々決勝は油断さえしなければ楽勝だろう、と思っていたのだが、だんだん雲行きが怪しくなってきた。メダルのかかった試合の第5試合が石川選手というのは、まさに2011年の世界選手権と同じシチュエーションではないか(前記事「よくやった!石川佳純選手」)。あのときは石川選手が韓国のキム・キョンア選手にフルゲームのデュースというギリギリの接戦で涙を飲んだのだった。これはあの時の悪夢の再来ではないだろうか…。そんな嫌な予感で胸がムカつき、観戦中気が気でなかった。

ただ、前回大会の韓国戦と違うところは、エーラント選手は平野選手にふつうに負けていたし、世界ランキング100位程度ということなので「ふつうに」戦えば、石川選手が勝てるに決まっている。だが、それは「卓球」を知らない人間の思考なのだろう。エーラント選手はこのすさまじいプレッシャーの中で思い切ってぶつかってきた。それは石川選手との90位ほどのランキング差を感じさせない強さで、実力的には伯仲して見えた。石川選手はしばしばリードされ、最終ゲームにもつれ込み、最終ゲームもリードされて始まった。あの時の韓国戦と同じである。

石川選手はオーバーミスを連発していた。打っても半分ほどはオーバーミスしてしまったように感じた。

「石川選手は角度か打点の感覚が狂っている!もっとブレードを寝かすか、打点を早くしなきゃダメだ!」

などと観戦しながら悶々としていたのだが、そんな私の蒙を啓いてくれたのは、樋浦令子氏だった。
近藤欽司

「エーラント選手のボールはすごい回転、かかってるんですよ。バックハンドの回転もすごいです。」

なるほど、言われてみれば、立派な体格から、いかにも回転がかかっていそうなドライブを放っている。それをカウンターしようとした石川選手のドライブがことごとくオーバーしてしまうのはエーラント選手の回転量のせいだったのか。他にも樋浦氏は適宜、上級者ならではのコメントをしてくれていた。

「さっきのフォアへのドライブは逆モーションでしたね。平野選手が一瞬バックに構えてしまいました」
「今のサービスは長さが絶妙だったので、相手が打てなかったんですよ。」
「相手はバックで待っていましたねぇ。」
「リー・ジャオ選手のショートは伸ばしたり、止めたり、1球1球球種を変えているんですね」

樋浦選手の解説を聞いていると、私にも「卓球」がわかってくるような感じがする。前記事「卓球の解説」でも述べたが、樋浦氏の解説のほうこそ絶妙である。この解説がなければ「あーあ、格下相手になにやってんだ!カスミンはヘタクソだなぁ」などと思ってしまっていたかもしれない。
そして樋浦氏の相方はおなじみ近藤欽司・日本代表女子チーム元監督である(前記事「ロンドン・オリンピックの卓球の解説」「世界選手権 2013 パリ大会 実況・解説 引用集」)。二人の解説は息が合っており、近藤氏が「平野選手はフォア前のロングサービスを打つべきだ」とコメントした直後に平野選手がフォア前ロングサービスを決めた時も、

樋浦氏「近藤監督の読みどおりですねっ!」
近藤氏「ありがっとォー!!」

などとノリノリである(今回はちょっと悪ノリしすぎか)。そして近藤氏は持論「卓球は格闘技」「最後は心と心のぶつかり合い」ということをこの第5試合でも開陳していた。「またあんなこと言ってる…」とはじめは思っていたのだが、石川選手の第5試合を観て、もしかしたら、そうなのかもしれないと思うようになった。このようなお互いのチームの命運を賭けた最高にプレッシャーのかかる試合では、ふだんの実力など出せるものではない。世界ランキング9位と100位の実力差などないに等しい(たぶん)。技術と技術のぶつかり合いではない、精神と精神のぶつかり合いなのではないかと。

上級者の言う「卓球」というのは樋浦氏が分かりやすく解説してくれる技術や戦術的なものと、近藤氏の言う精神的なものの2つがあるのかもしれない。技術的な方は上級者でなければ分からないだろうが、精神的なほうは長年卓球に携わっていれば、もしかしたら下手でも理解できるのかもしれない。このどちらも知っている人こそが真の上級者で、そういう人たちの会話は私には分からない文脈で「卓球」を語り合っているのだろう。

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勝利を決め、涙ぐむ石川選手

今回もいい試合を観せてもらった。敵ながらオランダチームもがんばった。男子チームの対ポルトガル戦、対ハンガリー戦も見どころ満載だった。次の準決勝は一体どうなるのだろうか。男子はドイツ、女子は香港。男子の方は実力的にはやや分が悪い。逆に女子は実力的には勝てる相手だ。しかし、準決勝という舞台ではそのような実力差よりも精神の強さが勝敗を決めるのではないだろうか。同様に決勝で中国と対戦することになっても、気が張っていれば勝機もあるのではないだろうか。

気を強く持て!日本代表。

明日、明後日の試合が楽しみでならない。

が、残念ながら私は明日・明後日は葬儀に参列しなければならず、テレビが観られない…。というか、せっかく東京を通るのに指をくわえて代々木第一体育館を素通りしなければならないのだ…。結果を知ってからの観戦では感動半減だというのに、なんという運命の皮肉…。

【追記】140520
水谷選手のブログに世界選手権についての裏話のようなものが載っていた。
児玉語録からの孫引きになるが、本記事での結論を支持するものだと思われるので(勝手に)引用したい。

水谷が大黒柱としてその重責を全うし、内容も良かった。
特にドイツ戦オフチャロフとの一戦はすばらしかった。明らかに実力が付いてきたと思う。
他の選手は技術の問題ではなく、
心・体のレベルが低く、特に心の強化が急務である・・・と感じた。
卓球競技は、昔から80%以上精神力の勝負だと言われている。

 “気力”と“執念”が相手より優っていれば、必ず「勝利の女神」が
微笑んでくれる・・・これは真理だ!
 

遊澤亮 驚異の卓球上達法(←このサイトをクリックすると、しつこく購入を勧められるので注意)を途中まで観る機会があったので、その感想などを記したい。
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いろいろなサイトでこのDVDのバナー広告がしつこく表示されているので、胡散臭く思っていたのだが、「これぞ四つのかなめなりける」で紹介した「試合に勝つための”必須”スキル」の紹介ページを見て、考え方が変わった。

もしかしたら『遊澤亮 驚異の卓球上達法』も遊澤氏の長年の経験を余すことなく伝えた動画であり、トップ選手の技術を紹介した非常に価値あるDVDなのではないか。そう思ってDVDを観てみたのだが、これはまったくおすすめできないシロモノだと感じた。

この商品はDVD1枚と解説書が付いている。解説書にはDVDの中の説明と、その場面の写真が収録されており、DVDを観なくても、解説書の説明を読めば、すべて分かる。

全体は6章に分かれており、各章のトピックは以下のとおりである。

1章 グリップと基本スイング
2章 ボールの回転と基本打法
3章 サービス
4章 レシーブ
5章 3球目攻撃
6章 効果的な練習法

端的にどんな内容かを紹介するために3章の「サービス」の解説を紹介しよう。なお、引用符の中の語句はそのままの説明ではなく、要約した説明である。

サービスの注意点としてまず

“ボールを持つ手のひらを丸めず、開いて平らにしましょう”

とある。そして次の注意点は

“16センチ以上、トスを上げましょう”

これは卓球の技術以前の問題である。これで卓球が「上達する」と言えるのだろうか。ただのルールの説明ではないか。

さらに

“トスした後に手がそのまま体の前にあると、フォールトになるので、トスしたらすぐに手を体の後ろに移動させるのがオススメです”

のような説明があった。解説の語句はこの文言そのままではないのだが、おおざっぱに言うと、こういうことを言っていた。サービスの時にトスしたあと、非利き腕を後ろに回す人を見たことがない。明らかにおかしい。

私はこれ以上観ても時間の無駄だと判断し、4章以降は観るのを止めた。福原愛選手のDVD「超ビギナーズ・レッスン」と同じか、それ以下のレベルが対象なのである。

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解説書の説明にざっと目を通してみたが、目を引くような説明は何もなかった。「基本スイング」については「手だけで打たず、腰を使って打つ」だの、ペンホルダーのショートのコツは「ブレードを真横にする」(真横よりもヘッドをやや斜め上にしたほうが安定しないか?)だの、よくある入門者向けの卓球本の付属DVD以上の技術は何もない。

それが500円ぐらいで売られているのなら理解できるが、12700円である。これは何かの間違いではないだろうか?ネットでこのDVDの評判を確認してみたのだが、「伸び悩んでいる方には最適」だの、「よいところはたくさんありました」だの、そんな評価ばかりなのだ。私が観たDVDと、みんなが観たDVDは別物なのだろうか?あるいは私の評価の基準がおかしいのだろうか?

なんだか狐につままれたような感じである。私は頭がおかしくなってしまったのではないかと不安になってくる。
遊澤氏のDVDを批判するのは卓球界ではタブーなのだろうか。どう考えても『遊澤亮 驚異の卓球上達法』には12700円もの価値はない。これは、全くのゼロ初心者向けDVDで、これを観てもせいぜいドライブが打てない人が打てるようになって、横回転サービスが出せるようになる程度にしか上達しないだろう。

【結論】
このDVDの値段こそが「驚異」である。

【付記】
このDVDの評価を探していて、卓球DVDが582円でレンタルできるというページを発見した。バタフライ、卓球王国、WRM等の3000~5000円ぐらいのDVDが不特定多数にレンタルされているのだ。各社から許可を得ているとはとうてい思えない。

卓球ラケット激安中古販売

この店でもDVDレンタルをしている

球楽

こんな違法なことをおおっぴらにやっていて許されるのだろうか。これでは発展途上国と同じではないか。義憤にかられる。私は法律に疎いのだが、法律に詳しい人がいたら、ぜひ糾弾していただきたい。

【追記】140502
グリップの握り方とか、下回転サービスの出し方とかの指導をどうして元日本代表レベルの人がしなければならないのか。大学生の卓球部員どころか、高校生の卓球部員で十分ではないだろうか。自らの部の宣伝にもなるし、いい経験にもなるので、大学生や高校生が初心者向けの指導動画を作り、youtubeにアップロードして公開してみたらどうだろうか?

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