水谷選手は自身のブログで以下のように述べている。

長い間競技差別されて苦しかったけどこのロンドンで終わりにしたいと思います。

卓球は競技差別されている。古くはタモリが卓球はネクラだと発言し、以来そのイメージが定着している。卓球をしている人は運動音痴で、変なところで妙にマニアックで、空気が読めず、異性に声をかけられない、そんなイメージがあるらしい。ケロロ軍曹のクルルのようなキャラなのだろう。それに対してサッカーやバスケをしている人のイメージは活発でクラスのリーダー的存在で、異性に対して積極的だというものである。

これはアメリカのナード nerd とジョック jock という対立にピッタリ対応すると思われる。アメリカではアメフトをやっていて、クラスを仕切っていて、女にモテモテというのがジョックというキャラクターだという。ちびまる子ちゃんで言えば、大野くんといったところか。卓球が競技差別されている背景にはこのようなアメリカの価値観もあるのかもしれない。

最近ではこんなひどい差別発言をしている人がいる。

村田たかお@大阪維新の会 4次公認捨石魂?@muratatakao

女子バドミントン、世界ランク一位の中国選手、わざと負け失格
そもそもバドミントンがスポーツとしてオリンピック競技にあること自体に疑問有り。バドとか卓球などは、スポーツというよりレクリエーションの類。五輪精神を汚さぬよう競技の絞込みが必要

この人はバドミントンや卓球に人生のすべてを捧げてきた人の気持ちを考えたことがあるのだろうか。自分の人生を捧げてきたものに対して「五輪精神を汚」すと言われたら、選手がどう感じるか想像したことがあるのだろうか。そもそも「五輪精神」とは何なのか。どうしてバドミントンや卓球がオリンピックの競技になっていたら、五輪精神とやらが汚れるのだろうか。
全く根拠のない差別を公に発信するこの人の意識が理解できない。

「そもそも行政書士が専門家として政治に携わること自体に疑問有り。行政書士とか司法書士などは、法律の専門家というより事務作業の代行の類。府政を汚さぬよう立候補者の絞込みが必要」

もしこのように発言する人がいたとしたら、村田たかお氏はどう感じるだろうか。

綸言汗の如し

卓球は差別されている。一般的にもそうだが、おそらく水谷選手の言っているのはスポンサーや国のスポーツ政策のような場面での話なのだろう。水谷選手はオリンピックで卓球がメダルを取り、メディアに華々しく取り上げられることによって、日本での卓球の認知度を高め、スポーツとしての素晴らしさを知らしめたいという意気込みがあったのだと思われる。

しかし、その水谷選手はシングルスベスト16で敗退。水谷選手はトーナメントのドローから、銅メダルがとれるかもしれないと言われていただけに、非常に残念だった。さらに男子団体では銀メダルもいけるかもしれないと言われながら、準々決勝でまさかの敗退。しかも相手はドイツや韓国ではなく、格下の香港。香港戦で水谷選手はシングルスでのうっぷんを晴らすかのようなすばらしいプレーで完勝したものの、岸川、丹羽選手がそれに続かなかった。

スポーツでの戦犯探しというのは気分の悪いものだ。選手たちはその時のベストを尽くしたのだから、「誰々が悪い」などというつもりはない。ただ、敗因は丹羽選手にあったように思われる。ダブルスで岸川選手のオーバーミスが強調されていたが、丹羽選手のミスも同じぐらい多かった。さらに最後の勝敗をかけたシングルスでも、丹羽選手はミスを連発していた。そのミスは「超スピード卓球」などと呼ばれる、丹羽選手の打点の早い卓球に帰するように思われる。私のようなヘタッピが丹羽選手のプレーを批評するのもおこがましいが、丹羽選手はその超スピード卓球に寄りかかりすぎていたのではないだろうか。丹羽選手の卓球はスピードとひきかえに安定性を犠牲にしなければならない。スピードを早くした結果、微妙な感覚の狂いがミスの連発につながったように思えてならない。

世間が丹羽選手を語るときの決まり文句はこうだ。

「打点の早い超スピード卓球で世界最強の馬龍を倒した17歳の天才」

丹羽選手も世間にこのように持ち上げられ続けて、自分は天才であるという慢心と、自分にはスピードしかないと思い込みを知らず知らずのうちに育んでしまったのではないか。丹羽選手が馬龍を倒したというのはすばらしいニュースだったが、もしあのとき丹羽選手が負けていたら、あるいは今日のオリンピック団体の準々決勝敗退はなかったかもしれない。

人生万事塞翁が馬

丹羽選手にはこの苦い敗戦をバネにさらに成長してほしいものである。

結局、水谷選手の「卓球に対する競技差別をなくす」という目論見はあえなく潰えた。
あとは女子団体がシンガポールを破り、銀メダルを獲得することを祈るだけだ。

【追記】この記事を書いた翌朝とんでもないニュースに目を疑った。卓球女子団体がシンガポールをストレートで破って決勝に進出したのだ。男子団体の結果を見て「どうせ女子もシンガポールに負け、3位決定戦で韓国に負けるんだろうな」と思ってしまったために女子団体の放送を見なかったのが悔やまれる。この感動を生で見たかった。とにかく福原選手、石川選手、平野選手、おめでとう!
決勝進出