卓球の上級者は試合中にどのようなことを考えているのだろうか。どうしてもそれが知りたい。

先日『まんがで読破 昆虫記』という本を読んだ。ファーブルの『昆虫記』を分かりやすく抜粋し、ファーブルの生涯とからめて紹介したおもしろい本である。ちょっと誤字が多いのが気になるが。

ファーブルはヌリハナバチというハチを観察し、さまざまな実験をして試みたという。
ヌリハナバチというのは、唾液で地面から縦に筒型の巣を作り、それにハチミツを入れてから卵を産み、穴を閉じるという習性を持っている。

つまり、「巣作り」→「ハチミツ詰め」→「卵生みつけ」→「穴ふさぎ」

の順に作業を行うわけである。

ファーブルはこのハチに次のような実験を行った。

・製作途中の巣を完成した別の巣と取り替えてみると
→巣を作る手間が省けるわけだが、ハチはそこにハチミツを入れず、完成した巣にさらに壁を築き、通常の倍の高さの巣を作ってからハチミツを入れ、卵を生んだのだという。

・完成した巣を製作途中の巣と取り替えてみると
→未完成の部分にもう一度手を入れて完成させるかと思いきや、未完成の巣には目もくれず、ずっと自分の完成させたはずの巣を探し続け、製作途中の巣にはちみつを入れることはなかったのだという。

・卵を産み付けてあり、穴が塞がれている巣と取り替えてみると、
→巣に穴を開け、すでにハチミツで満たされている巣にさらにハチミツを入れ、自分の卵を生んだのだという。

ここからファーブルは「虫は本能的に決まった行動パターンを持っており、たとえ途中に障害があっても、そのパターンにしたがって、本能の命じる通りの順番に行動せずにはいられない」ということに気づいた。

虫というのは愚かで融通の利かない生き物だなぁと思うのは簡単だが、このように融通が利かないのは悪いことなのだろうか?イレギュラーなことが起こらなければ、このような行動パターンは最も効率良く物事をすすめることができる。

卓球のレシーブの場所を以下のように6つのエリアに分けることは一般的である。

  A  B  C

  a  b  c

_______ ネット

  x  y  z

  X  Y  Z

私たちは漫然といろいろなところにボールを打ち、いろいろな返球を受けている。相手の長い順横回転サービスをBやCにレシーブし、それがXやYに返球される。こちらがAにレシーブしたりすることもあるが、判断する時間的な余裕がないときは、BやCになりやすいだろう。逆にこちらがBやCに返球したら、相手はZに返球する場合もあるが、やはり時間的な余裕がなければXやYに返球しやすいだろう。

もしこちらがaにサービスを出したら、相手はどこに返球しやすいのだろうか?私はxやyだと思う。しかしaにサービスを出すということはスピードの遅いショートサービスということなので、相手は十分考える余裕があり、zやZに返球するかもしれない。

こういうことを私はよく考えながら試合をするのだが、とても複雑なので、だんだん考えるのがおっくうになってくる。たとえば一つのエリアに限ってみても

Cに横回転を出した場合
Cに横下回転を出した場合
Cにバックサービス(横)を出した場合
Cにバックサービス(横下)を出した場合
Cにナックルを出した場合

にどの辺に返球されやすいのだろうか?その返球を次にどのコースに打ったら効果的なのか。こんなことを考えながら試合をするのだが、頭がついていかずに途中からあまり考えずに試合を進めてしまう。だめなのだ、こういうことを考えようとしては。
将棋の上級者は相手の1手目や2手目で深く考えることはないだろう。初めの数手を見たら、「ああ、たぶんこういう形を作ろうとしているんだな」と先が読める。そこには思考はほとんどないだろう。お互いにある程度定石通りに展開して初めて頭を使うに違いない。

同様に卓球の上級者も2球目や3球目で相手がどこに打ってくるかなど考えずとも身体が自動的に動くのではないかと思う。それはたとえば今までの練習でbにサービスを出したときの返球を漫然とではなく、「相手が手を伸ばしてきた。あのラケットの面から考えると…」「あの上体の姿勢なら、きっと…」のようにあらゆる角度から分析した思考の蓄積があり、その分析がすでに行き着くところまで行き着いて、クセとして身についてしまったに違いない。だから考えずにムダのない動きができるのだろう。

上級者のように打てるようになるにはどうすればいいのだろうか?やはり地道にaから虱潰しに分析をしていくしかないだろう。aにレシーブしたら、相手はどこに返すのか?そのとき相手はどんなふうに手を動かすのか。ラケットの面はどこを向いているのか。何度もaにレシーブを出し、そんなことを徹底的に分析して、ある程度aのレシーブに対する相手の反応がつかめたら、次はbにレシーブして同じように分析してみる。そしてCまで分析が終わり、もっとも効率のいい動きができるようになった時、上級者になれるのではないだろうか。

虫は本能の命じるままに自動的に行動している。そこに迷いもムダもなく、行動が最適化されている。私もいつか「卓球の虫」になれるよう精進したい。